その気高き青


 ガリアの空の下、ペリーヌ・クロステルマンは、同じ年頃の少女たちと、草むらに座り、語らいを愉しむ。
 早くから、ウィッチとしての素質を見込まれ、定期的に家から離れ、訓練をしていたペリーヌとその仲間のウィッチたちは、明日から始まる長期休みで、家に帰ったら何をしようかと、年相応の話題で無邪気な笑顔を向け合う。
 ふっと、彼女たちの周りが暗くなり、一同は一斉に顔を上げ、その場に固まる。
 見たこともない、不気味な真っ黒い渦が、彼女たちのはるか頭上を通り過ぎ、ガリアへ向けて音もなく進んでいく。
 そして、次の瞬間、数台の戦闘機が風を切りながら、その渦を追いかけ、中心へと吸い込まれていくように突撃していった。
 渦がガリア中心部の直上で止まり、先ほどの戦闘機、いや、戦闘機を模った黒塗りの、赤い光を宿した"別のもの"が渦から吐き出されると、街に向け侵攻し、赤い閃光を放ち、ガリアを一瞬で炎の国へと変え、その様子を呆然と見つめるペリーヌたちを暁の色へ染め上げた。

 ――ミエ
 ――プルミエ
 ――ブループルミエ

『ブループルミエ! 状況を報告しなさい』
 インカムからの怒声に、ペリーヌは顔を上げた。
 司令部だ。
「こちらブループルミエ、発見したネウロイを殲滅しました。これより、帰投します」
 ペリーヌは、目の前の、焦土と化したパ・ド・カレーをじっと見つめ、背後の僚機に手信号で合図し、ブリタニアにある基地へと方向を変える。

 ブリタニアに暫定的に作られた、立派とは言いがたい、自由ガリア空軍の基地に降り立ったペリーヌは、ストライカーを脱ぐと、物憂げに、辺りを見回し、佇む。
 そんな彼女の周りに、彼女の小隊の隊員でもあり、同時に、友人でもあるウィッチ達が集まって、顔をかしげたものだから、
「今日はもう各自の部屋にお戻りなさい。報告書の提出を忘れないように」
 と、ペリーヌは慌てて髪をかき上げ、"いつもの自分"を見せると、隊員たちから逃れるようにその場を去っていった。
 彼女の友人でもある、隊員の一人が、つぶやいた。
「ペリーヌ、大丈夫かな。なんかこう張り詰めてるって言うか……」
「あの子、あの日も泣かなかったよね」
 昔の彼女を知っている友人たちは、気丈に振舞うペリーヌの心中を思い、しゅんと視線を落とした。

 自室に戻ったペリーヌは、ベッドに静かに腰掛け、胸ポケットから小さな写真を取り出す。
 写真の中の、今よりもうんと幼かった頃のペリーヌと、彼女の父親が、今まさに写真を見ているペリーヌに笑顔を向ける。
 ペリーヌは、ぎゅっと目をつぶって、写真を胸に押し付けた。
 メガネを外し、目元を指先で揉むが、しばらくして、あきらめかけたように、ベッドに仰向けに倒れこんで、長い金髪を広げ、ため息をつく。

 第501統合戦闘航空団の基地の廊下で、坂本美緒は困ったような顔つきで、うろつく。
 窓の向こうを見ると、滑走路から、二人のウィッチがストライカーを装備し、空へ飛び立っていった。
「浮かない顔ね、坂本少佐」
 声のしたほうに振り向くと、書類を片手に、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが、心配そうに見つめている。
 美緒は向き直って、片手を腰に置いて、微笑んだ。
「いや、基地が広すぎて、まだ要領がつかめていないだけだ」
「確かに、慣れるまでには時間がかかりそうね」と、ミーナは、ぐるりと周囲を見回して、肩をすくめる。
「撤退戦ではほとんど外で寝起きしていたようなものだったからな…」
「そうね」
 二人は、窓の向こうの空に描かれる飛行機雲を眺める。
「バルクホルンも、ハルトマンも調子はよさそうだな」
「ええ」
「残りの隊員は?」
「明日以降、随時到着予定よ。まずは訓練が必要だし、物資も万全とは言いがたいから、本格運用はしばらく先にはなりそうだけど」
「そうか、楽しみだな」
「お手柔らかにね」

 ペリーヌは強く叩かれるドアに目を開け、跳ね起きた。窓の外はすっかり黄昏の装いで、部屋が暁に染まる。ペリーヌは、その光景に怯み、思わずカーテンを閉め、髪を整えると、ドアを開けた。
 ドアの向こうに立っていた女の上官が、ペリーヌの許可もとらず部屋に押し入る。
 抗議しようと口を開きかけたペリーヌの前に一枚の紙が差し出される。
「これは…」
「誇りに思え。貴官は、世界有数のウィッチからなる統合戦闘航空団の一員に選ばれた」

 あまりにも突然の辞令に、ペリーヌは、その日のうちに、荷物をまとめざるをえなくなり、夕食がそのまま今まで戦いを共にしたガリア空軍の隊員たちとの別れの席となった。
 幼い頃から一緒に戦い、お互い、戦士の顔つきとなってしまった事を苦々しく思いながらも、どこかの戦場で、そしていつか奪還を果たしたガリアでまた再会しようと、少女たちは強く抱きしめあい、誓う。

 ペリーヌは、朝日が昇るか昇らないかという時間に、用意された車の後部座席に乗り込むと、目的地に向かう。
 窓の外の、どこまでも広がる草原にガリアを重ね、膝の上に置いた手を固く握り締めた。
 ようやく、基地への石畳上の渡り道の前にたどり着くと、ペリーヌは運転手に告げた。
「止めてくださる? あとは歩いていきますわ」
 ペリーヌは、まだ海水で濡れている渡り道を歩き、冷たさの残る潮風に吹かれながら、基地へと近づいていく。
 なんて大きさだろう、と感激しながらも、自分の生まれ育った家の惨状を重ね、唇を噛む。
 すっかり気持ちを沈ませながらも、昇る朝日に目を狭め、表情を引き締めると、ようやく基地にたどり着いた。
 基地の入り口は開け放たれており、彼女は、そこにもたれかかる人影に目を凝らす。
 黒髪に眼帯という、ペリーヌにとっては物珍しい出で立ち。
 無駄のない、美しい所作。
 何かに惹かれるような状態になって、立ち止まるペリーヌに、眼帯の少女は近づき、手を伸ばした。
「よく来たな。私は、扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊、坂本美緒少佐だ。この第501統合戦闘航空団では飛行隊長だ」
「自由ガリア空軍第602飛行隊、ペリーヌ・クロステルマン中尉です。以後、お見知りおきを」
「では、クロステルマン、基地を案内しよう……、とは言っても私もまだ来たばかりだが」
 ペリーヌは彼女の後につきながら、聞き覚えのある彼女の名前に、記憶の糸を手繰らせる。
 サカモト・ミオ。
 ミオ・サカモト。
 ロイナント・ミオ・サカモト。
「リバウ航空隊の……」
 つぶやくペリーヌに、美緒は振り返る。だが、その表情は、突いて欲しくないところを突かれたというものだった。
「残念な結果に終わってしまったがな…」
「すみません。そのようなつもりは…」
「気にするな。私は今度こそ勝つつもりだ。勝って、ガリアを奪還する」
 一転、勇ましい表情を見せ、目を輝かせる美緒に、ペリーヌは、図らずも、心を動かされる。
 
 用意された個室に通されたペリーヌはトランクを置き、シルクの布に包んだレイピアを取り出した。
 腕組みをしていた坂本が、ほぅ、とつぶやく。
「お前も剣を使うのだな」
「ええ、ガリア貴族の嗜みですもの」
 と、ペリーヌは自慢げに言ってのける。坂本はその様子に豪快に笑う。
「面白い奴だな。どれ、私と、訓練で一戦交えてみるか?」
 その言葉に、ペリーヌはつんとそっぽを向いた。
「……訓練なんて必要ございませんわ。私たちは即戦力として、この最前線でネウロイと戦うために集められたんでしょう?」
「ああ。だが、そう急くな。本格的な始動はまだ先だ。それまでは訓練をして互いに高めあおう」
「私は……、一日でも早く故郷を取り戻したいだけです」
 美緒は、駄々をこねる子供のような態度のペリーヌの背に、やれやれといった表情を向けながらも、口元は笑っていた。

 ペリーヌを追ってくるように搬入された彼女のストライカーが整備を終え、ハンガーに並べられた。
 チェックをするペリーヌのもとに、ゲルトルートとエーリカがやってくる。
「少佐が編隊飛行をしろと言っている。準備しろ」
「よろしく~」
 ペリーヌは、飛ぶこと自体は気が進まないわけではないが、まだ慣れていない――というよりも、朝食時に自己紹介をし終えたばかりの二人のペースにいまいち乗り切れず、わずかに緊張をする。

 ゲルトルートが長機となり、エーリカ、ペリーヌがそれぞれ左右後方について、一気に上空へと飛び立つ。
 ペリーヌは、カールスラントのエースである二人に必死で追いつき、隊形を崩さないよう、加速に集中した。

 ミーナは、その様子を望遠鏡で眺め、隣の美緒に視線を移した。
「いきなりあの三人で組ませるなんて…」
「二人のエースにもまれたほうが、なにかと勉強にはなるだろう」

 稼働時間ぎりぎりまで飛びきって、三人は基地へと戻ってきた。
 まだ余力は十分といった様子で、すうっと格納庫に吸い込まれていくゲルトルートやエーリカとは裏腹に、肩で息をするペリーヌはよたよたと後についていく。


 翌日、ペリーヌは、置時計の時刻に驚き、慌てて服を着込み、部屋を飛び出すと、ちょうど廊下を歩いていたミーナとぶつかりそうになる。
「す、すみません。すっかり寝入ってしまって」
 ミーナは怒るでもなく、くすりと笑う。
「昨日あれだけ全速で飛んだんですもの、仕方ないわ」
 平静を装っていたつもりではあったが、あっさり見抜かれていたことに、ペリーヌは頬を染め、うつむく。
 ミーナがペリーヌを覗き込む。
「他の隊員とは馴染めそうかしら?」
「私は仲良しごっこをするためにここに転属されたわけではありません。一日でも早くネウロイの殲滅をしてガリアを…」
 と、言いかけたペリーヌの手をミーナが握り、歩き始める。
 ペリーヌは困惑しながらも、上官の手を振り払えず、つんのめりながら連れて行かれるままになった。

 格納庫の入り口にたどり着いた二人は、滑走路の先端付近で訓練に勤しむ、美緒、ゲルトルート、エーリカを眺める。
 ペリーヌは、眉をひそめる。
「あの三人、訓練なんて必要ないでしょうに…」
「三人とも、今度こそ目的を確実に達したいだけよ。私たちは今の戦争で、大切なものをたくさん失ってしまった。あなただって……、立場上、個人情報を確認させてもらったけど、先のガリア侵攻でご家族を…」と、ミーナが顔を向ける。
 ペリーヌはミーナに向けた表情を強張らせながらも、うなづいた。
 ミーナは、表情を引き締める。
「一日でも早く、ネウロイから世界を取り戻したいというあなたの気持ちはよく分かるわ。けど、今は肩の力を抜いて、目の前にいる仲間たちを"知ってみる"のもいいんじゃないかしら」と言ったかと思うと、ミーナはペリーヌの背後に回り、両肩に手を置いた。
 エーリカがミーナたちに気づき、大きく手を振る。
 ゲルトルートは腰に手をあて、美緒はにっこりと微笑んだ。
 ペリーヌは、どうしてよいものかわからず、とりあえず、恥ずかしそうにしながらも、小さく、エーリカに手を振り返す。
 ミーナは目を細め、とんとぺリーヌを押し出して、彼女から離れると、基地へと戻っていった。

 美緒、ゲルトルート、エーリカの三人に加わったペリーヌは、最初のうちこそ凝り固まっていたものの、ミーナの言葉のおかげなのか、彼女自身の生真面目さゆえなのか、徐々に、訓練に熱中し始め、気がつけば夕刻が近づき始めていた。
 エーリカがその場に座って、美緒を見上げた。
「あ~、おなかすいた~。ねえ、今日はもういいんじゃない?」
「何を言う、ハルトマン。お前、腕立ての数減らしてこっそりさぼっていただろう」と、ゲルトルートが睨みつける。
「あ、ばれてた」
 申し開きをするでもなく、あっさり言うエーリカにゲルトルートは拳を握り、説教を始めた。
 そんな二人のやり取りに流されず、美緒は持っていた竹刀を肩に置いて、ペリーヌに振り向いた。
「ふむ。それもそうだな。では今日はここまでとするか」
「は、はい…」
 ペリーヌはすっかり疲弊した体を前倒しにして、答える。
 美緒の言葉に、エーリカは立ち上がると一気に駆けていき、説教途中だったゲルトルートが追いかけた。
 美緒は、滑走路から海を、そしてその向こうの夕日を眺めた。
「今日も綺麗だな」
 ペリーヌは、彼女の横顔の美しさに、目を奪われる。
 しかし、頭の隅を横切る故郷の惨状が咄嗟に邪魔をするように、ペリーヌの心を曇らせた。
「夕日は、嫌いです……」
 とぼとぼと基地に戻るペリーヌにぽかんとしながら、美緒は彼女の背中をじっと見つめ続けた。


 スタッフも隊員もまだ少ない基地は、夜になるといっそうに静まり返っていた。
 美緒は、ミーティングルームから漏れる光に気づき、覗き込む。
 しばらく考え込んだ後、部屋に進み入り、ベランダのほうへ向かう。
「クロステルマン中尉」
 突然の声かけに驚いたのか、ペリーヌはことさらに肩をびくつかせ、恐る恐る振り返り、美緒の姿を見とめると、また、外へ視線を戻した。美緒は彼女の隣に立ち、夜風で運ばれる石鹸のにおいを感じる。
「扶桑の風呂もいいものだろう?」
「え、ええ」
 髪を耳にかけるペリーヌ。美緒は、その幼い顔をじっと見つめた。
 ペリーヌはその視線に気づいて、美緒に顔を差し向ける。
 特に意識をするでもなく、ペリーヌは思い立った言葉を、口元からこぼす。
「少佐は、最後に泣いたのはいつですか?」
 美緒はその質問に小さく口を開け、考え込み、言った。
「さあ、忘れてしまったな。こう見えて、涙もろいんだがな。中尉は…」
 と、言いかけて、美緒はペリーヌがごく最近家族を失った事を思い出し、口をつぐんだが、ペリーヌが言葉をかぶせた。
「私も、覚えていません。ガリアが侵攻されて、家族を奪われても、泣けなかった。いえ、泣かなかったんです。
けど、きっとそれは強くなったって言うことなんですよね? 泣いていても、何も解決しませんもの」
 まるで自分に言い聞かせるように早口に言うペリーヌに、美緒はわずかに眉をひそめる。
 ペリーヌの言葉は止まらない。
「少佐だって、お泣きにならないから、きっと強いんですわ」
「それは、違う」
「いいえ!」
 美緒は、ペリーヌを抱き寄せ、ペリーヌの体は、彼女の腕の中で弛緩し、糸が切れた操り人形のように、だらりと手が垂れた。
 ペリーヌの後頭部を美緒の手が撫でる。
「ペリーヌ……、私は、自分が強いと思ったことはない。リバウも、ガリアも、奪われた。
戦場には、お前よりももっと幼いウィッチも駆り出されている。無論、私一人で世界をしょっているつもりではないが……、不甲斐なさを感じているかと言われれば、そうだとしか答えられない」
「幼くても、ウィッチである以上、戦場に出ることは覚悟しているはずですわ、少佐が責任を感じることは……。それにあなただって、幼い頃から…」
「ああ……、そういえばそうだったな。だが、願わくば、子供を戦場に出さなくてもよくなるほどの世界にはしたい」
 美緒はペリーヌから体を離し、そっと、やさしく、笑った。
 力強く、抱きしめて、そして、無償の笑顔をくれて、まるでお父様のよう――
 ペリーヌの中で何かが溶け出し、そして、彼女の頬に、涙が伝う。
 美緒が指で涙をすくい、ささやいた。
「ペリーヌ、泣くことを否定するな。泣きつくして、見えることもある」

 翌朝、ミーナ、ゲルトルート、エーリカの三人は互いに視線を交わしあいながら、向かい側に座る美緒とペリーヌの二人を怪訝そうに見つめる。
 美緒は、ごく冷静に、食事に手をつけているが、ペリーヌは、数日前までの高飛車な態度がうせ、どこかもじもじと、しおらしく、美緒を必要以上に意識しているためだ。

 午後になり、美緒はペリーヌを連れ、格納庫にやってくる。
 ペリーヌは辺りを見回した。
「あの、バルクホルン大尉と、ハルトマン中尉は?」 
「一応、非番だ。あいつらはここに来てから毎日ストライカーを酷使していたからな。なんだ、不服か?」
「い、いいえ、滅相もございません」
 と、ペリーヌは慌てて否定し、高鳴る胸を押さえながら、深呼吸し、気を引き締めた。

 二人は、ストライカーを装着し、それぞれの武器を携行すると、さっそく空へと飛び立った。
「もう少し人数が増えれば模擬戦闘もできて訓練内容が充実するんだがな」
「そういえば、残りの隊員は……?」
「どこの国も、とっておきのウィッチを出すのは憚られるのだろう…」
 ペリーヌは、自分はあっさり差し出されたのだろうかという考えが頭をよぎり、表情を曇らせる。
「おい、勘違いするなよ。お前は優秀なウィッチだ」
 美緒はペリーヌの心を読み取ったかのように、すかさずフォローした。
 ペリーヌは頬を染めながら、うなづいたが、視線の隅に映ったものに気がついて、その場に制止する。
 美緒も止まり、ペリーヌの横に並んだ。
「ネウロイか?」
「気のせいかもしれませんけど、一応確認したほうが」
「うむ……。ミーナ、聞こえるか?」
『ええ』
「怪しい影を発見した。これより索敵行動に移る」
『了解。応援が必要な場合は直ちに連絡してちょうだい』
「ああ。よし、ペリーヌ、行くぞ」
「はい」

 美緒とペリーヌは海上を飛び回るが、ネウロイらしい存在は見当たらなかった。
「やはり、気のせいだったみたいですね」
「ああ…」
 と、言いかけた美緒は一瞬で顔色を変え、叫んだ。
「ペリーヌ、離脱しろ!」
 二人の頭上より、赤い閃光が放たれ、二人は、波しぶきに当てられながらも、上昇し、なんとかネウロイの上を取る。
 ネウロイは大型ではなかったが、それでも大きさとしては、二人の何倍もあった。
 今度は上空に向け、閃光が放たれる。
 二人はすばやく回避し、体制を整えながら、ネウロイに距離をつめ、引き金を引き、銃弾を叩き込むと、離脱した。
「少佐、まずはコアを探さないと」
「ああ、任せろ」と、美緒が眼帯を引き上げ魔眼を晒す。
 ペリーヌは初めて見る魔眼にどきりとしながらも、頭を振って、再びネウロイに向かった。
「私がひきつけている間に!」
「無理するなよ」
 ペリーヌは、最小限のシールドでネウロイに向かい、また銃弾を浴びせ、離れる。
 ネウロイはペリーヌにだけ集中するように、閃光の束を放つ。
 ペリーヌは、臆することもなく、ランダムに、回避運動を繰り返し、それらをかわす。
 美緒はその動きに思わず見とれ、歯の間から笑いをこぼす。
「さすが、ブループルミエといったところか…」
 魔眼がコアを捕らえ、美緒は眼帯を下ろすと、一気に急降下し、ネウロイの右翼に銃弾をありったけ食らわせ、下にもぐると、コアを蔽う箇所の装甲にも正確な射撃をし、離脱しかけ、持っていた武器が閃光に打たれ、消失する。
 舌打ち。
 上昇し、ペリーヌに合流する。
 さきほど撃ち上げた部分の隙間からコアが覗く。
「少佐、お怪我は?」
「銃を失っただけだ。まだ刀がある」
 と、柄に手を伸ばしかけたが、ペリーヌを見つめ、微笑んだ。
「とどめはお前がさせ」
「そんな、上官を差し置いて」
「話し合ってる暇はない、再生してしまうぞ」
「は、はい」
 ペリーヌは、銃を背負うと、レイピアに持ち替えて、ネウロイ目がけ、落ちていく。
 ネウロイが近づけさせまいといった具合に、大量の閃光を放つが、ペリーヌはシールドとターンを駆使してそれらをかわすと、大きく声を上げながら、コアを破壊した。
 海に崩れ落ちていくネウロイの残骸の中をペリーヌは進んでいく。
「よくやったな、ペリーヌ」
 降りてきた美緒が横に並び、爽やかな笑顔を差し向けた。
 ペリーヌは、はい、とうなづきかけるが、次の瞬間、ストライカーがぷっすんという情けない音を出して、停止し、彼女は海へ向け落下する。
 美緒がペリーヌの手を握り、彼女を抱き寄せた。
「稼働時間を過ぎてしまったようだな」
「愛機とはいえ、困ったものですわ」

 二人が基地の滑走路に降り立つ頃には、あたりは緋色に染まり始めていた。
 勝利の高揚と、心優しき上官の胸に抱かれていたことによる熱が、ペリーヌの中で冷め始める。
 美緒はペリーヌの表情と、夕日に目を向け、胸に抱いていた彼女を、お姫様抱っこするように持ち上げた。
「なあ、ペリーヌ、なぜ夕日を嫌う?」
 ペリーヌは、美緒の目を、意地悪な人と言いたげに見つめながらも、口を開いた。
「あの日を――燃え落ちていく祖国を思い出すから」
「そうか。だが……、私とお前で初めて一緒にネウロイを撃墜した日という思い出として、別に加えてもらえないか?」

 ペリーヌは、茜色に照らされる彼女の穏やかな表情を見つめ、瞳を潤ませ、うなづいた。


 終わり


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ