はくちっ!


「はくちっ!」
 と突然、ペリーヌは盛大な声をあげる。私は思わずペリーヌの方へと顔を向けた。
 はくち? ……白痴? たしかそんな題名の小説があったが……。
「どうかしたのか?」
「すみません……ただのくしゃみです」
 そうか、ずいぶんと変わったくしゃみをするんだな。
「どうした? 風邪でもひいたのか?」
「いえ、そんなことはないと思うんですけど……」

 ――とペリーヌ本人は言ったものの、やはり風邪をこじらせていたらしい。
 ペリーヌは部屋で安静を取ることになった。

「じゃあこれをペリーヌさんのところに持っていってください」
 と、宮藤はおかゆの乗せられた盆を、なぜか私に渡すのだった。
 場所は食堂、時刻は朝。朝の鍛錬を終え、私は遅い朝食を取ろうとしていたところだった。
 これはつまり、私が看病してこいということだろうか?
 私はしばし、その場で立ちすくんだ。
 もちろん嫌というわけではない。ペリーヌのことが心配でもあるし。
 ただ、別に私でなくてもという思いも、正直なところある。
 というより、私にちゃんとできるのだろうか――あまりそうは思えない。
 なにせ私は、生まれてこのかた風邪とは無縁だったから。つまり、まるきり勝手がわからないのだ。
 私の両手にある盆が、なにやらずしりと重く感じられた。
 いったい、なにを考えてるんだ、宮藤は。
「どうかしたんですか、坂本さん」 
「あ、いや、別に構わないが……お前は?」
 私は思わず助け舟を出した。こいつの実家は診療所だから、適役だと思ったのだ。
「いえ、私はいいです。野暮ですから」
 よくわからないが、どうやら私一人で行かねばならないらしい。
 それにしても「野暮」というのはどういう意味なのだろうか。
「それに、あまり大勢で行っても迷惑ですから」
 私が躊躇っていたせいか、宮藤はさらにそう付け加えた。
「うむ。それもそうだな」
 自分を納得させると、私は一人、ペリーヌの部屋に向かうことになった。

「坂本少佐……」
 と、廊下を歩いている私に、呼びかける声。
「ペリーヌさんが風邪ひいたって」
 私が振り返ると、そこにたのはサーニャだった。
 引っこみ思案な奴で、ペリーヌとはあまり仲が良くないと思っていたが……
 そうか、こいつもペリーヌのことを心配しているのか。
「どうだ、お前も一緒にくるか?」
「いい……野暮だし」
 が、サーニャはそう言って、ふるふると首を横に振る。
「その代わり、とっておきの話を――」
 と、サーニャは私に歩み寄ると、耳打ちをする。
「オラーシャでは風邪をひいた時には……ごにょごにょごにょごにょ……」
 サーニャの話を私は、うんうんとうなずきながら聞いた。

「あ! 坂本少佐ーっ!」
 と、廊下を歩いている私に、呼びかける声。
「ペリーヌが風邪ひいたってきいたよ」
 私が振り返ると、そこにいたのはルッキーニだった。
 いたずら好きの困った奴で、ペリーヌもよく被害にあっているが……
 そうか、こいつもペリーヌのことを心配しているのか。
「どうだ、お前も一緒にくるか?」
「いかない。だって野暮だから」
 が、ルッキーニはそう言って、べーと舌を出す。
「その代わり、おもしろいコトを――」
 と、ルッキーニは私に歩み寄ると、耳打ちをする。
「ロマーニャでは風邪をひいた時には……ごにょごにょごにょごにょ……」
 ルッキーニの話を私は、うんうんとうなずきながら聞いた。

「おっ、坂本少佐」
 と、廊下を歩いている私に、呼びかける声。
「ペリーヌが風邪ひいたんだって」
 私が振り返ると、そこにいたのはハルトマンだった。
 正直よくわからない奴で、ペリーヌとはあまり接点がないと思っていたが……
 そうか、こいつもペリーヌの心配をしているのか。
「どうだ、お前も一緒にくるか?」
「あーやめとく。野暮野暮」
 が、ハルトマンはそう言って、胸の前で両の手のひらを私に見せるようにする。
「その代わり、イイコトを――」
 と、ハルトマンは私に歩み寄ると、耳打ちをする。
「カールスラントでは風邪をひいた時には……ごにょごにょごにょごにょ……」
 ハルトマンの話を私は、うんうんとうなずきながら聞いた。
「それと、あと――」
「なんだ、まだあるのか?」
「その時には……ごにょごにょごにょごにょ……」
 その話の続きにも私は、うんうんとうなずきながら聞いた。

「ペリーヌ、入るぞ」
 と、私はペリーヌの部屋に入った。結局、私一人だ。
「しょっ、少佐っ!」
 と、ひどく驚いた声をペリーヌはあげると、上半身だけ飛び起きたのだった。
 別に驚かせるつもりなどなかったのだが……そもそもなぜそんなに驚く?
「まだ寝ていろ」
 私がそう言ったものの、ペリーヌは変わらず身を起したままだ。
「いえ、もうずいぶんよくなりましたから。
 それに……少佐とこうして二人きりというのも、なんだかひさしぶりで……」
「そうだったか?」
「はい……」
 口を尖らせてペリーヌはうなずく。
 そういえば近頃、たしかにこうしてペリーヌと二人ということも、あまりなかった気がする。
 みなが誘いを断ったのも、私たちを二人にするためだったのだろうか。
 しかし「野暮」というのは、よくわからぬままだ。
 私はベッドの傍らにある椅子に腰かけた。
「食欲はあるか?」
「はい」
「そうか。じゃあ――」

 ――と、ここで私は、サーニャに言われたことを思い出したのだった。

「よし、私が食べさせてやろう」
 が、ペリーヌからの返答は一向にない。
 完全に思考停止しているように見受けられる。どうかしたのだろうか?
 しばらくして、ようやくペリーヌは「はい?」と首をかしげて聞き返す。
 やはり具合が悪いのだろうか。意識がはっきりしていないのだろう。
「私が食べさせてやる、と言ったのだが」
 サーニャの言ったとおりだ。病人一人ではどうにも心もとない。
 ここは私がしっかりしないと――そう思った矢先に、

「ええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

 と突如、奇声をあげるペリーヌ。なにやらひどく動揺した様子だ。
 私なりにペリーヌを気遣っての言葉だったのだが、いらぬ迷惑だったのだろうか……?
 なんでもオラーシャでは、病人にはこうしてやるのが一般的だと聞いたのだが。
 そういえば、ペリーヌの出身はガリアじゃないか。オラーシャとガリアが同じだとは限らない。
「イヤだったか?」
「いえ………………おねがいします」
 なんだかしおらしくなったペリーヌは、その小さな口をめいいっぱい開ける。
 躁鬱が激しいのは風邪の影響だろうか。
 まあいい。元気があるようでなによりだ。
 私は胸を撫でおろした。
 レンゲにおかゆをよそうと、その開いた口にとかすように運んでいく。
「うまいか?」
「はい。とっても」
 ペリーヌは幸せそうな顔を私に見せる。喜んでくれてよかった。

 ぐぅ―――――――っ

 と、安堵した私のお腹から、ついつい腹の虫が唸り声をあげる。
 そういえばまだ朝食を食べていないんだった。
「一口だけもらっていいか?」
 私がそう言うと、ペリーヌの顔が急に真っ赤になる。
 そしてしばしの間のあとに、ペリーヌは無言でこくりとうなずいた。
 とにかく了承を得たので、私はレンゲを口に運んだ。うむ、うまい。
 するとペリーヌの顔が、かあ、とさらに赤くなる。
 なにやら様子がおかしい。どうかしたのだろうか?
「どうした?」
「いっ、いえ、なんでもありません!」
 当人はそう言うものの、やはり様子が変だ。
 もしや私が全部食べてしまうとでも思ったのだろうか。
 そうだ。そもそもペリーヌに食べさせようと持ってきたのに、なぜ私が食べている。
 ペリーヌにもいらぬ気を使わせてしまった。
 なにをやっているんだ、私は。これじゃ駄目だろう。
「ほら、まだ残っているぞ。食べろ」
「いいんですか?」
「当然だ。しっかりと滋養をとらないとな」
 私はレンゲにおかゆをよそい、ペリーヌの口の前に差し出した。
「ペリーヌ・クロステルマン、至極感激した次第です。いただきます」
 なにもそんなにおおげさな物言いをしなくても。
 むしゃぶりつくようにペリーヌは、差し出したレンゲを丹念に舐めまわすのだった。

 そして、おかゆの入った鍋もすっかりからっぽになって。
「まさか坂本少佐が看病にきてくださるなんて……!」
 そう言う、ペリーヌの視線が熱い。まさかそんなに喜んでくれるなんて。
 はじめは看病という行為に対して、戸惑いや物憂さというものがあったけれど、
 こうして感謝されてみると、してよかったとさえ思う。
 なんだかこう、私まで嬉しくなってくる。
「気にするな。こういうことはお互いさまだろう」
 まあ、私は風邪などひいたことはないが。
「じゃあ、少佐が風邪をおひきになった時は、わたくしが看病して差し上げますね」
 だから、私は風邪などひいたことはないんだが。
 ああ、と私はうなずく。気持ちだけ受け取っておこう。
「どうだ? 少しはよくなったか?」
「はい、おかげさまで。ぐっすり休息も取りましたので」
 しかし本人はそう言うものの、ペリーヌの顔は已然として赤いままだ。
 やはりまだ熱があるのだろうか。
「熱はまだ下がらないか?」
 私はペリーヌの顔に手をやると、前髪をあげておでこに触れた。

 ――と、ここで私は、ルッキーニに言われたことを思い出したのだった。

 私は椅子から腰を浮かせて、ペリーヌにおもむろに近寄った。
 ひどく驚いたペリーヌはあわてて背をひくが、私はそれをさらに追いかける。
 顔と顔とが、急速に距離をつめてゆく。

 そして――――ごつん、という衝撃。

 おでことおでこがぶつかったのだ。
 ペリーヌのかけるメガネのフレームが当たり、ちょっと痛い。
 鼻先同士も、触れるたり離れたりの距離をたもって、かすかな鼻息が私をくすぐる。
 なんでもロマーニャでは、こうやって熱があるかどうか確かめるのだという。
「熱いな……それにどんどんあがっていってないか?」
「そ、そんなことは……」
 ペリーヌは否定するものの、たしかに額は熱をおびている。
「それになんだが、ますます顔も赤くなったようだが」
「こ、これは……」
 ペリーヌの吐息が直に私の顔にかかる。
 その仰ぎ見る瞳は心なしか潤んでいるが、けして逸らすことなく、私に向けられる。
 ペリーヌはひどく動揺している。
 きっと私に気を使わせまいと、相当無理をしていたんだろう。
「もう寝ろ」
 私はくっついていたおでこを放すと、無理矢理にペリーヌをベッドに寝かしつけた。
「ここまできて、そんなっ……!」
 ペリーヌは恨めしそうに私を見つめる。
 なにやらよくわからんが、私に抵抗しようとでもいうのか。
 しかし私とて、看病する身の上。多少、後ろ髪を引かれる思いもあるが、ここは心を鬼にしなければ。
「いいから寝ろ――いや、頼むから寝てくれ」
「イヤです」
 私の懇願に、断固とした拒否。しかも即答だ。
 こんな聞き分けのないペリーヌを、私ははじめて見る。
「どうしてそんなことを言う?」
「こんなの生殺しもいいところです。少佐こそ、急に態度が変わりすぎじゃありませんか?」
「それはお前に早く元気になってもらいたいと思ったからであって……」
 私はなだめるように語りかけた。懸命に言葉を選んで説き伏せるように。
 まるで意固地になった子供にでもするようだな、と思った。
 ――いやもしかしたら、と私は考えを改めてみる。
 もしかしたら、ペリーヌはまだ子供なのかもしれない。
 そう思ってペリーヌを見てみたら、なんだかいつもよりもずっと幼く見えた。
 今まで私が気づかなかっただけで、いつもは懸命に背伸びをしているのかもしれない。
 でも、せめて病気の時くらい、人に甘えたいと思うことだってあるはずだ。
(だからと言って、なぜ私なのだろうか?)

「少佐のお気持ちはよくわかりました」
 ずっと押し黙っていたペリーヌの口が、ようやく開いた。
「でも、だったらどうして、わたくしをそんな気持ちにさせるのですか?」
 そんな気持ち? 思わず私は首をかしげた。
「やっぱり、今日の少佐は変です」
「変、か。そうだな、私もそう思う」
 とうとう言われてしまった。私なりに尽力したつもりだったんだが。
 やはり私に、こんな大役は果たせなかったか……。
「よくわかりませんが、あまりご無理はなさらないでください」
 そう言うペリーヌの語気は、少し和らいでいた。
 無理するな、か。たしかにそのとおりかもしれない。
 所詮、こういったことは、私の分際ではなかったのだ。
 ――でも、と思う。
 このままこいつのことを投げ出してしまって、本当にいいのだろうか。
 そんなはずはない。
 だって今ここにいるのは、私だけなのだから。

「お前が迷惑でなければ、私に無理をさせてくれないか」

 そして、少しの沈黙と、見つめあう時間がおとずれた。
「別に――」
 と、ペリーヌは私から視線を外して言う。その横顔はまた、少々赤くなっている。
「別に、迷惑でなどありませんが……少佐こそ、わたくしの看病など迷惑なんじゃないですか?」
 私は一度だけ強く、首を横に振った。
「なにを言っているんだ。そんなはずないだろう」
 私がそう言うと、ペリーヌの表情が緩んだ。
「どうして?」
 か細い声で、ペリーヌは私にたずねる。本当に、幼な子のようだ。
 どうして、だと? どうしても、だ。
 考えたこともない。考えるまでもないことだから。

「そんなこと、お前が心配だからに決まってるじゃないか」

 と言うと、ペリーヌの顔が、ぱあ、と明るくなった。
「そ、それはいったいぜんたいどういう意味で……?」
「ん? なにもおかしなことじゃないだろう」
 いったいお前は、私をどんな風に見ているんだ?
「はやく元気になるんだぞ」
 私はペリーヌの頭をそっと撫でてやった。
「はいっ!」
 そしてペリーヌは、屈託のない笑顔でうなずいたのだった。

「じゃあもうゆっくり休め。私が見ててやるから」
 そのくらいなら、私にだってできるだろう。
 私はペリーヌを寝かしつけ、そっと掛け布団を掛けてやった。

 ――と、ここで私は、ハルトマンに言われたことを思い出したのだった。

 私はかけた布団を投げ捨てるように剥ぎとると、ペリーヌに取っ組んだ。
「いっ、いったいなにをなさるのですかっ!?」
 と、ベッドに仰向けの、どこまでも無防備なペリーヌ。
「すっかり忘れるところだった。このまま寝るのはまずい」
 食事をとったことだし、汗を相当かいているはずだ。
 そんな体が汗で濡れた状態で、寝かせるわけにはいかない。
「服を脱がせてるんだ」
「なっ、なぜ!?」
「服を着替えるんだ。私が手伝ってやる」
 なんでもカールスラントでは、風邪をひいたらこまめに着替えをするのだという。
 その時には、看病する人が手伝ってあげた方がいいらしい。
「さあ、脱げ! 脱ぐんだ!」
 そうして取っ組み合いの結果、ペリーヌは抵抗するのをやめ、おとなしく私に従うのだった。
 ペリーヌの寝間着をようやく脱がし終わり、その白い肌があらわになる。
 部屋は暖かくしているが、それでも少し震えていた。
 いけない、すぐに新しい寝間着を着せないと!

 ――と、ここで私は、ハルトマンの話に続きがあることを思い出したのだった。

 私は着替え、ではなく、タオルを手に取った。
 もう片方の手は、ペリーヌの手首をがっちりと掴んだ。
「な、なにをなさるのですかっ!?」
「汗で濡れているからな。着替える前に、ちゃんと拭いておかないと」
 そして、私は体を移動させ、ペリーヌに馬乗りになる。
 左手と両足でペリーヌをしっかり押さえこむと、汗ばむ肌をタオルでぬぐってやる。
 顔から首筋に、肩におりると二の腕から肘、手の先へとタオルを動かしていく。そして逆の腕も拭いてやる。
 次は平らな胸へと戻ると、お腹を経て、そして――
「どうしたんだ!? こんなところがびしょびしょじゃないか!?」
 と、私は思わずペリーヌの股のあいだに手をやった。
 あきらかに異常なほど濡れている。体の他の場所からは考えられぬほどだ。
「いえ、これは汗ではなく……」
 おかしなことを言う。たしかに股の間はびしょびしょだというのに。
「汗でなければ、なんだと言うんだ?」
「そ、それは………………やはりこれは汗です! 少佐への思いが流させた、わたくしの心の汗です!」
 なにやらもってまわった言い方をするが、きっと私に気を使わせまいとしているのだな。
 汗ということなら、拭いてやらねばならん。
「じゃあ拭くぞ」
「えっ……そっ、それは……」
「構わないな」
「…………はいっ」
 いちに、いちに、というタオルの往復運動。
 ペリーヌはその動きにいちいち、びくんびくんと体を震わせてこたえる。
 その動きにふと、釣りあげられた魚を思い出した。
「ちょっと強くこすりすぎたか?」
「いえ、わたくしにはこのくらいの方が……」
「そうか。じゃあこのまま続けるぞ」
 しかし、拭いても拭いてもこの汗は、むしろあふれ出してくるくらいだ。
 私はその汗と長い時間格闘し、ようやくそれを終えるころには、
 ペリーヌはすっかり眠ってしまっていた。
 それとなんだか、ひどくぐったりとした様子だった。

 細い寝息をたてて、すやすやと眠るペリーヌの寝顔を覗き込んで、思う。
 もうきっと大丈夫だ、と。
 だってその寝顔は、とても幸せそうに見えたから。
 大丈夫、ペリーヌはよくなる。
 自分に言い聞かせるように、祈るように願いをこめる。

 いまだ私には幼く見える、ペリーヌの寝顔を覗き込んで、思う。
 そういえばペリーヌだって変だったな、と。
 それは風邪がそうさせたのだろうか。
 あるいは私が知らなかっただけで、これもまたペリーヌ自身なのだろうか。
 ……よくわからない。
 いつものペリーヌはどうだったかと、思い出してみると、
 私はペリーヌのことを、今まであまりよく知らなかったという事実に唖然となる。
 そもそも疎まれこそすれ、なぜこんなに私に慕ってくれるのだろう。
 それは嫌な感情ではない。そうじゃなくて、逆だ。とってもいい気分なんだ。
 そのことを愛おしいとさえ思う。
 なんだろう、この気持ちは……?
 そういう思いが私のなかにあるのを感じると、なんだか体中がが熱くなってくる。

 そうして翌日。
「坂本少佐!」
 と、私の名前を呼ぶ声。
 いつものように、私が朝の鍛錬をしているところに、すっかり風邪の治ったペリーヌが姿を見せた。
 私は一瞥すると、自然と吐息が漏れた。
 と――目と目があった。
 そのまま二人の間の時間が止まってしまいそうになる。
「もういいのか?」
 私はそう言いつつ、視線を外した。
「はい、もうすっかりよくなりました」
 ペリーヌは已然、私をじっと見つめている。
 なんだか胸がドキドキする。なにをされるでもないのに、なんだか急かされてでもいるようだ。
「どうかなさったのですか?」
「あ、いや……なんでもない」
「……もしや、わたくしの風邪が少佐に伝染ったのではありませんか?」
 そんなはずはないだろう。
 それに――もうそんなにじっと、私を見つめるな。
「いや、そんなことは……はくちっ!」


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