無題


あぁ、眠れない…!

寝返りを何度もうっていた私は、ついに体を起こした。
なんとなく寝る前にクリスの写真を見つめていたら、なんだか気分が高揚してしまって…
いや、興奮したとかそういうものではないぞ!

窓の外を見ると、まだ夜は深そうだ。
風呂にでも入って、さっぱりしてこよう。

私はバスローブを羽織り、部屋を出た。
今夜は月が綺麗で、その明かりが静かな廊下をほんのりと照らしている。

クリスもこの月を見ているだろうか……
あぁ、隣で見ていたい…


脱衣場に着くと、浴室の中から水音がした。誰か先客がいるのか?
籠を見てみると、白い軍服が丁寧に畳まれていた。この服は、坂本少佐か。

「おぉ、バルクホルンか」

中に入ると、少佐が私に気付いて微笑んだ。

「どうした、こんな夜中に」
「少し、目が冴えてしまって…。少佐は?」
「ついさっきまで訓練していた。少し汗をかきすぎてしまってな」

思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。
こんな時間まで訓練とは…なんて熱心な方なのだろう。
年も階級も一つしか違わないのに、私なんかよりずっと大きく見える。

「そんなところに立っていないで、温まったらどうだ?」
「あ、はい…失礼致します」

私はおかしそうに笑う少佐の隣へと体を浸けた。

「何か悩み事か?」
「え?」
「眠れないんだろう。お前がしっかり睡眠を取らないなんて珍しいじゃないか」
「あ…いえ、その…」

…クリスの事を考え過ぎた、なんて口が裂けても言えないな…

「しょ、少佐こそ、いつもこんな時間まで訓練を?」
「いや、普段はもう少し早く休むのだが…今日は気持ちが入りすぎてしまってな」
「熱心なのですね」

私の言葉に、少佐の表情が少し曇ったように見えた。

「…まぁ、訓練するにこしたことはないからな。はっはっは」

…気のせいだろうか?

少佐は湯から上がると、髪を洗い始めた。
私は肩まで浸かり、大きく息をつく。


「…バルクホルン」

少し沈黙が続いた後、ぽつりと少佐が呟いた。

「なんですか?」

振り返ると、少佐はこちらに背中を向けたままだった。
真っ黒な髪は、シャンプーの泡にまみれている。


「…もし私が飛べなくなったら…みんなを頼むぞ」
「え…?」

私は思わず体を乗り出した。
少佐はシャワーを出し、頭から浴びて泡を落としていく。

「少佐…」

きゅっと蛇口を締めると、少佐はこっちを向いた。

「…ミーナに全てを任せる訳にもいかないからな。お前なら、ミーナをしっかりサポートできるだろう」
「少佐、まさか…」

少佐はすっと近付くと、言いかけた私の唇を指で押さえた。

「これは秘密だぞ、バルクホルン」

戸惑いながらも小さく頷くと、少佐はふふ、と笑った。

「では、これは約束だ」
「は…?…ん……!」

聞き返す間もなく、私と少佐の唇が重なった。

な…なんだ、少佐は何を…

「!ん、っ…」

混乱している私を尻目に、少佐は私の口内へと舌を割り込ませてきた。

「ふ…は、しょ…ぅさ…あん…」

頭をきゅっと抱き寄せられ、逃げ場を無くした私は少佐のされるがままだ。

「…ふぁっ…」
「ふふっ…可愛いな、バルクホルン」

少し顔を離した少佐は、悪戯っぽく笑った。
普段はあまり見せない表情だ。なんだか、頭がくらっとした。

「そんなに蕩けた表情をして…バルクホルンは誘い上手だな」
「ぇ…?」

少佐はぼんやりしたままの私をひょいと抱き上げ、湯船から上がらせた。
そのまま少佐の膝の上に下ろされる。

「悪いようにはしない。力を抜いていろ」

私の手を自分の肩に掴まらせると、少佐は背中に手を伸ばしてきた。

「っ…あぁ…!」

つぅ、と背中を指が滑る。
ちょうど腰の延長線辺りを何度もなぞられ、びくびくと震えた。

「ひゃ、ぁ…んん…!」

天井に声が響き、慌てて口を押さえる。
すると、少佐は空いている手で胸を掴んできた。

「大丈夫だ、誰も起きてこない。だから聞かせろ」
「んっ、で、も…うぅッ…」

駄目だ、背中と胸は…どうしても声が出てしまう…

「ぁ…ふ…くぅん…」

少佐の指は、私の弱い所を的確に攻めてくる。
触られてもいない下半身が、じんわりと熱を持ってきたのがわかった。

「濡れてるな、バルクホルン」
「ぅあッ…!」

少佐にも気付かれたようで、太股でくい、と脚の間を押された。

「案外、慣れていたりしてな」
「そ、そんな事…あぁっ!」

抗議しようとした声が、胸の突起を摘まれた衝撃で裏返った。

「あまり長引くと、逆上せてしまうからな」

少佐はそう言うと、私を触る指に少し力を込めた。

「あうっ…!ぁ、んん…!」
「ふふ、気持ちいいか?」

体を支えきれず少佐にしがみつくと、甘い香りが鼻をくすぐった。
その香りに、またもくらくらとする。

「ぁ、あ…しょうさぁ…」

無意識のうちに、私は少佐の引き締まった脚に局部を擦り付けていた。

「いやらしいな、バルクホルン」
「はうっ…!」

耳元で囁かれ、そのまま耳の縁を舐められて、私はもう限界だった。

「も…だめ、あ…んっ…」
「ふふ、いいぞ」
「ぁ…ああぁっ…!」

ぐっ、と腰の辺りを押され、体が大きく痙攣した…


「は…ん……」
「大丈夫か?」

力が抜けぐったりした私の背中を、少佐は優しく擦ってくれた。

「はっはっは…バルクホルンがこんなに乱れるとは知らなかったな」
「しょ…少佐、この事は…」
「わかっている、誰にも言わないさ」

シャワーで体を流し、私たちは浴場を出た。

「お互い秘密が出来たな、バルクホルン」
「え…?」

…そうか、少佐は秘密だと…その約束だと言っていた。

「少佐、先ほどの話は…」
「秘密、だぞ。そう言ったはずだ」

少佐はさっと服を羽織り、「おやすみ」と微笑んで出ていった。

「……」

何故か少し小さく見えた背中を見送り、私はぎゅっと胸を押さえた。

胸が熱く、どこか震えるくらい冷たかった。


……やはり、今夜は眠れそうにない。


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