mix-turegret 幕間2―雨のち嵐、ただしところにより快晴


あのう。
恐る恐るその、私にとっては上官に当たる、各国のエースの皆さんに語りかけたらハルトマン中尉が振り向いて、
にっこりと笑ってサムズアップした。ごめんなさい、全く意味が分かりません。

「よしかちゃぁん…」
困り果てた私は、私が顎を頭に乗せるようにしてすぐ下にいる芳佳ちゃんに語りかける。芳佳ちゃんなら、
たぶん、この気持ちを分かってくれると思ったから。…だって大切なお友達だし、階級も一緒だし、あと、あと…
ああ、ても、共通点をいくら並べたって仕方がない。だって、私と芳佳ちゃんは、全然別の性格をしているんだ
もの。同じ性格をしていたらきっとつまらない。だから芳佳ちゃんと一緒にいると発見がたくさんあって、楽しい
んだから。

「リーネちゃん、これはこの部隊の一大事なんだよ!すっごく大切なことなの!」
…たぶん!
どこから溢れてくるのかわからないその自信でもって、やっぱり私に親指を立ててサムズアップしてくる芳佳
ちゃん。ねえ、変に毒されていたりしないよね。心配になるけれど、尋ねてもきっと「そんなことないよ」と笑う
んだと思った。…もしかして、むしろこの調子について行けない私がおかしいんだろうか。…そう尋ねたら、
「もちろん、」とハルトマン中尉辺りに「やっと気付いたのか」なんて言われそうで止めておくことにする。

「でもお、だからってこんなデバガメみたいなこと…」
「わかっていないなあビショップ軍曹!これは名誉ある任務だぞ!大いなる正義の前では小さな過ちなんて
シャーリーの前のペリーヌに同じなんだ!」
呟いたら、即座に返ってくるささやき声の答え。…任務とか言っている割に妙に目が輝いてませんか、ハルト
マン中尉。あとやっぱりおっしゃっている意味がわからないです。もしかして胸ですか、胸なんですか。「リーネ
の下の宮藤でもいいけど!」なんて笑うと、恐らく意味がよくわかっていない芳佳ちゃんが「それってそのまま
じゃないですか~」と笑う。…芳佳ちゃん、たぶん馬鹿にされてるんだよ。けどそう言うハルトマン中尉だって…
いいや、あえて口にしないでおこう。

「ね、これは正義なんだよ。トゥルーデもそう思うよねえ?」
「…しるか」
自分の押しつぶしているバルクホルン大尉に尋ねるハルトマン中尉。当の大尉は中尉に体重を掛けられて
いるせいか、それとも他に理由があるのか、不機嫌そうに答える。うう、怖い。その横には「あたしの前の
ペリーヌ??」なんて首を傾げてるシャーリーさんと、それにおんぶされるようにして半分眠っているルッキーニ
ちゃんがいて…ああ、もう、何だかまず人がたくさんいて説明するのも大変。
助けてお姉ちゃん、なんて今はどこの戦場にいるのか分からない姉に呼びかけた。もう長いこと会えていない
けれど、私の自慢のお姉さんです。…え?なあに芳佳ちゃん?遠い目をしてどうしたの、って。だってこんな状況、
現実逃避もしたくなっちゃうよ。

場所は、ハルトマン中尉の部屋の前。閉ざされた扉に私と芳佳ちゃん、シャーリーさんとルッキーニちゃん、
ハルトマン中尉とバルクホルン大尉の6人で、耳をそばだてて中の様子を探っている。
中にいるのは、同じ部隊に所属していて、実は私と同い年さんだったりもするエイラさんとペリーヌさん。…もっとも
、私の方があちらよりも半年ほど誕生日が遅くて、しかもまだウィッチとしても駆け出しの私に比べてあっちの
二人はその歳でもうそれぞれの原隊のトップエースだったりして…私はいつも、彼女たちよりも一歩引いて
しまうのだけど。
がたがたと、物を動かす音が聞こえる。聞いた話ではエイラさんが自分のストライカーを壊した罰としてハルト
マン中尉の掃除を言いつけられていて、ペリーヌさんがその手伝いをしているのだとか。…そっか、さっき
話したときエイラさんが勘違いしてたのはこっちのことだったんだ。心配そうに格納庫を見ていたのも、その
格納庫の中がちょっと騒がしかったのも。


さっきのことを思い出して、はあ、とため息をついた。なんであんなことしたんだろう、と胸の中は後悔で一杯だ。
今思い出しても恥ずかしい。
その表情を、シャーリーさんは容易く読んでしまったらしい。

「にしても、リーネのあの怒りようは見物だったなあ」

からかうようにけらけらと笑うのは、私がエイラさんに一方的に話をしている最中にミーナ中佐と一緒にやって
きたのがシャーリーさんとルッキーニちゃんだったから。…ルッキーニちゃんが起きていなくて良かったかも
しれない。シャーリーさんだけならともかく、ルッキーニちゃんと二人でからかわれたら私はもう、恥ずかしくて
恥ずかしくて部屋にこもってしまいそうだ。

「あああ、あれはっ!言わないでくださいシャーリーさんっ」
「え、なになに?」

目を輝かせて尋ねてくる芳佳ちゃん。ハルトマン中尉とバルクホルン大尉も「どうしたんだ?」と言わんばかりに
私を見る。私は恥ずかしさにただ縮こまるだけ。…もちろん真下には芳佳ちゃんがいるから、その背中に胸を
強く押し付けることぐらいでしかないけれど。

「エイラ相手とは言え、あんなにすごんでるところ初めて見たなー」
「あ!もしかして、ご飯食べたあと…」
「ううう…聞かないで芳佳ちゃん…」
「えー、聞かせてよー」

「エイラの様子がおかしい」。言い始めたのはハルトマン中尉だった。そう言えばこないだの朝から…とそれを
次いだのが芳佳ちゃんとバルクホルン大尉。はじめは小さな小さな種だったそれは、みんなで情報を交換
しあうにつれて確信へと変わって行った。
昨日隣り合って空を駆りながら、どこかぼんやりと考えごとをしていたエイラさん。よく思い出すとペリーヌさんも
そうだった。いつも怒っていたりいたずらをしたりをしては場を沸かしている二人がそろって黙りこくっていると
基地はひどく静かで、すこし不安に思えるほどで。大きな怪我こそ無かったものの、普段は悠々とどんな
攻撃も避けるエイラさんがひどく危なっかしい動きをしていたり、ペリーヌさんもペリーヌさんで納豆をおとなしく
完食したりと、不審な行動ばかりだった。

これは何とかせねばならない。今こそ我らが立ち上がる時だ!そう豪語するハルトマン中尉を中心として
『ブルーダイヤ緊急対策委員会』が発足したのが、昨日の晩。…とは言ってもその本人が直後に早速任務
放棄をして居眠りを始めてしまったから、実質的にはバルクホルン大尉とシャーリーさんが話を進めていた
ようなものだったけれど。
そこで決まったのはまず「ミーナ中佐と坂本少佐が気付く前に解決しよう」と言うこと。別に除け者にしよう、
って言うことじゃなくて、余計な心配を掛けたくないから。できれば大事にはしたくないから。
ここのところひどく疲れた顔をしている二人は、どうやら夜も仕事におわれているらしい。…できることなら私も
手伝えたらいいのだけれど、まだまだ駆け出しの私にそんなことができるはずもなく。
だから私たちで何とかできるようなことはそうしたい。役に立てないのならせめて迷惑はかけたくない。そんな
一心だった。少なくとも私は。

何がどうなってこんなことになったのか、全然わからないからまずは情報を集めなければ。話の途中で眠って
しまったルッキーニちゃんを除いた(ハルトマン中尉はバルクホルン大尉に叩き起こされた)話し合いは結局
そこに落ち着いて、6人を3組に分けて、エイラさん、ペリーヌさん、そして重要参考人としてエイラさんの動向
には詳しいであろうサーニャちゃんにそれぞれ話を聞くことになった。決行は明日。つまり、今日。

「…だって、サーニャちゃんが可哀相で、私…」

思い出せばすぐに浮かぶ、サーニャちゃんの悲しそうな顔。ノックをして入り込んだ薄暗い部屋のなかで、
当然のごとく一人きりでベッドの上にいたサーニャちゃんはその瞬間ひどく明るい声で「エイラ!」と叫んだ。
けれどその直後、ぱあっと暗がりの中で輝いた顔が、途端に曇るのを見た。それだけで私も芳佳ちゃんも、
何も言えなくなってしまったのだ。だって、大切な大切な人がいつまでも帰って来ない寂しさを、私たちはよく
知っているから。遠くファラウェイランドの飛行学校に行った姉を、軍に招聘されてブリタニアに行ってしまった
お父さんを、待ちわびていた日々のことを。


ねえ、何があったのか知ってる?
そんなこと尋ねられるわけがなかった。だから、ふたりでただサーニャちゃんの傍らに座って、何も言わずに
彼女をなだめることにした。
エイラが変なの。いつもと違うの。きっと私のことを嫌いになったの。
誰かにこの不安を打ち明けたかったのかもしれない。しばらくするとそう、絞り出すようにサーニャちゃんは
言った。言葉をつむぐと同時にぽろぽろと流れ落ちる涙をハンカチを差し出して拭ってあげても足りないくらい、
サーニャちゃんの悲しみは深くて、どこまでも深くて。その流した涙で悲しみの海が出来てしまいそうだ、
なんてことを思った。
なら、溺れてしまう前に助けてあげなくちゃ。今それが出来るのは、私たちしかいない。

「私のことを嫌いになったの」、なんて。

そんなはずない。サーニャちゃんが悪いわけない。「ひとりになりたい」と言うサーニャちゃんの部屋を後にして
芳佳ちゃんとふたりで少し昼食を食べながらそんなことばかり考えていた。エイラさんに話を聞かなくちゃ。それ
で頭がいっぱいだったから、目の前にあった山盛りのふかし芋がいつの間にかごっそり無くなっていても気付か
なかった。あれ?いつのまに私こんなに食べたんだっけ?そう首を傾げたら芳佳ちゃんは苦笑いをしていたけれど。

「そ、そんなことより、さっきハルトマン中尉、サーニャちゃんに通信機渡してましたけど…一体何に使うんですか?」

…ともかく、あの時の私は相当頭に血が上っていた。エイラさんの担当はシャーリーさんたちだってちゃんと
聞いていたはずなのに失念していた。そんな自分が恥ずかしくて仕方なくて、話題を変えるように別の話を振る。
私たちがここにやってくる前の話だ。エイラさんに言われたとおり、サーニャちゃんに付き添っていた私の
ところに、嵐のようにやってきて、私を掻っ攫って嵐のように立ち去った。サーニャちゃんは訳がわからない、
といった様子で目をぱちくりさせていたっけ。…もともと普段から私たちとの接点も少ない子だもの、しかたない。

「ん?ああ、あれか。トゥルーデがくれたんだ。まだきっとたくさん持ってるよ。」

トゥルーデ機械オンチなのに物好きだよねー。と人事のように笑う中尉。直後、その真下から懸命に声を殺した
怒鳴り声がこぼれた。

「バカを言うなっ!!お前の部屋からみつかったんだぞハルトマン!!通信機は貴重な備品なんだから、
 使い終わったらちゃんと元の場所に返却しろといつもいつも言っているだろ!」
「まー、いいじゃん一回くらいー」
「一回ぐらい、じゃないっ!いくつ見つかったと思ってるんだ、5個だぞ、5個!!」
「おかしいな、その倍はあると思うんだけど…」
「なっ!!お、お前…!!」
「まーエイラたちが見つけたとしてもせいぜい3つだよね。2個はきっとスイッチ入ったままベッドの下にでも
転がってると思われる!」

わっはっは!坂本少佐を真似るようにして誇らしげに笑う中尉に、がっくりうなだれるバルクホルン大尉。
私たちは苦笑いするばかりだ。この人には敵わない。その場にいるルッキーニちゃん以外の誰もがそう
思ったのは確実だった。なぜって、ルッキーニちゃんは今もやっぱりおやすみ中だから。

「ま、きっと面白いものが聞けると思ってね」

バルクホルン大尉の背中に頬杖をついて、締め切られた扉をみる中尉。いたずらっぽそうな輝きが途端に
柔らかくなる。いつもは中尉の一言一句すべてに言い返さないと気が済まないと言ったようなバルクホルン
大尉も、この言葉には何も言わなかった。
窓の外を見やるともうすっかり暗くなっていて、冷たい風が吹き込んでいた。扉の向こうから物音はもうしない。
言いつけられた作業は日が落ちる前に終えたようだった。耳を当てればくぐもったような話し声が聞こえる
けれど、よく聞こえない。
シャーリーさんの話では、ペリーヌさんとエイラさんの間で一悶着あって、それを気に病んでいたエイラさんが
サーニャちゃん構ってあげられたかったのがこうなった原因じゃないか、と言うことだった。その『一悶着』と
言うのが気になって尋ねても「さあなあ、」と笑うばかりだったけれど。

だからこれはショック療法だよ、とペリーヌさんをこの部屋に差し向けたシャーリーさんは言っていた。あから
さまにお互いを避け合ってる二人を無理矢理一緒の部屋に押し込むわけ。とにかく話をさせたら何か変わるさ、
と曖昧に笑いながら。

そうかなあ、と、今だに状況のよく掴めていない私は頭をひねるばかりだ。私の下にいる芳佳ちゃんに「大丈夫
かなあ」と尋ねても「ああ、うん」なんて生返事が返って来るだけ。私よりも小柄なはずなのに「私リーネちゃん
の下ね!!」と言い張った芳佳ちゃん。疲れてないだろうかと思って声を掛けたら「気持ちいいから大丈夫!」
なんてわけのわからない返事。
床が気持ちいいなんて変わってるなあ。でも扶桑では座敷が一般的で、床に座るのが普通って言うから
そういうものなのかも。一人勝手に納得して、扉のほうに注意を戻した。

(本当に大丈夫かなあ。)

もとからそんなに仲がいいとは言えない、むしろ言い合いばかりをしているような二人だけに心配になる。もっと
険悪になったりしないだろうか…

そう思った矢先に、それは起こった。

「それを言うならあなたより少佐のほうがずううううううっと素敵ですわよっ!」

薄っぺらい一枚の木の扉なんてものともせずに、突然部屋の中からその声は響いてきた。扉に耳を引っ付けて、
何とかして直前までの囁くような会話を拾いあげようとしていた私たちは一斉に扉から耳を引きはがす。その
拍子にルッキーニちゃんがシャーリーさんの背から転げ落ちてしまった。寝ぼけ眼をこすりながらきょろきょろと
辺りを見回すルッキーニちゃん。

「ごめん、ルッキーニ!」
慌ててシャーリーさんが駆け寄るけれど、寝ぼけているようで目の焦点が定まっていない。

「何だとコノヤロー!!」

さっきのペリーヌさんの言葉に応酬するように今度はエイラさんの声が聞こえた。一体何が始まったんだろうと
扉を見つめてただただ驚くばかりの私たちをよそに、どんどんと部屋の中のやり取りはヒートアップしていくよう
だった。もう耳をそばだてる必要なんて無い。何だか懐かしいとさえ思えるくらいの二人の大声はこちらまで
すっかり丸聞こえだ。

「…何か起こるとは思ってたけど、これは、予想斜め上、だね」
「…まったくだ。心配して損した…!!」
「ま、まあまあバルクホルン大尉…」
「なんか、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるよね…」

顔を見合わせて、私たちはそのやり取りの感想を述べた。…なんか、もう、「ごちそうさま」としかいいようが
無いのはその内容がお互いの好きな人自慢だったからだ。サーニャちゃんは歌がうまいとか、坂本少佐は
汗が輝いているとか、お互いの話なんて全く聞かないで自分の主張ばかりを延々と繰り返している。

「うにゃ?…エイラとペリーヌ…喧嘩してるの?」
怪我は無いか?どこか打ってないか?そうおろおろしているシャーリーさんの背中に再び飛び乗った
ルッキーニちゃんが、大きくあくびをしながらそう呟く。会話の内容を加味しなければ、確かに喧嘩にしか
聞こえないそのやりとり。
いつもどおりのルッキーニちゃんの様子に一安心したらしいシャーリーさんが「まあ、そうだな」と肩をすくめる。

「えー、二人は仲良しなのに?」
「いや、だからそれは多分違うって…」
「だってこの間ふたりチュ」
「わああああああ!!いうなルッキーニ!!!せっかく丸く収まりそうなんだからっ!!」

何かを言いかけたルッキーニちゃんを急いでその背中からおろして、焦ったようにその口を手でふさぐ
シャーリーさん。もがもがと不満そうに暴れているのもお構いなしに強く口に手を押さえつけて、作り笑いを
浮かべて頭をかく。
「いやー、ルッキーニはまだ子供だからそろそろ寝なくちゃなー。じゃあ、あたしはここで失礼…」
そしてそのままルッキーニちゃんを抱き上げて、立ち去ろうとした、けれど。

「ねえ、シャーロット・E・イェーガー大尉。私、いいこと考えたんだけど」
「な、なにかな、エーリカ・ハルトマン中尉?」
「今晩の夜間哨戒、宮藤とリーネに行ってもらったらどうかな。噂によると、サーニャは今日明日明後日と
お休みなんだ。どうせネウロイは昨日出たばかりだし、明日は私とトゥルーデがやるから」
「あ、ああ、いいんじゃないか。うん」
「うん、だからさ」

じりじりと後ろに下がるシャーリーさんに笑顔で詰め寄って、ハルトマン中尉がその肩に手を伸ばしてぽん、
と叩くと笑顔を浮かべる。…いつの間にか私と芳佳ちゃんが夜間哨戒当番に決まっちゃってるのは…あえて、
ここでは突っ込まないほうがよさそうだ。

「その話、ゆっくりききたいなあ、大尉。それに私の心はまだ傷ついてるんだ、昼間のことで」
「なっ!あたしの部屋で散々ジュース飲んだくせに!!」
「カールスラントのビールじゃなきゃやだー」
「おい、助けてくれよバルクホルンッ!!」
「…すまないリベリアン、せめて同行して骨は拾ってやる。」
「あはははは、みんなみんな喧嘩してる~。そんなときはチューして仲直りすればいいんだよ~」

昼間のこと?ジュース?チュー?
ドアの内と外で繰り広げられる言い争いについていけず、私はただただ目をぱちくりさせるばかり。助けてお
姉ちゃん。空を仰いで姉に語りかけても、もちろん答えが降ってくるわけがない。

「二人で夜間哨戒だって!頑張ろうね、リーネちゃん!」
「う、うん…」
「あ、でも、私、まだ慣れてないから…手、つないでくれる?」
「……うん!!」

よくわからないけど、たぶん。
明日の朝になれば全部丸く収まってるだろう。何だかそんな気がするのはたぶん、少し気の早い芳佳ちゃんが
ぎゅっと手を握っていてくれるからだ。なんだかやっぱり現実逃避じみてるけど、手の届かない姉と違って
芳佳ちゃんはすぐ傍にいるもの。この温もりは、今の私にとって確かだ。

「なんとかなるよね、きっと」
「大丈夫だよ!」

窓の外はもう暗い。今日は良く晴れていたから、夜でも外は明るいだろう。多分ネウロイの心配も少ない。
楽しいフライトになるといいなあ。手をつないで歩き出したその瞬間に、頭の中はそれだけで一杯になってしまった。



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