Oh,my God
Oh,my God!
目が開いた。
はじめに飛び込んできたのは、見慣れない紅い薔薇。透けた花瓶とやわらかな刺、暗闇の中で静かに主張する真っ赤な花びら。
今は、いつだ。
…どうやら夜らしい。
ここは、どこだ。
…自分のではない、誰かの部屋らしい。
あたしは、誰だ。
…シャーロット・イェーガー。まあそれくらいはわかってる。
ここは、誰の部屋だ。
…軽くあたりを見回す。クローゼットに、見慣れた制服がかかっていた。
マジかよ。
ミーナ中佐の制服じゃないか、あれ。
なんで中佐の部屋なんかに?
…頭が痛い。どうも昨夜の記憶が曖昧だ。
つうか、なんであたし、上半身がはだけてるんだ?それにブラもつけてない。
ふと、なにかが隣で動いた。すこし嫌な予感が……。
枕の方から覗きこむと、赤い髪の毛――、わお。中佐だ。
中佐はゆっくりと布団のなかから顔をだして、さらにゆっくりと瞼を開いた。わ、色っぽすぎんだろこの表情!
そんな顔で、つぶやいた言葉といえば。
「…シャーリーさんたら…アレ、なんだから……」
…え゛。
あ…アレ?アレとは?
問題発言をして、そのまま規則ただしく寝息をたてはじめる中佐。
っていうかこの人裸だよ奥さん!
パニクっていると、今度は中佐の後ろから、あたしのでも中佐のでもない両手が。
その人物はどうやら中佐の背後に密着しているらしく、両手で彼女の肩を抱き、肩口から頭そして顔をだした。
ツヤツヤの黒髪。右目の眼帯は外れて、右瞼を閉じている。
…坂本少佐、だ。
「全く…お前は、私のミーナに何をしてくれたんだ…。私にも、だが…」
ちょ。ちょっと待て。この人も裸ですよ奥さん!!
「ふふ…あとで仕置きをしてやるぞ…」
待てってば!!
これまた問題発言をした少佐は、再び眠りについたようだ。
マジで待ってください。
だめだ、状況が理解できない!
とにかく叫ばしてくれ、
Oh,my God!! なんてこと!
○
ちょっと落ちついて、昨夜の記憶を掘り起こしてみよう。
たしか…風呂上がり、あたしは晩酌を始めて。そこに珍しくミーナ中佐が「付き合うわよ」とか言ってきたのかな。
んで…かなり呑んで。
しばらくしてから、こちらも風呂上がりらしい坂本少佐登場、
また…かなり呑んで。
よくわかんないけど、なぜかやけに楽しかったことだけは覚えてる。あんまりないメンツなのに…すごく盛り上がってたような…。
…くそ、そこからが重要なのに、記憶がすっかり飛んじまってる。
中佐&少佐の発言から推測するに…
あたしもしかして、やっちゃったのか…?
酔った勢いで、襲っちゃったのか…!?
いやいや。確かに上官のカラダとか興味ないことはないけどさ。こう見えても、あたしそんな軽い人間じゃないぞ。
いやいや。まさか、な。
…しかし現にこんな場所でこんな人たちとこんな状況でこんなことになっている。
……やばくね?
●
久しぶりにお酒を呑んだ。
シャーリーさんと、美緒と。
おしゃべりをしながらだったから、随分の量呑んでしまったかもしれない。
気だるくなってきて部屋に戻ろうとすると、美緒が千鳥足の私を心配してついてきてくれた。
ベッドまで運ばれ、ぼすんと沈みこむ。
「……」
何も言わずに美緒がドアをしめ、私の方に近づいてくるのがわかった。
酔っている。美緒も、私も。
上から美緒が熱っぽい視線を私に向けるから、私の身体まで熱くなってきてしまった。
やがてゆっくりと唇を重ねる。
「ふ…、みーな、ねるなよみーな。」
美緒ったら、酔いすぎよ。
●
「お楽しみですかい?」
ひとつ、楽しんだ後だった。酒のせいもあってかもう半分ねているような私達に、能天気な声がかかったのは。
「――!?」
咄嗟に声を出すことができなかった。
驚いた。鍵、しめるのを失念したのか。いやしかし、なぜシャーリー。なぜミーナの部屋に。
ミーナはいまや夢の世界の住人だから、なにか対応できるとしたら私だけだ。
突然のことに慌てていると、シャーリーはまるで自分の部屋かのようにどかどかと入ってきた。
…これは相当酔っている。…やばいぞ。
「…シャーリ」
なんてことだ。シャーリーは、ドサッとベッドに倒れこんできた。そして瞳をこちらに流す。
「少佐…」
「へ?」
「きれーだな…」
つ、と腹の辺りをなぞられた。
すでに体力を失っていたものだから、よけることができなかったんだ。
「ちょっ…シャーリー」
「ん…」
あ、ミーナが起きた。
「中佐…」
つ、と。私にしたのと同じように腹をなぞる。
「ゃあ…ん」
「…さすが中佐。いい声」
○
なにをやっているんだ。
ミーナも私も、あっさりシャーリーに翻弄されていた。
切羽つまるところまで盛り上げられたと思ったら、シャーリーは突然がくりと崩れ落ちた。
それもミーナと私のちょうど間にだ。
…困る。いろんな意味で。
上気した全身を鎮めるように努めつつ、シャーリーをはさんでミーナの方へ視線をむける。
Oh,my God、彼女は私を視界に入れていないようだ。
仰向けに寝転がり、意外にもおとなしく眠るシャーリー。
呼吸をするたび、ワイシャツのボタンが吹っ飛ぶんじゃないかと心配してしまうほど豊かな胸。
ミーナはほっぺたを紅く燃やしながら、シャーリーのワイシャツ――の胸のあたり――に指先をもっていった。
おい。まさか。
しかし困ったことに、私がまさかと思ったことは大抵実現されてしまうのだ。
ミーナの指の動きにあわせて形を変える胸。
恍惚、というにふさわしい表情のミーナ。
……なんか切ない。とても切ない。
なあ、ミーナ。
おまえはやっぱり…大きいほうが好きなのか?
私の心の声なんか、餓えた狼さんには届かない。
―決めた。拗ねてやる。
我ながら子供じみたことをしたものだ。
ぷいとそっぽを向いて、わざとぐうぐう寝息をたてる。
かさかさ、というような、布の音(ちょうどシャツのボタンをはずすときに鳴る音だ!)が聞こえた。
ふんだ、と瞳をとじて再びぐうぐう言っていたのだが、知らない間にうとうとしていたようだ。
夜中、ふと目が覚めたとき、シャーリーの驚愕&疑問&焦りの表情と出会ったが。
寝呆けたままの私の口でも、仕置きの三文字は忘れずに告げることができた。
もちろん、ミーナへの仕置きはその三倍だが…な。
Fin.