私が今日からお姉さま!
1939年、スオムス・カウハバ基地において私はハッキネン大尉から中尉への昇進を言い渡されていました。
「エルマ・レイヴォネン、貴女も本日付けで中尉となることですしそろそろ上官としての訓練も必要でしょう。」
はわわ、私が中尉さんだなんて!お給料いっぱいもらえるのでしょうか?
お母さんにもお父さんにも、それにお祖母ちゃんやお祖父ちゃんにもお仕送りいっぱいできるでしょうか?
「それに伴って急なことでは指揮にも慣れていないでしょうからまず新兵を一人貴女の部下として配属することが決定しました。」
部、部下さんもできるのですか!仲良くできますでしょうか?
それに部下さんができるということは、私がお姉様になることだってアホネンさんが言ってました!
今日から私もお姉様にならなければいけないんですから頑張らないと!
「は、はい!私も今日からお、おね…さまとして精一杯頑張ります!」
「はぁ、よく分かりませんが上官としてのやる気があるならなによりです。」
うぅ緊張して上手く喋れなかったです…でもどんな娘が私の部下さんになるのでしょうか…?
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン…貴女に面倒をみてもらいたい魔女の名前です。
彼女は士官学校を齢10歳にして主席で卒業した文字通りの天才です。
彼女がスオムスの至宝となれるか否かは貴女の教育の是非にかかっているのですからくれぐれも注意して接してください。分かりましたか?」
「は、はいっ!!」
「しかし天才と言ってもそれはこと戦闘においての話です。実生活においては不慣れなことも多いでしょうからそちらの方面の面倒もよろしくお願いします。」
ど、どうしよう…天才さんですか!?私より絶対有能な娘ですよぉ…どうしてそんな大切な娘を私みたいないらん子のとこに配属しちゃうんですかぁ!?
「は、はいっ!私、エルマ・レイヴォネン、が、頑張ってエイラさんの面倒を見させていただきます!」
はわわ~、引き受けちゃいました…本当は断りたいのですが。
でも私、こ、断ることもハッキネン大尉が怖くてできませんよ~!
「エイラさんにはブリーフィングルームに待機してもらっていますのでまずは顔を合わせてきたらどうでしょうか?」
「はい!行ってまいります!」
仕方がないのでバカにされないよう頑張らなくてはいけません。
エイラちゃん、どんな娘だろうか?
そう考えながら私は司令室を後にしてブリーフィングルームへとむかいます。優しい娘だといいなぁ。
「エイラさん、いますか?」
言いながら私はブリーフィングルームに入る。
あぁ、エイラちゃんって呼ぼうと思ってたのですがやはりなぜかさん付けで呼んでしまいます…相手は天才だっていっても10歳の女の子なのに。
「エイラは私ダ。アンタがエルマ中尉ナノカ?」
そこには白くて小さい綺麗なお人形さんがいたのです。
「あ、貴女がエイラさんですか?なんでしょうかこの娘は、こんなに可愛い娘初めて見ました~!!」
わぁ、この娘の髪って光の加減で金色にも銀色にも見えてとっても綺麗です~。
思わず私はエイラちゃんの髪をさわさわしてしまいます。
「すごくサラサラで気持ちいいですね~。」
「なっ!ナニすんダヨッ!私に触るんじゃナイ!」
あわわ、怒られてしまいました。でも怒ってる姿もお人形さんみたいで可愛いくて私はもっとなでなでしてしまいます。
「ヤメロって言ってるジャナイカー!」
「何を言ってるんですか。今日から私はあなたのお姉様なんですよ~?」
「ソッチこそ何を言ってるンダー!!」
「アホネンさんが上官は部下のお姉様にならないといけないんだって言ってましたから間違いないんです!」
「…………………。」
エイラちゃんが眉をひそめて諦めた表情で私を見てます。
なにがいけないんでしょうか?
「どうして私ばかりこんなメに合わなくちゃならないンダ…」
「あぁそうでした!エイラさん、今日から私があなたの面倒をみますのでよろしくお願いしますね。」
「私は全部自分で出来るンダ!だからほっておいてクレ!」
「エイラさんっ!」
エイラちゃんは怒ってミーティングルームから飛び出していってしまいました。
私はエイラちゃんのお姉様になってあげなくちゃいけないのに…いくらエイラちゃんが可愛かったからって彼女の気持ちも考えずに接してしまいました。
「私はお姉様失格です…。」
「あらエルマさん、そんなにへこたれてどうしたのかしら?」
「ア、アホネンさ~ん!!私エイラさんを怒らせちゃいました…」
私は動転してアホネンさんの平らな胸に泣きつきます。
「エルマさん、エイラさんと言うのは誰のことなんですの?」
「んぐ…エ、エイラさんは、私の、初めての部下さん、なんです。私、は、お姉様失格なんです…」
「エルマさん?姉だからといって間違いを犯さないものではないのですわ。
そのエイラさんはあなたの初めてのいもうとなんですから共に歩んでいかなくてはならないのですわ。今からでもしっかり姉としての責務をはたしたらいいじゃない。」
「はい~、私…頑張ってみます!ありがとうございますアホネンさん!」
「うふふ、頑張ってらっしゃい。」
「エルマさんったらすっかりわたくしが言ったことを信じ込んでしまって可愛いったらないですわ。わたくしのいもうとにしてしまいたいですわ。」
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「はぁはぁ、ここがエイラさんの部屋でしょうか?」
飛び出していってしまったエイラさんを探している途中、私たちがうまくやっているか心配をしてみにきてくれたハッキネン大尉にエイラさんの部屋の場所を教わってここにやってきたのです。
「エイラさん…いるかなぁ?」
様子を窺うと部屋の中からなにやら声が聞こえてきます。
「うう…お母さん、お父さん…会いたいヨ。どうして私がこんなメに合わなくちゃいけないんだ…こんなことなら魔女の素質なんて欲しくナカッタヨ…」
エイラちゃん…まだ10歳の女の子ですもんね。
いくら戦争だからってこんなに小さな娘を危ない目に遭わせるなんて間違ってます!エイラちゃんは私が守ってあげなくちゃダメです!!
「でも私に何ができるのでしょうか…?」
私はエイラちゃんのお母さんにもお父さんにもなってあげられない…でも私はエイラちゃんのお姉様なんです!
お姉様はお母さんやお父さんよりもいもうの傍にいていもうとを守ってあげなくちゃいけないんです!!
そう考えたらなんだか勇気が湧いてきました。
「エイラさん、入りますよ?」
そう言って部屋に入るとベッドの上でエイラちゃんが大きな黒い狐のぬいぐるみ
にうずまって泣いていました。
「な、なにしに来たんダヨ!!」
エイラちゃんが涙を拭いながらこちらを睨みます。
「泣いてる娘をほっておける訳ないじゃないですか!それに私はあなたのお姉様になるんです。
泣いているいもうとをほっておける姉なんていないってエラいお姉様も言ってました!」
「アンタは私の姉じゃないダロ!なんでアンタは私に構うンダ!」
エイラちゃんがこちらを窺う様に私を見つめます。
そんなの決まってるじゃないですか…
「あなたは私の大事な大事な部下さんですからね。」
私はエイラちゃんを抱きしめてまだ目尻に残る涙を拭ってあげます。
「私は一人でダイジョウブだって言ってるダロ!」
「まだ子供なんですから寂しいのなら寂しいって言えばいいんですよ?ここでは私があなたの家族なんですから。」
「寂しくなんてネーヨ!でもアンタがどうしてもって言うなら仕方なく一緒にいてやるヨ。」
エイラちゃんがそっぽをむきながらつぶやきます。
「ふふ、私はエイラさんと一緒にいたいなぁ~。エイラさんみたいな可愛いいもうとがほしいなぁ~」
そう言いながら微笑みかけるとエイラちゃんは私の胸に顔をうずめて「仕方ネーナ、今日ダケダカンナー!」と頬を赤く染めながら叫びます。
なんだか本当の妹ができたみたいで嬉しいです。
そのときエイラちゃんのお腹が‘くぅ~’と可愛くなりました。安心したらお腹が減っちゃったのかな?
「ありがとうございますエイラさん。あっ!エイラさんお腹空いていませんか?食堂案内しますよ!」
「ちっ、しょうがネーナー、付いてってやるヨ!」
エイラちゃんが初めてニカッと笑ってくれます。
「ほらっ、行くゾ…エル…エルマおね…、行くゾ、エル姉!」
「はいはい、待ってくださいよ、エイラ‘ちゃん’」
数日後、ハッキネン大尉の、部下をいもうと扱いするのなんてアホネンぐらいだ、という話を聞いてエルマは赤っ恥をかくことになる…
「ど~して変だって教えてくれなかったんですか~!」
「最初から言ってたダロ、エ、ル、ね、え!」
「私はお姉様じゃないです~!謝りますから許してくださ~い!」
Fin.