花嫁狂想曲
それはある日いきなり起こった。
「シャーリー見て見てー!」
「お、なんだルッキーニ、ウェディングドレスなんか着て」
「借り物だけどね。それで、シャーリー」
「ん?」
「あたし、結婚するんだ」
「……………へ…?………け、結婚…?」
「そ、結婚」
「けけけけけけ結婚っつったってお前まだ12歳じゃないか…!」
「形だけの結婚だけどね」
「ちょ、あっ、相手は誰なんだ!!」
「じゃあ、他のみんなにも報告してくるね!」
「おっ、おい、人の話聞けよ!
相手は誰なんだよ!おい、ルッキーニ!!!」
そう言い残すと、ルッキーニは走り去って行った。
そしてあたしは部屋に一人取り残された。血の気が引くとはまさにこの事だろう。
一気にあたしから生気が失われていく気がした。
そしてあたしの頭には一気にいろんな事が巡った。
結婚→結婚式→隊を辞める→どっかの男のモノになる→あたしの想いはもう届かない
………………………。
「いっ、嫌だあああああああああああああ!!!!!!!!!」
そんなの耐えられるワケ無いだろ!
なんだそれ!ワケ分かんねえよ!
いや、っていうか相手誰だよ!!
《三日後 食堂にて
「…………………」
「どうしたリベリアン、やけにやつれているな」
「………なあ堅物」
「なんだリベリアン」
「……ルッキーニが結婚するっての、本当なのかな…」
「ああ、その事についてだが、リベリアンは結婚式には来るな、だと。
ルッキーニがお前に伝えといてくれと言っていた」
「………え……なんで……?」
「さあな。お前には見られたくないんじゃないか?」
そう言うと、堅物は席を立つ。
またしてもあたしは一人取り残された。
………あたしからは、魂が抜けた。
…そんな気がした。
あああたしの世界はもう白黒だ。
っていうかもうあたし死んだも同然じゃん…。
さようなら現世…。こんにちは地獄…。
《更に二日後
あたしは必要な時以外、自室に引きこもるようになった。
暗い部屋の隅で、体育座りで丸まっているあたしの姿は他人の目から見ればさぞ滑稽だろう。
でも、今のあたしにはそうする以外無い。
だからってルッキーニの幸せを壊すなんて無粋な真似、あたしには出来ない。
今日もいつものように部屋で丸まっていると、ドアがノックされた。
「おーいシャーリー、生きてるー?」
「シャーリーさーん」
エーリカに宮藤か。
「…なんか用か?オセロならあと五万年後な」
「違います。ミーナ隊長からシャーリーさんを食堂に連れてこいって言われたんです」
ミーナ隊長が…?
あたしのこんな状況を知ってるハズなのに。
あの人は悪魔か?死神か?
「…イヤだよ。今のあたしはサナギだ」
と、そう言い終わると同時にエーリカは無理矢理ドアを蹴破って来た。
「シャーリーはサナギから蝶へと変わる時だ!!さあ舞い上がるんだっ!」
「おい、ちょっと止めろって!あたしは死ぬまでサナギでいいんだってば!!」
エーリカ達はあたしの首根っこを掴んで無理矢理食堂へと連れ出した。
《食堂前
「なんだってんだよ…」
食堂のドアにはやけにド派手な飾りがしてあって。
「シャーリー、はいこれ」
「なんだよこれ」
「いいからいいから、早く着替えてきてよ」
あたしは近くの部屋で、エーリカに手渡された服を着る。
ガチャ
「おっ、カッコいいじゃんシャーリー」
「わあっ、似合ってますよ、シャーリーさん!」
「エーリカ、宮藤。なんだよこれ」
「なんだよってタキシードだよ」
「そんなの見りゃ分かるよ!
あたしが言いたいのはなんであたしがタキシード着なきゃいけないんだって事」
「その答えは、このドアの先にありますよ」
「…?…」
宮藤が開けたドアの先には。
「シャーリー♪」
ウェディングドレス姿のルッキーニがあたしに抱きついてきた。
そしてあたしの視界には、隊のみんな。
「ル、ルッキーニ!?」
「もう、待ってたよ、シャーリー!」
「あ、あれ、お前そのドレス…」
「うん、結婚式用のドレス」
「…そうか…幸せになれよ…ルッキーニ」
「……」
ルッキーニの表情が曇る。
そしてため息をつく。
「…シャーリー、鈍いにもほどがあるよ…」
「は?」
「実力行使!」
すると、ルッキーニはあたしにキスをした。
突然の事にあたしは意識が飛びそうになった。
「…っ…!!!!!!」
「…どう?分かったかな?」
「…え…?…もしかしたら結婚式って…?」
「シャーリーと、に決まってるじゃん♪」
「…………ルッキーニ、お前…」
すると、ルッキーニは最っ高の笑顔で。
「あたしをシャーリーのお嫁さんにして♪」
…そう言い放った。
「……………ああああああああああああああーー……………」
「あ、シャーリーの腰が抜けた」
あああルッキーニその一言はあたしにとって、最強のトドメだっ…!!
「で、答えはどうなのかな…?」
「……よ、喜んで……//////」
「シャーリー、大好きっ♪」
そう言うと、ルッキーニはまたあたしに抱きついてきた。
「アッハッハッ、見せつけてくれるなあ!」
「……でも、なんでこんな事を?」
「ルッキーニさんから相談されたの」
「ルッキーニから…?」
「シャーリーさんがいつまで経っても告白してこないってね。
それでちょっとした嘘をついてみたら?ってアドバイスしたのだけど…」
「いつの間にか結婚するみたいな嘘になってた、と?」
「ええ」
「…はぁ…」
「まあまあいいじゃん、シャーリー♪
あたし達これで両想いなんだし♪」
「……そう、だな」
あたしは笑う。
「ねえ、シャーリー」
「ん?なんだ?」
「もーいっかい、キスしよ?」
「ああ、いいよ」
あたし達はみんなの拍手の中、キスをした。
なんだかよく分からないけど、ルッキーニと一緒になれるならこんなのも悪くない、と思った自分が少し恐くなった。
…そんな、夕方。
《その日の夜
「ねえシャーリー」
「なに?ルッキーニ」
「結婚した二人には“初夜”ってのがあるんだよ」
「…初夜…お前…まさか…」
「…えっち、しましょ? あ・な・た・♪」
ブチッ
あたしの理性が音を立てて切れた。
「ルッキーニィィィィィィ!!!!!!」
「きゃーけだものー♪」
あたし達のこの夜は長く、熱い夜になった。
END