猫と狐と天気雨
カーテンの隙間から漏れた光が、水晶玉に当たり淡く光っている。
見慣れてる自分の部屋なのに幻想的で綺麗だな、とか思ってしまう。
そんな風に思うのはたぶん久しぶりの夜間哨戒のせいだろう。もちろんあの子と一緒だから、と最初につくのだけど。
サーニャと一緒の任務は本当に久しぶりだったから、なんだかウキウキしてしまってぜんぜん眠れる気配がない。
でも眠れないのは私だけじゃないらしく、サーニャはいつものぬいぐるみを抱いて私のベッドの上をコロコロと動いている。
「エイラ」
ふとサーニャが私を呼んだ。
「ン?ナンダ?」
「…。」
「どうしたんダ?」
「…。ふふっ」
「なんダヨー。モウ」
そうして2人してくすくすと笑う。
さっきからこの調子だ。
一緒に眠るのはいつものことなのに、なんだか幸せそうなサーニャ。サーニャも夜が楽しみだと思ってくれているのかな。
するとコツコツと窓をたたく音。
続いて、ザーッと聞こえてくる水の音。
「ウワ。雨かヨ」
「夜まで降るのかな…」
少し沈んだサーニャの声。
いくら魔力で守られるとはいえ、雨に濡れればさすがに寒い。
「止むといいけどナ」
そう答えて窓の向こう側で降っている雨を隠しているカーテンを見る。
「アレ?」
「どうしたの?」
「外。晴れてル」
カーテンの隙間からは暖かな光が漏れ、水晶玉は今もキラキラと淡く輝いていた。
「ほんとだ」
「天気雨カ。なら夜は大丈夫そうダナ」
「うん」
それから2人で雨の音を聞く。
緩やかに過ぎていく時間。だんだん重くなってきた瞼を感じて、ゆっくりと目をとじる。
「ねぇ、エイラ」
眠りに落ちようとしたところを呼び止められる。
「ンア?なに?」
「天気雨ってね、扶桑では"狐の嫁入り"って言うんだって」
「へぇ。宮藤から聞いたのカ?」
「うん」
「扶桑って変な言い回しするんだな。狐が嫁入りしてなんで天気雨なんだヨ」
「そうだね」
ちょっと黙るサーニャ。
なんか嫌な予感がする。嫌というか困る気がする。
「エイラって狐…だよね?」
くるぞ。いやこないでクレ
「ア、アア。私の使い魔は黒狐ダ」
「エイラは、どんな人のお嫁さんになりたい…?」
きてしまった。
「ナッ、ナナナニ言い出すんだサーニャ!」
くるとわかってても動揺してしまう。
「エイラの好きな人って…誰なの…?」
「ブーッ!ダ、誰ッテ、言われても…」
やっぱり私の予知能力は本物カ…。
「誰…なの…?」
心なしか、サーニャの頬が紅くなってる気がする。けどどういうことかは考えることができない。
「う…。そ、それハ…」
「それは?」
「…。」
「それは…?」
「…答えなきゃダメ?」
「答えて」
「うぅ…。」
「ね?お願い」
「…サーニャ」
「なに?」
「だから、サーニャ…」
「私?」
「…ウン」
アア、言ってしまった…。
顔から火がでそうだ…。
今日の夜間哨戒気まずいな…。
とかぐるぐる回りだした思考でいっぱいになっていると、ふわりと甘い香りがして、少ししてサーニャが抱きしめてくれているとわかった。
「ありがと。エイラ。嬉しい…」
「サ、サーニャ?」
何も言わずギュッと抱きしめてくる。
再びぐるぐる回りだした思考によってクラクラしてると今度は唇に柔らかい感触。
「私も、エイラが大好き」
今度は思考が真っ白になった。
「ナッ、ナナナナナナ…」
「これからもずっと一緒にいてね?」
「ア、アアもちろんダ!当たり前ダロ!」
「ふふ、ありがと。」
反射的に答えると、またギュッと抱きしめられ、それに応えるように私も腕を回しサーニャを抱きしめた。
「さ、夜に備えてもうねよ?」
「ア、ソ、そうダナ!もう寝ないと!」
「おやすみ。エイラ…」
「お休みサーニャ!」
もちろんこの後一睡もできなかった私は、雲一つ無い満天の星空の下をふらふらと飛ぶことになったのは言うまでもない。