無題
絶対に、許せないと思った。
私に相談してきたあの子は、本当に辛そうで、見ていられないくらいひどくて。あの子をそんな風にしたあの人を、絶対に許してなるものかと思った。この子を、あんな人へは任せて置けない。私がこの子を笑顔にしてやるんだと、そう思った。
そんな私の思いをあの子も受け入れてくれて、一緒にいるうちに、あの子は本当にたくさんの笑顔を見せてくれるようになった。
だけどあの子は、不意に悲しそうな、寂しそうな顔をすることがある。そんな時はいつも、あの人のことを考えているのだと、分かってしまう。
あの子のそんな顔は見たくなくて、笑ってもらおうと懸命になるけれど、それであの子を笑顔にすることが出来ても、あの子をそんな顔にさせたのがあの人であることが、あの子をそんな顔にさせることが出来るのが、あの人だけであることが、たまらなく悔しくなる。
「サーニャは私のものだ!」
「オマエさえいなければ――」
そう言って掴みかかってきたあの人を、醜いと思った。ふざけるな、あの子をあれだけ傷つけておいて、今更何を言っているんだと。
けれども今はどうだろう。あの人は、本当に優しい目であの子を見つめていて。あれだけの激しい想いを持ちながら、あの子が幸せであるならば、隣にいるのは自分でなくてもいいのだという。―――私は、あの子の中にいるあの人の存在に、これほど嫉妬しているというのに。
「――まだ、あの人のことが好き?」
それを訊いたら、あの子はなんと答えるだろう。責められていると思うだろうか。……実際、責めているのかもしれない。そんな権利は私にはないというのに。
あの子は、あの人のことが本当に大好きで。
あの人は、あの子のことが本当に大切で。
そんなことは分かりきったことで、分かりきっていたことだったのに、いったい私は何をしていたのだろうと思う。本当に二人のことを思うのなら、
相談を受けたときにそのまま話し合えばよかったのだ。あの子が悩んでいたことをそのままあの人に伝えれば、あの人はすぐに自分の過ちに気づいただろうに、それをしなかった……。
義憤に酔っていたのだろうか、それとも、密かにあったあの子への想いがそうさせたのか。どちらにせよ、こうなってしまったのは自分勝手な私のせいだ。自分勝手にあの子を傷つけたあの人を許さなかった以上、自分勝手に二人の関係を掻き乱した自分も許すわけにはいかない。
だから―――