百合バカエイラさん!
女の子にモテモテになりたい。
そう願ったことも確かにあった。
でも、私はモテモテになるってことがどんなに大変なことか知らなかったんだ。
ーーーーーーーー
「サササ…サーニャ!わわ、私は、サ、サーニャのことが好きなんダ!」
ついに言った!
私はついにサーニャに告白したぞ!
元来のヘタレ魂を抑え込み、
とうとう愛しい少女に告白した彼女の名前はエイラ・イルマタル・ユーティライネン、
正真正銘のガチ百合だ。
告白された少女はサーニャ・V・リトヴャク、
正直言って愛しい人のヘタレっぷりに、そろそろ押し倒してしまおうか、と考えていただけに彼女の告白は嬉しさもひとしおだ。
しかしその嬉しさがまずかった。
湧き上がった感情は、普段ウトウトし、覚醒していない少女の頭を駆け巡り、魔力を暴走させる。
通常時に於いて多少の強弱はあるものの、
決して他人の感情にまで影響を与える代物ではなかった彼女の電波は増幅され、部隊全員の脳に叩き込まれた。
叩き込まれた電波はもちろん少女の感情であり、
その性質は彼女への恋慕の情、簡単に言ってしまえば‘エイラ、大好き!’である。
叩き込まれた感情は、部隊全員の心に入り込み、ある感情を形成する。
その感情はやはり‘エイラさん大好き’であった。
そんなことになっているとは露ともしらず、エイラは告白の返事を今か今かと待っていた。
サーニャが頬を真っ赤に染めて口を開こうとしたまさにその時、エイラの部屋のドアが激しい音をたてて開かれる。
「エイラはいるか!!」
開いたドアの向こうに立つのは、
ジャーマンポインターの耳を備えた上官、ゲルトルート・バルクホルンであった。
バルクホルンの突然の来訪にしばし驚いていたエイラであったが、
ひしひしと怒りが湧いてくる。
取り込み中なんだ、そう文句を言ってやろうとエイラはバルクホルンに近づいた。
しかしバルクホルンの様子がおかしい。
バルクホルンの頬は染まり息遣いが乱れている。
まさか病気なのか、とエイラは心配し、熱でもはかるようにおでこに手をあてる。
それはエイラにとっては意識しない程度の優しさであったが、それが引き金となった。
バルクホルンはある意味本当に病気だったのだ。
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんは、もう我慢できん!」
バルクホルンはエイラを抱きしめようとするがエイラにとってはたまったものではない。
バルクホルンの頭では魔力を展開している証であるジャーマンポインターの耳が揺れる。
怪力なんていう固有魔法をもったバルクホルンに思い切り抱きしめられようものなら、二度とサーニャの返事は聞くことが出来ないだろう。
エイラの頭にも黒狐の耳が顕現する。
バルクホルンの怪力を防ぐことができない以上エイラは抱擁をかわすしかないからだ。
「エイラ…早く、早くお姉ちゃんの腕の中に!!」
「どうしたんだバルクホルン大尉!悪いものでも食べたノカ!?」
エイラが叫ぶ。
「大尉じゃなくて、お、お姉ちゃんと呼んでくれ!!」
バルクホルンの精神に多大な疾患が存在することをエイラは確信した。
「サーニャ!返事は後で聞かせてクレ!」
そう叫ぶとエイラは部屋を飛び出して逃走を開始する。
「エイラは甘えん坊だなぁ。お姉ちゃんと追いかけっこしたいのか。」
気味の悪いことを呟きながらバルクホルンがエイラを追う。
エイラは確信していた。
大尉は慢性的な妹分の枯渇により壊れてしまったのだと。
しばらく逃走を続けると大尉の妄言も足音も聞こえなくなる。
あの変態、まさかサーニャに標的を変えたんじゃ!!
エイラは逃げてきた道を逆走する。
「あっ、エイラ!!」
そこには気を失ったらしいバルクホルンを縛り上げるエーリカ・ハルトマンがいた。
「ハルトマン中尉!大尉が変なんだ!」
「トゥルーデが変なのはいつものことだよ~。」
あれだけ世話をしているのに変人扱いされる大尉に同情の念が湧いてきた。
まぁ事実変人なので仕方のないことではあるのだが。
「そんなことよりエイラ…フラウって呼んでよ。」
精神疾患は一人だけじゃなかった…
ハルトマンも頬を朱に染め、情念のこもる眼差しをエイラに向ける。
「中尉…中尉も何か変なもの食べたノカ?」
「ひどいよエイラ!私はエイラが好きなだけなのに!!」
こ、告白されてしまった…でも私にはサーニャが。
断るんだ。傷つけないように断るんだ。
勇気をだして告白してくれた以上、女の子に恥をかかせる訳には行かない。
エイラはそう考えるとハルトマンに自らの素直な気持ちを伝えることとしたのだ。
「ハルトマ…「だから私の部屋掃除してよ!」
なんだって!?そ、掃除?
「どういうことダ?」
「そういうことだから私の部屋掃除よっろしっくね~!」
ハルトマンはスキップで去っていく。
「はぁ?」
か、からかわれたのか?
エイラは多大な精神の負担のためか深くうなだれた。
しかしエイラは実際はからかわれてなどいない。
ただ、ハルトマンは好きな人には部屋の掃除をしてもらいたいだけなのだ。
ハルトマンが去り、一人うなだれるエイラの背後には新たに2つの影。
ムニュムニュ。
「ウジュジュ、シャーリー!優良物件!」
「ほんとか~?どれどれ、うわっマジだ!柔らか~!!」
彼女たちは、フランチェスカ・ルッキーニ。
そしてシャーロット・E・イェーガー。
501部隊の自由奔放二人組がエイラの胸の品定めをする。
「シャーリー…ルッキーニ…お前ら一体なにをしてんダヨ!」
サーニャにだってそんなに揉まれたことないのに…
そう思い、エイラは怒りにわなわなと肩を震わせる。
「なにって、エイラのおっぱいチェックだよな。」
「そうだよね~。エイラのおっぱいは優良物件だよ!」
しかし二人はエイラの怒りなど全く気にはしなかった。
「どうしてそんなコトをしてるのかって聞いてんダヨ!」
「そりゃなぁ、アタシたちがエイラのことが好きだからに決まってるよな。」
「ウジュ!」
またか…私の知らないところで何か起こっている。
ハルトマンの件から考えるとこいつらも私になにかさせたいんだ。
そう結論づけたエイラは二人に向き直る。
「お前たちは私になにしてほしいんダヨ…」
諦めたようにエイラが尋ねる。
「そりゃセッ…「ワー!!!!」
シャーリーのあまりにも率直なセクハラ発言に、
エイラは思わず鳩尾に膝蹴りを喰らわしてしまった。
というかルッキーニの前で何てこと言おうとしてるんだ…
とりあえずこのロリコンもバルクホルン大尉と一緒に縛っておこう。
そう思いエイラはシャーリーをバルクホルンとともに縛り上げる。
さて…
「おいルッキーニ。お前もなんかしてほしいことがあるんじゃないノカ?」
「ウー、アタシはね~、エイラとお昼寝したい!」
ルッキーニは戦闘に於いては天才的ですらある。
しかしそれでもまだ12歳の少女だ。
ルッキーニにとっての恋という概念は、子供が母親に甘えたがる、
そういった感情とさして差はないのだ。
それぐらいならしてあげてもいいか。
エイラは、無理難題ならともかく、少女の願いぐらいなら叶えてやりたい、
そういった優しさを持ち合わせていた。
「じゃー、アタシの部屋に行こーよ!!」
ルッキーニは太陽みたいな笑顔を携え、エイラの手を引っ張って走る。
「おいおい、そんなに急がなくても私は逃げないゾ。」
「だって嬉しーんだもん!!」
少し舌足らずな喋り方でルッキーニが答える。
なんで私との昼寝がそんなに嬉しいんだ、
そういった疑問は持ちつつも、少女の笑顔にエイラは悪い気はしなかった。
「ウジュ、着いたよ!」
そういえばこいつの部屋って初めて入るな。
掃除とかしてないんじゃないか?
エイラは嫌な予感を持ちつつもドアを開ける。
「アレ?」
ルッキーニの部屋は存外に綺麗だった。
「お前以外と掃除とかするんだな。」
エイラはルッキーニに疑問をぶつける。
「ん?掃除なんてしたことないよ!私部屋なんて使わないからね!」
あぁルッキーニは知らないんだろう、部屋ってのは使わない方が汚れるということを。
多分シャーリーが掃除してるんだろうな。
普段自らの部屋ですらあまり掃除などしないシャーリーがルッキーニの部屋だけは常に清潔に保っている。
そんな事実が地に落ちたエイラのシャーリーへの評価を回復させる。
「ただのロリコンじゃなかったんダナ。」
「なにしてんのエイラ?早くお昼寝しよーよ。」
「ソウダナ。」
エイラがベッドに寝そべると、ルッキーニがエイラの胸にうずくまる。
やっぱり甘えたい盛りなんだな。ルッキーニの頭を撫でてやる。
ルッキーニはエイラを見つめ、そのほっぺたにキスをした。
え?私、今ルッキーニにキスされた?
ほっぺたに残る柔らかく暖かい感触に顔が熱くなる。
「なっ、なにすんダヨ!」
「ウジュ、ちゅーだよ?」
ルッキーニが恥ずかしげもなく発言する。
「だからなんで私に…」
エイラは真っ赤になって問いただす。
「シャーリーが好きな人にはちゅーするものだって教えてくれたの!シャーリーもよくしてくれるよ。」
やっぱりあいつはただのロリコンだ!!
ロリコンのせいで私は、私はキスされてしまった…ごめんなサーニャ。
「なぁルッキーニ?キスはなぁ本当に好きな人にしなきゃダメダ。」
「でもアタシ、エイラのこと好きだよ?」
「一時の気の迷いダ。いつかルッキーニにも本当に大切な人がわかるサ。ほら、寝るぞ?」
「ウジュ~。」
そうして二人はまどろみに落ちていった。
ーーーーーーーー
「ふぁ~よく寝た。」
目を覚ますと既にルッキーニはおらず陽もとうに落ちていた。
サーニャのところへ帰ろう。
そう思い部屋をでると、そこにはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと坂本美緒の佐官コンビが待っていた。
「うふふ、エイラさん?私たちの部屋に来なさい?」
ミーナが妖艶な笑みを浮かべ、エイラを誘う。
「なんでダヨ中佐?私はサーニャのとこいきたいんだケド。」
エイラは一刻も早くサーニャに返事を聞きたかった。
それに、すっかり寝てしまったため、サーニャを一人ぼっちにしてしまったことを心苦しく思っていたのだ。
「わっはっは、上官の命令は聞くべきだぞ、エイラ?」
普段は優しい坂本の言葉にも今宵は強制の意が潜んでいた。
「分かったヨ少佐。」
確かに上官の命令とあらば余程のことでなければ従わざるを得ない。
エイラは、おとなしく彼女たちについていくこととした。
とぼとぼと歩いていくとミーナの部屋へ着いた。
「うふふ、私たちの部屋にようこそ。」
ミーナの言葉に疑問を覚え、エイラは二人へと問いをぶつける。
「なぁ、さっきも思ったんだケド、私たちの部屋ってどういうことなンダ?」
「わっはっは、私の部屋は使えなくなっていてな、今はミーナの所に間借りしてるんだ。」
そういえば少佐の部屋って聞いたことがないと思ったら中佐のとこにいたのか。
エイラがボーっと突っ立っていると、ミーナにベッドに押し倒される。
「なっ、なにすんダヨ!」
「うふふ、私のことお母さんって呼んでいいのよ?」
あまりの事態に思わず体を引いたエイラの頭に柔らかい感触が走る。
「わっはっは、そして私がお父さんだ!」
サーニャの電波が伝わったときこの二人の間には既に恋慕の感情が存在していた。
そこでエイラに向けられたのは母性愛と父性愛。
二人の送るエイラへの愛は正に両親が娘へ贈るものだった。
「エイラさん?アナタにも、もう好きな人ができたのかしら?」
ミーナのいきなりの質問にエイラは狼狽える。
なにしろエイラがサーニャに告白したのはついさっきのことだったのだから。
「どどど、どうだってイイジャナイカ!!」
「わっはっは、エイラはもうキスはしたのかキスは?」
少佐…それは父性愛じゃなくて単なるセクハラです。
「美緒!女の子はそういうこと恥ずかしいものなのよ!」
「スマン、気が回らなかった!わっはっは!」
「それよりもエイラさんの好きな人を聞き出しましょ?」
「うむ、そうだな。で、エイラは誰が好きなんだ?」
坂本とミーナの問いかけに、エイラは真っ赤になって俯く。
エイラは自分がサーニャのことを好きだと誰にも気付かれていないつもりなのだ。
「私はサーニャさんが怪しいと思うの。」
「奇遇だな。私もそう思っていた。」
交わされる二人の言葉にエイラは狼狽する。
「私が誰を好きかなんて分からないジャナイカー!」
叫ぶエイラに二人は答える。
「あらそうなの?でも、サーニャさんはエイラさんのこと好きみたいなのに。」
「そうだな、サーニャはエイラに気があるな。」
上官の思わぬ言葉にエイラは歓喜する。
「ほ、本当カ!?」
「あらあら、やっぱりサーニャさんが好きなんじゃないの。」
「うー、ソンナンジャネーヨ!!!」
恥ずかしさのあまり、エイラはミーナの部屋を飛び出した。
「エイラさんったら顔をあんなに真っ赤にしちゃって。」
「ふふ、好きな相手ができるというのはいいものだ。私たちが見守ってやらんとな。」
「美緒ったら少し寂しいんでしょ?」
「そ、そんなことはないっ!!」
「私はずっと美緒の側にいてあげるわよ。」
「すまないな、ミーナ。」
ーーーーーーーー
ハァハァと息を切らしながらエイラはブリーフィングルームに逃げてきていた。
「あらエイラさん、どうしたんですの?」
「げっ、ペリーヌ!?」
突然のペリーヌ・クロステルマンの出現に驚くエイラ。
はぁ…また変な目にあうのか、とエイラは考えていた。
「‘げっ’とはなんですの!!エイラさんは私をバカにしているのかしら?」
そうか…みんなおかしくなった訳じゃないんだな。
思ってもみなかった普通の反応に、エイラは安堵する。
そこに新たにもう一つの人影が現れた。
「エイラさん、クッキー焼いたんですけど食べませんか?」
「リーネ!」
そこにはお菓子作りをしていたためであろうか、
可愛いエプロンに身を包んだリネット・ビショップの姿があった。
あぁ、リーネも普通だ。
戻ってきた平穏にエイラは頬を緩めた。
「なにを言ってますのリーネさん?エイラさんは今から私とお茶をするんですの!」
「ペリーヌさんこそなにを言ってるんですか?エイラさんは私とクッキーです!」
エイラの束の間の平穏は脆くも崩れ去り、また波にのまれていく。
どうしてこんなことになってるんだ…
「リーネのクッキーをお茶菓子にすればいいダロ?」
エイラの提案に、二人は渋々納得する。
そして気まずいお茶会が始まった。
「どうですか、私のクッキー美味しいですか、エイラさん?」
「私の紅茶のほうが優美ですわよね?」
二人が競い合う。
「でしゃばっているのはその胸だけで十分ですのよリーネさん?」
「ふふ、二次元から脱却できない胸の人に言われたくはないですよ、ペリーヌさん?」
二人が熱い火花を散らす。
エイラが二人の言い争いを止めようとしたそのとき、いきなり新たな人物が現れた。
「でも私はエイラさんのおっぱいもリーネちゃんのもペリーヌさんのも大好きですよ!」
「み、宮藤…」
現れた人物は宮藤芳佳。
隊内一のおっぱいマイスターである。
宮藤はしきりに3人のおっぱいを揉み比べ、悦に浸っている。
あぁ、宮藤は変態だけど変わらないな。
エイラはそんな下らないことすら嬉しく感じてきた。
「じゃあ、みんなでエイラさんのおっぱいを揉みましょう!!」
はっ?今宮藤はなんて言った?
私のおっぱいを揉む?なんでそうなるんだ?
エイラの疑問は止まらない。
それはもちろん芳佳が好きな人にしたいことはおっぱいを揉むことだからである。
芳佳の隣ではペリーヌとリーネが激しく頷き、エイラの胸を標的に定める。
あぁ、私の貞操が奪われる。サーニャごめん!
そう思いエイラは恐怖に目をつぶる。しかし、なんの変化もない。
薄目をあけると、そこには愛しい少女、サーニャが立っていた。
「エイラは私のだから盗っちゃダメー!!!!」
普段叫び声などあげないサーニャが声を振り絞る。
エイラを盗られてしまう。その恐怖はサーニャの頭を活性化させ再び魔力の暴走
をおこす。
隊員全員に再び叩き込まれた電波に含まれた情報。
それは命令、‘エイラはサーニャのものだから盗るな!’である。
こうしてエイラさん大好き騒動は幕を閉じる。
そしてエイラは嬉しさのあまりサーニャの唇にキスを落とした。
普段ヘタレなエイラの初めてのキスはサーニャにとっても嬉しさはひとしおだ。
しかしその嬉しさがまずかった。
サーニャの身におこる本日3度目の魔力の暴走。
「エイラ!」
「エイラさん!」
「エイラ?」
「エイラ。」
「エイラっ!!」
「エイラさん。」
「エイラさんっ!」
「エイラ!!」
「エイラさん?」
「…エイラ?」
どうやらエイラの長い夜は始まったばかりのようだ。
Fin.