野ばら


わーらーべーはみーたーり のなかのばーら
服の一枚も身に着けないで足をぱたぱたさせながら、エーリカがきげんよさそうに民謡を母国語で口ずさんでいる。
「お前、なんでそんなに元気なんだ」
その傍らで、やはり一糸まとわぬ姿でトゥルーデが少しかすれた声で言う。
「トゥルーデはだるそうだね」
「…うるさい」
誰のせいだと思ってるんだ。
「そりゃ、私のせいだよねえ」
あははは、と楽しそうに笑った顔がちょっとだけ憎たらしい。
さっきまでしつこいくらいせめられて、いいように喘がされたこっちの身にもなれ、という抗議をこめて、形のいいおでこを人差指でぴん、とはたいた。
「ひどい、痛いよう、トゥルーデ」
「自業自得だ」
「えー、なんで。私のせいにしたの、トゥルーデじゃない」
いたい、私女の子なのに顔がキズモノになってしまったわ、とわざとらしく言う。
「トゥルーデがキスしてくれないと、私の傷は治らないかもしれないよ」
「傷なんてついてないだろ」
「ついたの、私の心に、深くふかーく」
相手にするのがめんどくさくなってきて、トゥルーデはだるい体をおこしておでこにキスをしてやった。
「これでいいんだろ」
「愛が足りないからもう一回」
言って、エーリカはトゥルーデの唇を奪う。

ちゅ、という触れるだけのキスで満足するのかと思ったら、すぐに舌をしのびこませてきて、トゥルーデの口内を器用に愛撫して、舌をからめてくる。
「ん」
濃いキスをしながら、イったばかりでまだ敏感な体に手をのばして、線をたどるような動きで背中を撫で回しはじめたので、びく、と体をふるわすついでに、唇が離れる。
「お前、まだする気か」
今何時だと思っている。
きわめてトゥルーデらしい反応に、エーリカはちぇ、と舌打ちして、口をとがらす。
「暗くて時計なんて見えないもん」
「屁理屈はよせ」
「トゥルーデは何時に寝ても決まった時間に起きるじゃん。それで私を起こしてくれる。ほら、何の不自由もないじゃない」
だからいいじゃない。言って、エーリカはまた背中をなぞりはじめ、キスを再開する。
やわやわとした動きで背中をなでて、その手が腰のあたりに触れて、また小さくトゥルーデの背が跳ねる。
「おまえ、調子にのるなよ」
「そんなの、のるよ」
耳の輪郭をなぞるように舌を這わせて、下ろした髪が汗で張り付いた首筋にきつく口付ける。
「…首は、よせって、言っただろ」
その感触で、エーリカがわざと体に痕をのこすために強く口付けたのがわかって、あわてて頭をひきはがそうとする。
「大丈夫、見えないところにつけたから」
「お前、前もそういってギリギリのところにつけただろ」
「トゥルーデも、感触でそういうのわかるようになったんだね」
そう言われて、こうしてエーリカと体を重ねることに慣れてきたことを言われているようでカッと顔が熱くなる。
「しるか、もう私は寝るぞ」
ぐるん、と勢いよく体をひきはなして背中をむけ、足元にぐちゃぐちゃに寄せられたブランケットをかきよせる。
「えー、ほんとにそのまま寝ちゃって大丈夫なの?」
「カールスラント軍人たるもの、これぐらいのことに流されてなるものか」
そういって、頭ごとくるまってしまう。
ちぇ。小さくつぶやいて、エーリカは顔にかぶさった髪をかきあげた。
「さっき思ったんだけど『野ばら』の歌詞ってちょっとえっちいよね」
「は?」
誰でも知っている民謡の歌詞を、トゥルーデは頭の中で反芻する。
童は見たり、野なかのばら。あのちょっと幸せそうなメロディのそれが、どうしてそうなる。
「お前、とうとう頭の中がおめでたくなったのか」
「あ、ひどいなあ。だってさあ、薔薇を折ろうとするじゃない。薔薇はイヤだっていうじゃない。でも子供は薔薇を折っちゃうわけよ。残酷だよね」
「まあ、確かにそういう歌詞だな」
エーリカは、勢いよくトゥルーデのまとっているブランケットを剥いで、ベッドに押し付けるようなかたちでのしかかった。
「何をするっ!」
「そうまでしても、こどもは薔薇がほしかったんだよ」
あらわになったトゥルーデの白い胸元に唇をおとす。ちくん、とした痛みが走る。
自分がつけたあとを指で撫でて、エーリカがいう。
「薔薇のはなびらみたい」

そしてそのまま、形のいいふくらみをやわやわと揉みながら、胸の頂を片方は人差指で片方は舌で転がすように愛撫する。
「んッ…」
腰のあたりの甘い疼きと、内股から伝わる、自分のそこがとくんと蜜をこぼす感覚に、さとられまいと反射的に両脚を閉じる。そんなの見つかったら結局このまま流されてしまう。
「いやがらないでよ」
エーリカの手のひらが、胸から腰、腰からふとももへとたどり、閉じた脚の内側まで指をのばそうとしてくる。
「むりやりだって、私はトゥルーデのことがほしいよ」
胸の尖りに軽く歯をたてられて、きつく閉じた太股がゆるむ。その隙をついて、エーリカの指が蜜をこぼすそこをぬるり、と撫でる。羞恥をあおるみたいな、じれったい動きからのがれたくて、体をよじる。
「えっちだなあ、トゥルーデ」
「うるさい」
「ごめんね」
ちゅ、と唇に軽いキスをする。
「私は、すごく嬉しいよ」
そんなふうに言って、花のように笑うので、自分の張っている意地がつまらないもののような錯覚を覚える。いや、どう考えても、自分の言っていることのほうが正論なのだが。
 結局、こんなふうにしてゆるしてしまう。自分はエーリカに甘い。甘すぎる。
「もうちょっと、だけだからな」
「えへへ」
大好き、とまたキスがふってきて、こんどはちゃんとその細い体を抱きしめた。


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