天使と悪魔と、やっぱり悪魔
――嫌いになろうと努力した。
努力したのに、あたしは弱い。
ルッキーニを嫌いになる事は出来なかった。
むしろ嫌いになろうとすればする程、想いは募るばかりで。
そんな笑顔でお前が話しかけてくるから。あたしはお前を嫌いになれない。
この際だからはっきり言うよ。
ルッキーニ、お前は悪魔だ。
――天使と悪魔、やっぱり悪魔――
「ルッキーニ、お前なんか嫌いだー!」
「…どうだ?」
「いや、やっぱり無理だよ。今更想いをねじ曲げるなんてバカらしいよやっぱ」
「そうか」
「ああ、あたしどんだけルッキーニが好きなんだよ…」
「自分に正直なのは良い事だと思うがな。」
「はは、ありがとうな、堅物」
「…ふん」
あれ、なんか堅物の顔が赤くなった気がしたけど…気のせいか。
「…お前はよほどルッキーニが好きなんだな」
「好きとかそういう次元じゃないな。なんて言うかな。
……愛してしまったんだよ。ルッキーニを」
「愛してしまった、か」
「こんな恋、許されるハズも無いと分かっていながらの無謀な恋だよ」
「許されない恋など――」
「ん?」
「許されない恋などありはしないぞ。リベリアン」
「なっ、なんだよいきなり」
「人を好きになるのに縛りなど要らない。
好きになってしまったなら、もうその人の事しか見えなくなってしまうはずだろう」
いつもと違う堅物の様子に、あたしは少し戸惑う。
顔をさっきよりも赤らめて、目は若干虚ろで少し潤んでいた。
「な、なんだよ、いきなり…悪いもんでも食ったか?」
すると、堅物はあたしを押し倒した。
「リベリアン」
「……おいおい、つまらない冗談はそこまでにしてくれよ。笑えないって」
「……お前がそう思っていても…私は冗談じゃない。
…お前も私の性格は知っているだろう」
「あんたこそ…あたしがルッキーニの事が好きなのを知っていて、こんな事してるんだろ?」
そう言うと、あたしは堅物をゆっくりと押しのける。
「残念だけど、あたしの気持ちは変わんないよ。
いくらあんたがあたしの事を好きだって…。あたしはルッキーニを愛してしまってるんだから…。
申し訳ないけど…あんたの気持ちは、受け取れない」
「…要するに私には可能性は無い、という事か?」
堅物の瞳に悲しみが宿る。
「平たく言えばそうなる、かな」
「――私はルッキーニには勝てないのか」
「もちろんあんたも大切だよ。
…でもそれ以上にあたしにとってはルッキーニが大きい。
…あまりにも大きくなり過ぎたんだ」
そう言うと、あたしは立ち上がる。
「リベリアン」
「ごめん…やっぱりあたしは…あんたの気持ちを受け入れられない」
あたしは食堂を出る。
後ろには床に座り込んだままの堅物がいた。
立ち去ろうとした瞬間、後ろで堅物が呟く。
「―――すまん―――」
その言葉を聞きながら、食堂を後にした。
…あたしは堅物の顔を見る事は出来なかった。
―――――――――――――――――――
外。青空。
あ――――……。
気分悪ぃ…
これからどんな顔して堅物と会えば良いんだよ、本当に…
「シャーリー、どーしたのー?」
「おわっ、ルッキーニ…!」
空をボケッと見てると、あたしの視界にルッキーニが入ってきた。
「なんか元気ないね」
「まあね…あたしにもいろいろあるんだよ」
「ふーん」
そう言いながら、ルッキーニはあたしの肩に頭を預ける。
たったそれだけの事で、あたしの胸の鼓動はバクバクやかましく鳴り響く。
「…大尉とケンカした、とか?」
「…近からず遠からず…かなあ」
「大変だね」
「…ああ、大変だよ。大変過ぎる」
「ね、シャーリー」
「ん?」
「…もしも、もしもだよ。
あたしに好きな人がいるって知ったら、シャーリーどうする?」
…こんな時にそんな質問かよ…
ルッキーニはいつもの笑顔であたしに問い掛けてくる。
「…別にどうも。良いことなんじゃないの」
自分でも分かる。自分の口調からイライラした感情が出てる。
「…嫉妬、してくれないの…?」
「どうして嫉妬しなきゃいけないんだよ」
「他の誰かにあたし、とられちゃうかも知れないんだよ」
……やっぱり、こいつ悪魔だよ。
ルッキーニの奴、あたしの気持ちに気付いてやがる。
隠してたのに、バレバレだったってワケか?
「…あたしが嫉妬したら、物凄い事になるぞ?」
「どんな風に?」
ルッキーニは少し期待する様な顔で、あたしを見る。
ああ、あたし今、ルッキーニに完全に乗せられてる。
…分かったよルッキーニ。今日はとりあえずお前に乗られてみる。
でも今度からはこうは行かないからな。
そう思いながらあたしは、ルッキーニを抱き寄せる。
そしてあたしは、ルッキーニに唇を寄せる。
「そうだな。こんな感じ、かな」
――ルッキーニ。
あたしお前の事、少し嫌いになれそうな気がするよ。
あたしら、良いバランスだよな?
それでも変わらない想いもある。
ルッキーニ。お前やっぱり…。
…………悪魔、だよ。