幸せの方程式と冬戦争


どうして…本当にどうしてこんなことになってるんだ?

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私たちの部隊は、ガリア解放という目的を達して解散した。

共に戦ってきた仲間たちとの別れはツラいものだったけれども、私の隣にはサーニャがいてくれた。

私たちはいつも一緒だった。

夜間哨戒から帰ってきたサーニャは、いつも私の部屋にやってきたし、
休みの日には二人で街中まで買い物に行ったりもした。
ロッテだっていつも二人で組んだ。

私がサーニャと別れたくなかったように、サーニャも私と別れたくなかったのだろう。
私たちは共にスオムスで暮らす約束をしたんだ。

それは、スオムスが各国から広く義勇軍を募っていたこと、
スオムスが対ネウロイの防波堤的な役割に位置する要地であったことに拠るところが大きく、
そのため、サーニャの異動願いも比較的容易に受理された。

スオムスにはエル姉やニパもいるしサーニャも一緒にきてくれる、
私は、こんなに幸せなことがあってもいいのだろうか、と考えていたんだ。

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うん、現実逃避として私たちの軌跡を振り返って見たもののやっぱり現実は変わらないものだ。

なにが言いたいのかというと、幸せは必ずしも加算されるものではないということだ。

それは向かう先は違ったとしても、確かにどちらも幸せへと向かっているベクトルだったはずだ。
なのに二つ合わさった途端に幸せの方向のベクトルはさっさと打ち消し合い、不幸せの方向に向かうベクトルばかりが相乗した。

そんな茨の様な現実から目をそらしたい。
そう思うのはそれが例え正しくない行動であったとしても仕方のないことだと思う。

まぁ私の身に何が起こったかというと、それはつまり、私のベッドの上で侵略戦
争がおこなわれているということだ。

ここは確かに私の部屋で、これは確かに私のベッドだったはずだ。
しかし、今現在私のベッドは見事に領地分割されていた。

ベッドの左半分にはサーニャ。
いつも通り多少変わったぬいぐるみを抱きしめベッドに寝転がっている。
しかし、瞳にはいつもは決して見られない非難の色。
有り体に言えばサーニャはものすごく怒っていた。

それはもう、めったに怒るという行為をしないサーニャが怒っている。
誰がどう考えたってそれは私が悪いということだ。
本当ならどんなことをしてでも謝って、さっさと仲直りをしたい。

でもそれはベッドの右半分の領主の前では決してできないことだった。
そう、事態はなにもサーニャにベッドを半分とられたという訳ではないのだ。
それこそサーニャが私のベッドに潜り込むことなんて常であり、
決して私の気持ちを落胆させるものではなかったはずだ。

しかし世の中には組み合わせの妙が存在することを私は知った。

つまり現状は悲惨だった。
タロットをやったら塔のカードでもでるんじゃないかという程にはだ。

なにが問題だったかというと、それはベッドの右半分にはニパがいるということであった。

ニパはいつも不機嫌そうな面持ちだが、現在はそれに輪を掛けたような表情をしている。
それはつまりニパも怒っているということで、それも、もしかしたら私が悪いということなのかもしれない。

サーニャとニパの間には猫の額ほどの空虚。
それが意味するのは、今現在、私の主権が及ぶ範囲はそこのみであり、私にそこに収まれということだった。

仕方なく自らの体でその空虚を埋めると、半身にはサーニャ、そしてもう半身にはやはりニパが身を寄せる。

このような状況だ、二人からひしひしと怒りの感情を感じさえしなければどんなに幸せなことだろうか。

しかし、よくよく考えれば妙な話なのだ。
サーニャとニパは初めて出会ったときから妙に対立をしていた。
サーニャは引っ込み思案だったり人見知りだったりはするものの、決して誰かと訳もなく争うなんてことはしなかった。
ニパにしてもそうだ。
ニパは確かにいつも不機嫌そうな顔をしているけど実はすごく優しいやつなんだ。
普段、人より多くの不幸に接している分、ニパは他人の痛みに敏感だ。
そんなニパは意味もなく諍いを起こしたりはしない。

そんな二人が争っている。
それはつまり二人は譲れない理由を持っているということだ。
そして二人の対立が私を中心におこるということは、やはり原因も私に帰するということなのだろう。
私が二人を怒らせてしまったのだろうか。

なにしろサーニャとニパは、どちらが私とロッテを組むかとか、休日のシフトをどちらが私にあわせるかとか、
いちいちくだらないことを見つけてはいざこざを起こすのだ。

スオムスでは私しか知り合いのいないサーニャが私を頼ることは分かる。
しかしニパまで一緒になって争いあう理由が分からない。
今日も二人で言い争っていたと思ったら何故か私の部屋で領地分割だ…
どうやらニパがブリタニアに行く前の私との思い出を語ったのに対し、サーニャは毎日私と一緒に寝ていることを自慢したらしい。
その結果がこれだ。

全くもってどうして二人が私について言い争っているのかが分からない。

「なぁ、サーニャもニパもなんで喧嘩してるんダ?」

二人からやたらと冷たい視線が注がれる。
どうやらまた私は二人を怒らせる何かをしてしまったらしい。

「エイラ…本当に分からないの?」
「まさかここまで鈍感だったなんて思わなかった…」

どちらの言葉にもなにか見えない棘のようなものを感じる…
分からないから理由を聞いたのに分からないことを怒られるって理不尽じゃないか?
それに鈍感ってなんだ!私は未来予知の魔法が使えるから未来についてすごく敏感なんだぞ!

「ゴメンナサイ…」

言いたいことは沢山あったけれども二人が怒っているのは紛れもない事実だ。
それはやっぱり私が悪いってことを示しているのであって…そんなの謝るしかないじゃないか。

「私たちがどうしてエイラに対して怒ってるか分かったの?」

サーニャが私に問いかける。私はここで誠実に答えなくちゃいけないだろう。それならもちろん…

「ううん、ゼンゼン分かんないヨ。」

答えた瞬間、頭に衝撃が走る。なぜかニパに頭をはたかれたんだ。

「イタイナー。なにすんダヨ!」

理不尽にはたかれるなんて納得できない。
そう思って抗議の声をあげると今度は頬に痛みが走る。
サーニャ…どうして私のほっぺを引っ張っているんだ…?

「なんか私が悪いことしたカヨー!?」

私に与えられる攻撃についての弁明を求める。なんでこんなに痛い思いをしなくちゃいけないんだ…

「エイラが悪い。」
「イッルが全部悪い!」

でも結局二人は理由を教えてはくれなかった。

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「なぁエル姉、ヒドい話ダロ?」

私は二人のあまりにも理不尽な態度について愚痴をこぼす。
あんな目に遭ったんだからこれぐらい言ってもいいじゃないか。

「本当にヒドい話ですね。」
「ダロ?」

やっぱりエル姉は優しい。
エル姉は私の味方なんだ!

「はい。サーニャさんもニッカさんもとても可哀想です。」

…え?どうして?
なんですごく怒られた私じゃなくてサーニャとニパが可哀想なんだ?

「エイラさんがそこまでダメな人だとは思いませんでした。」

なんでエル姉にまで怒られてるんだろう…

「エイラさんはもっと他人の気持ちに敏感にならないといけません!」

もう私怒られるのやだよ…

「聞いてますかエイラさん?この際ですからエイラさんにはしっかりと再教育をおこないます!」

エル姉のお説教はまだまだ続きそうだ…
そう思いながら私は幸せってどういうものかについて考えることとした。

Fin.



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