黒の連鎖
――暗い。
外は晴れ渡っているというのに、執務室はやけに暗く感じる。
ミーナはバルクホルンを想っている。
バルクホルンはシャーリーを想っている。
シャーリーはルッキーニを想っている。
……そして私はミーナを愛している。
今まで陥った事の無い連鎖。
それは辛く、苦しい。
絶対に解けない、黒の連鎖。
――黒の連鎖――
私はあの執務室での出来事のあと、自分の部屋で外を見ていた。
雲一つ無い綺麗な空だ。
コンコン
「坂本少佐、少しよろしいですか?」
ドアがノックされた。
ペリーヌの声がする。
「ペリーヌか。ああ、構わない」
ガチャ
「坂本少佐…お体の調子は如何ですか?」
「リーネから聞いたのか。
ああ、大丈夫だ。まだ少しフラフラするがな」
あのあと私は突然の眩暈に襲われ、倒れてしまった。
「そうですか…良かったですわ…」
ペリーヌは安堵の表情を見せる。
「でも、まだ油断は出来ません。ゆっくりお休みになって下さい、坂本少佐」
「ああ、すまんな。迷惑をかける」
「めっ、迷惑だなんて、そんなっ…!…私は、坂本少佐のお側にいられるならっ…!」
「ハハハ、そんなに緊張するな」
「…///」
ペリーヌは赤くなって俯いてしまった。
まったく、反応がいちいち可愛い。
「…良い天気だな」
「ええ、陽射しも強いですわ。
これなら洗濯物もすぐ乾きますわね」
「…ペリーヌ」
「なんですか?坂本少佐」
「…お前は好きな人はいるか?」
「なっ…なんでいきなりそんな事をっ…!///」
「…人を好きになるという事は、辛い事だな」
「…何かおありになったんですか…?」
「……まあな。だが、この恋はもう終わりだ。
これ以上辛くなる事も、苦しくなる事も無い」
「…坂本少佐」
「……すまんな、こんな話を聞かせて…気にしないでくれ」
ペリーヌはしばらく黙って、重く呟いた。
「……わたくし、そんなに辛そうにしている坂本少佐を見るのは嫌です」
「ペリーヌ」
「……わたくしでは、その方の代わりにはなりませんか…?」
「何を言っているんだ、ペリーヌ。お前は…」
「わたくしは、坂本少佐の事をずっと想っていました!
…でも、なかなか言い出せなくて…」
「……ペリーヌ」
「わたくしは、その方の代わりでも構いません!
…貴女に愛していただけるならっ…!!」
「ペリーヌ、気持ちは嬉しい。だが…」
ペリーヌは私に抱き付いて来た。
その身体は少し、震えていて。
「そんなに辛そうにしている坂本少佐は嫌です!
それなら、わたくしが坂本少佐の傷を癒やしてあげたいんですっ…!!」
「ペリーヌ…お前は何故そこまで私を…?」
「理由なんてありませんわ…!
…わたくしは坂本少佐だから好きなんです…他の誰でもない、坂本少佐が…!」
ペリーヌの瞳からは、一筋の涙。
…何故、私の為に泣いてくれるんだ…?
…ペリーヌ…お前は…
「ペリーヌ、泣くな」
「坂本、少佐」
私はペリーヌの頬を優しく撫でる。
「……お前の言葉を…信じていいのか…?…ペリーヌ」
「……坂本少佐………はい、わたくしは坂本少佐を………愛してます」
「そうか……なら……」
私は体勢を変えて、ペリーヌを押し倒す。
「坂本少佐…わたくし…」
「ペリーヌ……すまん」
「…いいえ…坂本少佐は…悪くないですわ…」
「…お前をミーナの代わりとは言わない…私は私として、お前を愛する」
「……嬉しいですわ、坂本少佐…」
「………ペリーヌ…」
「……坂本…少佐……」
キスをする。
そして私達はそのまま、重なり合う。
――連鎖は止まらない。
雁字搦めに絡められた鎖は、もがけばもがくほど、私達の身体を締め付ける。
私達は、もう既に壊れてしまっているのかも知れない。
だが、その破滅感でさえ、気持ちよくなる時が来るのだろうか。
それが分かる日まで、私達は抜け出す事は出来ないだろう。
……この、黒の連鎖から。
END