rutile quartz


ミーナの事か。ああ知っている。話せば長い。そう、長い付き合いだ。
あれは祖国が燃えた日だった。私は大切な人ひとり守れぬ、弱い戦士だった。
だけど、温かく接してくれる者が居た。まるで家族の様に。それがミーナだ。
的確な指揮と判断力、そして自身が持つウィッチとしての高い戦闘力。まさにトップエースと呼ぶに相応しい人物だ。
クリスを守れなかった時も……ずっと横に居て、私を慰めていてくれた。
情けない話だろう? あの頃は私も弱い、ひとりのちっぽけなウィッチで、惨めな人間だったんだ。
ミーナは、私が落胆し、荒れた時も優しく、ときに厳しく接してくれた。上官として、戦友として、そして家族として。
この前宮藤が来て私が少し動揺した時も、最後に目を覚ましてくれたのはミーナだった。
……私達は仲間であり、家族なんだよな。
私にとっては、時に頼もしく優しい「姉」に見えたんだ。……私自身も姉なんだがな。おかしな話だ。

でも、一時期……ほんのいっときの事、「姉」として見えなくなりかけた時期があった。
ミーナは私の事をどう思ってるのか、ミーナは何を考えているのか。何が好みで何が嫌いなのか。
色々と考えてしまった……考え過ぎてしまった事が有る。今思うと、あれは初恋にも似た感情なのかも知れない。
あの時と同じで、私は少し先走り過ぎてしまったんだ。

一緒に501へ配属されてから、ミーナの補佐として部隊の内外で、戦闘で、彼女を支えた。
知ってか知らずか、ミーナは不意に「バルクホルン」ではなく私を「トゥルーデ」と呼ぶ事がある。
そう言う時、何故かどきっとしたりした。不思議なものだ。今は全然そんな事無いのにな。

そうして501で過ごしていたある時……私は、ミーナに言おうと思った。彼女の部屋に行った。そこで、見てしまったんだ。
ミーナが……。いや、何でもない。
別に、少佐の事を悪く言うつもりはない。ただ、打ちのめされてしまった。気付かれぬ様、その場を離れる事が精一杯だった。
吐きそうになった。実際トイレに駆け込んだ。でも吐き出されたのは涙だった。

そう。恋愛には謎が多い。誰もが勝者となり、誰もが敗者となる。そして誰が被害者で、誰が加害者か。
恋愛にルールなど無いって事実だけが身に染みた。ただ人を愛すだけ。“戦い”は どちらかが諦めるまで終わらない。
私はそこでも、負けてしまった。

だけど、気付いたんだ。
ずっと私の背中を見ていた人物に。涙目で歯を食いしばって耐えていた私の背中を、いつの間にかそっと近付きさすって、
抱きしめてくれたひと。確かに、ネウロイとの戦いでは、絶対に安心して後ろを任せられるヤツ……戦友だとは思っていた。
でも違った。戦いだけではなかった。いや……戦いのひとつと言えばそうなのかも知れない。
私の背中を守る。その言葉に偽りは無かったって事さ。
分かるか? エーリカ。そう、お前の事だ。

でもまだ当時は傷心だったから、お前の事なんて全然気にしてやれなかった。
お前の気持ちも全然分からず、ああ、同情して慰めてくれている、位にしか思わなかった。
でも、後に過小評価だと気付いた。
それはいつかって? 私も詳しい日にちとかは覚えてない。お前の方が詳しいんじゃないか、エーリカ?
戦いでも、日常でも、私達は一緒に居る事が増え、気付いたらお揃いの指輪までしてる。
なんてこった。守られていると思ったら、背中から派手に撃墜されていたって事なのかもな。
……言い方が悪い? 私にとってはそれだけ意外だったのさ。
確かに、お前は軍上層部に批判的だから、立場上私がお前の事をカバーしフォローする事は多かった。
私も、お前の事が気にはなっていた。噂に聞く若きエース“黒い悪魔”、双子の妹は兵器開発の悪魔的天才。
なかなか大したヤツだとは思った。だけど、まさか完全に心奪われる存在になるなんて……、
初めて会った時にはまだ分からなかった。今では、このザマだ。
私のこころの中に、いつしか大きな針となって、それがカケラに、やがてそのものになったんだ。

聞いてるのか、エーリカ。お前が話して欲しいって言うから、こうやって話しているんだぞ?
本当はこんな事、話したくは無かったんだ。隠しっこ無しって言うから話しただけで。
ミーナ? 今でも尊敬してるし、今後もしっかり補佐して、力にならなければ。その気持ちに変わりはない。
今では純粋に、上官として、戦友として、家族として力になりたいと思う。

それ以上に、エーリカ、お前の事を守ってやらねばと思う。そして、もっとお前の事が知りたい。
今更知らない事は無いだろうって? そんな事はない。言葉のあやだ。
……もっと端的に? 分かったよ。
愛してる。今でも、そしてこれからもずっと。いとしのひと。

end



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