無題
「バルクホルンさんて結構かわいいとこあるよね。」
宮藤が思い出したかのように呟く。
同時に、ホットドックをかじるあたしの口もぴたりと止まった。
「そう、なの?私は大尉のそういうところ、見たことないなぁ・・・。」
隣にいるリーネが間延びした声で返す。
たまにはハンガーでお昼を食べないか、と二人を誘ったことを後悔し始めた。
「そっかぁ・・・・・・シャーリーさんはどう思います?」
急に水が飲みたくなって、水差しに手を伸ばす。
頼むからあのシスコンを墜とした純粋な目で見つめないでくれ、宮藤。
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「もうバラしちゃってもいいだろー?」
昼間の出来事を話し終わって、ベッドでうつぶせのまま、あたしは毛布を肩までかけた。
隣で横になっているバルクホルンの肩にも被せてやると、いつものお説教口調でこう言われた。
「何を言うか。本来なら我々の関係は軍人としてあるまじきものだ。それを言い触らしてみろ、営倉行きは免れんぞ。」
思わず、どうしてこいつはこんなにも頭が固いんだと溜め息をついてしまう。
エイラとサーニャも中佐と少佐も付き合ってるのはバレバレだってのに、あたしらはひた隠しにしろときたからなぁ・・・。
融通の利かなさは部隊随一の規律人間で、側にいるだけで息がつまりそうな奴だ。
真面目で努力家なのは認めるけど・・・でもこいつが堅物じゃなくなったら、あたしはどうするんだろ。
なんだかんだ言って、堅苦しさまでも好きになってしまったあたしは――。
「考えても無駄か・・・。」
「ん、なんだって?」
「ああ・・・二人で一つの営倉に入るのも悪くないかなって。」
「馬鹿を言え、私はお前と違って牢は好きじゃないんだ。入るなら一人で入るんだな。」
「おいおい、それじゃあたしがあそこに行くためにわざと規律違反してるみたいじゃないか。」
「違うのか?てっきりホテルがわりにしているものだと思っていたが。」
ジョーク、なんだろうか。
相変わらず真顔で言うから、本心なのかもしれないけど。
そういえば宮藤が来る前のギラギラした冷たい雰囲気はもう、あたしの前で見せることはないんだよね。
現に今、バルクホルンは少し困ったように目元を緩めて、あたしの頬を撫でだしたから。
「会心の冗談を言ったつもりだったんだがな、もっと笑ってくれてもいいだろう。」
「・・・真剣な顔で言われちゃ、笑えるジョークも笑えないよ。」
「これでも笑ったつもりなんだが。」
「あれで?全然笑ってなかったろ~。」
「誰が何と言おうと笑ったのだ!」
また、いつもみたいにムキになった。
いつもと同じバルクホルン。
皆の前ではリベリアンと呼ぶのに、二人っきりならファーストネームで呼んでくれるバルクホルン。
皆の前では毅然と振る舞うのに、二人っきりなら微笑みかけたりもするバルクホルン。
どっちも彼女で、どっちの彼女もあたしは好き。
そういうのを全部引っくるめて、とにかくあたしはこいつが好きなんだ。
頬を撫でる手は、あの馬鹿力に似つかわしくないほどつやつやで、触られるのが気持ちいい。
その手を少しずらし、甲に軽く口付けて自分の手を重ねる。
触れる指先が暖かい。
ほんとは、このきれいな指をずっと舐めてみたいんだけど、やると怒られそうだなぁ。
「そのうちポロっと言っちゃいそうだなぁ、付き合ってるって。」
「私だって隠し事は得意じゃないんだぞ・・・我慢してくれ。」
「案外中佐は知ってたりして。」
「笑えない話だ・・・。」
「あははははっ」
「ふふ・・・」
こんなに自分と対照的な人間と笑いあう―それも互いの体を求めあった後に―なんて、考えもしなかった。
初めてここで会った時、挨拶もそこそこにどこかへ行っちゃうわ、態度は冷たいわで第一印象はもう最悪だった。
命令だ規律だとうるさくて、お堅い奴だと閉口した時もあった。
まぁ、今でもたまにあるけどね。
いけすかない上位下達人間か?なんて疑ってたけど、それが見当外れと分かるのにそう時間はかからなかった。
それに気付く頃にはもう恋に落ちていて、あの思い出すだけで恥ずかしい告白を経て・・・。
「いつにも増して上の空だな、シャーロット。眠いのか。」
「え・・・ああ、ごめんごめん。そうじゃないんだけど。」
「・・・私だけ満足していないように見えるじゃないか。」
消え入るような声で呟かれても、あたしをノックアウトするには充分な一言。
そう、こいつにはこれがある。
リーネのボーイズのように、連射はきかないが当たれば一撃必殺。
コアなんて粉々ってわけだ・・・何度あたしのコアが砕かれたことか。
「じゃ、お互い疲れ果てるまでしようか。」
「おい待て、そういう意味で言ったんじゃない。第一明日は食事当番――っ!」
仕返しをしてやるんだ。
年上だなんて関係ないね。
あんたは気付いてないかもしれないけど、あたしだって撃墜されっぱなしなんだから。
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ミーナ「あら?今朝の当番はトゥルーデよね?」
リーネ「食堂に行ったらバルクホルン大尉がいなかったので、捜しにいったんですけど見つからなくて・・・。」
宮藤「どこ行っちゃったんだろうねー?寝坊なんてしないのに。そういえばシャーリーさんも寝坊かなぁ?」
ミーナ「ああ・・・ええと、きっとあそこに居るから・・・あ、後で呼んでくるわね。(スタスタ)」
リーネ「・・・・・・やっぱり、シャーリーさんと・・・。」
宮藤「ミーナさん顔赤かったね。具合悪いのかな?おうどん作っておいてよかったぁ。」
リーネ「芳佳ちゃん・・・ナイショだけど、シャーリーさんとバルクホルン大尉は付き合ってるみたいだよ?」
宮藤「ええっ!?そんな・・・そんなことになったら・・・・・。」
リーネ「よ、芳佳ちゃん?」
宮藤「二人の子供のおっぱいがすごいことになるよ!すごいねリーネちゃん!」
リーネ「・・・・・・。」