無題
そろそろ夜間哨戒からサーニャが帰ってくる時間だ
サーニャを迎えにいってやろうっと
ただいま、エイラ いつもありがとう
な~んて言われちゃったりして…フッフッフ
滑走路の隣のハンガーで待っていると、ストライカーの魔道エンジンが発する、重低音がだんだんと近づいてきた
お、きたきた
お目当てのその子は徐々にストライカーの出力を弱めて、滑走路になめらかに着陸した
「サーニャ!おかえり!」
「…」
あれ?聞こえなかったのかな?
「おーい!サーニャ!おかえりっ!」
な、なんだよこの冷たい視線は…
なんでサーニャはこんな冷めきった目で私を見てるんだ!?
「エイラ… 前から言おうと思ってたんだけど、エイラってちょっと馴れ馴れしいよ」
え? 今ちょっとサーニャの口から飛び出したにしてはあまりにもきつい言葉を聞いたような気がするがこれは気のせいだろうか
うん、気のせいだよな
「たいして仲良くないのにいちいち迎えに来て… なんか気持ち悪い…」
「な、なにいってんだよさーにゃ…」
「あ、今日から私、芳佳ちゃんの部屋で寝るから」
「さよなら、エイラ」
そう言って、サーニャは背を向けてすたすたと歩いていってしまう
あ、あ、さーにゃ、まって、いかないで
自分では声を出しているつもりなのに、声は出なかった
なんで?なんで?
うそだろ?うそだろこんな…こんな…
頭がくらくらする…ありえない…こんな…
「うわああああああああああああああ!!!!!」
ベッドから勢いよく起き上がると、椅子に座って本を開いたまま、
眼を丸くしてこちらを見ているサーニャと目があった
あ…夢、だったのか…
「ど…どうしたの?エイラ?」
サーニャは驚いた様子で、本当に心配してくれているようだった
ああ…良かった…いつものやさしいサーニャだよ…
なんだか安心したら、急に涙が出てきてしまった
サーニャは本を机に置いて、こちらに駆け寄ってくる
私の隣に腰を降ろして、心配そうな目をして問いかけてくる
「怖い夢でもみたの?」
「ううん…なんでもない…なんでもないんだ」
「エイラが嫌なら話さなくていいけど、私でいいなら、話、聞かせて?」
うぅ…なんて優しい子なんだよ…余計泣けてくるじゃないか…
「うん、あのな… サーニャが、サーニャが遠くに行っちゃう気がして…それで、私、すごく悲しくて…」
サーニャが、私の背中を優しくさすってくれている
サーニャの手はとてもあったかくて、とっても気持ちがよかった
もっと、サーニャを感じていたい
サーニャが近くにいることを、サーニャが隣にいることを、もっと感じたかった
ズズッっと鼻水をすすりあげて、私はサーニャにひとつ、お願いをした
「あの…あのさ、サーニャ」
「どうしたの?」
「ギュっってしていい?」
突然の私の申し出に、ちょっとびっくりしたのだろうか
サーニャがぴくっと体を緊張させたのが分かった
「い、いやならいいんだ!ごめん変なこといって!」
「ううん…」
「え?」
「いいよ…」
「いいの?」
「うん…」
私のわがままな申し出にOKしてくれて、
耳まで顔を真っ赤にして俯いているサーニャを見てしまったら、もう我慢できるわけはない
「サーニャ!」
飛びつくようにして、サーニャの小さくて、乱暴に扱ったらすぐに壊れてしまいそうな、そんな儚い体を、
思いっきり、それでいて優しく抱きしめた
すごく幸せな気持ちが体中に広がってくる
とってもやわらかくて…気持ちがいい
「さーにゃ、あったかい…」
「もう…エイラって意外に甘えんぼさんなんだね…」
甘えんぼ、か でも、たまにはこういうのもありだな
よりいっそう、サーニャを抱きしめる手に力を入れて、もっと顔をサーニャの胸に押し付けた
「んん~さーにゃ…」
「今日だけだからね ふふっ…」
よしよし、と小さな子供をあやすようにして、
サーニャはエイラの長くて、美しい髪たたえた頭を、優しく撫でながら、そう笑いかけたのだった
おわり