無題
ミーナの様子がおかしい。
ネウロイとの戦闘後、赤城の乗組員に歌を送ったときに気づいたが、
その異変の始まりはネウロイとの戦闘直後だったように思う。
どのようにおかしいかと聞かれれば、うまく言葉にできない。
何か思いつめているようにも感じるし、何かに怒っているようにも感じる、
そんな漠然とした違和感を、真っ赤なドレスに身を包んだミーナに感じていた。
その日の深夜、見回り当番だった私は消灯、戸締りを確認しながら基地内を歩いていた。
すると、一つの明かりのついた部屋を見つける、隊長室だ。
いくら、24時間ネウロイへの警戒を怠らないといっても時刻は深夜、通常明かりのついている部屋ではない。
胸がざわつくのを感じながら、隊長室の扉を開ける。予想通り、そこにいたのはミーナだった。
ドレスから着替え、すでに寝間着のニーナは隊長室の椅子に腰掛けうつむいていた
ミーナの性格からして、仕事が残っているのなら制服を着るだろう。
寝間着を着て、大きな椅子に力なく座るミーナは、いつもよりずっと小さく見えた。
「ミーナ?」
意識して、普段通りの声をかける。
「!!」
どうやら、私の入室に気づいていなかったらしい、
ミーナは一瞬驚いた顔をしたのち、すこし厳しい顔を作る。
「トゥル・・・バルクホルン大尉、ノックもせずにどういうつもりですか」
取り繕うように、強めの口調でミーナは言う。
普段、仕事中は愛称で呼んだりはしないミーナだが、今夜のこの会話は理由が違う
ごまかし、追求からの逃避、強がり、それらがありありと見て取れる。
私の見たくないミーナだ。
「失礼、ですがすでに消灯予定時間、そして今日の見回り当番は私です、隊長__」
言葉こそ公的だが、話しかけたのは「隊長」ではなく、「ミーナ」に向けてだった
「・・・・・・」
そもそも、夜の静かな部屋で人が入ってくることに気づかない、
部下の見回りのシフトが、頭に入っていないミーナではないのだ。
昼間感じた違和感が、確信に変わった瞬間だ。
「ミーナ・・・何があった?
昼間からどうも様子がおかしいぞ?」
「・・・・・」
ミーナの沈黙は、迷っているのではなく質問を黙殺するために作られたものだ
私は、それが彼女の優しさであることを知っている
そう、いつだって彼女は仲間を守りことを考え、一人でその盾になり、強く振舞う。
だからこそ今、私は引く訳には行かない。
若干18歳の隊長が、時に悩み、苦しみ、一人の少女に戻ってしまいそうになった時
傍らで彼女を支え、守り、「隊長」に戻すのが、私の役目だと、
彼女が私に求めるものだと信じているから。
私は、彼女に告げる
「部下に話せないことならそれでもいい。
深夜の隊長室で、寝間着のまま一人作戦会議、それもいいだろう。」
少女は目を伏せたまま
「しかし、忘れないでほしい。
私は、ゲルトルート・バルクホルン あなたの部下にして
501ウィッチーズのエースだ。うまく、使ってほしい。」
普段は恥ずかしく、決して口にしない「エース」などという言葉も
彼女のためなら口にしよう、それで少しでも彼女の憂いが晴れるなら。
ミーナは目を閉じ、硬く口を結んでいる。
何事かの決意を胸に刻んでいるように見える。
そして目を開けたミーナは、いつもの隊長の顔だった。
そしてミーナは口を開く
「命令します。
バルクホルン大尉そして・・・ハルトマン中尉。」
私の後ろ、ドアの外でコツンと音がする。
私の気づかない内に、ドアの向こうで聞き耳を立てていたものがいたようだ。
ドアの向こうの3人目もミーナに感づかれたことに驚いたらしい。
ミーナは「命令」を続ける
「あなた達二人の力を持って、次回そしてこれから訪れるすべての任務を完遂し。
誰一人欠けることなく、基地に帰還させなさい。それが、エースとしての勤めです。
失敗は許しません。」
言い終わり、まっすぐに私と、未だドアの向こうに隠れているハルトマンを見つめるミーナの表情は
もはやすっかり隊長に戻っていた。
はきはきとした言葉もつねに、母性と思いやりにあふれ、強く、美しい。
あなたは、そうでなくてはいけない。
「返事は?」
ミーナが確認する。
「了解」
「りょーかい」
深夜の隊長室、私が廊下に出るともうすでにハルトマンは居なかった。
見回りも、もうすぐ終わり。
報告書にチェックを入れて、はやく休むとしよう。
明日からまた、忙しくなる。
終わり