幸せの方程式と終戦日の朝


朝起きると、3人の可愛らしい女の子が私に抱きついて眠っていた。
これは思春期の女の子なら誰でも抱く妄想かもしれないが、問題であったのはそれが紛れもない現実であったことだろう。
あぁ、でも問題だなんて言っては失礼だ。
なぜなら3人の体はとても暖かく、そして柔らかく、心地がよかったのだから。
どうして女の子はこんなにもいい香りがするのだろうか?
支給されるものは皆同じ石鹸だというのにそれぞれの香りは確実に異なっており、それでいてどれも快いものであった。

サーニャやエル姉ならともかくニパまでこんなにいいにおいがするなんてどういうことだ。
ニパなんてちょっと男の子みたいなくせに甘酸っぱいオレンジのようなにおいがして…なんだか女の子みたいじゃないか…。

エル姉のにおいをかいでいると、ぽかぽかしたお布団に寝転がっているみたいでとても落ち着く。
まるでエル姉の暖かい心に包まれたようで、エル姉は本当に太陽みたいだった。

サーニャのにおいはとても甘い。
それこそハチミツを口いっぱいに広がらせたみたいな甘いにおいだ。
サーニャのにおいを感じていると、なんだか頭がクラクラしてしまうようで…私、もうダメだよ…。

そして本当にダメだった。
いいにおいを堪能している間にどうやら3人とも目を覚ましていたらしい。
なんだか視線がとても痛い。

「エイラ…なにしてるの?」
「エ、エイラさん?一体なにをなさっているんでしょうか?」
「イッルの変態!」

やはりというかなんというか、私の行為はしっかりと見られていたらしい。
これじゃあ、まるで私が変態みたいじゃないか!
私をソンナメデミンナー!!

う~、朝からヒドい目にあった。
いや、今回はいくらいいにおいだからって女の子のにおいをくんくんしていた私が悪いのだけど…

「あぁエイラさん。そういえば今日は4人ともお休みなので私たちと過ごしてもらいますよ。」

突然かけられるエル姉の言葉。
えっ4人とも休み?それって…

「エースと指揮官が一斉に休みって問題じゃないカ?」

いくら一時期よりはネウロイの攻勢がやわらいだからってここはスオムス、対ネ
ウロイの最前線だというのに…

「エイラさんが悪いんですよ。4人同時に休みを取るのに私がどれだけ頑張ったか…
アホネンさんにはからかわれるし、ハッキネンさんには冷たい目で見られるし…。」

なんだかエル姉がネガティブモードに入ってしまった…
そんなに大変だったなら無理に全員同じ日に休みを取る必要なかったのに…今からでも私が出ようか?

そう考えていると私の腕にかかる力が少し強まるのを感じる。

「どうかしたカ、サーニャ?」
「お腹…減った。」

普段あまり自己主張をしないサーニャが空腹を訴えた。
そういえばサーニャもニパもエル姉も昨日は食堂にきていない。
もしかしたら私の部屋の分割について話し合っていてごはんを食べていないのかもしれない。

ニパのお腹も‘くぅ~’と音をたて、ニパは顔を真っ赤にして俯いた。

そうじゃないだろニパ!
お前は‘ぐぅぐぅ’とお腹をならして、腹減った腹減った、っていうタイプだろ!!
それじゃなんだか…なんだか女の子みたいじゃないか…。

「私もお腹すきましたしみんなで食堂に行きましょうか。」

いつの間にかネガティブモードから脱却したらしいエル姉がそう提案する。
そうだな。腹が減っては戦ができない…あれ?今日は非番だったか。

どうやらその意見には皆賛成のようでいそいそと着替えを開始した。

「ほらサーニャ、手をアゲテ。」
「ん…。」

朝に弱く、まだウトウトしているサーニャの着替えを手伝ってあげる。
うん、オラーシャの軍服も可愛かったけどスオムスの軍服も似合うじゃないか。
でも…これは…お、お揃いってことなんじゃないだろうか。
サーニャとお揃い。これだけでなんだか頬がどうしようもなく緩んでしまう。
あぁ…サーニャはやっぱり可愛いなぁ。

さて、サーニャの着替えも終わったし私も着替えなくちゃな。
なんだかニパとエル姉から冷たい視線を感じるけど気のせいだろう。

どうやら着替えるのが一番遅かったのは私のようで、着替え終わるなり直ぐに食堂へと向かうことになった。
だがこの布陣、いや、この状態がおかしいと思うのは私だけなのだろうか。

私の腕にはそれぞれエル姉とニパが抱きつき、サーニャはなぜか私の腰から離れない。
よくよく考えるとこれは今朝起きたときの状態と非常によく似ている。
しかし寝ているときなら問題にならなかったこの体勢だが、このまま歩くとなるととても辛い。
というかなにやらとても恥ずかしい気がするのは私だけなのだろうか。

食堂に行くまでの間にすれ違う人にはことごとく笑われ、なんだかニヤニヤされるという恥ずかしい目にあいながら私たちは食堂についた。
私たちをソンナメデミンナー!!

サーニャもニパもエル姉も顔が真っ赤だ。
皆恥ずかしいならやめてくれればよかったのに…。
一体全体どうしてこんな事態に陥っているのか分からない。
これ以上トラブルがおこりませんように願うことだけが私にできることであった。

しかしそんな私の願いを裏切ってやはりトラブルは巻き起こる。


問題…それは席順なんてものはどんなに頑張ったとしても限られた組み合わせ分
しか存在しないということだ。

つまり簡潔にいうと私の隣、厳密な意味で遮るもののない隣という位置は左と右、それこそ2ヶ所しか存在しえないということである。

そして私の隣での食事を望むものが3人。
すなわち物理的な制約により不可能な事象が望まれているのが現状だ。

正直どうしてこんなことで対立がおこるのか分からない。

でも分かったかもしれないことが一つ。
私の隣を取り合うなんて…もしかしたら私は嫌われた訳ではないのかもしれない

いや、それどころかもしかしたら…

「なぁ皆、そんなに気にすることないじゃナイカ。」
「エイラは黙ってて…。」
「イッルには関係ないだろ!」
「これは私たちの問題なので…。」

うん、やっぱり人生そんなに甘くないよな。夢見るとすぐにこれだ。
私の心にまた癒えない傷が刻まれたような気がするのは気のせいだ。

3人はまだなにやら交渉をしている。
ごはん冷めちゃうよ…ただでさえ大して美味しくないのに。
あぁ、リーネの美味しいごはんが食べたいなぁ。

「エイラ…少し椅子を引いて。」

現実逃避をしていた私にサーニャが呼びかける。
話し合いは終わったのだろうか?
まぁ特に問題もないのでおとなしく椅子を引いた。

「ありがとう。」

サーニャはそう言いながら私の足の間にちょこんと座った。

え?なんだこれ?

ニパとエル姉も目を見開いてこちらを見ている。
「サ、サーニャ!?いい、い、一体どうしたんダヨ?」

情けないことに動揺してうまくしゃべることができない。

「エルマさんとニッカさんがどうしてもエイラの隣で食事をとりたいらしいから私が諦めることにしたの。だから私はエイラの前…だめ?」

少し行儀が悪いんじゃないかとかそんなにくっつかれたらドキドキして食事どころじゃないとか色々言いたいことはあるのだけれど…
そんな風に言われたら断れるわけないじゃないか。

「きょ、今日だけダカンナー!!」

多分、今、鏡を見たら私の顔は真っ赤になっているだろう。

「ありがとう、エイラ!」

サーニャがとても嬉しそうな弾んだ声で返事をしてくれるのがすごく嬉しい。

「じゃあはやく食べようヨ。」

私がそう言うと、ニパとエル姉はなにやらバツの悪そうな顔をしていたが、諦めたように私の両隣に座った。


しかしそのとき既に戦いは始まっていたのかもしれない。

私はサーニャの口にミートボールを運んでいた。
普段ならこの時間帯はウトウトしているサーニャがニコニコと私の運ぶごはんを食べているのをみると私まで嬉しくなってくる。
あぁ幸せだなぁ。
でも平和は永くは続かなかった。

「エイラさん!」

平穏を打ち破るエル姉の声。

「なんだヨ?」

あんまり大きな声をだしたらサーニャがびっくりしちゃうだろ。

「はい、あ~ん。」

エル姉から私の口にミートボールが運ばれる。
確かに私はサーニャに食べさせているだけだからまだなにも食べてはいないけど…これはすごく恥ずかしい。

「イッル!これも…これも食べろ!」

ニパからはサーモンのマリネが私の口へ運ばれる。
ニパまで!?なんだかまた変なことが始まっている。

「エ、エイラ?」

サ、サーニャ…その位置から私に食べさせるのは無茶がある。

「ムリすんナ、サーニャ。サーニャには私が食べさせてやるから我慢してクレ。」

そう言ってサーニャの輝く頭をなでる。
サーニャは喉を撫でたときの子猫みたいに目をつぶり、気持ちよさそうだ。
やっぱりサーニャはすごく可愛い…

「ありがとう…。」
「気にすんなっテ。」

私が好きでやってるんだからな。

「なぁイッル、二人の世界に入らないでくれるか?」
「そうですよ。私たちも混ぜてください!」

ニパとエル姉からなんだか冷たい視線と言葉がふりかかる。

「「あ~ん。」」

二人の声が重なり、私の口にはミートボールとサーモンが同時にねじ込まれた…
魚肉と獣肉の食べ合わせの悪さは最悪であり、じわりと涙がでてくる。
あれ…もしかしなくても二人とも怒ってる?

口いっぱいにミートボールとサーモンが詰め込まれてようやく二人の手が止まった。
あぁ、やっとやめてくれたのか…と安心していたが、どうやら手が止まった原因は怒りが静まったからではなく残弾が切れたためであるらしい。
普段は自分の階級なんてさっぱり忘れてニコニコしているエル姉が、少佐命令を駆使してありったけのミートボールを集めるように指示している。

おい、ニパ!お前もファンからありったけのサーモンをわけてもらうのはやめろ!

二人がすこぶる怒っているのは間違いないようだ。
とりあえず口内に残るミートボールとサーモンの混合物を水で流し込む。
なんだかとても生臭い。

「もう許してクダサイ。」

私にできることは謝ることだけだ。
でもこれはすごく理不尽な気がする。

「今日は‘4人’のお休みなんですからね!勝手な行動はしないように。」

エル姉に叱られる。
でも、確かに伝わるサーニャの暖かさは、私の理性をとろとろに溶かすには十分すぎるものだった。
ただそこにサーニャがいる。それだけの事実が私の頬をひたすらに緩ませるんだ。
だから仕方がないじゃないか。

「そうだぞ、イッル!」

なんだかニパまで便乗してきた。
エル姉ならともかくニパに言われると心穏やかではないのはなぜだろうか。
一応私の方が上官なんだぞ…

「じゃあ、ご飯も食べ終わりましたし、行きましょうかエイラさん。」
「エイラ、行こ?」
「行くぞイッル!」

一体どこに行くんだという私の疑問は無視して3人は私を引っ張っていく。
平和な1日を過ごしたいという私の希望はきっと叶わないのだろうな。
あぁ、今日も大変な1日になりそうだ。
私はそう思い流れに身を委ねることとした。

Fin.



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