階段と記憶喪失


「うわあぁぁぁぁぁ!!」

シャーリーが、足を滑らせて階段から落ちた。
そして、ドシーンという大きな音とともに、シャーリーは頭を激しく打った。

「だっ、大丈夫っ!?シャーリー!」
「………」
「ど、どこか痛いのっ!?」

次の瞬間シャーリーから出た言葉は、あたしの時間を凍らせた。

「……貴女、誰ですか……?」
「……………………………………へ?」


――階段と記憶喪失――


…そう、シャーリーは今までの記憶を失っていた。
階段から落ちて頭を打った…だなんて、ちょっとマヌケな気もするけど、今はそんな事言ってる場合じゃない。

「これ…覚えてる?」
「…いや…何も……」
「そっか…」
「…あの…すいません…私の為にルッキーニさんがいろいろしてくれてるのに…」
「ああ、それはいいよ。あたしも好きでやってる事だし。うん」

ストライカーユニットを見ても思い出さないなんて…相当酷いみたいだ…
それにしても、あたしに敬語を使うシャーリーは新鮮だけど、ちょっと変な感じ…

「ルッキーニさん、シャーリーさんの様子はどうかしら」
「…ストライカーユニット見ても思い出さないみたいで…」
「そう…」
「でも、焦らずじっくりやります」
「そう、でもあまり無理はしないでね。逆効果になる事もあるようだから」
「はい」

そしてあれからあたしはシャーリーにいろんな物を見せたりしたけど、シャーリーは一向に記憶を取り戻さない。



「しかしリベリアンの記憶は元に戻らないな」
「……シャーリー…」
「心配するな。きっとヤツは記憶を取り戻すさ」

そう言うと、大尉はあたしの頭を優しく撫でてくれる。

「…うん、ありがと…」


いくら何を見せても記憶が戻らないシャーリー。

と、あたしの頭の中に悪魔が降りてきた。

…そうだ、記憶を失っている今だけでも、シャーリーをあたしのモノにしちゃおう…

「いっ、いやダメダメ!シャーリーは記憶を失ってるんだよ!?
そんなシャーリーにそんな事っ…!!」

―いいじゃん、こんな機会でも無いと、想いを告げるなんて一緒不可能だよ?―

―ダメだよ!シャーリーは記憶をなくしているんだから!
そこにつけ込むなんて最低だよ!―

あたしの中の天使と悪魔が頭の中でせめぎ合う。

―――――――――――――――――――

「ねえ、シャーリー」
「はい?なんですかルッキーニさん」
「一つ教えてあげるよ」
「はい」
「実はね、あたしとシャーリーは恋人同士だったんだ」
「…私とルッキーニさんが…?」
「そう!もうそれはそれはラブラブだったんだから!」
「そうなんですか…すいません、その時の記憶も無くて…」
「いいよいいよ、徐々に思い出してくれたら」
「はい、ありがとうございます、ルッキーニさん」

そう言って、シャーリーはニコッと笑う。

…負けた。
ああ、あたしはあたしの中の悪魔に負けた。
っていうか、記憶をなくしているシャーリーに想いを告げるってどんだけ卑怯なんだあたし!

徐々にあたしの中で罪悪感が沸き起こってくる。

「ああ………」

…ゴメン、シャーリー…





―――――――――――――――――――


「ムニャァ…」

あたしはぐっすり眠っているルッキーニの元へと近付く。

「…さっすがシャーリー…」

寝言を呟きながら、眠っている。
頬をつねるも、起きる様子もまったく無い。

「…お前、嘘なんかついちゃダメだぞ…?」

あたしはぼそりと呟く。

「ま、でもあたしも人の事は言えない…か」

…そう、あたしは記憶を失ってなんかいない。全部嘘。全部演技。
我ながら巧い演技だと自画自賛してみる。

確かに頭を打った時、一瞬意識が飛びかけたけど、記憶までは飛ばしてない。

じゃあ、なんで記憶喪失のフリをしたか。

決まってる。ルッキーニの気を引く為だ。いつまで経ってもあたしに想いを伝えてくれないから、あたしは一計を打った、というワケだ。

ちなみに階段で足を滑らせたのは、本当に事故で、滑り落ちている途中で咄嗟に記憶喪失(のフリ)を思い付いたのだ。

「ルッキーニ、ゴメンな、記憶喪失のフリなんかして。
…でもお前だってあたしと恋人同士だったなんて嘘ついたからお互い様、だよな?」

あたしはルッキーニの唇にキスをする。


―――――――――――――――――――
翌朝

「おはよう、シャーリー!」
「おはようございます、ルッキーニさん」
「今日も頑張ろうね、シャーリー!」
「はい!」

…まだ、シャーリーの記憶は戻ってないみたい。
もう少し、シャーリーと“恋人同士”でいられる。
複雑だけど、ちょっと嬉しいな。

そして、あたし達はニコニコ笑い合う。


((もうちょっと、このままで…))


END


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