スオムス1946 ピアノのある喫茶店の風景 チャオ!エイラーニャ!
お昼のお客さんもひと段落して、気だるい午後。
今日は夏の日差しがまぶしすぎて、暑い。
開けられる窓は全開で扇風機も回しっぱなしだというのに、ちょっと動くと汗ばんでしまう。
なんというか、ブリタニア南部での生活が長くて暑さに比較的慣れてるわたしがこれだけきついんだから、地元のおっちゃんたちは大変だよなぁ。
喫茶ハカリスティ、ただ今午後の休憩中ダ。
まぁ、休憩といっても、この時間はお客さんが途切れる事が多いんで事実上の休憩になってはいるんだけど、実際は一応営業中だったりする。
たまに街道を通る旅行者やなんかの理由で中途半端な時間に食事を取りたくなった人とかがこういうタイミングで来ることもある。
でもそういうのは本当にたまだから、サーニャと雑談したりピアノに耳を傾けたり、疲れてるときは寝てたりと、結構適当に過ごしてる。
そんな自由時間に行う事の一つに庭の手入れとかもあったりするんだけど、これだけ暑いと動く気がしなくてここ数日ほったらかしになっている。
ん~、でも雨も降ってないし水くらいやるカナー、とか思っていると先にサーニャが声をかけてきた。
「ねぇ、エイラ。外の花壇にお水あげてくるね」
「あ、サーニャ! わたしがやるよ。日差し強くて暑いからさ、外の事は任せて」
「ん……でも、エイラ暑いの苦手でしょ。だからわたしがしようと思って……」
う、これは譲らないモードだ。
どうやらサーニャにも先読みの魔法が備わっているらしく、わたしが『サーニャにやらせたら悪いナー』って思ったことに限って先回りして、わたしよりも先にそれをやるって言い出すんだ。
で、わたしがわたしが……の応酬で埒が明かなくなった事があって以来、こういうときは素直に折れて二人でやろうという事にしてる。
お互いそんな空気が読めてるんから、一瞬だけ視線を交わしてからふっと力を抜いて微笑んで言うんだ。
「じゃあ……」
「ふたりでしましょ」
「ウン」
花壇には季節の花が植えられていて、サーニャの愛称でもあるユリ科の花も幾つか咲いている。
二人でじょうろを用意して、たっぷり水を入れる。
魔法を使わなければ普通の十代の女の子なわたしたちにとって、その数kgの重さを運ぶっていうちょっとした動作だけで今の暑さでは汗ばんでしまう。
「ほんとに今日はアツイナー」
「うん、でもいい天気で気持ちいいよ」
サーニャに言われてから空を見上げてみる。
確かにいい天気だ。
抜けるような青空っていうのはこんな空のことを言うんだろうと思う。
地上に居るからこそ実感できる空の高さ。
ウィッチとして空を駆けていたときには近すぎて気付けなかった綺麗な世界。
暑さにうだって文句ばっかり言ってちゃ気付けなかった空の青さを教えてくれるサーニャは誰よりもステキで、こうして一緒に花壇にお水をやれるなんて、わたしってきっと世界一の幸せ者ダナ。
「ね、綺麗な空でしょ」
「ウ、ウン」
想いが空からサーニャへと切り替わった絶妙のタイミングでその本人から声をかけられて、元々うだっていた頭が更に加熱してしまう。
一気に頬が赤くなるのを感じたわたしのとった行動は、じょうろを自分の頭に向ける事だった。
少し上を向いて、じょうろから優しく吹き出す水を、頭の天辺で受ける。
「あ! ちょっとエイラ何やってるの!?」
「ウン、暑いから花壇だけじゃなくてわたしも水が必要だと思ったんダ」
「エイラはいつも突拍子が無いね」
そう言いながらサーニャも恐る恐る自分の頭にじょうろを向けて、傾ける。
「ひゃっ、冷たい……あはは」
「ははは、サーニャまで何ヤッテンダヨー」
わたしの奇行に付き合って可愛らしいリアクションでこちらに微笑を返すサーニャを見て、ドキリとした。
サーニャ、シャツが濡れて、服……ていうか、下着透けてるっ!
そ、そりゃ普段からサウナも水浴びもお風呂も一緒だしいつも見てるものではあるんだけど、真昼間からこんなお日様の下はヤバイ!
こ、これは頭の温度が下がんナイッテ!!
目を閉じてもっと上を向き、顔から水をかけてみる。
冷えろ~冷えろ~、わたしの頭。
「あ……エイラ。シャツ透けちゃってるよ。人通り少ないけど、早く着替えてきた方がいいよ」
う……だからどうしてそこでそうやって指摘してくれちゃうかなぁ……。
っていうかサーニャさん。
あなたも透けてるんです気付いてください。
あ~どうしよう……なんか指摘するのも恥ずかしいし、でもサーニャのそんな姿を偶然通りかかった誰かに見せたくもないし……。
と、悩んでいる間に爆音が響いてきた。
ん~……これって大型バイクかな? もしかしてまたビューリング?
よく聞いてみると二つ分聞こえるカナ? 聞こえる方向はヴィープリ方面か。
おっと、サーニャを隠さないと。別にわたしのは少しくらい見られても構わないからナ。
さりげなく道路側に対してサーニャの遮蔽になるように移動しながら街道の向こうを見やる。
「また、ビューリングさんかな?」
「でも二台分ダナ」
「誰か、友達でも連れてきてくれたとか、かな?」
そうこう話す間に爆音は近づき、視界に入ってきた。
片方はなんとなく見覚えのあるブリタニアのブラウシューペリア。
もう片方はリベリオンバイク、か?
そして2台がスピードを緩める気配は無く、むしろストレートに入って加速し、乾いた未舗装道路からもうもうとした砂埃を巻き上げながら一気にわたしたちの目の前を駆け抜けた。
「ウワッ……ぷ、ごほごほっ、ダイジョウブカ? サーニャ」
「ケホッケホッ……うん、なんとか……でも、今のって……」
「ウン、ビューリングと……、」
「もう片方はシャーリーさんに見えた」
「ソウダナ」
なんか、変な組み合わせだな。
っていうか、レース中なのか? うん、キットソウダナ。そう考えるといろいろ納得がいく気がする。
いや、むしろ見間違えダナ。シャーリーがこんな所に居るはずないしナ。
それはそうと水被った上から砂埃を被ったんで、二人ともすっかり泥んこ状態。
お客さん来てもこんなんじゃ対応はムリダナ。
「ま、とりあえずさ。ちょっと店を閉めて水浴びしよう」
「うん、その方がいいね」
看板をCLOSEにひっくり返して、手早く済ませる為にサウナは無しでひとまず水だけ浴びる。
暑かったからホントに気持ちイイナー。
ってなんか聞こえる。
「サーニャ、何か言ったカ?」
「ううん、何も……表の方から、声がしてる?」
声を気にしながらも、振り返って視界に入ったサーニャの姿に見とれる。
青空の下の裸身に心奪われて、一気に顔が赤くなるのを感じる。
夜空の藍も、夕暮れの橙も、こんな青空の蒼も、どんな背景をバックにだってキラキラできるなんて反則だよサーニャ。
あああ……シマッタ! 折角頭から水被って冷やした分の体温がチャラじゃナイカー!
「お客さんかも。すぐに行きましょ」
「あ、ウン」
表を気にしていたのか、そんなわたしの様子には気付かずに露天の水浴び場を後にするサーニャ。
まぁ、気付かれない方がイインダケドナ。
急いで服装を整えて店をOPENしにいく。
建物の外から回り込んで表側へでると、小さめのバイクが止まっていて、オープンヘルメットとゴーグルをつけた小柄な少女が立っていた。
少女はわたしたちの姿を見つけると、底抜けに明るい第一声と共にメットトとゴーグルを外しながら走りこんできて抱きついてくる。
「チャ~オ~、エイラ~ニャ~」
「わわっ、お、オマエー」
「ルッキーニちゃん!?」
「っていうかナンダヨーソノ略称」
「にゃふ~、気にしない気にしない。二人セットで呼ぶのに便利でしょ~。もー、折角遠路はるばる来たってのにお店閉まってるから焦っちゃったよ~」
わたしたちの首に抱きついて順繰りに頬ずりしながら、健康的に日焼けした肌の少女が笑顔で挨拶じゃれる。
見た感じ髪形が変わって身長は伸びて体つきも顔つきもちょっと女らしくなったけど、ここまでの反応を見るにもしかして中身はあんまりかわってないのカモ。
「ちょっと暑くて水浴びしてたんダヨ」
「エ~、暑いかなぁ? むしろ涼しいでしょ~スゴク過ごしやすいよ」
「オイオイ、この陽気のどこが涼しいんダヨ」
ロマーニャは暖かいっていうし、そういえばコイツ北アフリカにも言ってたはずだからナー。
暑いの基準が違うんだろうな。
「でもルッキーニちゃん、来てくれるなら先に言っておいてくれればちゃんと歓迎できたのに」
「にゅは? あるぇ~……連絡して無かったかな? ま、結果オーライっ! 今から歓迎してくれればイイと思うよっ」
「アバウトだなぁ……ま、いいや。ホラ、中入れよ」
店の扉を開けて、迎え入れる。
「おっじゃまっしま~っしゅ」
「はい、いらっしゃいませ。ルッキーニちゃん」
「よく来たナ」
店に入りながら、ヘルメットを被る都合かバレッタでアップにしていた髪をとくルッキーニ。
ツインテじゃないのも新鮮だよな。そんな風に思いながらルッキーニを見てると目が合った。
「にゃは、でもさ~。エイラカッコイイね」
「エ?」
「男物の服が似合ってる~。モテモテでしょ~」
出し抜けにほめられて照れる。
まぁでも、もしもわたしの姿がかっこよく見えるなら、それはサーニャが合わせてウェイトレス姿をしてくれてるから、相対的によく見えるんだぞ、キット。
「ソ、ソンナコトナイッテ……」「ウン」
ん? いまわたしが喋るのにあわせてサーニャが何か言ったかな?
「そ・れ・と~……エイッ」
「ひゃっ!?」
おもむろにサーニャの、その……おっぱいを正面から両手で鷲掴みにするルッキーニ。
「オイッ、何やってるんだヨッ!」
「ああっ……ゃ……めっ……」
「ニュオオオオ~! おっきくなってるよっ! これは~……うにゅっ! 努力賞!!」
「ヤメロッてぇのっ!」
間に入って引き剥がす。解放されてから波目でうずくまるサーニャ。
これはちょっと許せないぞルッキーニ! と、叱ってやろうとしたら、先にルッキーニが口を開く。
「あ……ちょっとやりすぎちゃった……ゴメンね、サーニャ」
「あ、うん。驚いただけだから……でも、親しき仲にも礼儀有り、だよ。ルッキーニちゃん」
「うん、ほんとにゴメンね。久しぶりだからちょっと調子に乗っちゃった」
お~、コイツも何時までも子供じゃ無いんだな。自分から謝って、サーニャも許してくれてるんならわたしがもう何も言う事あ無いな。
でも、少しくらいは仕返しが必要ダナ。
コイツの場合は喜ぶかもしれないけど……。
「ふふ~ん、おまえはどうなんダッ!」
背後に回りこんで、ルッキーニのおっぱいを鷲掴み。そのままちょっと卑猥な感じに手を動かしてみる。
モミモミ。
お、おおっ! 意外といいサイズになってるじゃないカー。あの頃『これからっ!』って言ってたのは伊達じゃなかったわけダナ。ウンウン。
「ニャッハッフー。どうだー? エイラ?」
「うん、おっきいおっきい! 成長してるゾッ! 努力賞進呈ダッ!」
「エ~? 銅賞くらいまで行ってるよ~」
「いいかルッキーニ! 金がシャーリーで銀がリーネだから銅はミーナ中佐級ダロ。だからまだ入賞はしたけどメダルは貰えないヨッ!」
「にゅにゅっ、イキナリのりろんてきてんかいだよっ! そういわれちゃうと仕方ないから納得かな~」
納得しながらわたしの方に体重を預けるルッキーニ。
「あ、そうだシャーリーといえば……」
「そうだ! シャーリーってばひどいんだよっ!」
言葉が被るけど、そんな事には頓着しないルッキーニはするりと体勢を入れ替えてわたしの胸に顔を埋めるようにしながら続ける。
「折角一緒に休暇合わせてスオムスまでバイク旅行に着たのにさ~、途中で変なブリタニアのバイク乗りに抜かれてから熱くなっちゃってデッドヒート!」
「あ~……やっぱりさっきのあれってシャーリーだったんだ」
「加速し始めた瞬間とかはかっこよかったんだけど、あっという間においていかれちゃったんだよ。つまんな~い!」
「シャーリーって基本的には常識人だけど、スピード絡みになると周りが見えなくなるからなぁ……」
「でしょでしょ~。道順は一応わかってたからここまで来れたけど、置いてくなんてひどすぎ~」
「あっはっは。シャーリーらしいナー」
「ウジュー! 笑うなんてエイラもひどーい!」
「まぁまぁ、ホラ。これやるから機嫌直せよ」
ひょいっと、カウンターに手を伸ばしてカラフルな小さい包みを手に取る。
更にそこから一包み取り出して、それをルッキーニの目の前に持っていく。
「サルミアッキって言うんだ。スオムスじゃみんな大好きなお菓子ダゾ」
「にゃっは~。ひどくな~い! エイラ大好き~」
わたしの胸から離れつつ、器用にもシングルアクションでその銀紙包みを開いて親指で飛ばし、舌で受け止めてパクッ。
ニヒヒ、さぁドウダ?
「ヴェー、ダディコデー! ぺぺぺっ」
「お~、やっぱり舌に合わなかったか~。どうもスオムスの人間以外お気に召さないんだよなー、コレ」
「やっぱりエイラもひど~い! キライッ! 助けてサニャにゃ~ん」
なんか変な呼び方でサーニャに泣き付くルッキーニ。ロマーニャ語は難しいナ……。
サーニャはいつの間にかカウンターの向こうへ移動して料理の用意をしている。
流石に手早いなー……って何か様子が変な気がする。
もしかしてサーニャ、何か怒ってないか?
「うん、エイラはひどいね。ルッキーニちゃん、お食事要るでしょ。スオムス料理とオラーシャ料理、どちらにする?」
「前に食べたシチューみたいなのが欲し~。でも美味しければ何でもいいよっ」
ルッキーニとの会話は普通だけど、やっぱりわたしに対して怒ってる気がする。いや、確実に怒ってる。
うー……さっきのルッキーニの蛮行を止められなかったからか?
でもサーニャも許してるみたいだったし……なんだなんだ!? 何がサーニャを怒らせたんダ……全然わかんないぞ!?
そこから先は憂鬱な時間だった。
ルッキーニの土産話とか色々あったんだけど、ルッキーニとわたし、ルッキーニとサーニャの間に破壊我が成立しても、わたしのサーニャの間にはなんだか必要最低限の事務的な話しか出てこなかった。
大して忙しくも無かったのに、サーニャのピアノは無し。折角ルッキーニが来てるって言うのに歓迎の演奏しないなんて絶対におかしい。
そのうち夕方になって夕飯のお客さんも入り始めて、シャーリーが引き返してくるのを待つっていうルッキーニには奥で休んでいてもらった。
忙しくしてる間も、なんだかギクシャク。
だいぶ慣れてはきてるんで失敗こそしなかったけど、この仕事をこんなにも辛いなんて思ったのは今日が初めてだ。
気疲れでクタクタになった頃にお客もはけて、夜。
夜といっても夏場のスオムスはまだまだ明るい。
なんとなくそこに居にくかったわたしは、シャーリーたちを探してくるって言って外にでた。
倉庫を開けてシュトルヒを見上げる。簡単にチェックを済ませてからなんとなくピンと来て、ガソリンを余分に積んでみた。
ふわりと離陸。
飛び始めてから思った。前にもこんな様な事あった気がするナ。サーニャがなんかよそよそしくなって会話がなくなった事。
あれはお店が開店して、エル姉が来たときだったっけか……う~ん。
悩んでるうちに、視界に煙が目に入った。
ナンダロ?
機首を向けて接近してみる。するとそこには焚き火をしている二人の女性の姿があって、その傍らには二台のバイク。
あ~、おっぱいで解るナ。あれはシャーリーだ。間違いない。
高度を落として近付けて窓を開け、旋回しながら大声で叫ぶ。
「オーイ、お前らそんな所で何やってんだぁ?」
「お~、エイラ久しぶり~!」
叫び返しながら手を振るシャーリー。なんか心配して様子見に来たのがあほらしいほどにのん気だ。
で、もう一人の女性――まぁ案の定ビューリングだったんだけど――がシャーリーに何事かを話しかける。
内容に頷いてからまたこっちを見て叫ぶ。
「お~い、エイラぁ。ガソリン分けてくれ~」
「降りるからちょっと待ってろー」
やっぱりガス欠かよ。まぁそりゃあれだけアクセル全開でここまで走ってくればガスも足りなくなるよな。
むしろ誰でもいいからサーニャの機嫌を直してわたしに欠乏したサーニャ分を補充させて欲しいよ……。
落ち込みながらも冷静に、街道に向けてタッチダウン。白夜なのと焚き火の明かりがあったお陰で意外とすんなり降りられた。
二人が寄ってくるまでに後席に積んでおいたタンクを降ろす。
「ホラヨ」
「フム、ガソリンを余分に持ってきていたのか」
「へー。随分と準備がいいな」
「わたしの魔法忘れたのかよー」
「いやーほんと助かったよ。流石エイラ様! スオムスのトップエースは頼りになるな~……って、どうした? なんか雰囲気暗いぞ」
「なんでもない」
「なんでもないはずがあるかよ。ルッキーニに元気分けてもらえてないのか~? お前がここに来たって事は、ルッキーニはそっちにいるんだろ」
「いるよ。ホラ、さっさと口だけじゃなくて手も動かせよ」
「はは~ん、解ったぞ。サーニャ絡みだな」
「べ、べつにソンナンジャネーヨ」
「エイラはほんとサーニャが絡むとわかりやすいよな」
「だから違うって! さっさと入れろよ。タンクは回収するんだから」
否定してるのに絡んでくるシャーリー。
そんなしつこいリベリオン娘とは対照的にビューリングは黙々とタンクにガソリンを注ぎ込んでいる……と思いきやおもむろにこちらも見ずに口を開いた。
「倦怠期か?」
「ぷっ、あははははっ。ナイス突っ込みだぜ、ブリタニアン」
「もーお前らガソリン返せぇ!!」
結局白状する羽目になり、シャーリー様のありがたいアドバイスを頂くことになったんだが、その内容はというと『平謝り』だそうだ。
はぁ……何が悪いかわからないで謝るなんて誠意がなくて嫌なんだよナ……とか思ったところで他に手も思いつかないし、まず謝ってから何で起こっているかを聞いて、その後改めてできるだけのお詫びをするか。
一応行動の整理がついたんで、相談したのは無駄じゃなかったと思いたい。
少しだけ前向きになって帰路。
私はシュトルヒを離陸させてサーニャの待つ我が家へ。
二人はそのままバイクで引き返してくるらしい。って、そういえば詳しい事情を聞くの忘れたけど、寄ってくんだからそのとき聞けばイイカ。
下方を振り返ってみるとだいぶ暗くなった街道をなかなかいいスピードで飛ばしてるヘッドライトが二つ。
あのスピードならそんなに遅くなる前に着きそうダナ。
果たして帰還した私を待ち受けていたのは、怖い顔をしたサーニャだった。
その後ろでなんかニヤニヤしてるルッキーニもいたけど、サーニャの表情を見た瞬間にもう認識の外へと吹っ飛んでいた。
え?え?え?え?え?何でそんなに怖い顔してるんだいサーニャ……わたしは、ソノ、ネウロイジャナイゾ。
「エイラ!」
「は、はひっ」
強く名前を呼ばれる。
のどは一気にカラカラになるのにごきゅりとつばを飲み込む。
私は動けないし、何もしゃべれない。目線も動かせない。
サーニャが肩を怒らせツカツカと寄ってくる。
やっぱり私は動けない。
サーニャは両手を胸の高さくらいまで上げた。
ぶたれるのかな?
諦めの境地にも似た状態。
何があったかわからないけれど、きっと悪いのはわたしなんだから。
サーニャがそうしたいのならすべて受け入れよう。
静かに目を閉じる。
彼女の思いを、受け止めるために。
「えいっ!」
ふにゃ。
もにゅもにゅ。
え!?
なんでおっぱい?
目を開けると、ぎゅっと目を閉じたサーニャが正面から両手でわたしのおっぱいを揉んでいた。
ちょ、ちょっと待ってくれこの世界。
わたし、展開についていけてないぞ。
っていうか、サーニャの手がわたしのおっぱい……。
しなやかな指、控えめな力加減、目を閉じて、頬を赤く染めたその顔。
うわわわわっ! ヤバイ、ヤバイッテコレ!!!
「エイラッ!!」
「ははは、はひっ!」
「エイラのはっ! わたしにとっては金賞ですっ!」
「はいっ!」
叫ぶサーニャとその勢いに押されて頷くわたし。
「だからっ、わたしのも確かめて……残念賞でもいいから下さいっ!」
「はいっ!!」
って、確かめる?
確かめるって……えええええっ!?
その事実を認識したわたしが鼻血を吹いて倒れるまでの所要時間が極めて短かったって事は後で聞いて知った。