みんなのなまえ
――よし。これでこの部屋はおしまいっと。
あとは食堂とミーティングルームと…。あ。お風呂場もお掃除しなくちゃ。
うわぁ…まだまだ終わんないよ…。
わたしは朝の訓練の後、4日目の基地内の年末大掃除をしている。
外では久しぶりの暖かい日差しの元、模擬戦をしているカールスラントのダブルエースがいた。
やっぱりウィッチはすごいなぁ。隊のみんなはいろんな国のエースだし、同じ軍曹のリーネちゃんだってあんなに遠くの的に鉄砲を当てられるんだもん。
わたしも治癒魔法がもっと上手に使えるようになって、たくさんの人を護れるように頑張らなくっちゃ。
よし!と気合いを入れて次の戦場に決めたミーティングルームへと向かう。
すると
「おーい!宮藤ー!」
「あ、シャーリーさん。どうしたんですか?」
「なあ、ここらへんでガッティーノ見なかったか?」
「ガッティーノ…ですか?」
「ルッキーニのことさ。それで、見てない?」
「ああ、ガッティーノってルッキーニちゃんのことだったんですね。ええと、この辺では見てないですね」
「うーん…そっか。ありがとな」
と手を振り走り去っていった。
―――――――――
「っていうことがあってね」
「そうだったの。ちなみにね、ガッティーノって子猫って意味なんだって」
「へぇー。なんかルッキーニちゃんにピッタリだね」
「そうだね」
昼になり、掃除を中断して今度は食事の準備をしながら、リーネちゃんにさっきのことを話していた。
「でも、呼び名もいろいろあるけど、この隊にはすごい名前で呼ばれてる人もいるよね」
「すごい名前?」
「うん。例えばハルトマン中尉の黒い悪魔ーとか、ミーナ中佐のヒュ、フユル…」
「フュルスティン?」
「そうそう。なんかかっこいいよねー」
「そんなに私かっこいい?」
「わわっ!ハルトマン中尉!訓練は終わったんですか?」
「うん。いまねー。うりゃ」
「こら、ハルトマン。堂々とつまみ食いをするな」
呆れた顔でバルクホルンさんも入ってきた。
そういえばバルクホルンさんには何か名前はあるのかな?
「私に?いや、そういった通称は聞いたことはないな」
「じゃあ私がつけてあげるよ。そうだねー…。カールスラントのお姉ちゃん…。違う、怪力お姉ちゃん…。ないな。天空のお姉ちゃん…」
「お姉ちゃんが外れるという選択肢は無いのかっ!」
「だってトゥルーデといったらこれじゃん」
「そんなことはない!お姉ちゃん気分はしっかり抑えて…!はっ!違う違う!そんなものは断じてない!」
「あー。もう私の知ってるトゥルーデじゃない…」
また始まっちゃった。いつも言い合いして本当に仲が良いなぁ。
「わたくしの通称はブループルミエ、青の一番、という意味ですわ」
「ペ、ペリーヌさん!いきなり現れないでください!」
「あら、たまにはこういう登場もよいかと思いましたのに」
「さっきのハルトマン中尉とかぶってます!」
くっ、不覚…。流石黒い悪魔の名は伊達じゃないようですわね…。ってそれじゃ悪の幹部みたいですよ。と心の中でつっこんでおく。すると
「ハラヘッタナー」
「(眠い…。おなかすいた…。けど隣はあったかい…)」
「ごっはんーごっはんー」
「今日の飯はなんだろうな」
エイラさん達、シャーリーさん達が来て、食堂が一気に騒がしくなる。
「ン?どうしたツンツンメガネ。そんなとこに座って」
「何でもなくってよエイラさん。それとツンツンメガネはおやめなさい」
「えーっと、エイラさんはダイヤのエース。サーニャちゃんはリーリヤ。ルッキーニちゃんがガッティーノで、シャーリーさんはグラマラスシャーリー…」
「おっ。あたしらの名前覚えてんの?」
「いえ、ふと気になって…」
「気になって…ねぇ。ようするに、自分もなにかほしいんじゃないの?」
「そっ、そんなことはっ」
「芳佳ちゃんなんか嬉しそう。やっぱり欲しかったんだね」
リ、リーネちゃんってば…。
「なんだヨ。リーネもほしかったノカ?」
「わ、私は別に…」
「リーネちゃん嬉しそうだね」
「もうっ。芳佳ちゃんなに言ってるの~」
「いいじゃんか。あたしらでつけてやるよ」
と言ってシャーリーさん達は輪になって相談を始めた。
私の名前…。どんなのになるんだろ…。おっと、相談してる間にお料理運んで…。
「うん!これにけってーい!」
「やっぱりこれだよナ」
ルッキーニちゃんが声を上げ、わたしは期待して顔を上げた。
「芳佳ちゃんとリネットさんの名前は」 「桃色おっぱいマイスターと」
「ドジっこスナイパー、ダナ」
聞いたとたんにリーネちゃんがずっこけ、わたしにぶつかった。
あれ?なんか柔らかい…。
「ほらー!やっぱぴったりー!」
「あっははははは!」
「ウワ、潰されながらも…。本望ダロウナ」
「エイラ、うらやましいの…?」
「み、宮藤…」
「ほら、トゥルーデもお姉ちゃんの胸に飛び込んで来いーぐらい言えば?」
「まったく、豆狸はいつもお盛んなんですのね」
「よ、芳佳ちゃんだめ、そんなに強く…あっ…」
そうして突然降ってきたマシュマロに悦に入っていると左官コンビが入ってきた。
「あらあら。昼間から仲良しね」
「お前たちは食事の用意を投げてまでそんな行為を…。たるんどる!」
たるんどる!の声で我に返ったわたしは慌てて立とうとしたけど、リーネちゃんが上に乗っていて動けない。
じたばたしていると刀の鞘でゴツン、と打たれた。
「いたた…」
「皆の前でそのようなことをするからだ。まったく」
「…そうね。リーネさん、あとで私の部屋にいらっしゃい?」
「え?私だけですかぁ?」
「来てくれる?」
「は、はいぃ。わかりました…」
ミーナ中佐…。目が笑ってない…。
リーネちゃん…ごめんね。でも気持ちよかったよ。
―――――――――――
その後 ミーナの部屋
コンコン
「どうぞ」
「し、失礼します」
「そこに座って」
「は、はい」
「リーネさんそんなに緊張しないで。少しコツを聞きたいだけだから」
「コツ、ですか?」
「ええ。自然に人の上に転んで、顔に胸を当てれるようになるために、ね」
END