Probabilmente è mia Sorella
こいつとクリスは似ていない。悪戯好きで欲求に忠実で、しなるような髪質に浅黒い肌、
性格も外見も類似点など数える程しかない。ああ、それなのにどうしてあんなことを言っ
てしまったんだ。これはあれか?宮藤の言うところの"妹不足"というやつなのか?イェー
ガーにはシスコン呼ばわりされるし、ミーナには「クリスに会いに行かなくて大丈夫?」
と毎日のように訊かれるし、もしかしたら私は自分が思っている以上に深刻な状況にある
のかもしれない。
「ルッキーニ少尉。お前はなんだか、私の妹みたいだな。」
……イェーガーの冷たい視線が忘れられない。
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例えば、ルッキーニが私の妹だったとしよう。推論は仮説を立てるところから始まる。
まずはルッキーニ少尉という呼称を改めねばなるまい。妹ということは家族ということだ。
ならばファミリーネームが違うのはおかしい。
『フランチェスカ・バルクホルン』
──いや、いまいちだな。
『ゲルトルート・ルッキーニ』
──ダメだ、カールスラント語とロマーニャ語は相性が悪い。困った、早くも行き詰まっ
てしまった。別のアプローチを試みてみよう。例えばそう、何と呼び合うべきか。向こう
では『ガッティーノ』と呼ばれていたらしいが、こいつはどうもしっくり来ない。他を模
索すべきだろう。もっとこう、フワフワと柔らかくて、それでいてあの活発さを持ち合わ
せていなければならない。フランチェスカという名前はブリタニア人なら『ファニー』と
か『フランキー』とか言うのかもしれないが……難しいな……。私はクリス同様『お姉ち
ゃん』と呼ばせれば問題ないんだがな。いや待てよ、クリスの方が年上なんだからクリス
も『お姉ちゃん』になってしまうな。迂闊だった。ここは明確に区別をつけて『トゥルー
デお姉ちゃん』、いや私はそのままでクリスが『ちい姉』くらいでいいかもしれない。長
いのは呼びにくいからな。フフッ、想像しただけでわくわくしてくるじゃないか。それで、
ええと、……何の話だっけ?
そうだ、何であいつが妹みたいに見えたか、だった。私としたことが、仮説の立て方を
間違えていたようだ。お陰で話が関係ない方に逸れてしまった。もっと状況に即した考察
から始めるべきだな。ルッキーニはいつもイェーガーと一緒にいる。前に「ママみたいだ」
とか言っていたので、イェーガーに母性のようなものを感じているのだろう。だが年齢的
には一桁しか違わないわけだし、関係としてはむしろ姉妹に近いはずだ。事あるごとにべっ
たりくっついて、甘やかされっぱなしだ。ふむ、この辺りに何かありそうだ。考え直して
みれば、クリスはああ見えてしっかり者だから、甘やかしこそしてきたがあまり甘えられ
たことがないような気がする。唯一の姉妹なんだからもっと頼ってくれた方が嬉しいのだ
が、まあきちんと自立できているのはいいことだろう。姉離れできるほど成長したんだ、
寂しいなどと思ってはいけないのだろう。ん?寂しい?私は寂しいのか?そうかわかった
ぞ!私は甘えてくれる相手が欲しかったんだな!実の妹であるクリスに甘えられ足りない
から、甘えん坊なルッキーニを見て思わず自分の理想の妹と重ねてしまったというわけだ。
うむ、なるほどな。それなら全部納得がいく。結局は私の方が妹離れできていなかったの
だ。まだまだ心の鍛錬が足りないぞ、ゲルトルート・バルクホルン。カールスラント軍人
たる者、こんなことで動揺しているようでは、一流のエースとは呼べんぞ!
それにしても、ルッキーニか……そう言えばあまり2人だけで話したことはなかったか
もしれないな。いつ2人きりでの出撃の機会が来るかもわからん、もっと親睦を深めてお
くべきだろう。あいつには何かと手を焼かされてばかりだが、あいつのことをもっと良く
理解していれば許せることだってあるかもしれない。ふむ、そうと決まれば直ちに準備だ。
久々にトルテなど焼いてみるか。濃厚なショコラーデ・トルテは果たしてロマーニャ人の
舌に合うかな?いや、トルテよりもあっさり目のクーヘン方がとっつきやすいか。ルッキー
ニはフルーツも好きだからな。ああ、でもあのリベリアンのどぎつい菓子をかじったりも
しているようだし、案外味の濃いブツの方が受けはいいかもしれない。なあおい、ミーナ、
トルテとクーヘンだったらどっちがいいと思う?
《バルクホルン大尉、戦闘に集中してください!》
────────
ネウロイは極めて迅速に撃墜できたにも関わらず、基地に戻ったらミーナにこってり絞
られた。仮にも戦闘中に私事の話をするのは確かにまずかった。認めよう。認めるが、何
もあんなに怒鳴らなくたっていいじゃないか。ルッキーニとイェーガーに余計なことを
考えさせてしまったからその罪滅ぼしのつもりだったんだと白状したら、報告書に記入し
ないことと引き換えに全員分のトルテを焼くようにと要求された。ミーナも疲れているよ
うだったし、甘いものが欲しかったのかもしれない。
「というわけで、今日のアフタヌーンティーのお菓子はバルクホルン大尉の焼いたチョコ
ケーキです。」
ティータイム担当のリーネが私に代わって紹介する。ブリタニア語だとトルテもクーヘ
ンも同じく"ケーキ"になってしまうので少々寂しいが、まあそんなことはどうでもいい。
見てくれ、あのルッキーニの満面の笑みを!未だかつてルッキーニが私にあんな笑顔を向
けてくれたことがあっただろうか!ふふっ、これで姉としての最初の一歩は確実に踏み出
せたはずだ。じゃなかった。親睦を深める第一歩だった。どうだリベリアン。私だってこ
れくらいのことはできるんだぞ。名誉挽回だろう?ははは、おいルッキーニ、そんなに慌
てて食べたら口の周りに……ほら、言わんこっちゃない。真っ茶じゃないか。可愛いやつ
め。美味しいか?
「これ美味しいよ、お姉ちゃん!」
うむ、それは良かった──って、お前今何て言った!?お姉ちゃん……だと!?なんだいき
なり、照れるじゃないか。いやもちろん構わないさ。むしろ是非そう呼んでくれ。……何?
イェーガーが?おいリベリアン!ルッキーニに妙なコトを吹き込むな!やめろ!貴様にま
でお姉ちゃんなどと呼ばれたら私はッ……!!
endif;