luminescence


最近、ふと想う事がある。
彼女は何を思い、何を考えているのかと。
勿論、指揮官であるからには隊の全てを把握していなければならないし、
なすべき事はたくさん有る。
けれど、その感情は時として棘の様にちくちくと痛み、ささくれ、私を悩ませる。

彼女は幼い頃からストライカーの開発に関わり、また特筆すべき魔力を持ち
欧州やその他で戦ってきた扶桑のベテラン、そしてエース。
それ自体は私も指揮官として高く評価している。
彼女が部下に課す厳しい訓練、自身も常日頃行っている鍛錬を見るに、
心の底では部下思いで、自分に厳しく、優しいひとなのだと言う事も知っている。
でも。
最近の彼女からは、何処か焦りにも似た感情を感じる。無理をしてないか。
もう二十歳で、ウィッチとしてのピークは過ぎている。
満足にシールドも張れないという、ウィッチとして致命的な問題も抱えている。
それでも彼女は飛ぶと言い頑として譲らず、私を悩ませる。
彼女を大空へやるときには、強大な防御シールドを張れる宮藤さんをほぼ必ず二番機につける。
防御もさることながら、もし万一の時、治癒魔法で何とかして欲しいと言う事も有る。
宮藤さんもその辺りは自覚している様で、今のところはうまくいっているけど……。

……あら、今日はどうしたの? またお酒?
ブリタニアのウイスキーでも開けましょうか。
ロックで良いかしら。すぐ用意するわ。

貴方とこうして二人で飲んでいられるのはとっても楽しいけど、いつまでこうしていられるのかしら。
いずれ貴方は扶桑に帰り、私達は祖国奪還の為に本国で戦う事になるでしょうから。
離れるのは辛い事だけど。……扶桑には「一期一会」という諺が?
それはどういう意味かしら? ……そう。まさに私達に相応しい言葉かもね。

珍しいわね、貴方が酔うなんて。
暫く私のベッドで横になっていくと良いわ。遠慮しないで。今更遠慮する仲でもないでしょう?
楽にしていって。私はもう少し起きているから、大丈夫。

私はいつしか寝息を立てる彼女の横顔を見ながら、トパーズにも似た輝きを放つウイスキーを口に含む。
氷から溶け出す僅かな水が原液と混じり、きりりとした冷たさを与えてくれる。

そう。いつもと変わらない日常。
訓練、会議、戦闘、食事、報告、記録。
そして、寝る前にこうしてくつろぐ、僅かなひととき。
多忙だけれど、さほど苦痛に感じないのは、常に彼女が横で補佐してくれているから。
優秀な副官と言うのは本当に頼もしいわ。

だけどね、美緒。
私の本心としては、もうこれ以上、直接ネウロイと戦って欲しくない。
貴方はもう十分につとめを果たしてきた。立派に戦果も挙げたし、ストライカー開発もそう。
貴方の功績は皆が十二分に承知しているし、決して色あせる事は無い。それなのに。
何故、空へ? 何故戦いに? ……痛いほど分かってる。貴方の言いたい事は。
分かっているからこそ、もう危険な一線は退いて、安全な、後進の指導にでもあたって欲しい。
それでも現役に拘る、と言う事も分かる。貴方なりの信念ね。
言葉で伝えても、銃を突きつけても、その信念は揺らぐ事なく。

私も既に、少し諦めているフシも有る。
前に一度撃墜されて大怪我をした時。私は止めた、けれど貴方は飛再び飛んだ。
まさに不屈の『サムライ』と言ったところね。
確かに、また空に戻ったと言う嬉しい部分も有るけど。
貴方が自分の限界を感じ、焦るのを見るのはとても辛い。貴方も辛いでしょうけど、私もとても辛い。
もっとも、今の貴方は自分の事で精一杯だから、私の心の内までは分からないかも知れない。
いえ、もしかしたら分かっているのかしら。そうだとしたら、とても嬉しいのだけど。
けど、分かってやっているんだったら尚の事悪質ね。そういうところが、お互いの
ちょっとした“甘え”なのかも知れない。

ウイスキーもだいぶ無くなった。
少し混濁しつつある頭でそんな事を茫洋と思いつつ、ベッドに近付き、貴方を見る。

私のベッドで眠る貴方の横顔はいつもと変わらずとても安らかで、見ていてほっとする。
心のよりどころになっている、と言う点は否定しない。
でも時には、貴方の姿が何故か心に突き刺さり、掻き乱される。
この鈍痛にも似た動揺は何故。
愛しいと言う感情に偽りは無いのだけど、不思議なものね。

これだから、扶桑のウィッチは……。

end


続き:0575

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