無題


さて、どうしたものか…
なぜサーニャは私の服を…。

―――

今日は私よりサーニャが先に起きた。
珍しいこともあるんだな、とか思いながら私はサーニャが着替えるところを気付かれないように見守っていた。

…その結果

いくら寝惚けてるからって自分の制服と他人の制服間違えるかー?ほんとしょうがない子だな。
そんなことを考えてる間にもサーニャは私の服を着込んでいく。
ああ、これどうしよう…どうしようって注意するしかないよな…。
いや、でももう少しだけ見ていたい気もするぞ…。

スオムスの制服を着たサーニャ、ちょっと想像してみる
…アリ!見たい、是非見たい!

よし、気付くまでちょっと見ていよう…できれば全部着るまで気付かないでくれよー。
エイラの思惑通り、サーニャは着々とエイラの制服に身を纏っていく。
制服をしっかりボタンまで止め、ちゃっかり重ね履き用のズボンまでエイラのを手に取る。

お、おお…私がいつも履いているズボンが、サ、サーニャを、サーニャの下半身を!
そしてきっちり履き終わり、サーニャは完全にスオムスの制服を着込んでしまった。
こ、これは想像してたのより遥かに…ああもう、サーニャは何を着ても似合うナ!
が、さすがにここまできたらサーニャもいつもと何かが違う感じに気付いたようで。
「あれ、ズボン…白い。制服…青い。これって…?」
やっと気付いたカ。しかし全部着ないと気付かないってのもある意味凄いよな…。
さて、お楽しみもここで終わりカナ。早く制服返してもらうか。
そして柔らかい声でエイラはサーニャを呼び掛ける。

「おーいサーニャ、それ私の制服ダゾ。いくら寝惚けてるからって他人の服と間違えちゃダメじゃないかー」
「あっ、ほんとだ。…あれ、エイラ起きてたの?」
起きてたなら途中で教えてくれればよかったのに」
「い、イヤ、今!今起きたところだったんだヨ!そしたらサーニャが私の制服着てるもんだからびっくりしたんダゾ?」
「あ、そうなんだ。ごめんね、私寝惚けてたみたいでエイラの着ちゃって…」
「いいんダ、気にスンナって。
それにスオムスの制服も似合うしなサーニャは…」
「似合う…かな?自分じゃよくわからないけど」

しまった、心の中で言ったつもりが口にも出ていたようだ…
小さい声だったがサーニャは聞き逃さなかった

「あ、アア、凄い似合うゾ。サイズは私のだから少しブカブカだけどナ。
それに黒い服が多めだからナ、サーニャは。たまには明るめな色の服もいいと思うゾ?」
「でも私表情が暗いってよく言われるから…明るい色は似合わないと思う」
サーニャはそう言うと少し俯いてしまう。

「ツンツンメガネの言う事なんか気にスンナって。
それに明るい色の服を着ると表情も明るくなったりするんだゾ?明るい色ってのは気分も明るくしてくれるもんなんダ」
「そうなのかな?でも私明るい色の服って持ってないから…」
そう言ってサーニャはまた俯く。

「うーん、そっカァ…」
確かにサーニャが黒以外の服を着ているのはほとんど見たことがない。
黒が好き、というのは前に聞いていたがどうにも極端な感じがするよな…。
それに年頃の女の子なら絶対心のどこかでかわいい服を着てみたいと思っているものだ。
でもサーニャは非常におとなしいし、少し遠慮がちなところもある。
そういう服を着るのが恥ずかしいという気持ちもあるのだろう。
よし、それなら私がここで少し勇気を出して…

「あ、あのさサーニャ、それなら今度の休みに一緒に街へ服を買いにでもいかないか?
私がサーニャに似合いそうなかわいいのを選んでやるヨ」
「えっ…でも、私かわいい服なんて似合わないって…」
「そんなことない、サーニャは絶対そういうの似合うサ!
サーニャに関してオーソリティな私が言うんだから信じていいゾ!」
自信満々の表情でそうエイラが言う。
そして自分の言った事に恥ずかしくなったのかエイラの顔が少し赤くなった。

「そっ、それに最近あまり出掛けたりする暇なかったダロ?
基地にばっかりいたってつまらないしナ」
「そうだね…エイラがそう言うなら
じゃあエイラ、お願いします」
サーニャは少し微笑みながらペコリと頭を下げた
「なんてことないって
それに笑顔があればきっとどんな服だって着こなせるゾ」
そう言って満足な顔をしたエイラ。
そして少ししてサーニャがまだ自分の制服を着たままだった事に気付く。

「…でさ、話変わるけどサーニャ、そろそろ私の制服をダナ…」
サーニャもエイラの制服を着ていたことをすっかり忘れていたようで、少し慌てて返事を返す。
「あっ、ごめんねエイラ。ちょっと待ってね、すぐ返すから」
そう言ってサーニャはエイラがきちんと畳んで布団に置いてあった自分の制服を手に取る。
…手に取ったところで、何故か少しの間サーニャの動きが止まる。

「サーニャどうしたんダ。制服に何か付いてたのカ?」

そうエイラに問い掛けられ、少ししてからサーニャが口を開く。

「ねえ、エイラ」
「ん、なんダ?」
「……私の服、着てみる?」

…え?今なんと?
私の福、きてる?ああなるほど、タロットか、タロットで占ってほしいのか。
そのくらいならお安い御用だ、何度でも占ってやるさ。
その一言にまともな思考ができなくなった私がそんなことを頭で展開してところでサーニャがもう一度語り掛けてくる。

「エイラ、私の制服…着てみる?」
「な、なななな、なんでそうなるんだヨ!
私は着たいなんて一言も言ってないゾ!?」
「うん・・・だって、せっかくだから。
それに、エイラ前に私のズボンを勝手に履いたことあったでしょ?だから着てみたいんじゃないかと思って」
前というのはハルトマン騒動のことだ。
ルッキーニが私のズボンを持っていってしまい、その際ルッキーニを追いかけるため私は苦渋の決断でサーニャのズボンを勝手に借りていってしまったのである。

「だ、だからあれは違うって言ったダロー!?
あの時は仕方なくダナ…」
「でも、それなら一言断ってくれればよかったのに…」
確かに勝手に履いていったのは悪かったと思ってる。
けど、夜間哨戒で疲れてるサーニャをそんなことで無理やり起こすなんてとても私にはとてもできなかった。
まあ、それでも勝手に借りた言い訳にはならないんだけど…。
「うん、だからそれは悪かったって…でもほんと仕方なかったんだよ、許してくれヨ…」
私はそう必死に謝る
けど、サーニャは怒ってるというよりなんか…それに、気のせいか頬も少し赤くなってるような

「ううん、別に怒ってはいないの。私が寝てたのを起こしたくなかったってわかってるから…。
でも、エイラ黒いズボン似合ってたよね。だから、その…オラーシャの制服着たエイラを私が見てみたいかな…なんて」
「うっ…」
サーニャが見たい?
ということはスオムスの制服を着たサーニャを見たかった私と同じ気持ち…いやいや、私の気持ちと一緒にしちゃダメだろ。
サーニャがそんな疚しい気持ちがあるわけない。ただ純粋に興味があるだけだ。

「でもサイズとか合わないと思うゾ。サーニャより私のほうが背も少し高いしナ」
「うん、でも大丈夫、少しだけでいいから…ダメ…かな?」
おいおい、その上目遣いは反則だよ…かわいすぎるじゃないか。
サーニャにこんな風にお願いされたら私だけじゃなく人類でも拒否できる人間はまずいないと思う。。
拒否できるのなら恐らくそいつは人の子ではないだろう。
でも私は特にサーニャには弱い。
サーニャに頼まれたら何でも受け入れてしまうしサーニャに謝られたら何でも許してしまう。
仮にこんな風に死んでと言われたら正直断れるかどうか…そんなのありえないだろうけど。

「うぅ…わかったよ、でも今日だけだかんな!
ホ、ホントに今日だけだかんナ!」
「ありがとう、エイラ!」
そう言いながらサーニャが満面の笑みを見せる。
ああ、やっぱりサーニャは最高だ…私だけの天使だ。
この笑顔さえあればもう私は何もいらないよ…。
「じゃあはい、これ…」
「ん…あ、ああ」
そんなことを考えてる間に、サーニャは自分の制服を差し出した。
その顔はやっぱり少し赤くてどこか恥ずかしそうだ。
「じゃ、じゃあ少し恥ずかしいからちょっと後ろを向いててくれ
いいよって言うまで絶対振り向いちゃダメだからナ!」
「うん、わかった」
少し微笑むと、サーニャは言われた通り後ろを向いた。

こ、これがサーニャがいつも身に纏っている・・・そう思うと凄くドキドキしてきた。
そしてつい反射的に匂いを嗅いでしまう。
サーニャの匂いがする…クラクラしてしまいそうなほどにいい匂いだ。
って私は何やってるんだ!これじゃまるで変態じゃないか…。
エイラは頭をブンブン振って気を取り直す。
し、しかし本当に着ていいのか…?私色々大丈夫だろうか
下手すると理性が…いやしかしサーニャが見たいと言ってるんだからそれを抑えて着るしかない。
私にできることなら出来るだけサーニャの希望は叶えてあげたいからな。しかし自分で言うのもなんだが、甘いよなぁ…私。
覚悟を決めていよいよサーニャの服に袖を…心拍数がさらに上がる。

そしてまず上着を着る。
やっぱり少し小さいな。そしてその…胸がきつい。
だ、大丈夫だサーニャ、お前はまだまだこれからなんだから安心してていいんだぞ。
何故か心の中でサーニャを励ますエイラ。

そして重ね履き用のズボン、ベルトも付け終え。この瞬間エイラに衝撃が走った。
こっ…これは、服はすっかり冷えてしまってるのにサーニャの温もりを感じる。
そう、まるでサーニャに全身を包まれてるかのよう…。
それは凄く心地がよく、何故だか安心する。

「…ハッ!」
「…?エイラどうかしたの?」
「あっ、い、いや何でもナイ何でもないゾ」
しまった、つい声が出てしまった…。
エイラは自分の呼吸が酷く乱れてる事に気付いた。
だ、大丈夫だよな?サーニャにバレてないよな…
とりあえず落ち着いて呼吸を整える。
よし…じゃあサーニャに…

「き、着替え終わったから振り向いていいゾ…サーニャ」
「うん…」
エイラが声を掛けると、サーニャは小さな声で返事を返し、ゆっくりと振り向いた。

「ど、どうだ?やっぱり私じゃ似合わないだろ?
それにサイズも合ってないし…」
「…」
エイラが自虐的な言葉を発したがサーニャは表情をピクリとも変えず何も反応しない。
ああ、やっぱり全然似合ってないから…。
そりゃそうだ、このオラーシャ軍の制服をあそこまで見事に着こなせる人間なんてサーニャくらいのものだ。
ああ、ガッカリさせちゃったかなあ…やっぱり着ない方がよかったかもしれない。
「……」

そんな事をエイラが考えてる間も、サーニャは全く動じぬまま。

…あれ、なんかサーニャの様子がおかしくないか?
なんというかその、まるで気絶してるかのような…。

「サ、サーニャ?どうかしたのか?」
「………」
「サーニャおい、どうしたんだよ。おいサーニャってば」
「…あっ」
声を掛け肩を揺すると、ようやくサーニャの意識が戻ってきたようだ。

「大丈夫かサーニャ、気を失ってたような感じになってたけど…」
「うん、大丈夫…
その、見とれちゃって…」
見とれる?何に。
何のことかわからず少し首を傾げてるともう一度サーニャが口を開く。

「私の服を着たエイラが凄く似合ってて…か、可愛くて…つい見とれちゃったの」
「あ…う…」

み、見とれるって私にかよ!?
サーニャが私に見とれるなんて…。
それに似合うはともかく可愛いだって?

「な、な、バカ!何言ってんダ!私が可愛いわけあるか!仮にそうだとしても100%服のおかげダ!」

顔がどんどん熱くなってくるのがわかる。
そりゃサーニャにこんなこと言われたら…ああ、今多分凄い変な顔してるんだろうなあ。

「ううん、服のおかげだけじゃないよ
そのエイラの長くて綺麗な髪と、透き通るほど白い肌が…
多分私より絶対似合ってるし、かわいい…」
サーニャの顔も凄く赤くなっている
そりゃそうだ、言われた方がこれだけ恥ずかしいんだ、言う方も恥ずかしいだろう
しかし髪とか肌とかサーニャは私の事そんな風に見てたのか…嬉しいような、恥ずかしいような…

「そんなわけあるカ!そ、それならサーニャだって私よりスオムスの制服が似合ってるし私より全然かわいいゾ!」

あ、しまった
今勢いに任せてとんでもない返しをしてしまった気がする。
瞬間、少し赤みが引いてたサーニャの顔がまた茹でダコみたいに赤くなる。
しばしの沈黙に、気まずい空気が流れる。
「エイラ」
少ししてその沈黙をサーニャが破った。


「な、なんだ、サーニャ?」
「私の事をかわいいなんて言ってくれたの初めてだったよね」

確かにサーニャにこんなことを言ったことは今まで一度も無かった。
心の中ではいくらでも言えるのに、いざ本人と面を向かってとなると急に気恥ずかしくなり、言葉が出てこなくなるから、言えなかった。

「ずっと言ってほしかった…だから私、凄く嬉しくて、凄く幸せで…」

そう言うサーニャは胸に手を当てていて、本当に幸せそうで、その目には涙が浮かんでいるようにも見えて…

「エ、エイラ…?」

気が付くと私はサーニャを抱き締めていた。

「ゴメン、サーニャ」
「え?」
「私が臆病で勇気が無いから、サーニャを悲しませてしまってタ…
多分この性格は一生直らないと思う…でも今日からは、言うよ。頑張って、勇気を出してちゃんと口から」
今言ってることだってしていることだって本当は凄く恥ずかしい。
でも彼女が喜ぶなら、彼女の喜ぶ顔が見れるなら。

「…もう少しこうしててもいいカ?」
「うん…」

でも今の私にはまだ胸に秘めたこの想いを伝える勇気は無い。
それはまた、私にもっと大きな勇気と力がついたその時に…
だから今はこうしているだけでいいや。
今の私もサーニャと同じで凄く幸せだ。

そしてふとサーニャの顔を見てみると、驚いた表情をしながら何故か視線はドアの方へと向いていた。
私もサーニャが見ている方を向いてみ…

「あちゃー、バレちゃったかしかしお前らこんな朝っぱらから何やってんだー?」
「なっ、なっ、シャ、シャーリー!?なんでそこにいるんだヨ!!」

そこにはドアの間からこっそりと私達を覗いてニヤニヤしているシャーリーがいた

「いやー飯の時間だっていうから2人を呼んでこいって言われたんだよ。そしたらまあ、面白いもんが見れちゃったよー」
「ウー…覗きなんて趣味が良いなんて言えないゾ!」
「いやー、ごめんごめん。でも2人の仲を邪魔しちゃ悪いと思ってさ」

私もサーニャも見られていたことを知り、顔が真っ赤になっている。

「というか一体いつから見ていたんダヨ!?」
「さあねぇ、まあいつからだっていいじゃん」
「ヨクネエヨ!」

いたずらっ子みたいな笑みを浮かべるシャーリー。
ああ、この笑顔がここまで憎らしいと思ったことはない…。

「しっかし…2人とも似合ってるねえ、それ」
「…エ?」

その瞬間、私はハッとした。
そして額から一滴の汗が垂れる。

「お互いの制服を着せ替えるなんてどんだけ仲いいんだよお前らー。ほんとにバカップルだな」
そうだ、私達お互いの制服を着たままだった。
しかしこれを見られたというのは非常に…

「まあ面白いから他の奴らにも聞かせてやるかー」
「わっ、バカ!それだけはやめてクレ!」
「にっひっひ、どうしようかなー?」
とか言いつつ既にに食堂に行く気満々なのが丸わかりだ


…結局、食堂へ行こうとするシャーリーを興奮状態だったため着替えるのをオラーシャ軍服のまま追い掛けてしまった姿をペリーヌに見られ、結局全員にバレた。
その後数日はみんなからからかわれ、その度に「私達をそんな目でミンナー!」等と叫び、追い払っていた
…サーニャもその度に顔を赤くしていたが、何故かまんざらでもなさそうだった。


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