戀情ロマネスク
――女の子は言いました。
貴方の事が大好きです。愛してます。
男の子は言いました。
僕も貴女の事が大好きです。
こうして二人は恋人になりました。
「…なんだこりゃ」
――戀情ロマネスク――
あたしは街の本屋でふと目に入った本を手に取った。
本の作者には申し訳ないけど、文もストーリーも稚拙過ぎてあたしの肌には合わない。
「ま、実際はこんな上手い事行かないわな…」
そうぼやきながら、あたしは本を棚に戻す。
…そう、こんな簡単に想いが伝わるなら、こんな苦労はしない。
ルッキーニへの片想いは、もう結構長い。
でも、あたしは自称ポーカーフェイス。
ルッキーニにはあたしの気持ちはバレてない、ハズ。
「シャーリー!」
「お、ルッキーニ。なんだ、なんかいい本あったか」
「ンニャ」
「そうか。じゃあ帰ろうか」
「うん。あ、シャーリー」
「ん?」
「手、繋ご」
「あ、ああ…///」
ルッキーニはやけに手を繋ぎたがる。
ルッキーニにしてみれば、友達と手を繋ぐのと同じ感覚なんだろうけど、あたしからしてみれば意味合いは大きく変わる。
(いつか、この手繋ぎが恋人繋ぎになるといいんだけどなあ…)
などと、我ながら柄じゃないと思いつつ、心の中でぼんやり思ったりする。
「ねえ、シャーリーってさ」
「ん?」
「好きな人とかいる?」
「な、なんだよいきなり。お前には関係ないじゃん」
「ミーナ中佐が言ってたんだ。女の子は恋をすればするほど綺麗になるって」
「するとなんだ、あたしは綺麗って事か」
「うん!シャーリーはもとから美人だけど、最近はもっと、もーっと綺麗になってる気がするよ!」
「ハハハ、嬉しいな。お前にそんな事言われるなんて」
「で、どうなの?恋、してるの?」
「…………」
ルッキーニの瞳は綺麗だ。
でもその瞳は残酷だ。
お前はあたしの想いになんか気付いてない。
そんな瞳であたしを見ないでくれ…
…そうだよ、やっぱり実際はあの本みたいに上手くなんかいかない。
創作は創作、現実は現実、だ。
「……してるよ」
「やっぱり!」
「でもさ、そいつは多分あたしの気持ちには気付いてないね」
「なんで分かるの?」
「…なんで、かな。
…分かんない。分かんないけど、なんとなくそんな感じがする。
…多分、今のところあたしに勝ち目は無い」
「そうなんだ」
「そういうお前はどうなんだよ、ルッキーニ」
「ん~~~…あたし今は恋とか分かんにゃい」
「…そっか」
「でもいつかシャーリーみたいに分かる日が来るのかな」
そうあっけらかんと話すルッキーニが少しだけ遠くに見える、そんな気がする。
…あたしは声を絞り出して答える。
「…来るよ。人を好きにならない人なんていない」
「…そう、なんだ」
「ま、お前はまだお子ちゃまだしな!まだまだ大人の世界に踏み込むのは早いって事だよ」
「ウニャ~、また子供扱いした~」
「ハハハ、そうやってむくれる所がお子ちゃまなんだよ」
あたしは繋いだ手の力を少しだけ強める。
夕陽に暮れる街並み。
あたしとルッキーニの影が伸びる。
「なあ、ルッキーニ」
「ん、なに?」
「お前が今より少しだけ大きくなったらさ」
「うん」
「お前に伝えたい事があるんだ」
「なんだろ~」
「アハハ、それまでにいろんな事を経験しとくと良いよ」
「ウニャ」
そう言うと、ルッキーニは手を離して、勝手に走り出す。
「シャーリーー!早く早くー!」
「ああ、分かってるって!そんなに急ぐと転ぶぞー!」
夕陽にルッキーニが照らされる。
――ああ、そうか。
そうなんだよな。
ルッキーニとは今はまだ“友達”でいい。
あの本みたいに、想いを伝える事は簡単なんかじゃないけど。
そんなに焦る必要も無いよな。
これから二人でいる時間の中で、あたしはどれだけルッキーニの事を知る事が出来るか。
ルッキーニはあたしの想いに気付いてくれるか。
それはまだ、未知数だけど。
それは多分、先の事だけど。
「ルッキーニ…いつかお前を撃ち落とすよ」
それまでは、片想いも悪くない。
「バーン」
そう言って、あたしは指で形作った“銃”を、ルッキーニに向けて撃った。
END