わんぱくガッティーノ軍隊デビュー
1943年4月 ─ ロマーニャ空軍にて11歳の少女にひとつの辞令が下った ─
【フランチェスカ・ルッキーニ少尉、1943年4月10日付で連合軍第501統合戦闘航空団への転属を命ずる】
「…あのわんぱくだった子猫がブリタニア、ねぇ…」
執務室で命令書類を作成しながらジュゼッピーナ・チュインニ特務中尉はふと少女がこの軍に入隊した日のことを回想する…
─ 約1年前、ロマーニャ空軍第四航空軍第二大隊基地の中庭 ─
「待ちなさい!まちなさいったら!」「やだよー、あっかんべー!なんであたしがこんなとこに連れて来られなきゃいけないのよー!」
少女は追いかけてくる女性兵士を尻目にすばしっこく逃げ回って翻弄する。
少女の名はフランチェスカ・ルッキーニ10歳、まだまだ子供盛りの彼女がなぜロマーニャ軍施設で追いかけっこをしているかと言うと…
数日前、ロマーニャ空軍のスカウトが自宅にやって来て、『魔力があるからウィッチとして軍に入隊して欲しい』と告げられたからである。
それを聞いた当初は「わたしもネウロイとせんそうするの?」とピクニックにでも行くような面持ちではしゃいでいたが、
いざ家族との別れ際にはさすがに10歳の少女らしく「やっぱりいくのやめるー!」泣き叫んで駄々をこねていた。
そして基地で追いかけっこ…「ほら、つかまえたわよ、おとなしくしなさい!」「やだーおうちにかえるーーー!」
「もう帰れないわよ」「やーだー!」
…こんなやりとりがしばらく続いた後、ルッキーニは観念したのか抵抗するのを止める。
「ウジュー…」「あーもう、唸ったってしょうがないの!ほら、司令部に行くわよ」
ルッキーニは兵士に手を引かれながらしぶしぶ歩く。
「…ジュゼッピーナ・チュインニ准尉、フランチェスカ・ルッキーニ少尉を連れて参りました」
女性兵士はため息がちに報告して執務室から退室した。
ルッキーニはソファに座って足をぶらぶらさせながらキョロキョロ周囲を見渡している。
「ようこそロマーニャ空軍へ、私はジュゼッピーナ・チュインニ准尉。階級はあなたのほうが上だけど軍人としては私のほうが先輩だからそのつもりでね」
「…フランチェスカ・ルッキーニ…です、よろしく。ところで少尉ってエライの?」
「飛行訓練と士官のお勉強は私が担当するから明日からビシバシしごくわよ!でも今日は初日だから訓練はナシよ。
後で基地の中を案内させるからそれまではゆっくりしてていいわ」
翌日から始まった訓練は言葉通り厳しいものであったが、水を得た魚のように
戦闘知識と技術を吸収してルッキーニはその才能を開花させていった。
…ブリタニア語と士官教育のほうはそれほどでもなかったが(笑)
─ それから一年の月日が過ぎた ─
いくつかのネウロイを撃墜して隊のエースへと成長したルッキーニはその成果を認められて、
近くブリタニアで結成されるというガリアのネウロイ攻略の最前線部隊へと配属されることになった。
「…この基地も騒がしいのが居なくなって寂しくなるわね…それでも、私の最期の仕事としてはまぁまぁかな」
ジュゼッピーナ・チュインニ特務中尉20歳、そろそろ空から降りる時期にしては上出来だと独り言をつぶやいているとドアをノックする音が…
「どうぞ」「フランチェスカ・ルッキーニ少尉、入ります」
end