christmas resistance
「あたし達はぁ~この圧政と暴政に断固反対するぅ~」
「するぅ~」
シャーリーとルッキーニが怪気炎を上げた。
「どうしたんですか、二人とも」
芳佳が朝食後の食器を片付けながら二人に聞いた。
既にミーナと美緒はさっさと食事を済ませ、執務室に行ってしまった後。
食後のひとときを過ごす隊員達で食堂はまだ賑わっていた。
「だってそう思わないか? 今日はせっかくのイブ、しかもルッキーニの誕生日だぞ?
なのにクリスマス中止だか禁止だかって、冗談じゃないよ」
「ホントだよ! あたしまだ祝って貰ってない!」
昨日の事はすっかり忘れた上で、憤懣やるかたないシャーリーとルッキーニ。
「仕方ない。ミーナの決めた事だからな。我々は多国籍連合だが、軍人は軍人だ。部隊長の命令とならば仕方ない」
トゥルーデが真面目に答える。
「何処までもおカタいんだから、この堅物はぁ。アンタの首筋についてるの、それ何よ?」
「なっ!?」
狼狽えるトゥルーデ。
「あたしらは何でこうなったんだか良く分かんないけど、いきなり年に一度の楽し~い行事を禁止だなんて
幾ら相手が中佐でも流石に許せないよ。だろう、ルッキーニ?」
「うんうん」
「私の、責任です」
リーネが思い詰めた顔をしている。
「リーネちゃん?」
芳佳が心配して肩を支える。
「私がしっかりケーキを作らなかったばっかりに、皆さんにご迷惑を……」
「そんな事ぁ無いよ。ケーキのせいじゃ……いや、よく分からないけど、とにかくリーネのせいじゃない」
「そーそー。リーネは全然悪くないよ」
エーリカがそっと口添えする。
「エーリカ。そう言えばお前……」
「いやん、もう旦那様ったら♪」
エーリカは自分のうなじを見せつける。くっきりついたキスマーク。
トゥルーデは顔を真っ赤にして、軽やかに逃げ回るエーリカを追っかけ回した。
「何だあいつらは」
呆れるシャーリー。
「楽しそうですね、あの二人」
「ともかく、私は地下に潜ってでも抵抗するぞ。この501にてクリスマスの自由と解放を求める政治的抵抗運動を行う~」
「行う~」
イケイケのシャーリーとルッキーニ。
「私も参加させて下さい。今度こそ、ちゃんとしたケーキを作って、ご馳走します!」
「よぉ~し、一名参加決定! 歓迎するぞリネット軍曹ぉ」
わははと笑うシャーリー。そしてリーネの手を取り、泣きそうな顔で言った。
「てか頼むよリーネ。この501でまともに綺麗でうまいケーキ作れるのリーネだけなんだ」
「は、はい。ありがとうございます。今度こそ私、がんばります!」
「私もリーネちゃん手伝うよ」
「よおし、宮藤も参加決定!」
「芳佳、扶桑のお祝いのお菓子も作って!」
「お祝い……扶桑でお祝いのお菓子となると、専門の職人さんが作るの多いから……
そうだ、きなこ餅とあんころ餅なら出来るよ? あと甘酒」
「何でもいい~作って~」
「分かった。リーネちゃんの手伝った後、私も作るよ」
「やった~」
「お、どうしたエイラとサーニャ。幸せの跡がたくさん付いてるぞ?」
「こっこれハ……違うンダ、その、え~っト。サーニャとゲームやってて……」
くいと袖を引っ張り、はにかんだ笑みを見せるサーニャ。
「おぉい、サーニャぁ」
「あははーここに居る皆がそうだからな~。じゃあ二人も参加決定!」
「何の事ダ?」
「まあまあちょっとしたお祭りだと思ってさ~」
エーリカをつかまえてヘッドロックをかましながら、ずりずりとトゥルーデがやって来た。
「お前ら、ミーナに刃向かう気か」
「ぐ、ぐるじいよトゥルーデ~」
「別に銃器持って暴れる訳じゃないし。ちょっとしたお祭り気分ってヤツさ」
笑顔のルッキーニを胸に置き、あっけらかんと言うシャーリー。
「リベリアンっぽい思考だな」
「そう言うアンタは堅過ぎるんだよ。で、あんたらはどうする? 乗る? 降りる?」
「乗るも降りるも、軍人たるもの……」
「トゥルーデ、面白そうだからやろうよ」
「エーリカ!? ミーナを裏切るつもりか?」
「いや~別にそこまで重いんじゃなくてさ。あとはちょっとした罪滅ぼしって言うか」
「やっぱりお前と言う奴は……っ!」
「私はみんなに幸せを運ぶ愛のサンタ~」
「悪魔だ! もしくは黒と茶のサンタだ!」
「黒と茶のサンタ……ハルトマンさんは仕置人なんですか……」
がくがくとひとり震える芳佳。
「ひっどいなあ。まあ、私達も出来る事有ったらやるよ? ウチのヨメもやるから」
「おい! 誰がやると言った!? てかヨメって……」
「じゃあ旦那様~♪」
「待て~!」
「ホント、楽しそうだなあの二人」
「ですねえ」
リーネが微笑む。
「よぉ~し、そうと決まれば即実行だ! まずはあたしのプランを皆に伝える!」
「全員が反抗ですって?」
息せききって執務室に飛び込んで来たペリーヌから話を聞いたミーナと美緒は驚いた。
「少佐、中佐! これは部隊の反乱ですわ! 一刻も早い処置を!」
「まさか……あれ程の痴態に及んだ末、反省どころか開き直って反抗だとは……良い根性だ」
美緒が扶桑刀を握ってアップを始める。
「待ちなさい二人とも。確かに昨日は……色々有ったけど」
こほんと顔を赤らめて咳をするミーナ。
「何も皆そこまで思い詰めて、過激な行動に走る事は無いと思うわ。静観しましょう」
「そんな! でも皆集まって……。わたくしは、あくまで、少佐と中佐の身を案じて……」
「まあ、奴等がストライカーを奪取しと武器庫を占拠するとか、そう言う話なら別だが」
「そうね。とりあえず私が様子を見てきます。二人は此処に残っていて頂戴」
ミーナは机の引き出しから耳に装着する無線器を取り出し、自分の耳に付け、護身用の拳銃を見えぬ様にそっと腰にたくし込んだ。
「何か有ったら知らせます。もし万一の場合は、貴方達に任せます」
そう言うと、ミーナはつかつかと歩き、執務室を出ていった。
ミーナは基地の中を巡りながら、何か異変や異常は無いか見て回った。
特に何もない。普通と変わらぬいつもの基地だ。別に怪しい気配は微塵も無く……
台所に来ると、リーネと芳佳が居た。何かを必死に作っている。
「あらリーネさんに宮藤さん。何をしているの?」
「ク……じゃなくて、ルッキーニちゃんのお誕生日祝いの為に、ケーキを作っているんです」
「あら、頑張るわね。宮藤さんもお手伝い?」
「はい! ルッキーニちゃんのお誕生日、みんなでお祝いしたいじゃないですか」
「頑張ってね」
「この後扶桑のお餅料理と甘酒も作るんですよ? ミーナ中佐も一緒にどうですか?」
「……後でね」
苦笑すると、ミーナは手を振って現場を後にした。
ロビーに出た。至る所、緑と赤、たまに金色の鈴や星など色とりどりの飾りが取り付けられている。
「あら? この飾りは? なんだかクリスマスっぽいけど」
「こ、コレハルッキーニの故郷のロマーニャの国旗をモチーフにあしらった飾りナンダナ。ルッキーニの為ダカンナ」
「あら、そう。サーニャさんもお手伝い?」
「はい」
「二人とも気合が入るのは良いけど……ここまでやらなくても」
ミーナが前に貼った「クリスマス禁止」の張り紙が、実に見事に隠れてしまっている。
「ルッキーニは寂しがりやダカラナ。寂しがり過ぎると死んじゃうンダ、ウサギみたいに」
「ほ~い、これ~」
「飾りの追加持ってきたぞ」
大きな箱を持って来たエーリカとトゥルーデ。
「あら二人も手伝い?」
「ああ」
「……まあ良いわ。終わったら、後で片付けてね?」
「了解」
ベランダでは、シャーリーがドラム缶で自作したバーベキューグリルで何かを焼いている。
筒の煙抜きから、もくもくと煙が立ち上っている。横ではルッキーニが眠っている。
「シャーリーさん、何を焼いてるの?」
「ルッキーニの為に七面鳥を焼いてるんですよ」
「ずいぶんと豪勢ね」
「あたしの国のバーベキューは奥が深くてね。網で豪快に焼くグリルがあたしは好きなんだけど、
こう言うお祭り……いや、お祝いの時は、好きな肉を半日以上掛けて弱火でじ~っくり焼くんだ。
そうすると身がホロホロに柔らかくなって、歯で噛まなくても良い位に肉がジューシーで軟らかくなって……」
「こ、こだわるのね、シャーリーさん」
「まあ見てて下さいよ」
にんまりと笑うシャーリー。
ミーナは苦笑すると、その場を離れた。
夕食時。
「ルッキーニ、誕生日おめでと~!」
「おめでとう!」
「ニャハー ありがと!」
何処からどう見てもクリスマス一色のロビーで、「ルッキーニの誕生日を祝う会」が盛大に執り行われた。
「はいこれ、あたしからのプレゼント」
「何これ?」
「開けてごらん」
「わあ、指輪! シャーリーとお揃い? お揃い?」
「堅物達には先越されたけどな~。一応どうよ?」
「ぴったり! ありがとシャーリー!」
抱きつかれ、笑顔のシャーリー、そしてルッキーニ。
「あの指輪……」
「どうかした、エイラ?」
首を捻るエイラと、その仕草に気付いたサーニャ。
「あれハ……この前ロンドンの骨董品市で売ってたハンバーガー四個分位ノ……」
「わあ言うなエイラ! 黙っとけ!」
シャーリーが必死にエイラの口を塞ごうと迫る。
「分かったヨ。ショウガナイナー」
ルッキーニの耳には全然届いてない。
「……あれ。あと、これ鍵? 何処の?」
「分かったら入れてあげるよ」
にんまりとするシャーリー。
「やるな、シャーリー」
「何だか恋人さん同士みたいですね」
ぶつくさと何かを言うエーリカ。
「え?」
「いや何でもないよ~。さて、私達からのプレゼントぉ」
エーリカとトゥルーデから封筒を渡された。中から出て来たのは、石の粒にも似た何かの欠片。
「わ~い……って何このカケラ?」
「ルッキーニにふさわしく、まさにダイヤの原石! 推定二カラットだよ~ん。どう? 結構するんだよ?」
「ダイヤ……。原石……。指輪とかじゃないの?」
指をくわえて原石を見るルッキーニ。
「私の荷物の中から出て来たんだけど、要らないからあげる~」
「そう言う事言うなって」
「荷物整理? ひど~い!」
「まあまあルッキーニちゃん、その原石、磨いて貰えばちゃんと綺麗な石になるから」
芳佳がフォローする。
「ホント?」
「加工費が高いだろうけどね」
にやりと笑うエーリカ。
「いじわる~!」
「まったく、探すのにかこつけて部屋の掃除させられた私の身にもなってくれよ」
トゥルーデも思わず本音が出る。
「やる気無いなああんたらは」
「ルッキーニ、私からは、コレヤルヨ。私の国では有名な飴ナンダゾ?」
「ありがと~!」
早速袋を開け、ひとつ口に放り込む。
「ヴェーダディコデー!!」
うええ、と苦悶の表情で飴を吐き出すルッキーニ。
「サルミアッキ。世界一と評判の飴ダゾ?」
「こんな不味いのいらな~い!」
「何が世界一なんだよ」
「まあ、私も持て余してたんだけどナ」
「エイラ、お前ってヤツは」
「あと、これ……」
サーニャが包みを差し出した。
「あれ、これ今流行りのやつだ! でも、これサーニャが大事にしてたぬいぐるみじゃないの?」
「私は……同じの持ってるし、もうこれ以上は、要らないから」
と言って、ぎゅっとエイラの裾を握るサーニャ。かあっと顔が赤くなるエイラ。
「……なんかビミョーだけど、ありがと。リーネは?」
「ブリタニア料理の……」
「芳佳は?」
「スルーしないでルッキーニちゃん! ロンドンまで買いに行く機会がなかったから、フィッシュ&チップス作ったんだけど」
「わあ、それ好き! ついついおやつで食べちゃうよね! わあ、今日のはフィッシュが大きいな~」
「あっはっは、ルッキーニ、食べないと大きくなれないぞ?」
シャーリーが言いながら、からりと揚がったポテトをつまむ。
「うん。ビールが合うね」
「シャーリー先にずる~い!」
「じゃあ、私からはこれ。どうかな?」
芳佳から箱が渡される。ルッキーニは丁寧に包んだ紙をびりびりとはがす。
「……扶桑人形?」
「扶桑海軍の連絡所に頼んで、ひとつ贈って貰ったの。私が持ってるのよりもサイズ小さいけど」
「よく出来てるねえ……細かいところとか」
「ルッキーニ、ベルトめくったりしないの」
「えーだってー」
「さて、全員プレゼントは贈ったな? じゃあ例のものを」
「了解~」
運ばれて来たのは、リーネ特製の四段重ねのデコレーションケーキ。丁寧にチョコレートで
《ルッキーニちゃんお誕生日おめでとう!》
と書かれている。
「あたしはメインディッシュだ」
ほかほかの焼きたてターキーを皿に取り分ける。
「半日バーベキューグリルと向き合って、煙ず~っと見てたら悟りが開けるかと思ったよ。柔らかくてうまいぞ?」
「わあい!」
「なんだかホントにクリス……」
「私の妹のクリスにも何かしてやりたいのか。分かるぞ宮藤」
芳佳の言葉をうまく遮るトゥルーデ。ナイスフォローとばかりに指を立てるシャーリーに、
少し顔を赤くして同じ仕草で返すトゥルーデ。
今度も同じ様にケーキを前に記念撮影をし……料理とケーキが渡り、ジュースやコーラ等の飲み物も全員に行き渡った。
「さて、料理も全員に渡ったな? じゃあ改めて」
「おめでと~!」
「ありがと~!」
「全員、待ちなさい!」
突然鋭い声が飛ぶ。ミーナと美緒、ペリーヌだった。
全員の動きが止まる。
場の空気が張り詰める。
「ちゅ、中佐……」「ミーナ中佐」「ミーナ」
厳しい表情のミーナを前に、戸惑う一同。
「これは一体どう言う事かしら? バルクホルン大尉、イェーガー大尉、説明しなさい」
「これは、ルッキーニの誕生日祝いで」
「そうそう。決してその……」
「坂本少佐、ペリーヌさん。あれを今すぐに外しなさい」
指差す先は、エイラとサーニャが丁寧に仕上げた飾り付け。
「ちょ、ちょっと!」
声を荒げるシャーリー。
「ミーナ、幾ら何でも……」
トゥルーデが動きかけた。
だが、ささっと外されたのは、飾り付けに埋もれた「クリスマス禁止」の張り紙。
ミーナは受け取ると、クシャクシャと丸めてごみ箱に投げ入れた。
唖然とする一同を後目に、口をぽかんとして突っ立っているルッキーニに近付くミーナ。何かを差し出す。
「ルッキーニさん、お誕生日おめでとう」
ルッキーニは少し震えながらその何かを開けた。
「これ……ハロッズのチョコレート」
「口に合うかどうかは分からないけど……み、いえ、坂本少佐とペリーヌさん、私の三人からよ」
「あ、ありがとう、ございます」
「ほらどうした皆? 私達の料理と飲み物は無いのか?」
美緒が催促する。
ミーナに引っ掛けられた、と全員が気付くのに時間は掛からなかった。
「中佐ぁ!」「酷いよ中佐!」「どうなるかと思った……」
安堵する一同を前にうふふ、と笑うとミーナは言った。
「みんなの頑張ってる姿見て……悪い事しちゃったと思って。私達家族なのにね。みんな、ごめんなさいね」
「そんな事は……」
「やったぞルッキーニ! あたしたちの勝利だ!」
「やったー」
ミーナ達にも料理とケーキ、飲み物が渡された。
「じゃあ改めて」
グラスを手にする501の面々。
「ルッキーニ誕生日おめでとう! そして……」
「メリークリスマス!」
「……まだイブだけどナ」
「このケーキ美味しいわね。リーネさん、流石ね」
「ありがとうございます。今回は頑張りました」
ケーキの乗った皿を手に、微笑むミーナとリーネ。
「これがリーネさんの作った、本当のケーキなのね」
「はい?」
「いいえ何でもないわ」
横ではペリーヌがきなこ餅で窒息しかかっていた。
「このパウダー掛かった扶桑の菓子……粉がむせる……中がネバネバして喉にっ詰まるっ!」
「食べ過ぎです! お水飲んで飲んで」
「わっはっは! ペリーヌがっつき過ぎだぞ? もっとこう細かくして食べるんだ」
トゥルーデはターキーのローストをかじり、呟いた。
「なるほど。確かに身が非常に柔らかくて食べやすい。リベリアンが作った料理にしてはよく考えてるな」
「素直に美味いって言えないかね~この堅物はぁ」
横で同じくターキーを頬張る北欧コンビ。
「サーニャ、美味いナ、コレ」
「うん」
「まだイブだけど……その、後で」
「?」
「イヤ、何でもナイ」
「おかしなエイラ」
くすっとしたその笑顔にきゅんと来たのか、顔を赤くしてうつむくエイラ。
そんな皆に囲まれ、幸せ一杯のルッキーニにすすっと近付く影。耳元でヒソヒソと囁く。
「ルッキーニ、実はもうひとつ秘密のプレゼント有るんだけど、欲しい?」
「欲しい欲しい! 石ころじゃなくて、もっとすぐに楽しめるやつがいい!」
「じゃあ、これなんかどう?」
エーリカはそっとルッキーニの手に何かの粉薬? を渡す。
「なにこの粉?」
「これをジュースに溶かして、寝る間際にシャーリーと一緒に飲むと良いよ。ちょっとしたおまじない♪」
「へえ~。じゃあ今夜二人で試してみる!」
「お楽しみに」
小悪魔的な笑みを浮かべるエーリカ。めざとく見つけるトゥルーデ。
「エーリカ。今の粉は何だ?」
「とってもハッピーになれる魔法の……」
「お前というヤツは……。何度やったら気が……」
「違うのよ旦那様! あれは魔法少女の私が~」
「待てぇ!」
「あいつら最近いつも楽しそうだな」
「シャーリー、後で、二人で少し飲まない?」
「お? ルッキーニ、もうオトナ気分か?」
「いいじゃん! あたしももう……」
「ここで年齢の話はやめよう」
すすっとミーナの傍から離脱するシャーリーとルッキーニ。
「芳佳ちゃん、この甘酒、美味しいね。妙にどろっとしてるけど」
「ホントは別の季節とかに作るんだけど、これなら良いかなと思って」
「芳佳ちゃんの作るのなら、何でも美味しいよ?」
「ありがとう」
夜も更け、酒が入り始めてから騒ぎは一層かしましくなり……。
疲れ切った面々が二人抜け四人抜け……やがてロビーには散らかったクリスマスパーティーの跡だけが残った。
「ふむ」
一人残った美緒は、明かりが落ち、まだ片付けられていないその空間を見回して、言った。
「諸行無常、盛者必衰だな」
「何の事かしら、美緒?」
いつの間にか、ミーナが傍に来ていた。
「いや。たまには息抜きも必要じゃないかと思った。それだけさ」
なるほど、と受け答えるミーナに、美緒は礼を言った。
「そう言えば、さっきのルッキーニのプレゼントの件、助かったよ。全く準備していなかった」
「この前のロンドン行きの用事ついでに寄っただけよ。皆で出した事にすれば喜ぶでしょ?」
「すまん、ミーナ」
「いえいえ。……そう言えば、さっき貴方は何故ここを見て、寂しそうな顔をしたの?」
「そう見えたか?」
「ええ。どうして?」
美緒の顔を見るミーナ。美緒は会場をぐるりと見回して、呟いた。
「皆が居なくなったパーティ会場の静寂。それが、少しそう思った原因かもな」
「やだ、美緒ったら」
くすっと笑うミーナ。えっと言う顔をする美緒に近付くと、耳元で、囁いた。
「皆、何で二人ずつ居なくなったか分かる?」
「?」
「さあ、もうちょっと余韻を楽しみましょう。私達も、二人で」
美緒には何も言わせず、腕を絡め、恋人繋ぎをして……、ミーナの部屋に向かった。
end