butterfly


「エーリカぁ!」
「きゃ~トゥルーデったら~♪」
最近よく見る光景だ。
からかわれたトゥルーデが顔を真っ赤にしてひらひら舞うエーリカを追っかけ回す。
周りの隊員もすっかり慣れた様子で
「よくやるよナ」
「……楽しそう」
「ウニャー あたし達もやってみる?」
「いや、あれはあれで結構体力使うと思うぞ?」
適当な会話を交わしながら、二人を生暖かい目で眺めるのがせいぜい。
たまにやり過ぎでミーナや美緒から雷が落ちる事も有るが、最近はこの二人も微妙におかしいせいで、いまいちぬるい。

こんな体たらくでネウロイと戦えるかっ! とばかりに空へ揚がると人格が変わるのが501の良い所で、
ここ最近のネウロイ戦では全戦全勝、味方の負傷や撃墜もゼロ。昇り調子とはまさにこの事……なのか。

そして今日も。
「エーリカ、お前ってヤツは~」
「うひゃ~旦那様が怒った~」
食後のお茶とお菓子もそこそこに、トゥルーデとエーリカの二人は何処かへと消えた。
逃げる際、エーリカはちゃっかりとお代わり用のケーキを一皿さらって消えた。
「よくやるねえ」
シャーリーが椅子に背をもたれて伸びをしながら言う。
「あの有様で……最先任で大丈夫なのかしら」
ペリーヌが口にする。
「まあまあ。ああ見えても戦いについて一切妥協しないってのは皆知っての通りだしさ」
珍しくフォローするシャーリー。
「そうですけど……ですから、余計に」
「言いたい事は分かるよ。でも、いいんじゃない。あれで結構良い気晴らしになるのさ」
「シャーリー、なに他人事みたいに~」
ルッキーニがシャーリーの膝の上にぴょこんと乗った。
「あーそうだった。これから二人でストライカーの整備だっけか」
「そそ」
「ほいじゃあたし達もこれで」
輪の中から抜ける二人。
「中佐、あのまま放置して宜しいのですか?」
「ペリーヌさん。気持ちは分かるけど……、まあ確かに、シャーリーさんの言う通りかもね」
「最近、何げにネウロイとの戦いも多かったからな。エース二人の心労も多いだろう。
少しでも気分転換と言うか、気が楽になるなら、それに越したことはない」
指揮官ふたりのフォロー。
「そう仰るなら……」
「ペリーヌ、お前はお前のなす事をすれば良い。それだけの事だぞ? お前はきちんと気晴らししてるか?」
美緒は湯飲みを手に、豪快に笑った。

エーリカが逃げ込んだのはトゥルーデの部屋。
最近はむしろエーリカの部屋と言っても過言ではない。
トゥルーデは軽やかに逃げるエーリカを捕まえると、ベッドに押し倒した。
ぶわさっとベッドが弾む。二人の息も弾む。トゥルーデの髪が、僅かにエーリカの頬に掛かる。
「エーリカ……お前ってヤツは」
「いや~んトゥルーデ」
「あんまり皆の目の前でだな……」
「旦那様じゃイヤ?」
「違う」
「じゃあ、ヨメで良いの?」
「もっと違う」
トゥルーデは軽い頭痛を覚えた。

ふたりは組み合ったまま、ベッドの上で問答を続けた。
「じゃあ、何て呼べば良いの?」
「普通で良い」
「トゥルーデ?」
「ああ」
「なんかそれじゃ、刺激が足りないって言うか」
「刺激も何も無いだろう! それどころか、他のヤツらの刺激になってないか?」
「そうかな」
「全く……これじゃ私達はまるでバカップルそのものだぞ」
「え? 私達そうじゃないの?」
「自覚してるなら自重せんか!」
「だって~」
首を傾け、キスマークを見せつける。言葉に詰まるトゥルーデ。
「誰がつけたのかな~これ。そんでもってトゥルーデにもついてるくせに~」
まるでルッキーニみたいな悪戯っぽい笑みを浮かべるエーリカ。
エーリカを拘束する力が不意に弱まった。するりと抜けると、逆にトゥルーデを抱きしめるエーリカ。
追い詰めたつもりが、見事に罠にはまった感じになるトゥルーデ。
ベッドの上で、しっかりとエーリカに抱きしめられている。
「これじゃあ……私は、エース失格だ」
トゥルーデはぽつりと呟いた。
「何を言ってるの。エースはエースだよ?」
「ネウロイとの戦績はともかく……最近は二人揃って皆の前で醜態を……」
「醜態? とんでもない」
エーリカはハナで笑って、言葉を続けた。
「私達はエースだよ。二人してこう、愛し合ってるとことかもね」
「それは人に見せつけるものじゃないだろう。それにエースって何だ」
「言い方受け止め方はともかく、今の方が面白いよ。私的にはね」
「おいおい……」
「それに、何事も楽しまなきゃ。せめて戦いの時以外は、もっとこう、気ままにトゥルーデと一緒に居たいな」
「それは、私も同じだけど」
「でもトゥルーデったら、隊の規律だの規則だの、色々縛られ過ぎ。シャーリーも言ってたよ、もっと気楽にって」
「あいつは気楽過ぎるんだ」
「まあ、私やシャーリー程じゃないにしても、もうちょっとリラックスしないと。ね?」
エーリカはトゥルーデの耳元でそう囁くと、分かった? とばかりに耳を唇で甘く噛んだ。
びくりと身体を震わせるトゥルーデ。身体が一瞬硬直し、すぐに脱力するのが分かる。弱点のひとつ。
エーリカはその機を逃さず、ぎゅっときつく抱き直し、口吻を交わした。とても濃く、顎の奥まで鈍く響く、甘い感覚。
はあ、と息をつくトゥルーデ。舌を絡め、雫が垂れるのもお構いなしに、お互いを貪る。
「ねえ、トゥルーデ」
「ん?」
「一昨日、シャーリーと何話してたの」
「いつ?」
「二人して寒い中バーベキューしてた時」
「あれか……」
「私達、隠しっこ無しだよ?」
「分かった、言う言う。あの堅物、数日前にルッキーニの機嫌損ねたみたいで落ち込んでてさ。
少し話を聞いてた。それだけの事さ」
「なるほどね」
「……思い出したぞ。そもそも、あの原因はエーリカじゃないのか?」
「何のこと?」
小悪魔的な笑みで返すエーリカ。
「お前がルッキーニに余計な事するから……」
「あれ、ただの粉薬なんだけどね。私の部屋に有ったんだけど……何の用途かは忘れた」
「そんなもんだろうと思ったよ」
少し呆れるトゥルーデの口を塞ごうと、また熱烈なキスをするエーリカ。
「ちょっと、服、邪魔だよね」
「私も、そう思った」
二人はお互いの服を慣れた手つきで脱がすと、第二ラウンドへと突入した。

夕食前。エーリカがかすめ取ってきたケーキを二人して分け合う。
「色々すると、少しお腹減るよね」
「ああ」
クリームが頬につくのも構わず、かぶりつき、ぺろっと舌を舐め、お互いの頬も舐める。
使い魔がやる行動みたいだけど、当の人同士でやると、お互いの姿を見て興奮してしまう。
愛し合う者同士故の性(さが)か。
食べ終わると、互いの指を舐め、そのまま唇を奪う。
ケーキを食べる時よりも幸せな、ひととき。
しかし、外で微かに聞こえるストライカーの音……帰還した隊員のもの……が、次の哨戒シフトを示唆する。
次の割り当てはトゥルーデだ。
「すまん。そろそろ夜間哨戒第一シフトの時間だ」
「分かってる」
ゆるゆると手を繋ぎ、指を絡ませ、もう一度、二人して気持ちを確かめ合い、一緒にする。
二人の指に燦然と輝く、絆のしるし。
「私、トゥルーデ帰って来るまで待ってる」
「ああ、大丈夫。きっと戻る」
「何か有ったらすぐに飛んでいくからね。絶対に守るよ」
「頼む。それに、お前と私には、ほら」
トゥルーデは自分がつけている指輪を見せつける。
「お守りみたいな……いや、それ以上のものだ。これを持っている限り、絶対に私はやられない」
エーリカは柔らかな笑みを浮かべると、トゥルーデを抱きしめた。
「私もだよ」

やがてふたりは空上と基地内の遠い距離へと引き離される。
でも大丈夫。
ふたりの心はいつも一緒にある。
だから平気。
エーリカは窓から滑走路を見、暗い空へと飛び立つストライカーの翼端灯を眺めた。
指に煌めく指輪と見比べて、うん、と頷いた。

end



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