chiffon
夕食と軽いお茶菓子の後、他の隊員との無駄話もそこそこに切り上げ、
トゥルーデの部屋でふたりっきりの時間を過ごす。
「今年もあと僅かだね」
「ああ」
「そう言えば、ここに来る前は、ミーナと三人一緒に年を越した事もあったよね」
エーリカが思い出しながら言う。
「そうだな。色々有ったな」
トゥルーデも過去を思い出し、椅子に寄り掛かり呟く。
「これからも、色々有るよ?」
にやけるエーリカに、トゥルーデは少しどきりとして答えた。彼女の笑顔のせいか、それとも……。
「トゥルーデ、これ見て」
エーリカが哨戒から帰って来た時、何か色々入ったかごを持っていた。
ベッドの脇にそれを置き直すと、トゥルーデの手を取り、ベッドへ向かう。
「どうした、エーリカ?」
トゥルーデが聞く間もなく、エーリカが口吻を求めてくる。拒む理由もなく、むしろ積極的に唇を重ねるふたり。
エーリカはキスを続けながら、トゥルーデの服を脱がしにかかる。
トゥルーデもいつもの事かと、エーリカの服を同じくするっと脱がす。手慣れているのは喜んで良いのか悪いのか。
程なくしてふたりはほぼ全裸に近い姿になる。
「さあ、じゃあ始めよっか」
「? 何を?」
キスの途中で突然言われ、一瞬何の事か分からないトゥルーデ。
エーリカはかごからふわふわの布地を出して、トゥルーデの身体に合わせる。
「これは?」
「フリル付きのランジェリー。どう?」
「どこでこんなのを」
「私の部屋から発掘~」
「お前の部屋は異次元空間か」
「まあまあ。トゥルーデに似合うと思うんだよね」
エーリカは綺麗に畳まれたランジェリーをふぁさっと広げると、トゥルーデの身体に纏わせる。
「……ちょっと小さいかもね」
「はみだすぞ」
妙に派手で、薄い生地がこれまた扇情的で……しかも均整の取れたトゥルーデの身体の各パーツが窮屈とばかりに
ランジェリーの隙間からあられもなくはみ出している。少しばかりの恥ずかしさを覚える。
「流石にこれは……ちょっと」
「私のもあるんだ。ほら」
と言って着てみる。エーリカは逆に少しぶかぶか、ゆるゆるだ。
だがそれが逆に……年端も行かない少女に無理矢理押し着せた様な背徳感が漂い……トゥルーデはごくりと唾を飲む。
「どう? ふたり揃ってイイ感じじゃない?」
「そ、そ、そうか、な?」
「トゥルーデ、何で目逸らすの? いつも何も着てない時と違うよ~」
ニヤニヤ顔のエーリカ。
「その……何て言えば良いんだ……目のやり場に……困る」
「もートゥルーデったら~ウブなんだから~」
しだれかかるエーリカに、トゥルーデは叫んだ。
「お前が先に進みすぎなんだ! 何処でこんなのを覚えた?」
「この前ロンドンに買い物行った時、偶然目にしてさ。結構派手なの売ってるんだよね。ロンドンって不っ思議~」
「そう言う問題じゃ……」
唇を塞がれる。エーリカは目を閉じ、トゥルーデを味わう事に専念した。
合わさる素肌と、所々で擦れ合う薄い生地の感触に酔いしれ……トゥルーデとエーリカは口吻を繰り返した。
やがて、乳房が合い、身体全体で、お互いを貪り始めた。
小一時間して、息も絶え絶えのトゥルーデ。いつも以上に欲情してしまい……本能と言うか野性に完敗してしまい、
途中からエーリカを押し倒し、口では言えぬ様な事を平気でがむしゃらにしてしまった。
言い知れぬ後悔と懺悔が頭を過ぎる。
同じく息の上がったエーリカが、微笑みながらトゥルーデに抱きついて言った。
「今日のトゥルーデ、凄い積極的~。嬉しい」
「私は、何て事を……」
「トゥルーデったらもう。さすが私の旦那様♪」
「だから旦那様は……」
「ヨメ?」
「違う」
「とにかく、用意して良かった。たまにはこう言うの、良いよね?」
息を弾ませ、トゥルーデの上に乗り、身体を預けるエーリカに笑顔で言われる。
「まあ……うん」
結局頷いてしまうトゥルーデ。案外流されやすくヘタレてる部分なのかも知れなかった。
お互いの指を絡ませ指輪の所在を確かめ、もう一度キスをする。
トゥルーデの解けた髪がベッドの上に緩いカーブを描いて散らばる。
エーリカの髪は、トゥルーデの頬の辺りを伝って、耳や首に掛かる。
トゥルーデはエーリカの髪を親指と人差し指でそっと触り、感触を楽しんだ。
エーリカもトゥルーデの髪に手を伸ばし、くるくると指に巻いて楽しんでいる。
薄い生地を通して伝わる、お互いの温かさ。呼吸。鼓動。そしてふたりのキモチ。
エーリカは一息つくと、ベッド脇のかごからまた何か取り出した。
色とりどりのリボンに織テープ。これをまた適当に、二人の身体に通し、きゅっと結びつける。
「こ、今度は何だ?」
慌てるトゥルーデの腕をきゅっと縛りながら答えるエーリカ。
「前に言ってたよね、トゥルーデ。夢で縛られたって」
「あ、ああ」
「あんまりぎゅうぎゅうにきつくするのは私の趣味じゃないから……こう言うのはどうかなって」
「包帯の時と似てるな」
さらっと過去の“ふたりのプレイ歴”を言ってしまうトゥルーデ。既に自覚が無いのかどうなのか。
「ランジェリーと合わせるの。それがまた彩りになるんだから」
「私達はサラダか何かか」
「うまい事言うね、トゥルーデ」
言いながらも、長いリボンやテープを結んでいく。
「どう?」
「どうって言われても……動けん」
「当たり前だよ。私も適当に縛っちゃったから、解けないよ~」
「ちょっと待て。万一誰か入って来たり、緊急の任務が有った時はどうすれば」
「ん~」
エーリカはちょっと考えた後、事も無げに言った。
「なるようになるっしょ」
「おい」
「トゥルーデ、どう? 離れたくても離れられないの。私達。ほら」
エーリカがごろんと転がると、トゥルーデもつられてごろりと転がる。ベッドから落ちそうになる。
「危ない」
エーリカの身体を持ち上げて回避し、ベッドに戻すトゥルーデ。
「トゥルーデ、こう言うこと前にした事ある? 慣れてない?」
「慣れるも何も……前に包帯で似た事したろ? それに……」
顔を赤くして口ごもるトゥルーデ。その表情をみたエーリカは小悪魔的な笑みを浮かべる。
「そう言うとこが、やっぱり好き、トゥルーデ」
身体が自由にきかないが、無理矢理に口吻を交わす。トゥルーデもその状況を受け容れ……
もうどうにでもなれとばかりに……エーリカの唇を奪い、舌を絡ませた後、吐息を絡ませながら、
エーリカの小柄な身体に没頭した。生地から除く素肌に舌を這わせ……
ランジェリーをすくいあげて秘蜜の部分を刺激し、舐め、舌で雫を味わい……
甘い声がエーリカの喉の奥から遠慮なく出る。
トゥルーデに負けじと、同じ事をし返す。
空戦で言う旋回戦闘みたいに……二人はお互いの身体を巡り……
縛られながらも、その拘束を楽しんで……
夜は更けていく。
明け方。
意識が鈍る頭を巡らせながら、ゆっくりとひとつひとつリボンやテープの結び目を外していくトゥルーデ。
「あと、ふたつ」
「よくやるね、トゥルーデ」
横では、すっかり疲労困憊の域に達したエーリカが虚ろな目でトゥルーデを見上げている。
「このまま朝になると、色々な意味でまずい」
「でも、楽しかったよね」
エーリカの問いに、一瞬の間が空く。
「うん」
小さく、顔を赤くしながら頷くトゥルーデを見て、エーリカは微笑んだ。
「またトゥルーデにやられちゃったよ……だいぶ仕返ししたつもりだったんだけどな」
「私も、エーリカにやられっぱなしだ。色々な意味で」
えへへ、と笑い、トゥルーデを引っ張ると、口吻した。
「これからももっと、色々な事しよう、トゥルーデ?」
「ああ」
「あ。今頷いたね? 良いって言ったね?」
「何かまずいか?」
「前のトゥルーデだったら『そんな事できるか~』って言ってたのにね」
「慣れてきた。お前に」
「ありがと」
トゥルーデは最後のひとつに取り掛かった。お互いの手首を結ぶ赤いリボン。しかしエーリカはどう結んだのか、
余りに結び目が固過ぎて解ける気配が無い。
「困ったな」
「このままでいいじゃん」
「外に出る時どうするんだ。繋がったままだぞ。これじゃまるで囚人だ」
「お互い、こころの囚われ人ってね~」
「エーリカ、面白い事を言うな」
「んふふ~」
嬉しそうなエーリカ。つられてトゥルーデも少し笑う。
「しかし困ったな。流石に繋がったままというのは……」
エーリカは歯でちょっぴりかじり、ほんの少しだけ切れ目を入れた。
「引っ張って」
お互いぐいと引っ張ると、結び目を残してリボンはお互いを自由にする。
だが、ふたりの腕には結び目を起点として、リボンの輪がまだしっかりと残っている。
「これは……目立つだろう」
「服の袖で隠せば良いよ。鋏で切ればそれまでだけど、何か勿体ないし、ちょっと気分良くないし」
「う~む」
ベッドの上はくしゃくしゃに解けたリボンやらテープやらが散乱している。
おまけに二人して遠慮なく行為にはしった為、普段はきちんと整頓されている筈のシーツや毛布もぐしゃぐしゃ。
そして当の二人はランジェリー姿のうえ半分抱き合った状態で、だらしなくベッドの上でのびている。
隊の誰かが入ってきて目にしたら、何と言われる事か。言われるだけでは済まされないかも知れない。
でも、お互い、愛おしくて仕方ない事は変わらない。むしろ想いは強くなる。
「まあ、風呂に入るまでは……このままで良いか」
「そうしよう?」
「ああ」
「お互い囚われの証ってね~」
「エーリカ。お前は時々詩人なのか悪魔なのか分からなくなるよ」
「そ~んな事ないよ。私はトゥルーデの愛しのひとだよ?」
「それは……間違いない。エーリカも、私の愛するひとだから」
「嬉しい。……ねえ、最後にもう一度」
エーリカのおねだりに、トゥルーデは身体を動かすと……ゆるりと抱きしめ、口吻を交わした。
最後のつもりだったのに、それが第三ラウンドの開始になってしまった事は言うまでもない。
きっかけはエーリカ。原因はトゥルーデ。
二人して、快楽の海に再び溺れていく。
目覚まし時計が鳴る頃、二人は本当に疲労困憊し……抱き合ったまま、ぐっすりと眠りに就いていた。
反射的に目覚ましに手が伸び、音を止め、また戻る。誰の手かは言うまでもない事。
ふたりの幸せな時間は、誰にも止められない。
end