光射す方へ
わたくしの敬愛する坂本少佐。
わたくしは貴女の事を、愛してやみません。
少しでも、この気持ちに対して想っていてくださるなら、深夜1時、食堂に来てくださいませ。
――わたくしの気持ちを全て込めた手紙。
形にするのは少し恥ずかしかったですけれど、行動を起こさないと、何事も始まりませんわ。
今、この気持ちを貴女に…
――光射す方へ――
一晩かけて書き上げたこの手紙。
この手紙には、わたくしの愛と苦労が込められています。
と、わたくしの部屋に風が吹き抜ける。
その風に乗って、まだ便箋に入れる前の手紙が何処かへと舞って行って。
「ちょっ…!わたくしの手紙がっ…!」
何故行動を起こした時に限ってこうなるんですのっ…!?
わたくしは急いで手紙を追って外に出る。
手紙を追うも、今日は風が強くて、なかなか手紙が降りて来ない。
「もうっ…!とことんついてませんわっ…!」
ヒラリ、ヒラリ。
風に舞う手紙。
いくら手を伸ばしても到底この手では届く高さでは無く、わたくしの気持ちをよそに手紙が速度を付けてヒラヒラ舞う。
「あっ、ペリーヌ」
「何をしてるんだ、ペリーヌ」
「大尉、ハルトマン中尉…!すみません、今ちょっと手紙を追いかけててっ…!
手が離せませんのっ…!」
わたくしはお二人の横を通り過ぎる。
「…なんだったんだ、一体」
「トゥルーデは本当に鈍いなあ」
「…?どういう事だ…?」
「ペリーヌは恋する乙女だよ。
恋する乙女に手紙と言えば…だよ」
「…ラブレターか?」
「そう!そしてあの様子からすると、せっかく書いたラブレターを風に巻き込まれて、一生懸命に追いかけている、と見た」
「ストライカーユニットで追いかければいいじゃないか」
「カ―――ッ!トゥルーデは分かってないなあ!分かってない!乙女心の何たるかが!
それじゃ意味が無いんだよ!自分の手で掴まなきゃダメなんだよ」
「…そういうモノなのか」
「そういうモノ!」
―――――――――――――――――――
まだまだ風がやむ気配は無い。
それにどんどん足に疲れが溜まってきた。
もう、ダメかもしれませんわ…
すると、突然風がフッとやむ。
本当に突然の事で、わたくしも対応が出来なかった。
風の力から解き放たれた手紙がヒラヒラと落ちて来る。
そして、手紙が落ちた先は…
「…ん?なんだこれは…?」
「さっ…坂本少佐っ…!//////」
よりによって坂本少佐の元へ落ちるなんて…!
「なんだ、ペリーヌ、お前のか」
「えっ、いや、そのっ…//////」
なっ、なんて答えたら良いんですのっ…!?//////
ですけど、ここで物怖じしていては、動き出す物も動き出しませんわっ…!
「…あの、坂本少佐」
「ん、なんだペリーヌ」
「それ…坂本少佐へのお手紙…です」
「そうなのか」
「さっ…坂本少佐…!」
「なんだ」
「そっ、その手紙はわたくしが去った後ゆっくり読んでくださいまし!」
「あ、ああ…」
わたくしの鬼気迫る表情に、坂本少佐は少し驚きながら、返事をする。
「で、ではこれでっ…!」
わたくしは坂本少佐の元を足早に去った。
手紙は渡した。
あとは…わたくしの気持ちが坂本少佐に伝わってさえいれば…!
―――――――――――――――――――
翌朝。
わたくしは失意のまま、朝を迎えた。
もしかしたら、とも考えて一晩中食堂にいたのだけれど…
やっぱり来なかった。
まあ、こんな事になるとは思ってはいたけれど…。
「坂本少佐…」
寂しさと悔しさから少佐の名前が口を吐く。
すると、後ろから声が聞こえて来た。
「すまん、ペリーヌ」
「坂本少佐…っ!」
「昨日はいろいろあって早く眠ってしまったんだ…!本当にすまん!」
「あっ、いやっ…!あのっ…」
あまりの驚きで、言葉が出ない。
伝えなければいけない事があるはずですのに…
「…それでペリーヌ。あの手紙の事だが…」
「……はい」
「お前が私を想ってくれていて嬉しい。だが、私は考えたんだ。お前にはもっと相応しい人がいるのでは無いか、と」
「……」
…終わり、ですわね…。
「…しかし、お前がそこまで私の事を想っていてくれているのなら…私にはお前の気持ちを拒否する理由は無いな」
「…え…」
「ペリーヌ。こんな融通の効かない女で本当に良いのか?
お前は…こんな私をずっと、好きでいてくれるか?」
…あ、あれ、悲しくも無いのに…どうして涙が…流れるんですの…?
「…わたくしは、坂本少佐のそんな所も愛してますわ…。でなければ…こんなに長い間、貴女だけを一筋に想ったりしません…!」
「…そうか」
坂本少佐はニコリと笑ったかと思えば、わたくしをギュッと抱き締める。
「ささささささささ坂本少佐っ…!!////////////」
「そんなに私の事を好きでいてくれたのか…。嬉しいな、ペリーヌ。
人に想われるとはこんな気持ちなのだな」
「坂本少佐…////////////」
「…好き、だ。ペリーヌ」
「坂本少佐ぁっ…//////////////////」
ああっ、坂本少佐からの告白っ…!
わたくしもう、死んでしまいそう…//////
「お前が私を長い間想っていてくれた分、今度は私がお前に何かを返さなければいけないな」
「えっ…いえ、そんな別に…!」
「ふむ、そうだな…」
と、坂本少佐は何かを思いついた様で。
「ペリーヌ、目を瞑れ」
「えっ、でも」
「いいからいいから」
「はっ、はあ…では…」
わたくしは坂本少佐に言われた通り、目を瞑る。
「…………坂本少佐、まだ目を開けてはいけませんの?」
すると、わたくしの唇に柔らかい感触。
こ、これは……
恐る恐る目を開けると…
「っ……!!!!!!!!」
坂本少佐がわたくしにキスをっ…!!!!
やがてお互いの唇が離れる。
「なんだ、目を瞑っておけと言ったのに、開けてしまったのか。フフ、仕方の無い奴だな」
「坂本、少佐…なっ、何をっ…!//////」
「ん?恋人同士がやる事と言えばやはりコレだろう?」
「いっ、いやこういうのはもう少し、段階を踏んでからの方が良いというか、あの、その…////////////」
「アッハッハッ!キスくらいでそんな事を言っていては、これからいろいろと辛いぞ!」
「なっ………!////////////」
わたくしの顔は火が出るくらい熱くなる。こっ、こんな事をさらっとおっしゃるなんて…!
そ、そういう所も、素敵ですけどっ…!//////
「ペリーヌ」
「はっ、はい」
「こんな私だが…これからも一緒にいてくれないか…?」
「そんなの…答えるまでも無いですわ…!」
「そうか、ありがとう」
「いえ、こちらこそ…」
わたくし達は見つめ合う。
「あ、あの、坂本少佐」
「なんだ、ペリーヌ」
「今度は、ちゃんと目と目で見つめ合ってキスをしたい…です…//////」
「アッハッハッ!そうかそうか!他ならぬペリーヌからの頼みだ。
今度は正々堂々、キスしよう」
「…はい…//////」
“坂本少佐…わたくし今、とてもとても幸せです”
…そんな事が面と向かって言えるハズも無く、わたくしは坂本少佐に抱き締められたまま、もう一度キスをする。
こうなる事を望んでいたハズなのに、いざそういう状況に陥ると、恥ずかしくて堪らない。
そんなわたくしの状況を察したのか、坂本少佐は少し、抱き締めを強める。
「ペリーヌ…」
「坂本…少佐…」
わたくし達は、しばらく夢の中へ…
このまま、覚めないで欲しいと何度願ったか分からない。
わたくしは心の中で何回も呟く。
「坂本少佐…貴女になら……」と…。
―――――――――――――――――――
「ペリーヌゥ♪」
「なんですの?ハルトマン中尉」
「坂本少佐とは順調みたいだね」
「なっ、何故その事をっ…!?///」
「みんな知ってるよ?ペリーヌが最近地に足が付いて無いって」
「もう…本当にこの隊の人達は…///」
「ねえペリーヌ」
「…なんですの?」
「幸せ?」
「…やけにストレートな質問ですわね」
「いいからいいから。幸せ?」
…はあ、このままはぐらかしていても良い事はありませんわね。
「…ええ、幸せですわ。…世界中の誰より一番、にね」
END