beginning
寝る間際、芳佳ちゃんが「姫初め」という扶桑の風習? を教えてくれた。
何でも、新年の初めに愛を確かめると言う事らしくて……その……
普段いつも毎晩している事なのに、言葉の魔法なのかな、芳佳ちゃんが凄く魅力的に見えて……
私は芳佳ちゃんに溺れた。
「リーネちゃん、もう四回目……私、もう……」
ベッドの上で、息が完全に上がってる芳佳ちゃん。目が潤んで、涙がつうと顔を流れる。
それすら魅力的に見えた私は、丁寧に雫を舐め取った。
フルマラソンの後みたいに、全身汗でぐっしょりの私達。髪も解けて、所々に見える愛した証も消える事無く。
ふらふらになりながらも、芳佳ちゃんは私の名を呼んだ。
芳佳ちゃんが、壊れそう。口からだらしなく涎が一筋。私は舐めて、そのまま唇を奪う。
「んんっ……リーネちゃん……」
芳佳ちゃん。私だけの芳佳ちゃん。ふらつきながら私の身体を抱きしめ、彷徨う様に髪を触り、胸に手をやる。
この胸も、髪も、身体も、全部芳佳ちゃんのだから。好きにしてね。
「芳佳ちゃん……好き。愛してる。だからもう一度……何度でも」
「リーネちゃん、私も、好き、愛してるよ。でも、私、私……おかしくなっちゃうよ」
「私もう、芳佳ちゃんにおかしくなってる」
身体の疼きを止められず、私は芳佳ちゃんを貪る様に、味わった。
芳佳ちゃんの声が甘い悲鳴に変わった。私も、負けじと芳佳ちゃんの名を呼び、行為に没頭した。
あれから何度交わっただろう。
芳佳ちゃんは完全にダウンして、ぐったりとベッドの上で寝ていた。
気絶したまま寝ちゃったのかな。
私は芳佳ちゃんを抱いたまま、優しく、芳佳ちゃんの頬を撫でる。
弱々しい息遣いも、寝顔も素敵。
そっとおでこに、頬に、唇を当てる。
私だけの芳佳ちゃん。
不意に、芳佳ちゃんが苦しそうな表情をし始めた。
少佐の名が、芳佳ちゃんの口から出てくる。少佐がどうかしたの?
ペリーヌさんとミーナ中佐も? 芳佳ちゃん、苦しそう。
芳佳ちゃん、うなされてるの? どうして?
一体どんな夢見てるんだろう。出来るなら、助けてあげたい。
でも、無理に起こすと悪いって聞いたし……そうだ。
お母さんに教わった、私の家に伝わる、悪夢の払い方。
ベリーを数種類混ぜて、身体と頭にそれで文字を書くと良いって話し。
早速やってみよう。
私は台所からブルーベリーにラズベリー、クランベリーなど幾つかの種類を持ち出し、
汁を混ぜて、芳佳ちゃんの頭に少し、お腹に少し……うわ、芳佳ちゃん急に寝返り打たないで!
ああ、芳佳ちゃんの服に、汁がべったりついちゃった……。まあ、これはこれで。
そう言えば、扶桑の言い伝えで、芳佳ちゃんに聞いた事がある。
ええっと……ホウキを逆さにして置いておくと、何かが……それは違ったかな。
でも、似た事をすれば良いのかも。夢に出てくる化け物を追い払うには……ええっと
ホウキの代わりに、銃で何とかならないかな。銃と言えば……そうだ。
私は芳佳ちゃんをそっと寝かせると、部屋から出た。
あ、台所にミーナ中佐が居る。……ちょうど良かった、ミーナ中佐!
「あらどうしたのリーネさん。そんな格好で」
あわわ……急いでたから上にシャツ一枚しか着てなかった。とにかく事情を説明しないと。ええっと……
「……なるほどね。宮藤さんがうなされているから、何とかしてあげたい訳ね」
そうです、ミーナ中佐。
「宮藤さん、熱とか無かったかしら? 体の調子が悪かったりすると、悪夢をみたりうなされたりするけど」
それは無いです。私と一緒でしたから。
「でも、銃ねえ……扶桑にそんな言い伝えが有ったなんて……後で美緒……いえ、坂本少佐にも聞いてみます」
ありがとうございます、ミーナ中佐。それで……今回だけ、何とかお願い出来ませんか?
「そうねえ……。じゃあ今回だけ、特別に貴方の銃器の持ち出しを許可します。名目は調整と点検と言う事でね。
但し何か有ったら困るから、武器庫で銃から弾薬を全て取り外して、持っていってね」
ありがとうございます!
私は御礼を言って、武器庫を目指した。……でも何で台所にミーナ中佐が居たんだろう。
ともかく、急いで芳佳ちゃんを助けないと。
これでよし、と。
ミーナ中佐の言う通り弾薬も全部外して、私はボーイズを担いで部屋に戻った。
護身用に持ってるPPKも、ついでに横に置いておこう。
あとは……私が護ってあげる。芳佳ちゃんに、どんな悪いやつが来ても。
芳佳ちゃん、まだ眠ってる。私は芳佳ちゃんをそっと抱きしめて、軽く口吻する。
不意に、私の名前が出て来た。
芳佳ちゃん、どんな夢見てるんだろう……。やめてって言われても、私何もしてないよ?
夢の中の私って、どんな風に見えてるんだろう……。芳佳ちゃんを……。
……やだ、私、なんで夢の中の私に妬いてるんだろう。これじゃあ病気みたい。
芳佳ちゃん……お願いだから、悪い夢は見ないで。
私が、芳佳ちゃんを夢の中でも守れたら。
私がそばについてるから。安心してね。
少し、穏やかな顔になった。うわごとも治まり、呼吸も落ち着いてきた。
良かった。やさしい寝顔も素敵だよ、芳佳ちゃん。
芳佳ちゃんの胸に手を当ててみる。普段は私の胸を触ってるけど、たまには良いよね。
鼓動も落ち着いてきた。
自然な膨らみが、ちょっと羨ましい。私の胸は大きくて、少し不便な事もあるし。
芳佳ちゃんが好きならそれで良いんだけど……。
私は芳佳ちゃんが起きるまで、寄り添って、一緒に居てあげる。
でも、芳佳ちゃんの寝顔を見ているうちに、何だかドキドキが止まらなくなって……
私は、いけない事をしてるのは承知で、芳佳ちゃんの唇を塞いだ。
ホントはゆっくり寝かせてあげたいけど、私、もうだめかも知れない。
芳佳ちゃん、好き。愛してる。だから、もう少し、私に、芳佳ちゃん、頂戴。
お願いだから。
今夜だけでも。
end