オペレーション宮藤


 目の前のかわいい妹(予定)の後姿に声を掛ける。
「み、み・・・みや、みふじぃっ!」
が、きわめて平静を装ったつもりで掛けた一言は、自分でも分かるほど情けないものだった。
「はい!」
 目の前に居たかわいい私の妹(予定)・・・もとい、宮藤芳佳は、そんな私の素っ頓狂な声に驚いて、まるで跳びはねるようにこちらを振り返る。
 あぁ、そんなちょっとした動作の一つひとつが愛らしいなぁ、芳佳は・・・今の動きなんてまるでリスのようだ。びっくりさせちゃってごめんよ。お姉ちゃん(予定)これからは気を付けるからな。
「あ・・・、バルクホルンさ・・・じゃなくて、バルクホルン大尉。えと・・・どうかしました?」
「大尉・・・、たいい・・・・・・、たいぃ?」
 あ・・・れ・・・・・・・?おかしい・・・ぞ?芳佳は今私のことを何と呼んだ?・・・大尉?だと?(脳内設定なら)『お姉ちゃん(予定)』と呼んでくれるはずでは?・・・いや、待てよ。『たいい』とは扶桑の言葉で『お姉ちゃん』という意味なのでは?だがそれにしても、芳佳の声はかわいいなぁ、まるで天使の歌声のようじゃないか。芳佳かわいいよ、芳佳。あの瞳なんて(略
「え?・・・あの、バルクホルン大尉?」
「・・・あっ、すまん」
 いかん、いかん。冷静になれバルクホルン。芳佳が困った顔でこちらを覗き込んでいるではないか。
 そう、これは現実なんだ。芳佳と私が姉妹の契りを交わしたのは私の妄想の中だけなんだ・・・。あまつさえ、実際には私と芳佳にはたいした交流もないんだ・・・。
 だが、これから仲良くなればいいじゃないか!そうだ、そのつもりでこうして芳佳に声を掛けたのではなかったか?よし・・・まずは
「あ、その・・・なんだ。えと、み、宮藤・・・・。その、バルクホルン大尉という呼び方だが・・・///」
 くっ、どうしたというのだゲルトルート・バルクホルン。ここからが・・・ここからが重要ではないか、勇気を振り絞るんだ!!
「・・・ッ、『バルクホルンさん』・・・でも構わんぞ!わ、私たちは家族なんだ!いちいち気を使うことなど!!・・・ない・・・・・・だろう・・・?」
 言うだけ言って、私は自分の顔が熱くなるのを感じて顔をすぐさま伏せてしまう。・・・何とか、言い切れたのか・・・?
 芳佳の様子は?・・・無理だ、芳佳の反応は気になるがとても芳佳の顔を見れそうにない。
 突然、あんな大声を上げたんだ、驚いていないわけがない。もしかして、変なヒトと思われたかもしれない。どうしよう。どうしようどうしよう、どう・・・
「あ、あの!・・・、本当に、いいんですか?」
 え?今、芳佳はなんて?・・・いや、聞き間違いじゃないのか?・・・だがもしも、聞き間違いじゃないとするとここでの返事は重要になるぞ、どうすればいいんだ?どうすれば・・・あせるな、ここでの返事は重要だぞ、よく推敲して・・・私は芳佳に対する最も適切な返事を考え始めたが
「っ!?・・・もちろんだとも!!」
 頭の考えとは裏腹に、私の口からは全く考えのない返事が滑り出していた。
 なんで、私はいつもこう肝心なときに考えなしの行動をとってしまうんだ。・・・と、自己嫌悪をしだすと。
「じゃあ、えと・・・・・・バルクホルン・・・さん。で、いいですか?」
 芳佳のそのはにかみながらの一言に、私は天にも昇る気持ちになった。

「良いも悪いもないじゃないか。もちろん私はぜんぜん良いのだぞ、あっ!?もし、宮藤がそれでもなお呼びづらいようなら、『トゥルーデ』というのはどうだ?というか、むしろそれで頼む。そうなると、私の宮藤に対する呼称も『宮藤』のままでは申し訳ないな。そうだ!『芳佳』と私も呼ばせてもらっていいかな?うん、それが良い考えだ。宮藤にばかり・・・いや、芳佳にばかり要求していては不公平だからな、決して、私が『芳佳』と呼びたい訳ではないのだぞ、あっ、いや、呼びたいわけではないというのはそういった意味ではないのだぞ、先ほどの言葉に語弊があるようだから訂正しておくが、むしろ私も『芳佳』と呼べることはとてもうれしく思うぞ、そうそう、呼称といえば、少し話は変わるが私たちは家族なのだから・・・」
「おい」
「その、芳佳が気に入ってくれるのならば私のことを『お姉・・・」
「おい。・・・ったく、ゲルトルート・バルクホルン!!!」
「っ!?」
 馬鹿みたいな大声に、しょうがなく私がそちらに顔だけ振り向くとそこには
「なんだ、リベリアンか。」
 リベリアン。そう、シャーロット・E・イェーガーがそこに居たが、
「今、私は大事な話をしているんだ。用事があってもなくても後にしてくれ」
 そう言って、芳佳の方に私が顔を戻そうとすると、ヤツは溜息なんかついて一言
「宮藤なら、もう訓練に行ったぞ」
 そう言った。・・・・・・なに?
 私は、急いで芳佳の方に振り返ったが、そこにはもう誰もいなかった。
「あんた、全然状況が飲み込めてないわけ?」
 内心混乱している私に対して、後ろからそんなのん気な声が掛けられる。
「ハハッ、撃墜王ゲルトルート・バルクホルン大尉殿も宮藤の前じゃ随分と・・・」
「どういうことだ?」
「・・・?だからさ、アタシはあんたが結構可愛かったよって・・・」
「そうじゃない!」
 私はシャーロットの言葉を遮って、再び問いかける。
「私は芳・・・宮藤が訓練に行ったというのが、どういうことかを聞いているんだ。」
 正直、いつの間に芳佳が私の前から消えてしまったのかさっぱり分からない。
「『宮藤』ねぇ。・・・はぁ、今更『宮藤』なんて、変に隠そうとしなくてもいいよ。ほらほら、『芳佳』って言ってみ?」
「うるさいっ、茶化すな!質問に答えろ!」
 シャーロットのヤツがニヤニヤしながらそんなことを言ってくるから、顔が熱い。それを誤魔化すためについつい大声をあげてしまう。
「ほんとに可愛いなぁアンタは。・・・っと、そんなに睨むなって、はいはい質問に答えればいいんだろ。宮藤のことだよな?」
 なおも茶化してこようとするシャーロットを睨みつけてやったら、やっと芳佳のことを話す気になったらしい。こいつはなんでこうすぐに人をからかおうとするんだ。私は一刻も早く『芳佳が訓練に行った』というのがどういうことなのかを知りたいのに。
「いやさ、あんた宮藤から『バルクホルンさん』って呼ばれたとたん固まっちゃってさ。後ろから見守ってた私も驚いちゃったよ」
 なんだと?私が固まった?
「でさ、宮藤が話しかけてもそのまんまだったし、さすがにこのままじゃマズイかなぁと思ってアタシも出てったわけよ。ここまではOK?」
「あ、あぁ・・・。続けてくれ」
 コイツの言っているコトの意味がいまいち分からなかったが、どうもその意味の分からないコトは私のコトらしい・・・。
「それでも、あんたはウンともスンとも言わなくて、さすがに困っちゃったよ。で、肝心の宮藤なんだけど・・・訓練があるらしくてさ、遅刻させたらかわいそうだから先に行かせたんだよ。あ、愛しの宮藤に迷惑かけずに済んだんだから、ちょっとはアタシに感謝しろよな」
「・・・・・・すまない」
 つまり、私は芳佳にまた情けないところを見せてしまったらしい。
「・・・そう気を落とすなって。・・・・・・そうそう、面白かったのが。あんたさ、宮藤が居なくなったとたんにいきなりいろいろしゃべりだすんだもんな。『トゥルーデ』がどうの『芳佳』がこうのやら、思い出すだけでも・・・っぷ」
 シャーロットが笑いをこらえる。
 どうも、私が調子に乗って芳佳にまくしたてていた言葉は芳佳には届いていなかったらしい。冷静になってみると、それはその方が良かったのだろう。だが、シャーロットには聞かれていたみたいで、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「ん?ん?どうした?顔、真っ赤になってきたぞ?あれは、意味わかんなかったし、相当恥ずかしかったもんな。良いも悪いもないじゃないか。もちろん私はぜんぜん良・・・」
「うるさい!!黙れ!黙れ!黙れ!」
 シャーロットがあのときの私の言葉を復唱しようとするので、たまらず大声で遮る。
 だが、シャーロットがこうやって私を元気づけようとしてくれていることは、なんとなく分かる。コイツにはこういう優しさがある。そこには、私以外にも多くの者が助けられている。
「でもさ、宮藤には『バルクホルンさん』って呼んでもらえるようになったんだから、一歩前進じゃんか。迷惑じゃなかったら、またアタシも相談ぐらいにはのるからさ。さっさと元気だしなよ」
 そうなのだ。今回の宮藤と仲良くなるために話しかけることも、シャーロットに相談を持ちかけてアドバイスをもらってから実行に移したことなのだ。
 ハルトマンやミーナに相談すると後々なにを言われるかも分からないので気が引けて、シャーロットが芳佳とそれなりに仲がいいということで、最初はなんとなくで相談にのってもらったが、コイツには随分と助けられた感じがする。
 今日など、頼んでもいないのにわざわざ見守りにきて、どうも私が固まっている間にフォローまでしてもらったようだ。
「・・・ありがとう・・・・・・」
 これだけいろいろしてもらったんだ、礼ぐらい言うべきだろ。そういう訳で一応、感謝の言葉を口にする。いささか声が小さかったような気もするが、まあ仕方あるまい。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 シャーロットのヤツはまるで狐につままれたような顔をしている。
「何かおかしかったか?」
「いや、おかしいってことは何もないんだけどさ。さっきのは感謝の言葉ってやつだよね?まぁ、小声で聞き取りづらかったけど。」
 そんなことも確認しなければ分からないのかコイツは?癪だが一応「ああ」とそっけなく応えてやる。
「そうかそうか。うんうん」
 シャーロットはなぜか楽しそうに頷き始める。なんなんだコイツは?
「だから、何かおかしかったか?と聞いているんだが」
「あんたが『ありがとう』なんて言うのに驚いちゃって・・・。そうそう。この場合、どういたしましてっと言っとけばいいのかな?」
 わざわざ、『ありがとう』の部分は私の口調をまねて言う。
「べ、別に私だってありがとうぐらい言える。それから、いちいち人をからかうな」
「はいはい。でも、私はあんたからありがとうなんて言われたのは初めてだと思うけどなぁ?」
「それは、普段のお前が感謝されるような行動をしないからだ。」
「そうかな?」
「そうだ。」
「う~ん?自分では結構、アタシってイイヤツって思ってるんだけどなぁ・・・」
「気のせいだろ」
 しばらく、こんな感じで押し問答が続いたが、シャーロットのヤツが「やっと、いつも通りのあんたになってきたね。」なんて漏らすもんだから、こいつは私のことを元気付けてくれていたのではないかと思い当たり、とたんに気恥ずかしくなってしまった。
 それを誤魔化すために私は顔を横を向けたが、少しわざとらしくなってしまったか?
「おいおい、今度はどうしたんだ?」
 シャーロットが心配してきたということは、気づかれてはいないようだ。
「あっ、わかった。次はどうやって宮藤と仲良くなったらいいのかアドバイスが欲しいんだろう?」
 見当ハズレなことを自信満々に言ってくるが、話を適当に合わせるか。それに、宮藤と仲良くなる方法なら大いに興味をそそられる。
「今度は、宮藤と共通の話題・・・そうだなぁ、おんなじ趣味とかをもって、宮藤と楽しい会話をする。ってのはどう?」
 私が顔をシャーロットの方に向けるとこんなことを提案してきた。
 確かに、芳佳とろくに会話の続かない私にとって、共通の趣味を嗜むことは有効だろう。だが、芳佳の趣味・・・か。
「つまり、私も料理をできるようになれば良いということだな?」
「う~ん。料理でも良いとは思うんだけど、それじゃあ、あんたがまともに出来るようになるまで時間もかかるし・・・。悪いけどあんたが料理することを楽しめるとは思えないんだけど?」
 ふむ、なるほどコイツの言うことにも一理ある。だが、そうなると、芳佳の他の趣味を見つけなければならないが・・・・・・なにかあったか?
「料理以外となると・・・」
 私が芳佳の趣味が他にもないものかと考え込んでいると、シャーロットは「フッフッフッフ」なんて言いながらいつの間にか私の後ろに回りこんでいた。
「宮藤の大好きなものといえば・・・・・・これだっ!!」
「!?」
 なんて言いながら、私の後ろからのしかかってきた。さらにグイグイ体を押し付けてくるが、意味が分からない・・・・・・それに、正直少し重い。
 こんなことが芳佳の好きなものとどう関係しているんだ?なにより、シャーロットがグイグイ動くたびに・・・。どう考えても、ただの奇行なのでさすがに抗議の声を上げる。
「おい!これがなんだというんだ?意味が分からないぞ?・・・それに、お前が動くたびに背中で・・・その・・・・・・不愉快なものが動いているんだが?」
「おいおい。不愉快なものとは失礼だなぁ!?まさに、その『不愉快なもの』が宮藤が大好きなんだけど?」
「・・・・・・なに?」
 なおも、私の背中に引っ付いて縦横無尽に動き回るシャーロットを背中から引き剥がし、正面に向き直る。
「だからさ・・・宮藤は女の胸、おっぱいが好きなんだよ。」
 そう言うとシャーロットは、今度は正面から自分の胸を私の胸に押し付けてきて先ほどと同じように動き出しながら「これだよこれ」と言ってくる。
「ほらほら、宮藤の大好きなおっぱいだぞぉ~。なんなら、揉みしだいちゃっても良いんだぞ~」
 全く訳のわからない事態に私の頭はショート寸前だ。確かに、芳佳が女性の乳房に並々ならぬ興味を抱いているという話はきたことがあるような気もするが、これはいくらなんでも・・・・・・。
 さらに、止めとばかりにシャーロットが顔を少し赤らめながら発した一言。
「や・さ・し・く・し・て・ね」
 それを聞いた瞬間私は自分の顔がとんでもなく熱くなるのを感じて、いてもたってもいられなくなった。
「な、ななな、なんだと!?」
 そして思わず、シャーロットを突き飛ばしてしまう。
 「いてっ」とシャーロットが尻餅をついたことにも構わず私は後ろに振り向き走り出す。
 自分でもどこに向かって走り出しているのか分からないが、あまりのことに頭がどうにかしてしまっているようだ。
「じゃあ、今夜あんたの部屋で作戦会議な~!」
 という、シャロットの声が遥か後方から聞こえたが、それにも構わずなおも私は走り続ける。


「はぁ~あ。いくらなんでも、いきなり走って逃げちゃうこともないのになぁ」
 とっくに走り去って行ってしまったアイツのことを思うと溜息が漏れてしまう。
「よいしょっと」
 とりあえず、このまま尻餅をついたままというのもなんなので、その場で立ち上がる。
「これだから、カールスラントの堅物は・・・」
 アイツに対してこれまで何度吐いたか分からない台詞を、今は一人呟く。
 ふと、アイツがアタシの部屋を訪ねてきたときのことを思い出す。
 あの時は驚いた。今までアイツが私の部屋を訪ねてくるなんてことなんて今までなかったということもあったが、改めて思い返すとハッキリと分かる。私はアイツに惚れていたんだ。だから最初は内心スゲー動揺してたっけなぁ。
 惚れてるっていってもきっかけはよく分からない、でもそれを意識しだしたのはアイツが撃墜されたと聞いたときかな?あの時は、本当に、いてもたってもいられないってのがどういうことなのか身をもってよく分かったよ。
 それから、アイツの何気ない仕草の一つ一つが気になって・・・・・・今じゃアイツにメロメロだよ・・・。
 そんな訳で、アイツが私の部屋に来たときはイロイロ期待しちゃったんだよなぁ。まぁ、告白されちゃうかも?なんて考えは甘すぎたよな。
 でもさ、「宮藤と仲良くなりたいから手伝ってくれ・・・!」はないよなぁ・・・、ちょっとは空気読んで欲しいよアイツには・・・・・・はぁ・・・。
 まあ、アイツが喜んでくれるならって、手伝いを始めちゃったアタシもアタシなんだが・・・。
 だぁ~~!!ウジウジ悩んでもしょうがないよな!!
 今は、宮藤のおかげであいつと過ごせる時間が増えたんだ!やったぜ!!と前向きに考えることにしている。その方がアタシらしいしさ。
「うっしゃ!!早速、今夜だな!」
 先ほど無理やり気味にこぎ付けたアイツと会える時間を一人で口に出して確認する。
 アイツと会えるひと時のことを考えると自分でも驚くほど気持ちが昂ってくる。
 そういえば、今日のアイツがんばってたなぁ・・・。
 アタシもいつかはこの気持ちをアイツ・・・ゲルトルート・バルクホルンにつたえなくちゃな!!


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