あおぞら


身体が凍ってしまうくらいの強い風が吹き付ける寒い冬の夜。
吸い込まれてしまいそうなくらいに透き通った夜空を小さな光が流れていく・・・。
「また、流れ星だね」
白い息を吐きながら、嬉しそうに目を輝かせて彼女は冬空に指を差す。
まるで、子供が遊び道具を見つけたような、そんな無邪気な仕種。
「あぁ、綺麗ダナ・・・サーニャ、寒くないカ?」
「うん、大丈夫だよ」
笑顔で彼女に答えながら、私は解けそうになったマフラーを巻き直す。
一人で使うと長いこのマフラーも、二人で巻くとやっぱり少し短いらしい。
なるべく彼女が寒い思いをしないように、私はしっかりとマフラーを引っ張った。
「よし、っと。これでいいカナ」
「ふふ。ありがとう、エイラ」
にっこりと微笑んで、彼女は私の方にすっと身を寄せてきた。
私は少しだけ躊躇った後、思い切って彼女を抱き寄せた。

「ねぇ、エイラ。どうして星が綺麗に輝いて見えるか知ってる?」
冷たくなった缶コーヒーを飲んでいると、彼女が空を見上げたままそんな質問をしてきた。
・・・どういう意味だろう?
そう思いながら、私は飲み終わった缶を地面に置く。
「ウ~ン・・・太陽の光の反射角度の影響とかカナ? あとは冬だから空気が乾燥してて、空が澄んで見えるからとか・・・」
「うん、それもあるけどね・・・」
彼女は振り向いて、私の顔を見つめる。
水晶みたいに透明な彼女の瞳に私の姿が映っている。
「星が綺麗に見えるのは、エイラの心が綺麗だからなんだよ?」
「えっ?」
心が綺麗だから・・・そんな事を言われて、何だか凄く恥ずかしい。
お尻の辺りがムズムズしてくるようなそんな感じ・・・。
「昔ね、お父様が言ってたの。夜空は鏡だって・・・自分の心がそのまま映るんだって」
私の気持ちを見透かしてか彼女は悪戯っぽく笑う。
「だから、星がこんなに綺麗に見えるのは、エイラの心を映しているからなんだね」
「な、何言ってるんダヨ・・・か、風も強くなってきたし、もう帰るゾ!」
居ても立ってもいられなくなって、私はちょっとぶっきら棒にそう言った。

月の光に照らされたレンガで舗装された道は私達以外、誰も歩いていなかった。
シーンと静まり返っていて、何だか耳が痛くなりそうだ。
「静かだね・・・」
「そうダナ・・・」
私達はそっと手を繋ぐ。
彼女の細くて白い指は氷みたいに冷たくなっていた。
「サーニャの手、冷たいナ・・・」
「エイラの手は温かくて柔らかいね」
彼女の冷えた手が少しでも暖まるように、私は強く手を握る。
それに答えるように、彼女もぎゅっと力を入れてきた。
「・・・キスしよっか?」
「さ、さっき、したばっかダロ・・・」
「いいでしょ? しよ?」
私の腕に抱きつきながら、彼女は私を見上げた。
少しだけ潤んだ彼女の瞳に私は弱くて・・・。
「と、特別ダカンナ・・・」
顔にかかった彼女の銀色の髪をそっと払って、私は彼女に触れるだけのキスをする。
柔らかくて温かい甘い感触。
幸福感で胸が一杯になっていく。
「ん・・・こ、これでいいダロ・・・」
「うん。ありがとう・・・」
嬉しそうに彼女は微笑む。
私達はまた誰もいない夜道を歩き出す。
「明日も晴れそうだね」
「あぁ、雲も無いからナ」
「またお出かけしたいね」
「時間があったらナ・・・」
特に意味の無い、けれども幸せな会話を繰り返しながら私達は家路を進む。
空に浮かぶ沢山の星と大きな月が私達を照らしていた・・・。


―――ねぇ、云える?
いま星が光っている理由(わけ)
貴女の心を映しているからだよ

明日は心も空も素敵な青―――


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