泣けない夜も、泣かない朝も
枕に顔を擦り付ける。
知っていた。
知っていたのに、私は目の前にある事実を受け入れられずに独りきりの夜を過ごす。
外で寝るのもなんだか肌寒くて、あたしは今夜は珍しく部屋にいた。
「シャーリィ…」
声に出るのは、愛しいあの人の名前。
でも、いくら呼んでもあの人の心にあたしは無い。
人を想うのがこんなにも辛く、苦しいだなんて。
揺らぐ。
あたしの頭には、シャーリーの姿が浮かんだ。
揺らぐ。
あたしの頭には、キスをしていたシャーリーと大尉の姿が浮かんだ。
こんなこと、今思い出さなくてもいいのに。
まるで、さっきの出来事みたいに鮮明に甦ってくる。
ああ、今頃シャーリーは大尉と…
そう考えると涙が出そうになる。
でも、あたしは泣かない。
シャーリーにそう教えて貰ったから。
「……シャーリー…シャーリーなんか、大嫌い…」
ウソだ。
あたしはシャーリーの事が大好き。
ううん、愛してる。
その想いはシャーリーに恋人がいるって知ったその後も変わらない。
だから、余計に辛いんだ。
コンコン
ドアを叩く音がする。
「ルッキーニ、いるんだよね?
ちょっとお話しない?」
中尉の声。
あたしは返事なんかしてないのに、ドアが開けられる。
「ありゃ、やっぱり荒れてたか」
「…なんの用」
「お話しに来たんだよ。平たく言えば傷の嘗め合いかな」
「……」
「ま、ね、今回の件は私にとってもルッキーニにとっても、バッドエンド、だったね」
「…うん」
「まさかさ、トゥルーデをシャーリーに、シャーリーをトゥルーデに奪われるなんて、思ってなかったからちょっとビックリしちゃった」
「……」
「…ルッキーニはさ、シャーリーの事好きになって後悔してない?」
「え…」
「私はさ、正直言うとちょっとしてる。…こんな想いするなら…好きになるんじゃなかった、って…」
「あたしは…」
「ルッキーニは、なに?」
「後悔してない」
「…どうして?」
「だって片想いだったけど、シャーリーの事を想ってる間は幸せだったもん」
「ルッキーニ」
すると、中尉はあたしを抱き締める。
少し、中尉は泣いてる気がした。
「ルッキーニ…強いよ…ルッキーニのそういうとこ、見習いたいなあ」
「中尉…」
と、今度はパッとあたしを放す。
「うん、ルッキーニは強い子だ!」
「…中尉…あたし」
あたしが何か言おうとする暇も無く、あたしは中尉にキスされていた。
軽く、触れる程度の可愛いキス。
「中尉…//////」
「今度、二人の前でキスしようよ。きっと二人ったら唖然とするよ」
「あっ…えっ…//////」
「じゃ、おやすみ、ルッキーニ」
「…ええっ…おっ、おやすみなさい…」
あたしは、二の句を告げられないくらい、中尉に圧倒されていた。
でも、二人に見せつけるのも、いいかも。
あたしはそうぼんやり思いながら、眠りに落ちた。
あたしは夢の中でシャーリーとキスする夢を見た。
当然目覚めは酷く悪いモノだったけど。
あたしからは何故か悔しい気持ちが消え去っていた。
うん、シャーリーに会ったら精一杯の笑顔で、おはようって言おう。
泣けない夜も、泣かない朝も。
そして、あたしのシャーリーへの想いも。
みんなみんな、あたしの財産だから。
END