無題


それは休暇をもらった日のこと。
私とリーネちゃんはその日、一緒にお出かけすることにした。
…………したのだけれど。

「今日はいっぱい楽しもうね、芳佳ちゃん」
「え、あ……うん」
基地の廊下を二人で歩いていく。
楽しそうな笑顔のリーネちゃんとは裏腹に、私はどこか決まりが悪そうな返事。

昨夜あんな夢を見てしまったせいで、リーネちゃんをまともに見れない。
今までもたまにそういう夢を見ることはあったけど、あの海水浴の日から余計ひどくなった気がする。
しかも今日のはシャーリーさんまで出てきちゃったし……私の頭の中って……。
う。思い出したら何か変な気分に……。
「芳佳ちゃん、どうかした?」
「は、はひぃ!?」
びっくりしてつい変な声を出してしまう。
気づくと、リーネちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「なんだか顔赤いよ? 大丈夫?」
リ、リーネちゃん、そんなに寄られたら、そんな顔で見つめられたら、私――!
「ごめん! リーネちゃんは先に行ってて!」
「よ、芳佳ちゃん!?」





全速力で逃げ出してきた私は、トイレの中にいた。
ごめんねリーネちゃん。私、友達失格だね……。
個室に駆け込みカギを閉めると、少し気持ちが落ち着いたけど、身体の疼きは治まりはしない。
一回して、落ち着かないと……。
トイレに腰掛けて足を開く。
ボディスーツを汚さないように、ソコを覆う部分を横にずらして行為を始める。
スリットに沿って指でなぞると、じんわりと湿っているのが分かる。
「はっ……」
心地よい刺激に吐息が漏れた。
もっと欲しくて、何度も指を上下させる。
「……っ、……ふっ、んん、はぁっ……」
擦る度に増して行く気持ち良さに耐え切れず、思わず声が出てしまう。
口元を手で押さえようとしたが、濡らさないようにとずらしたソコの布は左手で押さえているし、
右手は本能のまま快感をむさぼるのに夢中だ。
だらしなく開こうとする口をきゅっと結び、必死に声を抑えようとする。
誰かに見つかるかもしれないという緊迫感が、私をさらに興奮させた。

行為を続けながら偶然下に向けた目線が、何かを捕らえた。
ドアと床の隙間から人の足が見える。
……つまり、そこに誰か…………いる。

「――――ッ!?」
思わず叫びそうになる喉を、すんでのところで思いとどまらせる。
ぜ、絶対、聞かれた!!
どどどどうしよう!?
知らん顔で出て行くなんて無理だし、このままずっと待っててもどうにもならないし、
ていうか早くどっかいってよぉ……。

はっ!? まさかこの人、このことをネタにして私をどうにかする気じゃあ……?
ああ、きっとそうだ、そうに決まってるんだ。
証拠写真を見せ付けられて、名前も知らないどこかの誰かに、弄ばれて犯されるんだ。
だったらせめて、潔く自分から……。
そう思った私は、立ち上がって自らドアの鍵を外した。

鍵を開けるやいなや、ずっとこちらの様子を伺っていたであろうその人が、ドアを押し退け
私に向かって倒れこんできた。
「きゃっ!」
私よりも大柄な体躯に圧されて、思わず尻餅をついてしまう。
つまり、相手に押し倒された体勢になってしまったわけで。
そんな、いきなり、無理矢理だなんて!? 恐怖にきゅっと目を瞑る。
今の私には、震える声を振り絞って、せめてもの願いを込めて、
「や、優しくしてください!」
そう叫ぶことしか出来なかった。





足音を殺して声の主へと近づいていく。
トイレに入ったとき、個室の一つからかすかに聞こえてきたこの声。
切なく甘いその声色は、あたしの好奇心を揺さぶるのには十分だった。
(この中だな……)
開いた扉が並ぶ中、施錠された個室が一つ。
内部と外部を隔てる壁に、耳を近づけ様子を探る。
(ふふ~ん。神聖なる基地内で、イケナイことしてる悪い子はおらねが~っと……)
もっと多くの音を拾いたいと思い、そっと耳と扉を密着させる。
そのとき、カチャリと鍵の外れる音。
(げっ、ヤバ……!!)
自然と扉に寄りかかる形になっていたあたしの身体は、内側に向かって開いた扉と共に、
個室内へ飛び込んでしまった。
「おわっ!」
私よりも小柄な体躯を巻き込んで、中にいた子と二人で床に倒れ込む。
つまり、相手を押し倒した体勢になってしまったわけで。
違うぞ、事故だ、不可抗力だ!
まずはこの子の上から退こうと両手に力を入れると、

「や、優しくしてください!」

と、下敷きになった相手が勘違いに満ちた叫びをお発しになられる。
いや、そんなふしだらな気持ちはちょっとくらいしかないぞ!?

……って、あれ?なんか聞き覚えのありまくるカンジの声のような…?
身体を起こしてみると、やはり見覚えのありまくるカンジの顔がそこにあった。
「お前、宮藤……だよな?」
声をかけると、彼女は固く瞑っていた目を少し開き、私の顔を確認する。
「シャーリーさん!?」
驚きに目を見開く宮藤。そうそう。あたしシャーリーさん。
それにしても、まさか宮藤の奴がこんなことしてるとは。
ところでこの状況、もしかしてあたし覗きになるの? 言い逃れの余地無し?
いやまあ、盗み聞きしてたのは確かだけどさ。
そんなことを考えていると、不意に廊下から誰かの足音が聞こえてきた。
まずい! この体勢のまま見つかったら、問答無用で変態節操なしの烙印を押されてしまう。
宮藤の身体の上からぴょんと飛び退き、ドアを閉めて鍵をかける。
倒れたままの宮藤を起こし、口と身体を手で押さえて身動きが取れないようにする。
って……これじゃあたし、誘拐犯か何かみたいじゃないか……。

やがて足音は遠ざかり、聞こえなくなった。
「……行ったか。とりあえず、見つからなくてよかった」

ふうと息をついて、宮藤を解放する。
宮藤の奴は別段逃げたり騒いだりはせず、じっと俯いたままだ。
びみょーに、気まずい……。
とりあえずあたしは変態でも誘拐犯でもないことを伝えねば。
「あ~っと、ごめん宮藤。あたしは別に……」
「あの、何すれば……いいですか?」
宮藤が私の言葉を遮るように言う。
「へ? 何って……何?」
「……わ、分かりました。恥ずかしいけど、シャーリーさんなら――」
そういってシャツを脱ぎ、さらにボディスーツまでも脱ごうとする宮藤。
ていうか、ちょっと待て! 何故脱ぐ!?
「ストップストップ! 脱がなくていいから、つーか脱ぐな!」
「あ……すいません。着てた方がいいですか?」
ボディスーツにかけた手を下ろす宮藤。
うん。『着てた方がいい』とかって、キミ何かとんでもない勘違いをしてないかい。

そうして彼女は便座の上に座り、そのままさっきの行為の続きを始めた。





ボディスーツの上から、ゆっくり優しく秘所を撫でていく。
ついさっきまでしていたせいで、もうそこはぐしょぐしょに濡れてしまっていた。
シャーリーさんは、私の目の前でじっと行為に見入っている。
その存在を意識すると、身体の奥が熱くなって、いつも以上に感じてしまう。
『オナニー』と言われたときは恥ずかしかったけど、いざ始めてしまうと、その恥ずかしさすらも
快感に変えてしまうのだから、人の本能は貪欲なものだ。

擦り続けていた手を止め、股間の生地をずらして肌を外気に晒す。
誰にも見せたことのない場所を、見られてる。
そんなことを考えるだけで、その奥から何かが溢れてくるのが分かってしまう。
「ひゃ……!」
少し触っただけで、信じられないくらいの刺激が身体を駆け巡る。
「はぁ……はぁ……はっ…………」
くちゅくちゅと指に愛液を馴染ませるように、丁寧にその割れ目をなぞっていく。
いつの間にか、シャーリーさんの頬はうっすら紅く染まり、少し息も上がっている。
「宮藤」
私の名を呼び、傍に寄るシャーリーさん。
そして、その顔がすっと私に近づいてきて――
「んむっ!?」
突然、唇にあたたかい感触。目の前にはシャーリーさんの顔。
え? これって……? 私、シャーリーさんと……?
「ごめん、ちょっと……我慢できないや」
唇を離したシャーリーさんはそう言って、もう一度私に口づけた。

長いキスの後、シャーリーさんは私の両足の間で膝立ちになった。
そして当然のようにあそこに顔を近づけられるが、その恥ずかしさは
さっきのように離れて見られていた時の比ではない。
「そんな、ダ、ダメですシャーリーさん!」
思わずそこを両手で隠そうとするが、優しく払われてしまう。
そして私を見上げて、口元に人差し指を立てるジェスチャーをする。
そうだ。ここトイレの中で……誰かに聞かれたら……。
はっとして口を手で押さえる。
それに満足したのか、シャーリーさんは愛液で濡れそぼったそこを、直接指でつつ、となぞりあげる。
「ッ!!」
予想以上の快感に、出そうになる声を必死に殺す。
胸の鼓動がこれ以上ないくらい、一気に加速する。
自分でするのと、全然、違うっ……。
シャーリーさんが立ち上がって、私の耳元でそっとささやく。

「宮藤って、かわいい顔して結構エッチだね」
すっとシャーリーさんの手が私の胸に伸びて、
「こんなに硬くなってる」
いきなり乳首をつねられた。
「ひあっ!」
不意打ちのような刺激に、堪えきれず声を上げてしまう。
「ごめん、痛かった?」
「はぁ……はぁ……っ、いえ……」
心臓が破裂しそうなくらいバクバク鳴ってる。

再び膝立ちになってあそこを弄くり始めるシャーリーさん。
撫でたり突付いたり、その度に声を抑えるのに必死になる。
割れ目の上のほうにある突起を、優しく触り始めたシャーリーさんに尋ねられる。
「ココ、自分でいじったことある?」
「んっ……はあっ、す、すこし、は………ふぁっ……」
「そっか。……じゃあ」
意地悪な表情になったシャーリーさんに、それを包んでいた皮をきゅっと剥かれる。
「はぁあっ!!」
それだけで信じられないくらいの快感が全身に走った。
「しゃ……りーさん……っ、そこ…だめっ……です」
息も絶え絶えに何とか言葉をしぼり出す。
真っ赤に充血したそれは、物欲しそうにヒクヒクしていて、ただ空気に触れているだけでも
私の脳に快楽の信号を送りつけてくる。
「宮藤、こういうのは好き?」
爪で陰核の付け根をコリコリと擦られる。
「ふううっ! んっ、ふあっ、はぁっ……! ふあぁっ!」
どうにかなってしまいそうなほどに、頭を揺さぶる快感の波。
懸命に耐えていても、もう頭の中では気持ち良くなることしか考えられなくなっていた。
「それじゃ、そろそろ……」
擦る指の速度と力が増され、どんどん絶頂に近づいていく。
もう限界……。そう思った時、ふとお尻を触られる感触。
まさか、シャーリーさん、それは絶対、ダメ――!
「イっちゃえ、宮藤」
お尻の穴にずぷ、と指を入れられた瞬間。
「―――――――ッ!!」
そこで私の意識は途絶えた。





最初に見えたのは、シャーリーさんの笑顔だった。
「おはよーさん」
寝ぼけた頭で、おはようございますと返事をする。
……私、寝てたんだ。じゃあ、今は朝かな。
その素敵な微笑みをずっと見つめていたい気持ちを我慢して、視線を横に滑らせてみる。
窓から差し込む光は朱に色づいていて、きっと今は夕方なんだろうなと思った。
……そういえば、ここは誰の部屋だろう。
私は誰かの部屋のベッドで横になっていて、シャーリーさんはベッドの縁に肘を立てて私を眺めている。
段々と頭がはっきりしてきた。そうだ、ここはシャーリーさんの部屋だ。
そうすると、どうして私はシャーリーさんのベッドで寝てるんだろう……?
明瞭さを増してきた意識が、前後の記憶をつなぎ合わせる。
あ、そうだ。私さっきトイレでシャーリーさんと――
気づいたときにはもう遅い。
一気に胸の鼓動が速まり、恥ずかしさで体温が上昇していくのが自分でも分かる。
「ッ、シャシャシャーリーさん、」
思わず飛び起きる。とにかく気恥ずかしさでいっぱいで、うまく口が回らない。
ええと、ええと、まずはどうして私がシャーリーさんの部屋にいるのか聞かなくちゃ――。
私の動揺を察してくれたのか、ずっと楽しそうに私を眺めていたシャーリーさんが勝手に答えてくれた。

「あの後、宮藤、気失っちゃってさ。ほっとくわけにも行かないから、私の部屋まで運んできた。
 誰か呼ぼうとも思ったけど……ほら」
すっと彼女が指差した先には、椅子の背に掛けられた扶桑のボディスーツ。
「あれは魔法でも誤魔化せないよなあ」
よくみると、ボディスーツの股座部分が濡れている。

ちょっと待って。あれが私のボディスーツで、それがあそこにあるということは。
さっきから感じていた、内股から下腹部にかけての物足りなさは。
「シャ、シャーリーさん! スースーしますっ!」
「濡れたまんまの着てるのも気持ち悪いだろうと思って、勝手に脱がせちった」
笑いながらあっけらかんと言い放つシャーリーさん。
「脱がせちったって、そんなあ……」
「まあほら、そこは……今更ってことで」
「それは……そうですけど」
やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんですよう……。
「というわけで、後輩想いのシャーリーさんは宮藤のために替えを取ってきてあげたのでした」
言いながらボディスーツを取り出してみせるシャーリーさん。
「ごめん。勝手に部屋お邪魔して、持ってきちゃった」
「あ、いえ、別に構わないです。ありがとうございます」
そう言いながら、彼女の手からそれを受け取った。

「それにしても、シャーリーさんが優しい人でよかったです。
 私てっきり、手錠とか掛けられちゃうのかなって思ってました」
「は? 手錠?」
「だってシャーリーさん、私を犯しに」
「……宮藤あんた、あたしを節操なしの変態発情ウサギか何かだとでも思ってたの?」
「す、すいません」
「否定は、しないんだ……」
やれやれといった表情でシャーリーさんは肩をすくめた。
「とにかくさ、そのー……ああいうことはもうやめときなよ。あたしが言うのもなんだけど
 誰が見てるかわかんないぜ?」
「はい…」
何だか情けなくなってベッドの上で小さくなる私の肩を、シャーリーさんは優しく叩いて。
「悩みでもあるんなら、いつでも聞いてやるからさ」
にっこり笑って、言ってくれた。
シャーリーさんと目が合うと、トイレでのことが思い出されてつい目を逸らしてしまう。
……さっきから何も気にしてない風だけど、シャーリーさんはどう思ってるんだろう。
ああいうことは慣れてたりするのかな……。
気になる。
……聞く権利くらいはあるよね。
「あの、シャーリーさん、いつもあんなことしてるんですか? …キス……とか」
「へ? どしたの急に……」
「わ、私は初めてでした!」
「あ~……。ええっと……」
ばつが悪そうに頭を掻くシャーリーさん。
その頬が紅く染まって見えるのは、窓から差し込む夕陽のせいだろうか。
「…………」
無言で返事を催促する。
観念したらしいシャーリーさんはそっぽを向いて、
「……………………初めてだよ」
小さな声でそう呟いた。
え――? 初めて? 私が、シャーリーさんの――
「ほっ、ほら! あっち向いててやるから、早く着替えなよ」
顔を隠すように、私に背を向けるシャーリーさん。
もしかして照れてる? そう思うと、ちょっぴり悪戯心が湧いてきた。
替えのボディスーツに着替えると、私はそっと彼女の背中に忍び寄る。
「シャーリーさん」
「ん? ―――んむぅっ!?」
こちらを振り返った瞬間、彼女の首に手を回し、背伸びをしてだまし討ちのキス。
密着した胸と胸からシャーリーさんのドキドキが伝わってきて、何だかうれしい気持ちになる。

口を離すと、硬直したシャーリーさんが目をパチパチさせていた。
「みっ宮、藤……?」
「さっき無理矢理されましたから、そのお返しです」
呆然としていたシャーリーさんは、はっと我に返ると私を両手で捕まえる。
「こいつっ!」
そしてまた、シャーリーさんと四度目のキス。
それは一度目より二度目より、三度目よりもずっと甘い味がして、
このまま時間が止まってしまえば…なんて恥ずかしいことを考えてしまった。





そのころ

「芳佳ちゃん、遅いなー……」

夕陽に染まった空を見上げつつ、待ちぼうけをくらっているリーネだった。


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