良き副官の恋


――ミーナ。私はお前の役に立てているか?

唐突なトゥルーデの問いかけに、私は驚いて書類を書いていたペンを止めた。
それは、部屋に入るなり「何か困ってはいないか」と言うトゥルーデに、
「大丈夫よ」と答えた直後のことだった。

「どうしたの、急に。」
「…いや、そうだよな。私では、頼りないよな。やはり、坂本少佐でないと」
「ちょっと、ちょっと」
話が見えない。
「美緒が、どうしたのよ」
「坂本少佐は、よくミーナの相談にのっているじゃないか。それに比べて私はミーナの…副官なのに」
ギュッと拳を握りしめ、うつむきがちで話すトゥルーデ。
唇がわなないているのが見えて、私は急に切なくなって、立ち上がった。
そしてトゥルーデのそばに行き、壊れものを扱うようにそっと抱きしめる。
全く、この子は…。そんなこと気にしなくていいのに。
トゥルーデは大人しく私に抱きしめられていた。
こういうふうにしたとき、私はいつも思うことがある。
本人にはきっとそのつもりはないのだろうから、言えないけれど、
トゥルーデは可愛い。
そしてトゥルーデはちょっと、たよりない。
少しだけ私より小さい身体で、精一杯、胸をはっている姿が。
「副官としてあなたはあなたに出来ることを立派にやってくれているじゃない」
慰めたくて、そう言った。すると、急にトゥルーデはみじろぎした。
「…すまない。わかっているんだ。
私は…規律一辺倒で、怒鳴ることしかできないから。
こんな人間に相談事なんてできないよな」

トゥルーデは私の腕の中から、するりと逃げるように離れてしまった。
「ちょっと…外の風に当たってくる」
そう言い残し慌てて部屋を出て行ってしまう。私は追いかけていいのかわからなかった。

トゥルーデ…またあんなに思い詰めて。
副官として役に立ってるかですって?
悩みどころはあの子らしいけれど…でも…
でも…本当にそれだけ?
「配慮が足りなかったのかしら。隊長として…失格ね、私」
「そうだよ、ミーナ」
自分の小さなつぶやきに急にそう返事がきて、驚いてドアのほうを見ると、
エーリカがふてくされたように頬を膨らませて立っていた。
「フラウ…聞いてたの?」
「なんでわかんないのさ。あんな慰めかたしたら、トゥルーデが傷つくじゃん。
私だって傷つく」
「どういうこと?」
私が、何を間違えてしまったというんだろう。
「そりゃね、少佐の器量に比べたら私なんてぜんぜんだし、
ミーナの相談事にまともにのってなんてあげられないよ。
でもさ、それとこれとは別ってこと」
エーリカはわざとらしく大きなため息をついた。
「早く追いかけてあげてよ、トゥルーデを」
エーリカは私の背後に回り込むと、ぐいぐい背中を押してくる。
私がドアの外に押し出され、エーリカは言った。
「ちゃんとあやまってこないと、ゆるさないから」
言葉に反して、エーリカの声色は優しいものだった。

滑走路のところで、私は星を見上げるトゥルーデを見つけた。
「風邪、引いちゃうわよ」
声をかけても、「そうだな…」と気の抜けた声で言い、こっちを見ようともしない。
そのつれない態度に少し、いじわるしたくなった。
「ねぇ……もしかして、妬いてるの?」
「…ッ!! 妬いてなんか!」
思惑通り、真っ赤になってトゥルーデはこっちを向いた。
その瞳は少し潤んでいて、私はぎょっとした。
「そんなんじゃない。そんなみっともないこと…」
私はどうしていいかわからないながらも、
しどろもどろに何かを続けるトゥルーデの隣に寄り添うように立った。
「ごめんなさい。実は、どうしてあなたを傷つけたのかわからなくて。
副官としての働きを気にしていたんじゃなかったなら、もしかして…って。
それに」
そこで、一旦言葉をくぎる。
私はトゥルーデのつめたくなった頬に手を置いた。あたためるように手のひらで
ゆっくりこすると、くすぐったそうにする。でも離れようとはしなかった。
「それに…そうだったら、ちょっと嬉しいなって」
トゥルーデは、びっくりしたように目を見開いて、それから急に真剣な表情になって
私の頬にゆっくりと両手をあてた。
お互いの頬を暖めあうような格好で、私たちは見つめあった。
トゥルーデの手はすっかり冷え切っていたので、私は冷たくて仕方なかったけれど。
「ミーナ。お前が謝らなくていい。私が…勝手にお前を好きで…
お前の役に立ちたいのに、悩みを分かち合うこともできないのが嫌だったんだ。
ひとりよがりな理由だろう?最低だよ」
「トゥルーデ…」
――それって、やっぱり嫉妬じゃない?
照れ屋のあなたが否定するから、その言葉は飲み込んで。
代わりに、そっと触れ合うだけの口付けを交わした。


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