私から
それは時間にすれば意外と短いのかもしれない。けれども私にとってみればその数倍、数十倍の長さを感じた。
彼女と繋がった瞬間、私の身体に凄まじい電撃がはしって意識が飛びそうになった。
この世にこんなに甘くて、恥ずかしくて、そして幸せなコトがあるなんて。
私から、エイラに、キス。
それはお姫様からヒーローへのお返し。
――――――
いつも通り昨日からの夜間哨戒を終え、エイラの部屋に潜り込む。
今日だけだかんな、と今日もエイラの不機嫌そうに見せかけた嬉しそうな声を聞きながら、エイラが空けておいてくれたベッドの半分を使って眠りにつく。
やっぱりエイラがいると落ち着く…。
「サーニャ。サーニャ、昼飯の時間だゾ。お昼ご飯食べいこウ」
お昼になり、エイラが優しく私を起こしてくれる。
「大丈夫カ?ほら、腕かして」
そう言ってふらふらしている私を支えてゆっくりと歩いていく。
お昼ご飯は自分の食事そっちのけで私に食べさせてくれる。
そのせいでエイラが食べ終わるのはいつも最後になってていつも悪いな、と思う。
お昼ご飯を食べ終えて部屋に戻る。
普段エイラはこれから訓練があったりして一緒に眠れない。寂しいけどエイラの仕事の邪魔をしてはいけない。
けど今日は。
「ニヒヒヒ。中佐に夜間哨戒任務貰ってキタ」
「ほんと?一緒に飛べるの?」
「アア、今日はずっと一緒ダゾー」
ずっと一緒っていう言葉が嬉しくてついエイラの胸に飛び込んでしまった。
「うわっ、サーニャ!おいぃっ!」
「一緒にいられるんでしょ?うれしい…」
「サーニャ…。うん、私も」
うれしいよ、と言ってくれた。
なんだろう…今ものすごく幸せ。
この気持ちをエイラも感じてくれてるといいな…。
「んじゃ、夜に備えて寝ヨ?」
「うん。ねえエイラ、腕まくら…して?」
「うぇぇっ!うう腕まくら?」
「…ダメ?」
「ウウ…。き、今日だけダカンナー!」
調子に乗ってとことん甘えてみる。
お願いはすんなり通ってエイラのしなやかな腕に頭をのせることができた。
なんだか腕に力が入っているようだけど寝心地は最高。
ついでにぬいぐるみの代わりにエイラの身体に抱きつく。
すると腕の力が最大になった。と思ったら急激に力が抜けていく。
どうやら先に寝ちゃったようだ。疲れてたのかな?
「お、おいサーニャ…?もう起きないト…」
「うみゅう…」ぎゅ
「サーニャ!お、おおおきてッテ!」
夕方。ぴったりとくっついて眠っていた私を困った声で起こすエイラ。
「ほら、しっかり食べろヨ」
「うん、ありがと…」
「ナ、ナンテコトナイって」
夕食。私が食べてる時世話をしてくれるエイラ。
エイラの優しさに護られ、それに甘えきってしまっている自分。
感謝してもしつくせないほどのものを貰って私は何か返すことができているのかな。
「エイラ。いつも私の面倒ばっかりみさせてごめんね」
不安に思った私は空で2人きりになった時にそうきりだした。
「どうしたんダヨ、急に」
「エイラは毎日私にご飯を食べさせてくれたり、ねぼけてる私を支えてくれたり…。いつも感謝してるの」
「ナンダそんなことカ。いいんだよサーニャは気にしなくテ。私が好きでやってるんダカラナ」
「でも…、私エイラにしてもらうだけでなにも返せてないんだよ?」
「だから気にすんなッテ。それにサーニャが私のそばにいてくれるだけで私は十分返してもらってル。むしろ私が返し足りないくらいサ」
「エイラ……。ありがとう」
「ふふん、こっちこそアリガトナ」
私がお礼言わなきゃならないのに。
頭の後ろで腕を組んでお礼言われちゃった。
エイラはすごいな…。
私もいつかエイラにきちんとお返しができるようにならないと。
それまでは
「エイラ」
「んー?なんだ?―――んっ」
私から、エイラに、キス。
首に手を回してできる限り近づいて、エイラの唇に自分のを押し付ける。
離れると顔が燃えるように熱い。
エイラの顔も真っ赤。
「サ、ササササーにゃ…?なななんで?どうして?」
「私から…エイラにお返し」
「お返しって、べ、べ別にいいって言ったじゃないカー!」
「ううん。だめなの…。エイラには感謝してもしきれないくらいいっぱいもらってるから…」
「だからっテ、キ、き、キス…」
「エイラは私のヒーローだから…。ヒーローにはキスかなって…」
「ひ、ヒーロー?私が?」
「うん。かっこいいヒーロー」
「そ、そんなんじゃネーヨ…。…じゃあ私がヒーローならサーニャはお姫様ナ」
「うん…。私をこれからも護ってね。私だけのヒーロー」
そうしてまた唇を重ねる。
今度はエイラも私を抱きしめてくれた。
今まで生きてきて一番幸せ。
こんなに幸せなお姫様は世界中どこ捜しても私だけ。
END