ため息の理由
私達は相性が良いと思う
ある日ふとしたきっかけで話しかけてから、波長でもあったのか二人で居ることが多くなった
そしていつの日か私には彼女が必要な存在になった。
私の隣にいないと落ち着かない
彼女が居ないと不安になる
でも彼女は?
彼女はどう思ってるんだろう?
友達?親友?それとも同僚?
私の彼女への気持ちが一方通行なのだろうか?
私が向ける気持ちと彼女の気持ちは同じじゃないんだろうか?
最近そんな事ばかり考えている
◇
「ハァ」
ため息をつきながらベットに寝転がる
最近ため息が増えた気がする。いや間違いなく増えた
悩みはもちろんサーニャのことだ。
まったく自分はいつからこんな一つのことに悩むような人間になったんだろう?
昔はもっとシンプルだったはずだ
きっとサーニャが私を変えたんだろうなぁ
そう思い窓から夜空を眺める
今日の夜間哨戒は宮藤とサーニャだ
前の夜間哨戒の任務を経験してから、ローテションにくまれるようになった。
意外とあの二人は仲が良い
それに珍しくサーニャが積極的に関わろうとしている相手だ。
宮藤のなにに惹かれたのかは解らない
ただ、興味があるらしいのは確かだ。
別にサーニャがだれかと仲良くなるのはかまわない
私だってそこまで縛るつもりはない
ただ最近
「あのね・・芳佳ちゃんの故郷はね・・・」とか「その時芳佳ちゃんがね・・・」
と明らかに宮藤絡みの会話が増えている
私は適当に相づちを打ちながら話を聞いているが
サーニャはその話をする時いつも以上の饒舌になって、なんだかひどく悔しくなる
そしてそんな事を考えている自分の器の小ささに、あきれてまたため息が出る。
「はぁ」
とにかくもう寝よう
こういう時は寝るに限る
そう思って布団をかぶるもののなかなか眠気は訪れなかった。
◇
ドサリとベットになにかが倒れ込んだ
もう毎度のことなので驚きはしないが、眠りから覚めてしまった。
なんで私の所にくるんだろう?
ほんとに寝ぼけてるから?人肌恋しいから?
サーニャが何を考えているのか解らない
もしかしたらそのうち宮藤の所にも行くようになるんだろうか?
「はぁ」
しまった、無意識のうちにまたため息をついてしまった。
だめだなぁ最近
とりあえずいつものようにサーニャの服を畳んでやる
この後大抵二度寝するのだが、今日はとてもじゃないがそんな気分じゃないので起きることにした。
サーニャを起こさないように、こっそりと部屋を出る
まだ早朝ということも有り、空気が澄んでいて少し肌寒い。
そろそろ冬が近づいてきているのだ。けどスオムスの寒さに比べればたいした事は無い。
そういえばスオムスからここに来てもう随分立つ
ここのネウロイを倒したら部隊は解散。サーニャとはきっとお別れだ
いつか別れるなら今以上の関係を望むのは止めた方がいいのかもしれない
きっとつらくなる
そんな事を考えていて廊下を歩いていると、宮藤が向かい側から歩いてきた
こいつまだ寝てなかったのか?
「よお、おつかれ」
「あっエイラさん。おはようございます」
「まだ寝てなかったのか?」
「寝る前にお風呂に入っときたくて、行ってきたんです」
「へーそっか」
サーニャは帰ってすぐ寝て、起きた後に風呂に入ることがほとんどだからなぁ
まぁ人それぞれか
「どうだった今日の夜間哨戒?」
「あっはい。今日はネウロイは出現しなかったので、大丈夫でした」
「いやそりゃ知ってるけど、なにしてたんだ?」
「えーとですね、今日はサーニャちゃんが故郷の話をしてくれました」
「故郷の?」
「はい。音楽学校の時の事とか、訓練校時代の事とか教えてくれました。この前は家族のことを教えてくれましたよ。
私の故郷の事も知りたいって言うからこの前教えてあげたりしたんですよ」
「・・・・へぇ」
そう言って相づちを打つ私の声はひどく冷く
楽しそうに語る宮藤を見る目はひどく冷淡だったと思う
「・・・・まっ仲良くやれてるんならそれで良いよ、ゆっくり休むんだぞー」
「あっはい。ところでエイラさんこんな早朝になにしてるんですか?」
「んー?目が覚めたかちょっと風呂でも入ってくる」
「そうですか、それでは」
「ん、おやすみ」
そう言って別れる
危ないちょっとイラッとしてしまった
思った以上に自分は独占欲が強いのかもしれない
今までは、サーニャの話し相手はほとんど私だった
そこに最近宮藤という存在が入ってきた
もういままでとは違う
二人きりでは無いのだ
「はぁ」
しらずまたため息が出る
とりあえず風呂に行くつもりだったけど、そんな気分じゃない
そこでふと思い立って私はある場所へ足を運んだ
◇
目的地はハンガーだった
このモヤモヤした気持ちを忘れるためには、なにか一つの事に集中したほうが良いと思ったからだ。
それにそろそろ整備しとこうと思ってた所だ
もちろん整備士の人を信用してないわけでは無いが、自分の命を預けるものだ
自分の目で確かめたいし、乗ってる私にしか判らない事もある
ペタリと愛機に触れる
そういえばこの機体に乗り換えてから、随分立つ
基本的に不具合は修理して直すし、今のところ撃墜された事もないでの乗り続けている
「さて、やりますか」
と思ったが自分の格好は寝間着にパーカーを着ただけだった
別にこのままの格好でもかまわないのだが、お気に入りの服が汚れるのはいやだ
そこでふと目にとまったのは、見慣れた作業着だった
あれはシャーリーのだよな?
そう思い手に取る
うん間違いないシャーリーのだ
たまにこの格好で整備してるのを見たことがある
「・・・ちょっとくらい借りてもいいよな?」
そう思いいそいそと着替え始める
身長的にもサイズ的にもそんなに問題は無い
よく使い込まれた作業着を着る
ついでに工具も借りることにした
まぁばれたそのときだ
さっそく作業を始める
といってもただの微調整だ
この前の戦闘の時にちょっと気になったエンジンバランスを少しいじるだけだ
ストライカーをいじっていると、自然に悩みは忘れていた
がちゃがちゃと早朝の静かなハンガーに音が響く
すっかり熱が入ってしまい、エンジンだけのつもり他の部分にまで手をだしてしまい
ふと気がつくとかなりの時間がたっていた
「あっちゃー」
時計を見るとかなり時間がたっていた
自分の手や服を見てみるとすっかりオイルやらで汚れていた
借りてよかった
結構汚してしまったので、後で洗っとこうかなぁ
と考えていると声をかけられた
「よっ」
「うわっ!」
後ろかいきなり声をかけられたので、ビックリしてしまった
振り向くとそこにはシャーリーがいた
「おまえがそんなに驚くところ初めて見た」
「・・そうか?」
「ところでなにしてんだ?私の服着て?」
「あー」
そういえば無断で借りてたんだった
「いやさーちょっとストライカー整備しようと思ったんだけど、作業着がなかったからさー」
「それで借りたと?」
「うん、ごめん」
「まっ別に良いけど、ちょうどそれを洗濯しようと思って、取りに来たんだから少しくらい汚れても」
「あっなら私が洗っとく」
「ん?いいのか?」
「まっ勝手に借りたわけだしそれぐらいはする」
「そっかなら頼むぞ」
「りょーかい」
「しかし意外に似合うな」
「なっ!褒めてもなんもないぞ」
「別に事実を言ったまでだよ、そんな照れるなって」
「照れてねーよ」
「ほんとにー?」
「当たり前だろ」
「まっいいけどさ」
そう言ってフンフンと鼻歌を歌いながら私のストライカーを眺めていた
「でっ何が合ったんだ?」
「へっ?」
「隠すなって、おまえと私の仲だろ?」
そう言って肘でつついてくる
「どんな仲だよ・・・」
「えっそれを私の口から言わせるのかよ」
「なっなんでちょっと怪しい関係っぽくなってるんだよ!」
「はっは、でもなにか合ったのは事実だろ?」
「・・・別に」
そう言って見つめてくるシャーリーの視線に耐えられず、目線を外す
「まぁおおかたサーニャ絡みなんだろけどさ」
「そんなじゃね・・」
「無く無いだろ?だいたい夜間哨戒明けのサーニャのそばに居ないで、こんな所に居る時点で変なんだよ」
「・・・・」
事実なので弁解出来ない
「たまにはお姉さんに悩みを打ち明けてごらん」
「一歳しか違わないだろ・・・」
カモーンと両手を広げるが、とてもじゃないが相談できない
なにせ私自身なにに悩んでるのか判らないんだから
「はぁ」
またため息をついてしまった
最近の悪い癖だ
「・・・・思ってる以上に深刻そうだな」
「どうなんだろうな」
「まっ私はここで適当に工具の整理をするから話したくなったら言えよ」
そう言って私が散らかした工具をしまっていく
なんだか一歳しか違わないのに私の方が子供みたいだ
普段手のかかる奴の世話をしてるからだろうか?
せっかく聞いてやると言ってるんだ、ここは一つ相談に乗って貰うのも悪くないかもしれない
「あのさー私とサーニャは割と他の隊員と居るより二人きりで居る方が多いだろ?」
「ん?あぁそうかもな」
「元々他の隊員との接点が少なかったのもあるし、私としては二人っきりのほうが良いからそれでかまわなかったんだけどな」
「うん」
「サーニャは宮藤が来てから変わった。サーニャがあれだけ積極的に関わろうとするなんて珍しいんだ。
もちろん変わらないヤツなんて居ない、それくらいは分かってる。でも最近じゃ私と話す時もサーニャは宮藤の事を話すんだ。
今まで友達が少なかったから嬉しいんだろうけど、嬉しそうに話すサーニャを見ると少し悲しくなって、そんな自分が嫌になる」
「・・・・」
「もう今までとは違う。私が必死に護ってきたつもりのサーニャはもう一人でも大丈夫なのかもしれない。
そうしたら私はもう要無しなのかもしれないな」
はっはと力なく笑いが出て
そう私は寂しいんだサーニャが私だけのサーニャじゃなくなるのが
「大事に育てた娘があっさり他の男の所にいく父親の心境か?」
「なんだよそれー」
「ただの例えだよ、でもおまえは今そんなかんじだろ」
「…かもな」
「おまえ以外と独占欲強いな」
「それも自覚してるよ、そしてそんな自分に嫌気がさしてるところだ」
「そう暗くなるなって、しかしなんでそんなにサーニャに執着してるんだ?」
「自分でもよくわかんないけど、なんかほっとけなくて」
「まっこういうのは口じゃ説明できないものか」
「なんだよー上から目線で」
「まっ私のほうがお姉さんだからな」
お姉ちゃんって読んでみる?
と笑いながら聞いてくるので
呼ぶわけ無いだろーと返した
うん、ちょっと元気が出た
やはり誰かに聞いて貰うのがよかったのだろうか?
それともシャーリーだからか?
「・・・・まっいっか」
深くは考えないことにする
「とりあえず風呂に入ってこいよ、それから朝飯だ」
「だな」
「まっ本当に寂しくなったら私の所にこいよ、慰めてやる」
「・・気が向いたらな」
「じゃな」
そう言ってシャーリーはハンガーから出て行った
断らなかった自分は、思った以上に誰かに頼りたいのかもしれない
いや甘えたいのか?
「はぁ」
深くは考えないことおにする
とりあえず風呂に入ってそれから今日どうすえうか考えることにしよう。
つづく?