無題


今は夜。
夜は、そう――サーニャが頑張っている時間。
そう思うと、寝てなんていられない。

窓から夜空を見上げ、また心で念じてしまう。

サーニャが、無事でありますように。
サーニャと、また会えますように。

祈ってばかり。

怪我とか、そうゆうレベルならまだいいんだ。
でも万が一、撃墜されたら――

…恐ろしくて、考えられない。

「帰って来いよな…」

私は月に、言葉を投げた。



実はまだ、私はサーニャに自分の気持ちを言っていないんだ。

大好きな、サーニャ。
想うだけで、心は溶ける。

だけど…。
やっぱり、恋人になりたいな。

手とか、繋いでさ。
笑いあってみたいんだよな…。

サーニャを好きになって、自分が女なんだなぁって実感するわけで。
まるで小説の恋する乙女だな。いや、違わないんだけどな。

でも。自分を女だと実感するたびさ、少し悲しくなっちゃうんだ。
やっぱ、サーニャ、女と恋人になんてなりたくないかな…。



朝。
私は目が覚めた。あれから寝ちゃったんだっけな。
あと5分だけ、寝ちゃおうかどうしようか迷っていると…ドアが開く音がした。

誰だよ朝早く…と思ったら。
やっぱり、な。

サーニャだった。
また間違えちゃった、私の天使…。

部屋に入るなり、いきなり服を脱いであっとゆう間に下着姿。
いつも思うが、無防備すぎだよ。
間違えても宮藤の部屋には入るんじゃないぞ?
そりゃ、宮藤がまさか寝てる状態の人に変なことするとは思い難いが、万が一サーニャが嫌な思いするようなことがあったらやだからな…。

サーニャは私の隣に倒れ込む。
まったく。本当、今日だけだからな…?

スヤスヤ眠る、私の思うサーニャ。
見れば見るほど、愛おしくて。

「…おかえり、サーニャ」

つぶやく私。
無事に会えて、嬉しいよ。
頑張って、みんなの夜を守るため、こんなにも華奢な体を使ってさ。
本当に本当に、お疲れ様。

私はベッドをサーニャに譲り、着替えて支度をした。

先ほど、サーニャが脱ぎ散らかした衣類をたたんでおく。
しわになっちゃ、やだもんな。

さて、朝食までまだあるけど部屋からでるかな、なんて思ってドアノブに手をかけたその瞬間、

「行かないで…」

なんて後ろで声がするもんだから。

「サーニャ?」

サーニャに近付く。
なんだ、寝言か。
ビックリしちゃったよ。




でも。
サーニャの閉じられた瞳から、涙が流れていたんだ。
一筋の、悲しい滴。

どうしたんだろう。
なんか、嫌なこととかあったのかな。
悲しむサーニャなんて、見たくないよ。

「…エイラ…」

またも寝言を言うサーニャ。
今度は私の名を呼んだ。
私の夢でも見てるのか?

「どうした…?なんかあったか…?」

手をとりサーニャに、語る私。

「…そばに、いて…」

…サーニャ。
その言葉を聞いてわかったよ。

サーニャは、寂しいんだ。

夜空、1人きりの仕事。
ただでさえ夜空は暗くて。
どんなに月が照らしても、どんなにラジオを流しても、闇に1人は寂しいよな。
帰ってきて、眠くって。
寝るときまで1人きり、そんなんやだよな…。

「…サーニャ…1人には、しないからな。…だから、泣くなよ。サーニャは笑顔が似合うんだから…」

語りかけた私。すると…

「…えへへ…ありがと…ね…」

笑顔に変わるサーニャ。
ほら、ね。
やっぱりサーニャは笑顔が可愛い。

手を少し、強く握って。
安心して、夢を見てくれ。

まだ寝言、言いたそうな口。
すると言葉が紡がれ出して…

「……だいすき…エイラ…」

え?
今、なんて言った…?



ただの寝言なのに。
自分の恋が実った、そんな気がしてしまって。
ばか、私。サーニャの好きは、そんなんじゃない。
そんなじゃ、ないんだから…。

でも、すっごく嬉しくって。

やだ、泣きそうだ…。

「…サーニャぁ…」

涙が、こぼれてしまった。
私の滴は、サーニャの瞳に落ちて。

「……エイラ?」

今度は寝言なんかじゃない。
開かれた、瞼。
サーニャは起きてしまった。

「どうしたの?…泣かないでよ、エイラ…」

もう、これ以上、自分の気持ちを押さえることなんてできなかった。
気が付くと、心の中の長い間あった、どうしても言いたくて、でも、決して言うことができなかった、ある言葉を言っていた。

「…大好き…」

「…え…?」

「…大好き、なんだ。サーニャのことが…」

…言っちゃった。もう、後戻りも何もかも、できないんだ。

「………」

黙らないでくれよ。嫌なら嫌だと早く言ってくれ。頼むからさ。

「…ごめん。今の、なし。忘れてくれ」

私は訂正することにした。いや、言ってどうにかなるわけじゃないけど。
この言葉のない雰囲気が、重くて嫌だったから。



「…忘れられないよ…」

ようやく口を開くサーニャ。

「…せっかくエイラが言ってくれた、大切な言葉なんだもん…」

サーニャはそう、言ってくれた。

「…サーニャはさ、私のこと、好き?嫌い?…勿論、友達としてじゃなく、ひとりの人としてさ…」

ねぇ…どう思ってるの?
さっきの寝言、やっぱり違うの?

ドキドキドキドキ。
うるさく暴れる私の心臓。
不安と、緊張。

嫌だよ、言わないで。
でも、言って。知りたいよ。
いや、やっぱり知りたくない…。

矛盾が私を支配する。



「…私…エイラが…好きだよ…」



時が、止まった。
そんな、気がした。


「…サーニャ…!!」

私はもう、じっとなんてしてられなくて。抱きついてしまった。

今まで思い続けてきたことが、全て実を結んだ。

そう思うと、嬉しくて。



「だいすき…だいすきだよ、サーニャ…」

「エイラ…こんなにも、私のこと、好きだったんだね…私も、大好きだから…」

囁かれる、サーニャの言霊。
…幸せ過ぎて、死んじゃいそうだよ…。

「…エイラ」

「………なんだ…?」

サーニャに何か、言われそう。何だろう。

「ありがとう…こんなにも、好きになってくれて…」

お礼、言われちゃった。

私も言わせて。

「こっちこそ、ありがとな…好きって言ってくれて…」



「私、もう行かなきゃだから…」

手をつないで。一緒にベッドに寝転がっていた私たちだったが、私はもう部屋を出なきゃいけないわけで。

「うん…頑張ってね」

ありがとう、サーニャ。
サーニャもぐっすり、寝るんだぞ?

「じゃあな…」

名残惜しいが、仕方ない。
すると…

「バイバイ」

といって、サーニャは手をふっていて。
私は、心が暖かくなってゆく。
私の好きな、可愛い天使。


私も軽く、手をふって。
バイバイなんて、言いながら。
私は部屋を、後にした。
また、ここに帰ってくる、そう決意しながら。

愛しの、サーニャが待つ場所に。


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