無題


夜中に目を覚ましてしまったわたしはキッチンへと向かっていた。
時計は二時を少し回ったくらい。
夜って少しわくわくする。何か起こりそうで。

ドアを開けると、キッチンの明かりがついているのが見えた。
かちゃかちゃ聞こえる。誰か何かやってる。ミヤフジだった。
ぶっちゃけて言うとわたしは、新人ミヤフジヨシカに心惹かれていた。
すき、なんだろう。ミヤフジがいるとなんだか嬉しい。いないとちょっと寂しい。
ふと気付くと、ミヤフジのことばっかり考えてぼーっとしている。
この間トゥルーデに怒られた。「最近いつになくたるんでる」って。
だってしょうがないじゃない。恋する乙女ですもの。

私はミヤフジに声をかけた。
「ミヤフジー?」
「ふわっ!…は、ハルトマンさん…?」
ミヤフジは手に持った…マグカップ?みたいなものを落としそうになってた。相当驚いたんだろう。
「なによー人をオバケかなんかみたいにー!」
突然声をかけたわたしも、まぁ、悪かったかもしれない。

「で、なにしてんの?」
「実はちょっと寝付けなくて…。で、明日…もう今日かな、夜間哨戒なので、朝まで起きてようかなって。」
ふ~ん。ちょっとつついてみようか。
「なんか悩みでもあるのかな~?」
なんて。
少しの、間。
あれ?わたしなんか触れちゃいけないところに触れちゃった?
「あの…、」
「ん…?」
「お茶、いかがですか?」

「うヴっ!」
ミヤフジにもらった緑色の液体を吐き出しそうになった。
「にっがーい!なにこれー!」
笑いながらミヤフジがこたえる。
「扶桑のお茶です。坂本さんが持ってきてくれたんですけど、評判があんまりよくなくて…。」
で、こうして消化してるわけか。
「んー、でも慣れれば結構いけるかも。」
「ホントですか!?」
おーおー目ぇきらきらさせちゃって。かわいいなあ。
わたしたちは、故郷のこと、仲間たちのこと、なんかくだらないことを話しながら過ごした。
マグカップみたいなものはユノミというらしい。

時計が三時を回ったころ。ミヤフジの口がとまった。
「…ミヤフジ?」
「…さっき、悩みが…っていいましたよね?」
「あー、うん。」
「その、件なんですけど。」
「おーなになに?この超絶せくしー魔法少女エーリカちゃんがなんでも聞いてあげるよ?」
なんだ、さっきわたしは図星をついていたわけか。
ミヤフジがなんかそわそわしてるけれど、とりあえず話を聞くことにした。
「で、なんだい?」
「すきな人ができたんです。」
これは意外。そしてちょっと悔しい。
でも、おかしいな。
ほぼ男子禁制のこの501で、だれをすきになるって?
「でも、いけないことだってわかっているんです。こんな状況だし、」
ミヤフジは話を続ける。ふむふむ。
「それに、女の人をすきになるなんて。」
ん…?女の人…?
「ちょっと待ってミヤフジ。それはつまりウィッチ隊の誰かってこと?」
こくり、と小さくうなずくミヤフジ。
なんてこった。なにか起こってしまった。

そこから二人ともしばらく黙っていた。
ミヤフジは俯いたままだし、わたしはわたしで、何を言ったらいいのかわからない。
お茶はすっかり冷めてしまっている。
「わたしの、好きな人は、」
先に口を開いたのはミヤフジ。わたしはなぜか畏まってしまった。
「とっても強くて、頼りがいがあって、」
「最初は、憧れだったんです。かっこいいな、とか、私もあんな風に、とか、」
「その人がいると嬉しくて、いないと寂しくて、気付いたらいつもその人のこと考えてて、」
「好きです。ハルトマンさんのことが。」
リーネのボーイズより、サーニャのフリーガーハマーより強い何かがわたしを打ち抜いた。
「わた、し?」
「はい。」
ミヤフジはもう俯いていない。まっすぐにわたしを見据え、はっきりと答えた。
なんてこった。両思いだったのか。

「あ、の、ごめんなさい。気持ち悪いですよね。忘れてください。」
ミヤフジはユノミを片付けようとしたのか、立ち上がった。
ちょっと待て待つんだミヤフジ。言われてばっかりなわけにはいかない。
「ちょっと待って。」
「ミヤフジは、自分のことをすきになってくれる人が居たとして、その人のことを気持ち悪いと思う?」
「…いえ。」
「わたしにもすきな人がいるんだ。その人がいると嬉しい、いないと寂しい。いっつもその人のことばっかり考えてる。」
「…?」
「にっぶいなあ。わたしたちどうやら両思いみたいだよ。」
ミヤフジはまたユノミを落としそうになった。そして、笑う。
まんまるな目に、わたしは吸い込まれていく。

「じゃあ、あの、おやすみなさい。ハルトマンさん。」
なんか違う。…わかった!
「ね、エーリカって呼んでよ?フラウでもいいよ?」
「えっと、エーリカ、さん?」
「エ ー リ カ!」
顔真っ赤にしてるよ。やっぱりかわいいなあ。
「お、おやすみ、エーリカ。」
「おやすみ、ヨシカ。」
わたしはそっと近づいてヨシカの唇を塞いだ。
唇を離して、わたしはそのまま背を向け自分の部屋に戻ろうとした。
きゅ、と服の裾をつかまれる。
振り返ると顔を真っ赤にしたヨシカ。
夜間哨戒、私も出られないか、ミーナに相談してみようかな。


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