ハルカのメガネ問題第一話『トラウマ』
─ 1939年も暮れようかという時期、初めて全員で協力して"連携"らしきものを駆使してディオミディアを撃墜した日から
数日後…迫水ハルカ一等飛行兵曹は"あること"で悩んでいた。 ─
「やっぱりあの人の前では"コレ"は使えない…戦闘に必要だとはいえ、こんなグリグリで厚底ではぶっさいくすぎて
あの人に嫌われちゃう…現にあの時だって…グスッ…」
…かと言って代用品があるわけでもなく、"それ"がなければ視力に問題のある自分は射撃が当たらなくて隊のみんなに
迷惑をかけてしまう…などと堂々巡りな思考に囚われていると、机の上にウルスラの眼鏡が置いてあるのが目に付いた。
「これって、ウルスラ曹長の…かな?ちょっとかけてみようかな…」
幸い本人は風呂に行っており、この基地の食堂には自分以外誰もいない。
恐る恐る年下の同僚のそれを自分の目の前に当て、レンズを通して周囲を見てみる…が、そもそも伊達メガネなので見えるはずもない。
「ハァ~…やっぱり伊達じゃ参考にならないよね…双子のお姉さんとの判別のためのものだそうだし…」
溜め息をつきながら元に戻してみるも、薄いレンズが気になってしょうがない。
「そう言えばハッキネン大尉も眼鏡をかけているし、一度相談してみようかな…」
しかし一介の下士官である自分ごときが基地の司令部へと気軽に立ち入れるはずも無く、
仮に相談できたとしても『外見なんて戦闘には関係ない』と冷たく切り捨てられそうな気がしてイマイチ気が乗らない。
行くべきか行かざるべきか…
「ハルカさん、こんなところで何やってるんですか?それにそのメガネ、ウルスラ曹長のじゃ…?」
「ひゃうっ!」 考え事をしているところへ急に後ろから声をかけられてハルカは固まった。
「い、いえ、なんでもないです!」 慌てて誤魔化そうとするが声が上ずってしまい明らかに怪しい。
「本当に何もなかったらいいけど…悩みがあるなら相談してね、私だって一応中隊長なんだから出来ることがあればしてあげたいし…」
エルマ中尉はそう言って不審がりながらも厳しく追求することはなかったが、心配そうな眼差しでひとつのことに思い当たる。
「…もしかして、この前のこと気にしてるの?」
*:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:*【この前のこと 】*:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:*
それはハルカが極度の近視で、眼鏡がないとネウロイどころか味方に銃口が向きかねない状態だということ。
しかし、その【厚底眼鏡をかけた自分】は外見的にコンプレックスになっており、出来れば避けて通りたい。
特に、自分が惹かれつつあるあの人─ 穴拭智子少尉 ─の前では死んでもその姿は晒したくない。
そう思っていても、不本意でも使うべきものは使わなければならない時は必ず来るものである。
そして、まさに"その時"は来た。
超巨大爆撃ネウロイ『ディオミディア』に対し遠距離から有効な射撃兵器を使えるのは自分しかいないという時、
とりあえず眼鏡無しで何とか撃ってはみたものの、狙いの定まらないものは当たるはずも無く弾丸は空を切る。
怪訝に思ったエルマ中隊長に近視であることを看破され、「眼鏡があるなら最初から使え!」と隊の全員から総スカン。
しかし『ぶっさいくな自分を晒すこと』に比べたら、愛する智子の扶桑刀で無礼討ちにされたほうがよっぽどマシだとさえ思えてくる。
使わなければ打ち首だと脅してくる上官に【眼鏡をかけて戦闘するかわりに自分を抱いてくれ】という冗談のような約束を
強引にとりつけメガネをついに装着…そこで悲劇は起きた。
「ぷぷっ!くすくす…」 なんと、智子に笑われてしまった。笑われてしまったのだ…
恋する乙女心はとても傷つきやすい。《やはり笑われるほどに自分の姿は…くっ…》
それでもなんとか『あの約束』を心の支えにして気を持ち直し自分の任務を果たし敵を攻撃するも、
約束の相手はそれを本当に守ってはくれなかった。
いざその時、智子は『自分はノーマルだから』と、暗闇で【そっちの趣味がある大尉】とうまく入れ替わり、事なきを得ていた。
しかしハルカは《やっぱり自分のメガネ姿がアレだから智子少尉は自分を抱いてくれないんだ…》と勘違い。
*:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:* そして現在に至る。 *:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:*
「…エルマ中尉、私はどうしたらいいんでしょうか…?ウルスラ曹長やハッキネン大尉のような薄型レンズのものは
自分の視力に合わないし…かと言って扶桑の技術力ではこの厚底が限界だし…やっぱり諦めるしかないんでしょうか?」
「メガネのことなら一度ハッキネン大尉に聞いてみたら良いんじゃないですか?それが手っ取り早いですよ」
「でも…大した用でもないのに一介の下士官である私が司令部に行くってのもどうかと…下手したら営倉行きになりかねませんよ」
「…しょうがないですね、わたしがそれとなく大尉に聞いてみます。『大尉のような知的なメガネはどうやったら手に入るのか』とか色々…」
「ぢゅうい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ーあ゛でぃがどうごじゃいましゅぅぅぅ…グスッ…」
「ですからその鼻水一杯の泣き顔を何とかして下さい。トモコ少尉に見られたらまた叱られますよ」
プープープー…ちーん!
「それではエルマ中尉、お願いします」
─ 部下の悩みを解決するために中隊長は司令室へ向かった。 ─
end
次回予告のようなもの(c/vできれば田中理恵)
カウハバ基地第3大隊のハッキネン大尉です。
まったく、女ってなんでこうも外見第一なんだか…そんなもの戦闘には関係ないですのに。
ちなみに私のメガネは実用第一なので、外見は二の次ですわよ。
次回、ハルカのメガネ問題第二話『相談』です。 …まったく、恋する乙女の考えていることは解りませんわ。
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おまけ
ウルスラ「それ私の眼鏡…返して」
ハルカ「えっ?あ、あぁ…ごめんなさい。あっそうだ、ウルスラ曹長はどこのメガネを使用しているの?やっぱりカールスラントの?」
ウルスラ「私の眼鏡はカールスラント工学機器メーカーの『カール・ツァイス社』のもので材質から何から全てオーダーメイドです。
そもそも『カール・ツァイス社』というのは…1846年イェーナに顕微鏡製造のための工房を…
1884年頃からはフリードリッヒ・オットー・ショットが…世界最高水準の光学機器メーカー、要するに世界で一番優秀ということ。」
ハルカ「…あ、あぁ…もういいです…(聞くんじゃなかった…)」
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