スオムス1946 ピアノのある喫茶店の風景 夏の夜はかしましく更ける


 目覚めた後はホント大変な騒ぎだった。
 全然悪くないサーニャが泣きながらわたしに謝り始め、どうやら行動を吹き込んでプッシュしたらしいルッキーニがサーニャを慰め、シャーリーがそれを手伝い、ビューリングはクールにタバコをふかし、エル姉ははオロオロしていた。
 ……なんか多くナイカ? イヤそんな事はどうだっていい! サーニャだ!サーニャ!!
 状況を理解したわたしはすぐに身体を起こす。

「エイラ! 目が覚めたのね……よかった……」
「サーニャ、泣かないでくれ。わたしならピンピンしてる。ただイキナリだったんでちょっと驚いただけなんだ」
「でも、でも……エイラ、私……」
「ホラ、どっちかっていうとああいうのはルッキーニの行動じゃないか。大方悪戯してみろって言われたんダロ?」
「本当にゴメンね、サーニャ。あたしもエイラがあんなに驚くなって思ってなかったんだ」
「そうだよ。コイツ部下持つようになっても何時までも子供でさ。ルッキーニも反省してるし、な」
「ところでエイラさん大丈夫なんですか?」

 でまぁ、そんな応酬が暫く続いた後、話は『実はわたしがおっぱいの大きさを非常に気にしていてシャーリーに会って色々悩んでる所にあの一件があってショックで倒れた』と言う所に落ち着いた。
 わたしのイメージとか尊厳とかが色々と打ち崩されたような気がしたけどサーニャが納得してくれたのでなんともないぞ……タブン。
 それにサーニャのおっぱいなら触るまでも無く毎日サウナと水浴びの時に確かめてるから大丈夫!
 触るなんて恐れ多い事せずともわたしの眼力は完璧ダ! 確実に成長してるから心配スンナ!
 って言いたいけどそんな事言えるはず無いジャナイカー。

「……で、だ」

 落ち着いたところで周りを見回してひと呼吸。
 改めて一言。

「何でこんなに人が居るんダ?」

 わたしの言葉に涙を拭いたサーニャも皆を見回す。

「もともと遊びに来たんだし~」
「そそ、二人にサプライズを楽しませてやろうと思ったのさ」
「そこのリベリアンに絡まれた成り行きだ……ガソリンは感謝する」
「ビューリングさんからエイラさんが倒れたって聞いて……心配でストライカーで飛んできたんです!」

 うん、やっぱり一人増えたのは気のせいじゃなかったみたいダナ。
 ま、エル姉なら無害だし放置で大丈夫か。
 っていうかサプライズって事はシャーリーの奴わざと何も言わずに来たんだな。
 ビューリングって雰囲気はあんななのに意外と優しいというか気が利く所あるのカー。
 
「いや~でも驚いたよ。到着したらイキナリエイラが血の海に沈んでるんだもんな~」
「ひっ!? 血の海!!!」

 大げさな表現に青い顔をして引いてるエル姉。っていうか軍人なんだからそのくらいのことでビビルナッテ。

「そんなに大げさでも無いな」
「にゃはっ、でも鼻血吹き出した瞬間は結構笑えたよ~」

 外見からのイメージ通りに冷静なツッコミのビューリングと無邪気な笑顔のルッキーニ。

「笑い事じゃないよルッキーニちゃん」
「にゃははぁ、ゴミェン……」

 わたしの鼻血をさもおかしそうに笑うルッキーニを嗜めるサーニャ。うーん、やっぱりサーニャは優しいなぁ。
 ちょっと怒ったような表情も、自分にむけられてるんでなければ冷静に観察することができるゾ。
 むしろ普段あまり見れないサーニャの表情を引き出してくれたルッキーニには大感謝ダ。
 現在この部屋、寝室に居るのはわたし、サーニャ、シャーリー、ルッキーニ、ビューリング、エル姉。
 二人には広い部屋だけど、6人も入ると手狭だな。
 部屋にはダブルベッド、二人の洋服箪笥、調度品、私の占い用の色々なグッズ、本棚、幾つかの小さい楽器、夏場の必需品扇風機、その他諸々。
 そういった色んなものが詰め込んであるわたしたち二人の部屋。
 って、図らずも二人のスイートホームに皆を招待かぁ……。

「とりあえず、だ。一旦黙って自己紹介ダ。初対面の奴も居るわけだからナ。っていうか士官が揃いも揃ってまとまり無さ過ぎダロー」

 改めて全員の顔を見回してから勝手に盛り上がる皆を制し各々の自己紹介させる。

「とりあえずわたし。一応全員の顔見知りだし今更な部分はあるけどエイラ・イルマタル・ユーティライネンだ。後は省略でイイナ」
「サーニャ・v・リトヴャクです。元オラーシャ陸軍の航空隊所属で、エイラとは避難先ブリタニアの501JFWで知り合いました」
「で、今は新婚生活中ですよ、っと」
「ちゃ、茶化すなよシャーリー。ソソソ、ソンナンジャネーヨ」

 ああもうっ、サーニャも真っ赤になってうつむいちゃったじゃないかー。
 後でフォローする身にもなれよシャーリー。

「こっ、コレハダナッ!」 
「あたしはリベリオン出身のシャーロット・イェーガー。あたしも元501の仲間さ。今はリベリオン本国で空軍でテストパイロットをやってる」
「にゃはっ。あたしはフランチェスカ・ルッキーニ。あたしも501繋がりだよ~。出身はロマーニャ公国~」

 ううっ、茶化しといて進めるとは……っていうかこのコンビも息ぴったりダヨナァ。

「え、えと、いいんでしょうか……」
「あー、エル姉適当にヨロシクー」
「はい、エルマ・レイヴォネンです。スオムス空軍で航空隊の教官をやっています。エイラさんの先輩に当たります」
「エリザベス・ビューリング。元ブリタニアのRAF所属。スオムスの507JFWを経て次はIDFに内定してる。暫くは世話になったスオムスを見てまわるつも

りだ」
「IDFって何なんだ?」
「中東の新興国家の軍隊だ。ネウロイが良く出る場所に無理矢理建国したせいで各国からあぶれたウィッチを募集してる」

 へ~、そんな所があったのかー。シャーリーナイス質問ダ。

「あぶれたなんて……ずっとこのスオムスに居てくれてもいいんですよ。むしろ、本当はずっと居てほしいです……」

 エル姉が悲しそうな表情でビューリングに話しかける。5年以上一緒に戦いの日々を過ごしてきた仲間と、これから別れなきゃいけないんだな。
 わたしもその気持ちは解るよ。
 ブリタニアで知り合って、スオムスでも一緒に戦って、戦争が終わって少しの間だけ離れて、傍らにサーニャが居ない日々はとっても辛かった。
 正直誰にもいえないけど、サーニャとずっと一緒に居られるなら戦争が終わらなくたっていいって思ったりもした。
 わたしなんかよりもずっとずっと寂しがり屋のエル姉にとっては、今スオムスに残っている最後の仲間が居なくなってしまう事はわたしにとってのサーニャの居ない日々の到来よりもきっと辛いんだろうって、そう思う。

「にゅは、ねーねーシャーリー、告白かなぁ」
「シーッ、こういうのは静かに黙って鑑賞するもんだぞ、ルッキーニ」
「あ、いやその……そんなことしないですよ~」
「フン」

 この二人はまた茶化すのカヨ。エル姉は頬を染めて照れ笑い。ビューリングはいつもの表情。
 妙にしんみりした空気になっちゃうよりはこういうところでまぜっかえしてもらえる方がいいといえばいいんだけどナ。

「ま、これで一応自己紹介はOKダナ」

 結局半ばわたしが仕切ってしまったけど、現役の少佐がいるってのに何でそういうところをささっとまめられないかなぁ。
 ま、エル姉じゃ仕方ないか。
 んで、夜も遅いんだけど折角これだけ集まったんだからって事で、かるーくお酒とおつまみ用意してお店の方でだべる事に。

「オーイ、バドはないのかぁ?」

 イキナリだなシャーリー。

「ナイ」
「ちぇっ、なんだよ~、リベリオンビールくらい用意しとけよな」
「ナイものはナイ」

 リベリアンは自分の国にあるものが当然他の国にもあると思ってるからたちが悪いな。

「フム、残念だったな。宿にいけばストックがあるんだが」
「ブリタニアだったらギネスとかじゃないのか?」
「口に合わん」
「お~、お前ホントクールだな~バイクの趣味も良いし、ホント気に入ったぜ」
「折角スオムス来たんだからちゃんとスオミビール飲んでけヨ。ラピンクルタ、コフ、カルフ、オルヴィ、色々揃えてんだからサ」

 まぁ本当はギネスは用意してあったりするんだが、口に合わないといわれたものをわざわざ用意することも無いよナ。

「にゅっは~それよりも~ワインあけよ~よ。ホラ、これっ」
「わ、バカそれ高いんダゾッ」

 なんで隠すように置いておいた高級ロマーニャワインをピンポイントで引いてくるかなぁ。

「大丈夫大丈夫っ。アタシの口にはバッチリ合うから~」
「とっておきなんだからダメダッテ」
「あたしら来てるんだから、こういうときくらいとっておきを出せよ」
「ああもうっ! 今日だけダカンナー」
「あ、サルミアッキ頂きますね……パク」
「ヒッ! ウジュジュッ……だいじょうぶ?」
「はい……えと、ルッキーニちゃんでしたね。何か? ああ、サルミアッキほしいんですね。どうぞどうぞ」
「ごごごごめんなしゃ~~~い!」
「あん? ルッキーニ何やってんだ?」
「フ……お約束だな」

 とまぁアルコール入る前から暴走気味な連中はある魔法を使うまでも無く予測済みとして、問題はもうひとりの予測済み行動への対処になる。
 
「……」

 なんだかこんなに人がいっぱいで懐かしい顔も居て騒がしくしてるって言うのになんだか眠そうでつまらなそうなサーニャの表情。
 時間が時間だし、明日のこともあるから今日はもう休んでもらった方がいいかな。
 ドーバーにいた頃と違って今は規則正しい生活してるし、故郷よりも白夜キツイだろうからなぁ。

「サーニャ、大丈夫か?」
「……」
「眠かったら寝ちゃってイイゾ。ちゃんとわたしがベッドまで運んでやるからナ」
「うん……どうやって運んでくれるの?」
「へ? えと……どうやって、って……そりゃあ抱き上げて……」
「……お姫様」

 お、お姫様抱っこか……みんなの前で……。
 でも他ならぬサーニャの頼みだし、誇らしくは合っても恥ずかしくなんて無いゾッ。

「お、おう。任せとけよ。お姫様抱っこでベッドへ直行、約束ダ」
「うん……じゃあわたしの事はいいから、みんなと楽しんで」
「ウン、ごめんな、サーニャ」

 向き直ると既にビールもワインもコッスも開けられている。
 オマエラ展開速すぎるぞ。

「よー、ラブラブトークは終了か~?」
「終わってるのでしたらこちらへどうぞどうぞ」
「ウニャ~ワイン美味しいね~」
「あんまり飲みすぎんナヨ」

 とか言ってはみたものの、ま、こいつら飲むだろうな。
 先に酔い覚まし様にコーヒーでも用意しておくかな。
 そう考えてコーヒー豆を挽きながら会話に参加する。

「二人ともさ、どうせくるならあと一ヶ月くらい後にしろよな」
「何でだ?」
「どーしてぇ?」
「薄情な奴だなぁ。サーニャの誕生日があるダロー」
「おっと、確かにそうだったな」
「ウニャ、じゃまた来るよ~」
「わぁ、そうだったんですね~。お祝い、考えておきますね」
「すまんがその頃にはこちらを離れているかもしれない」
「あ~、悪い。あたしの方もいろいろ忙しくて次の休み取れるのいつになるかわかんないんだ」
「そっか、軍に残ってるってのも大変ダナ」
「もっちろんアタシの誕生日には会えるよ~ネッ。クッリスッマス~~~にゅは」

 ほんと、ルッキーニは初めに大人びて見えたのが嘘みたいに、こうやって騒いでる時は前と変わんないなぁ。
 こうやってそのままどたばたが続いていくんだよな~って油断してたわたしは、その後の展開に慌てることになる。

「ごめんルッキーニ。多分その頃はもっとダメだ」

 今まで見たことも無いような神妙な、申し訳なさそうな顔でルッキーニに告げるシャーリー。

「え?」
「軍の方でさ、色々あって暫く休暇取れそうに無いんだ」
「そんなの嘘だよ。シャーリー言ったよ……あたしの誕生日は毎年毎年、ずーっとずーっと祝ってくれるって……だからがっかりさせようとしてもダメだよ」

 笑顔だけど、なんだか泣き出しそうな顔のルッキーニがシャーリーに答える。
 わたしは、そんな二人の間で何かしないといけないって思ってはみたものの、どうしていいかなんて分かるはずは無かった。
 
「ゴメン。本当に無理なんだ。この事は今回の旅の中で言おうと思ってた。あたしから約束しといて、ホント悪かったと思ってる。ごめんよ、ルッキーニ」

 謝り倒して扶桑式の土下座まで始めるシャーリー。

「ヤダッ! あたし、クリスマスは……誕生日はシャーリーと一緒にいるのっ! 居たいのっ!!」
「あ、あのあの……ルッキーニさん……」
「ナニッ!」
「あ……いえ、なんでもないです……」

 ルッキーニに話しかけたエル姉は据わった目で睨みつけられてすごすごと退散する。
 ビューリングはコッスを傾けながら静観モード。クソッ、何てクールな動作が様になる奴だ。

「本当にゴメン」
「ヤダヤダヤダッ!」

 そんなやり取りを繰り返す二人。これじゃ収拾つかないダロ。

「とりあえずルッキーニ。少し落ち着いてもうちょっとシャーリーの話聞こう。あとシャーリー、なんか今のオマエはオマエらしくないぞ」
「そうだよそうだよっ! あたしのためにだったら命令違反の一つや二つや三つや四つしてくれるのがシャーリーだよっ!!」
「だああっ、ルッキーニ。オマエは一旦黙ってろヨッ!」
「でもっ……」
「いいから静かにシロッ!」

 わたしが珍しく鋭い大声を出したもんだから、流石のルッキーニもちょっと大人しくなる。
 飽くまでもちょっとなんでまだ小声でぶちぶち言ってる。

「シャーリー、命令違反しろとまではいえないけどさ、お前だったらルッキーニのために無理矢理にでも予定空けられるんじゃないのか?」
「言い訳なんてしたくないんだ。こうなったのはあたしが悪いから。あたしはルッキーニが許してくれるまで頭を下げる……下げ続ける」

 頭を下げたまま平謝りモードのシャーリー。潔くはあるんだけど理由とかいろいろ引っかかる部分があるんだよナ。
 なによりシャーリーらしくない。そこが一番引っかかる。
 多分だけどルッキーニも自分のイメージするシャーリーとの違和感があるからこそ余計に治まらないんじゃないかって気もしてくる。
 かといって浮気とかそういう雰囲気でもないし……。
 謝るにしては自分に落ち度があるって言い切ってるにもかかわらず妙に態度が堂々としてる。
 それってつまり……ん~、自分の中では一本筋の通った理由って事なのか?

「ったくー、そんな所で坂本少佐みたいに漢らしくされたって困るっての」
「聞いてくれるな……軍事機密なんだ。悪いが言えない」
「あー」「へー」

 ソレを聞いて納得して、ルッキーニと顔を見合わせる。
 ルッキーニの方も完全に理解したようでわたしと視線をあわせて一つ頷くとおもむろに口を開いた。

「おめでとっ、シャーリー」
「オメデトナ」
「えっ!?」
「え?え?え?なんで突然そういう流れになるんですか?」

 シャーリーが驚いた表情で顔を上げ、エル姉が疑問符を投げかける。ま、そりゃそうだろうナ。
 でもシャーリーの事知ってる身としては当然の連想ダ。

「お、おい、あたしはまだ何も言ってないぞ。なんでそこでオメデトウになるんだよ」
「だって~、軍で音速突破の実験決まったんでしょ? おめでたいに決まってるよぉ」
「おんそくとっぱ?」
「うん、シャーリーは公式な記録で音速を超えることを目指してたんだ。コイツみたいな自由人が軍なんていう窮屈な所に残っているのもその夢のためさ」

 エル姉に向かって補足、解説。

「お、おいっ! 決め付けるなよ。あたしは何もっ……」
「シャーリーの夢のためだったら仕方ないから引き下がるよっ。だって、あたしシャーリーに夢をかなえて欲しいもん!」
「ルッキーニ……」
「だから正直に話してシャーリー。なんで……約束を護れなくなっちゃうの?」
「ああもうっ……あたしの負けだっ」
「にゅはっ」
「白状するよ。リベリオン陸軍主導で音速突破実験があるんだ。今はその専用のストライカーも準備中で、これから忙しくなっちまうんだよ……っていうか、本当に誰にも言うなよ」
「シャーリー! オメデトー!!」
「わっ、まだおめでとうは早いだろっ、こらっ、あははっ」

 さっきまでの不機嫌も何処へやら。自分の事のように喜んでシャーリーに抱きつくルッキーニ。
 後はもうお惚気モード。
 ま、シャーリーもへんなところで常識人というか何と言うか……。
 そこに状況が飲み込め切れてないエル姉が話しかけてくる。

「エイラさん、結局状況が良くわかんないんですけど、仲直りしてみんな幸せ、でいいんでしょうか?」
「ウン、そんな感じで良いと思う」
「わぁ、それはよかったです。あんなに仲の良いお二人が喧嘩を始めてしまった時はどうしようかと思いましたよ~」

 大げさに胸をなでおろすエル姉。雨降って地固まるとはこのことダナ。

「お前は相変わらずだな。いらん子の頃からああいう流れは常識だったろうにいちいちオロオロする」
「だ、だって……」

 そんなやり取りをしながらまるで子ども扱いでエル姉の頭をぽんぽんと叩くビューリング。
 ほろ酔いで上気して少しだけ赤くなった頬。
 きっといつもより少しだけ無防備な、それで居てこの中で一番オトナな表情。
 っていうか普段むすっとしてるくせにそういうときだけすごく優しそうな表情をするのって絶対反則だぞ。

「ま、お前はそういうところがいい所だからな。これからもそうやってオロオロして生きろ」
「わ、ひ、ひどいですよビューリングさぁん」
「フッ……」

 結構さっきのシャーリーとルッキーニのやり取りに感極まっていたらしいエル姉はちょっとだけ目に涙を浮かべて泣き笑いに反論。
 この二人っていいカップルだよなー、ウン。
 ビューリングがIDFで働き始めたら遠距離恋愛かー……ソウダナー影ながら応援する方法を模索しておくしかナ。
 あ、コーヒー挽くの途中だったな……折角だから酔いが一発で醒ませるように魔法のコーヒーでも用意しておいてやるカナ……ニヒヒ。
 っと、サーニャももう寝ちゃってる? 静かだし……って、まだ起きてるのか。サーニャは水を飲みながらボーっとしている。
 なんだかあからさまにラブラブな二人と仄かにラブっぽい二人が居たら当てられちゃうじゃナイカー。
 そんなにベタベタは出来無いけど、抱っこするくらいの温もりは欲しいゾ。
 まぁ、ホラ……なんせサーニャのたのみだしナー。フフフ。
 一応明日の事もあるから、頑張りすぎないよう声をかけておいた方がいいな。

「サーニャは休んじゃえよ。明日の事もあるしさ」
「ん……いいの」

 真鍮製のぴかぴかのコーヒーミルをごりごりと廻しながら話しかけるわたしの言葉ににそっけなく返し、自分のコップに透明な液体を注ぐサーニャ。
 ん? そのラベルにこの匂い……それスピリタスじゃないかー!!

「ちょっ、サーニャ!?」
「いいの」

 コクン。
 うわわ!? そのまま飲むとはっ!
 っていうかビンの中身半分以上減ってるっ! もう500mmlは飲んでるっ!!!
 
「ササササーニャさん?」
「いいの」

 こくん、こくん、とサーニャの白いの首筋がその透明な液体を嚥下するたびに小さく振れる。
 でもわたしは知ってるんだ。そのクリアな液体がサーニャの故郷でも最も強いお酒で、火を近づければ燃えるような代物なんだって。

「あ、あの~」
「いいの」

 こくん……ぐびっ……ぐびぐびっ……。
 う、うあああああっ!!!
 ビンからラッパ飲み!?  
 異様な気配に気付いたのか、みんなの視線がこっちに集まる。

「サーニャ!?!?」

 わたしの声が裏返る。
 ふっと視線を上げたサーニャとわたしの目が合う。
 据わったその半目からは逃げられそうに無い気配を感じた。

「えいら……」
「ハ、ハイッ」
「正座……扶桑式」
「ハイッ」


 フソウシキセイザ。
 坂本少佐が命じる反省を促すための姿勢の一つで、れっきとした扶桑の文化らしい。
 とろんとしてるくせにやけに迫力のあるサーニャ・V・リトヴャク元オラーシャ陸軍中尉の命令にわたしは従う以外の術を持たず、すぐさまその場に

正座する。

「反省して」
「は、反省っ!?」

 こく。
 小さく頷くオラーシャ英雄サーニャ・V・リトヴャク。

「あ、あの……サーニャ……」
「反省」
「ハイッ」

 って返事をしたものの正直何を反省していいかわかんない。
 なんだろ……斃れて心配かけたことかな? でもその事はもう済んでるはずだし、それ以降のことで何かあったっけ?
 うう、聞こうにも口を開いた瞬間に「反省」って繰り返されるだけだし……。
 どどどどうするエイラ?

「よー、困ってるなエイラぁ、さっきのお返しに助けてやろうか~?」
「ウンウンあたしたちわかっちゃったモンねっ」
「あ、わたしも大体わかりますよ」
「こういったものの機微には疎いつもりなんだが、な……見当がついてしまうとはやきが回ったか」

 ちょっ! なんで!? わかんないのわたしだけっ?
 こ、こうなったら聞くしか……。

「皆は教えちゃダメ。エイラに自分で気付いて欲しいの」
「ゐゐっ!?」

 にべもないオラーシャ英雄のフリーガーハマーによって助け舟は木っ端微塵に砕け散る。

 背後からは生暖かい視線、そして正面には感情の読めない据わったサーニャのヒスイの瞳。
 お酒が入ってほんのりと赤みを帯びた白磁の肌に、白熱灯の温かめの光を反射して柔らかく煌めく銀髪。
 こんな時だってのに正面から眺めるいつもとちょっと違うサーニャの表情に見とれてしまう自分が恨めしい。
 だって考えなきゃいけないのに考えがまとまらずに「サーニャが綺麗だ」って所でループする。
 それでも一生懸命考える。だって、きっとお酒の力を借りてまでわたしに何かを伝えようとしてるサーニャの事を失望させたくないから。
 もしかしたら数秒だったかもしれない無限にも思える時間の中で気付いた事。
 わたしの自惚れだったら恥ずかしいけど、みんなが気付いてるって条件だともうそこ以外に反省点が思いつかなかった。

「……あ、あの……」
「うん、聞かせて」

 間違ってたらゴメン、って良いそうになって我慢する。
 そんな逃げの態度じゃ、きっとダメだ。
 堂々と、しっかり言わないとナ。
 すーっ……はーっ……っと、一つ大きく深呼吸。
 目を硬く瞑って、叫ぶ!

「ソ、ソンナンジャナクナイゾッ!」

 う……ちょっとどもった……でも続けるゾっ!

「わたしとサーニャはっ! 新婚そのものダッ!!!!」

 今、間違いなくわたしは人生のクライマックスにいるゾッ!
 『おおおっ』と外野の歓声が上がる。
 そしてそこに続くのはサーニャの返事ではなく、すーっすーっという静かな音とワンテンポ置いて続く外野の思い思いの笑い声だった。


 そ、そ、そ……そこで寝るなよっ! サ-ニャああああっ!!!


 そうしてお姫様抱っこの温もりだけを残し、一世一代の決意をした夏の夜は過ぎ去っていくのだった。
 もちろんお約束として、朝起きた二日酔いのサーニャはこのことを覚えてなかったし、シャーリーとルッキーニとエル姉とビューリングには絶好のからかいネタを提供してしまったのだった。

 ぎゃふん。



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