無題


「眠い…」
今日も無事、夜通しの任務を終えて基地に戻る。

昨晩、任務のためにハンガーへ向かうとエイラが待っていた。
エイラはたまに、任務外で私の哨戒任務に付き合ってくれることがある。

彼女がストライカーの無断使用を咎められているのを私は見たことがないし、
きちんと使用許可は取っているんだろう。
『今日は私も行くよ』
笑いながら、彼女はそう言った。
『……ダメ』
そんなエイラを、私は拒んだ。
そのときは気付かなかったけど、随分冷たい声で言ってしまった気がする。
『んなっ!?なんで!?』
『…今日は、新月だから』
まさか拒まれるとは思っていなかったのだろう。エイラは捨てられた仔犬のような目で私を見つめてきた。
『…新月の空は、危ないから』
私のように、目で見なくとも遠くまで見通せる能力があれば、新月も満月もさほど問題ではない。
しかし、そのような能力を持たないものにとって、新月の空は危険だ。
目を閉じていても飛行できるような熟練したウィッチであれば、話は別だろうけど。
『…わかった。じゃあ、気をつけていくんだぞ』
エイラは淋しそうに笑って、ハンガーを後にした。
私が一人で夜間哨戒任務にでかけるのとき、エイラは私が離陸するのを見守ってからハンガーを出ていくのに。
やっぱり、怒らせてしまったんだろうか。
『……エイラ?』
返事は、ない。
『…ごめんなさい』
こんな小さな声では聞こえるはずがないのに。
私は夜空へ飛び立った。

回想に浸っている間に、基地へ到着した。
エイラの出迎えを、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ期待していたけれど。
「…ただいま」
だけどハンガーに、エイラの姿は無く。
やはり昨晩のことを怒っているんだろうか。

「お、サーニャ。今帰ったのか?」
ストライカーを脱ぎ、フリーガーハマーをしまっていると、背後から声をかけられた。
振り返ると、坂本少佐がいた。

私は坂本少佐のことが少し苦手だ。第一印象で抱いた『怖そう』というイメージがいまだに拭い去れない。
「…はい。…坂本少佐はどうしたんですか?」
「私か?もちろん訓練さ。サーニャも付き合うか?」
「…上官命令ですか?」
私がそう返事をすると、少佐は目を丸くした。
「はっはっは。冗談だよ。まさかサーニャに冗談で返されるとは思わなかったがな!」
いつものように快活に笑いながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
…私としては、冗談のつもりはなかったんだけど。

「哨戒任務から帰ったばかりの部下を私の訓練に付き合わせたらミーナに怒られてしまうよ。
…おっと、疲れているのに長話に付き合わせて悪かった。
ゆっくり休め。…そうだな、これは上官命令ってことにしておこうか」
はっはっは、と笑いながら、まだ薄暗い滑走路に少佐は駆けて行った。
私は坂本少佐のことが苦手だ。でも、同時に憧れてもいる。
もし私があの人のように明瞭に話せたら、きっとエイラを傷つけたりしなかっただろう。
「…がんばってください、少佐!」
ちょっとだけがんばって、大きな声を出してみた。それでも小さな声だったけど。
「ああ!」
意識しないと聞こえなかったであろうその声に、少佐は手をあげて応えてくれた。

ハンガーを後にして、宿舎へ戻った。
「……」
エイラの部屋に入っていいものか、考える。
きっとエイラはいつものように、『今日だけだかんな!』なんて言って私を受け入れてくれるだろう。
でも、エイラの優しさに付け込むようで気が進まなかった。
私がエイラを傷つけたなら、私から謝るべきだと思った。
だってエイラは、私の一番大切な親友だから。

だから今日だけは、一人で眠ることにした。
目を覚ましたら、エイラときちんと仲直りしたいな。
おやすみ、エイラ。


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