第22手 キス・おでこに
しっかりと起きられたならスタンプをあげよう…
これは、エイラがサーニャに対して結んだ約束であり、それはもう1ヶ月も前に交わされたモノであった。
「エイラ…、エイラ…、スタンプ、欲しい。」
朝、サーニャは目を覚ますと、エイラからスタンプをつけてもらうことが日課となっていた。
まぁ、朝とは言っても、サーニャは夜間哨戒を担当としているため、
どうしたって睡眠の開始が遅くなるから既に昼と言った方が正しいのではあろうが。
この行為を始めてから、サーニャは、
エイラが作ってくれた可愛らしいスタンプカードをスタンプで埋めることが嬉しいためであろうか、寝覚めがよかった。
「今日も頑張ったナ…エライエライ。もう随分と埋まったじゃないか…新しいヤツを作ってやらないとナ。」
そう言ってエイラはサーニャに微笑みを投げかける。
彼女にとって約束は、ボーっとしているのが常であったサーニャを、
このままではいつか困ることになると考え、どうにかしてしっかりとした生活に近づけてやりたいと思っての提案であった。
しかしなにが気に入ったのか、毎日目を覚ますと真っ先に彼女に対してスタンプを求めるサーニャの姿に、エイラは嬉しさを押し隠せない。
本当にくだらない、なにか特別なスタンプでもないというのに、律儀に自らとの約束を守るサーニャが、エイラには愛しくてたまらなかったのだ。
「うん、エイラ…今日で1ヶ月。ありがとう。」
サーニャの感謝の言葉は、エイラが自らを気にかけてこのような提案をしたことに気づいてのためであったが、
どこか鈍いところのあるエイラにとってはさっぱりなことであった。
「頑張ったのはサーニャなんだから、礼なんて言う必要はないんダゾ?訓練が終わったら新しいスタンプカード描いてやるから待ってろヨナ。」
あまりにも鈍くて、エイラは感謝さえマトモに受け取ってはくれないのだ。
エイラは与えることばかりに慣れていて、受け取るということにはヒドく疎い…
だが、サーニャは、エイラのそんな無償の優しさが好きなことも事実であった。
それはまぁ、自らの送る気持ちにもひたすら鈍感なことは、サーニャも辟易してはいるものではあったのだが。
「ううん、いつも見守ってくれてありがとう。私もね、エイラにあげるスタンプを考えたんだ…こっち来て。」
エイラがサーニャの言葉を拒む理由はない…エイラはすっとサーニャに近づくと不思議そうな表情をつくる。
スタンプカードだってスタンプだってそこには存しなくて、ただサーニャがいるだけであって、エイラの困惑も無理はない話であった。
「いつも感謝してるよ。大好きなんだよ。」
そう言ってサーニャは少し背伸びをしてエイラの額に唇をおとした。
それはすっかりとサーニャにたまったエイラへの感情が溢れだしたもので、少しずつ少しずつ想いのたまる速度は加速していた。
エイラときたら目をパチクリとさせ、気づいたように頬を朱に染めて、見事な百面相を見せる。
また想いが溢れたならばスタンプをあげます。
サーニャはふとそんなことを思いながらエイラへと微笑んだ。
Fin.