扶桑の治癒術師:第一話『迷子とお父さんと二人のおねえちゃん』


 今から約10年前の夏…まだネウロイの影はどこにも出現していない頃のお話。
 当時宮藤芳佳5歳、竹井醇子・坂本美緒ともに9歳のことだった…

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 ここは横須賀市にある、とある神社のお祭り。
 いつもは仕事でなかなか家にいない父親が久しぶりにいっしょなので家族で来ていた。
 しかし、縁日が楽しくて境内をあちこちを走り回っているうちに芳佳は家族とはぐれてしまった。

 芳佳「ヒック…しくしく…ここどこ?おとうさんどこいっちゃったの?…」
 醇子「どうしたの?迷子になっちゃったの?」 芳佳「…うん、おとうさんいなくなっちゃった…」

 見上げると少し年上の、買い物かごを抱えた巫女装束の少女が心配そうに覗き込んでいる。

 醇子「そう…一緒に探してあげたいんだけど…私まだお仕事あるから一緒に探してあげられない…
でも神殿に連れて行ってあげるからそこで待ってればお父さんかお母さんが探しに来てくれるわよ」
 芳佳「しんでん…ってなに?」
 醇子「神殿っていうのはね、そこの階段の上にある神社の建物よ。私のお家でもあるんだけどね」
 芳佳「そこでまってればおとうさんきてくれる?」
 醇子「そうよ、そこまで連れて行ってあげるから手、つなご。また迷子はいやでしょ?」
 芳佳「うん…」 

 芳佳は今度こそはぐれたりしないように醇子の手をぎゅっとにぎった。

 醇子「そう言えばあなたの名前なんていうの?私は竹井醇子よ」 芳佳「わたしは…みやふじよしか…5さい」
 醇子「私は10歳よ、『みやふじよしか』ちゃんかぁー…そう言えばさ、ここら辺では見ないけどどこの子なの?」
 芳佳「えーっと…『かまくら』ってところのしんりょうじょなの。おかあさんとおばあちゃんはけがをなおせるウィッチなんだよ」
 醇子「鎌倉!?鎌倉って…ここは横須賀よ、ずいぶん遠いところから来たのね」

 本殿まで行く間、醇子と芳佳は離れないように手をつなぎ、お互いのことや家のこと、父が仕事で年に何ヶ月も家を空けがちなことなど、
いろいろな話をしながら時間は過ぎていった。

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 醇子「さぁ着いたわよ、中に入りましょう。そこに座って待っててね」 芳佳「うん」
 美緒「おい醇子、遅いじゃないか!買い物に何分かかって…おや?その子は誰だ?」
 醇子「ごめんね美緒。それが…この子迷子みたいで、とりあえず神殿まで連れてきたの」

 美緒と呼ばれた、醇子と同じく巫女装束で右目に眼帯の少女はやれやれといった顔で呆れる。
 芳佳は突然現れた眼帯の少女に驚いて醇子の後ろに隠れてしまった。

 美緒「ふむ、迷子か…ここに連れてきたのはある意味正解だが、これからどうするんだ?」
 醇子「どうもしないわよ、この子のご両親が迎えに来るのをただ待つだけよ」
 美緒「おいおい…連れて来ておいてそれはあまりにも無責任とは言わないのか?」

 醇子「それがね、この子の父親ってもしかしたら私たちの知っている人かもしれないわよ?」
 美緒「なんのことだ、この近所の子なのか?私は知らんぞ」
 醇子「違うの…この子確かに『宮藤芳佳』って言ったわ。それに、家は鎌倉の診療所で母親と祖母がウィッチだとも…」
 美緒「宮藤…鎌倉の診療所…ウィッチ…おい!それってまさか…」
 醇子「ちょっと待って美緒…よしかちゃん、あなたのお父さんの名前言える?」

 芳佳「えーっとね…わたしのおとうさんはね、『みやふじいちろう』っていうんだよ。それがどうかしたの?」
 醇子「やっぱり…ねぇ芳佳ちゃん、もしかしたらお父さんすぐに見つかるかもしれないわよ」
 芳佳「ほんとに?じゃぁはやくさがそうよ!」
 醇子「ちょっと待って…落ち着いて芳佳ちゃん、さっきも言ったように私はここのお仕事があるから、
代わりにこの美緒おねえちゃんに一緒に探してもらおうね」
 芳佳「みお…おねえちゃん?わたしよしか、よろしくね」
 美緒「あぁ、私は坂本美緒9歳だ、醇子とは近所の知り合いで…今日はここの神社がお祭りで忙しいから手伝いに来たんだ。」

 醇子「そうね…ご苦労さま。もう交代しましょう…あなたも休憩が必要よ」
 美緒「あぁありがとう、休憩ついでに一仕事だな」
 醇子「そういうこと。あっそうそう、さっきお饅頭買ってきたんだけど二人とも食べる?」
 芳佳「わーいおまんじゅうおまんじゅう~♪じゅんこおねえちゃんありがとう」
 醇子「くすくす…それじゃがんばって探してきてね。(ヒソヒソ…じゃ、博士にヨロシクね美緒)」 美緒「あぁ、任せておけ」

 美緒「それじゃ早速行こうか。はぐれないように手をつないでいよう」
 芳佳「うん!いこういこう、おとうさんさがしに!」
 美緒「はっはっは!父上がすぐに見つかるかもしれないとわかったら元気になったな」

 さっきまで自分がやっていた巫女の仕事は醇子に任せ、二人は元来た道をしっかり手をつないで戻っていった。

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 美緒「宮藤はか…いや、芳佳のお父上はどんな方なんだ?」
 芳佳「おとうさん、おしごといそがしくてあんまりおうちにいないからわかんない…でも、とってもやさしいよ」
 美緒「そうか…(そう言えば基地ではあまりそんなところは見たことないな)それはさぞかし良い父上なんだろうな…」
 芳佳「うん!わたしのじまんのおとうさんなんだよ、ところでみおおねえちゃんのおとうさんってどんなひと?」
 美緒「私の父上か?そうだな…海軍の偉い人で怒るとすごく怖いんだ。
『こらーっ!』って大声で怒鳴って…でも、うちももう何年も会っていないからたまには顔を見たいかも…」
 芳佳「…そんなにこわいの?」 美緒「あぁ、芳佳だったら泣き出しちゃうかもしれんな」

 とりとめもない話をしていると、『…ーっ!』『…しかーっ』 大人2~3人が叫んでいる声がどこからか聞こえる。

 『よしかーっ!』『芳佳ーっ、どこにいるんだーっ!』
 芳佳「!!、おとうさんとおかあさんだ!」 美緒「そのようだな。ほら、あの辺から聞こえるぞ、ちょっと待ってろ」

 美緒は眼帯を外すと声のするほうを見て紫色の右瞳【魔眼】に魔力を込める。
 すると100mほど向こうで夫婦らしき二人組が何かを探すように周囲を見渡しながら芳佳に呼びかけている。

 芳佳「みおおねえちゃん…?」
 美緒「…お、いたいた。ご両親は向こうのほうに居るから一緒に行こう。さぁ走るぞ、ついて来い!」
 芳佳「うん!」

 芳佳は離されないように美緒の手をしっかり握ってついていった。
 ほどなくして4人はめぐり合った。

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 芳佳「おとうさぁーん、おかあさぁーん!!」 芳佳はしこたま転ぶのも気にせず両親の元へと駆け寄っていった。
 一郎・清佳「芳佳、よかった!」 芳佳「おとうさん、おかあさん…ひっく…ひっく…ごめんね…ひっく…」
 清佳「どこにいってたの?心配したのよ」 一郎「まぁまぁ母さん、こうして見つかったんだからいいじゃないか」

 美緒「あの…」 一郎「やぁ!坂本曹長じゃないか、こんなところでどうしたんだい?」
 芳佳「え?え?えぇーっ?みおおねえちゃんとおとうさんってしりあいだったの?」
 一郎「そうだよ、この坂本美緒さんはお父さんの仕事を手伝ってもらってるんだ」 美緒「そういうことだ」

 一郎「それで今日はどうしたの?」 美緒「実は…カクカクシカジカで…ということです」
 一郎「なるほど、竹井曹長が保護してくれてたのか…坂本君、芳佳を連れて来てくれてありがとう」
 美緒「いえ、当然のことをしたまでですから礼を言われるほどでは…」
 一郎「それより神社に行って醇子君にもお礼を言わなくちゃいけないな、今日は君も竹井神殿の手伝いなんだからどうせ戻るんだろう?」
 美緒「そうですね、それでは参りましょうか」
 芳佳「おとうさん…じゅんこおねえちゃんのこともしってたんだ…」

 芳佳は父の知らない部分を知ってしまってちょっと複雑であった…
 それよりも、自分とそんなに年齢も変わらない年上の少女二人が軍隊で大人の仕事の手伝いをしていることのほうにショックを覚えていた。

 *:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:* 2時間後、竹井醇子の実家 *:.。o○o。.:*。o○o。.:*。o○o。.:*

 夜9時、坂本美緒と竹井醇子は巫女装束のまま居間に入ってきた。
 芳佳は今日色々あって疲れたのか、すやすやと寝息をたてていた。

 醇子「皆様お待たせしました、さっきやっと仕事が終わって…今日はもう遅いですし、是非うちでご飯を食べていってください。
さぁ美緒、ちょっと運ぶの手伝って。芳佳ちゃん、ご飯だから起きてね」
 美緒「これを持って行けばいいのか?醇子、今日は結構ご馳走だな」

 芳佳「うーん…もうごはん…?あれ?ここどこ?」
 一郎「ここは醇子お姉ちゃんのお家だよ、今日はもう遅いからここでごはんを食べていこう」
 芳佳「うわーっ!すごいねおとうさんおかあさん、おさかながいっぱいあるよ!」
 清佳「これ芳佳!お行儀が悪いわよ、先に手を洗ってらっしゃい」 芳佳「はーい」

 竹井家でのささやかな食事会はあっという間に時間が過ぎていった。

 一郎「そろそろ帰らないとおばあちゃんが心配するだろう…軍の仕事もしばらくは一段落という感じだし、
当分家でゆっくりしているよ。たまには娘にも家族サービスしないとね…」
 芳佳「そうだよおとうさん、あしたはいっぱいあそぶんだからね!」 一郎「ははは…芳佳にはかなわないなぁ」

 美緒「ところで博士…例の件ですが…」
 一郎「それはまた今度にしよう。君達もたまの休日なんだからゆっくりしたらいい。士官学校は休みなんだろう?」
 美緒「わかりました。急ぎでもありませんのでこの件は後日ということで…」
 醇子「そうよ美緒、あまり真面目なのもどうかと思うけど…」 美緒「はっはっは!それもそうだな」

 そして午後11時、それぞれの別れのときが来た。

 芳佳「それじゃまたねおねえちゃんたち」
 醇子「またいつでもいらっしゃいね」
 美緒「またいつか会うときがあったら今度は私の家にも来てほしいものだ」

 ─ 宮藤一家は自宅までの帰路、車中では話が尽きることがなかった ─

 それから2年後、宮藤一郎は最新ストライカーユニット開発のためブリタニアへ、これが父娘の最後の対面となる。
 5年後、ブリタニアから父の死亡通知が届く。芳佳は不思議と涙は出なかった。

 そして最初の出会いから10年後、宮藤芳佳は竹井醇子『扶桑皇国海軍中尉』および穴拭智子『元連合国507少佐』
(1944年初頭に軍を退役してスオムスより帰国、同年4月から鎌倉市第一高等学校の体育教諭で芳佳の担任となる)の二名によって、
坂本美緒『連合国501少佐』へウィッチ候補として強力に推薦され、ブリタニアで501のウィッチになるが、それはまだまだ先のお話。

 『迷子とお父さんと二人のおねえちゃん』end

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 次回予告のようなもの(ストライカーの飛翔、c/v福圓美里)

 宮藤芳佳10歳です。最近私の家にかわいいワンちゃんがよく来るようになって…
 ちょっ!なに?この子ったら…そんなとこ触っちゃ…ぁん♪やめなさい!
 …ゴホン!次回、扶桑の治癒術師第二話『使い魔は豆柴犬』です。
 …まったく、兼定ったら元が刀の精霊だとは思えないぐらい○○なんだから…

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 おまけ:

 醇子「美緒、あの子ってあの伝説の秋山芳子陸軍中将のお孫さんよね?」
 美緒「あぁ、確かそうだが…それがどうかしたのか?」
 醇子「ということはあの子の魔力量は通常の何十倍もあるはずよ」
 美緒「どういうことだ?」
 醇子「相変わらず鈍いわね…あの子がウィッチになってみっちり鍛えたら相当すごい人材になるはずよ、
もしかしたら治癒能力も発現するかもしれないし、戦争になったら相当役立つってことよ」
 美緒「そうだな…時期が来れば博士にも話してみようか」

 しかし、1938年から二人がリバウ戦線に赴いている間にブリタニアの研究施設が何者かによって破壊され、宮藤一郎博士は行方不明。
その生死すら不明になったため、その相談は果たされぬままとなった…

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