T⇔E Ep.2


そして、昨日ネウロイを撃退したばかりの基地内でのことである。
「…」
ウルスラはミーティングルームのソファに、銅像のように居る。
智子に聞いた話だが、扶桑には二宮金次郎という偉大な人が居たらしい。…はは、冗談だ。
ビューリングは煙草とコーヒーで昼の一時を寛いでいた。
ウルスラが紫煙を嫌がる風も無いため、遠慮無く吸っていた。
両者、口数は多いわけではない。無口同士に沈黙が下りたとしても、それは苦痛ではない。
偶には何も考えないでこうして休暇を過ごすのも良い。
そしてウルスラとは違うソファに腰掛けていたビューリングは、珍しく横になった。
一分ばかり経過しただろうか。ついうとうとしかけて、落ちた煙草の灰が顔に降りかかった。熱さに驚き慌てて振り払う。
「っつぅ!」
「…」
私としたことが…。ビューリングの頭に反省が浮かんだ。
火傷にもなっていないようだし、一先ず息を吐いて、胸をなで下ろした。
(ウルスラ曹長…。今のは見られていたのか否か…)
リアクションが皆無の彼女に僅かに呆れ、ふと入り口の方に目をやったビューリングは目を見開いた。
「いっ?! 智子…?」
(いつから…? いつからそこに居たんだ智子…!)
危うく咥えた煙草を落しそうになってしまった。
(全く、不意に現われたりする智子に弱すぎるな、私は…。
そういえば、智子との馴れ初めもかなり突然だったか)
「ビューリング、ちょっと話があるわ。こっちに来て?」
別段怒っているような様子ではないのだが、少し乱暴な呼び方だった。
疑問を感じながらも何だ、と応えて席を立つ。その際に煙草を灰皿に捨てておいた。

――

――

智子は廊下にビューリングを連れ出した。
(さっきの取り乱し様、ビューリングも大分可愛くなったみたい…。)
何て考えたり。一番可愛いのは私の腕の中に居る時、何て飛躍した考えもあることにはあった。
中々の変態に出来上がっている智子である。
「それで、何の用だ? 智子」
「ビューリング、今日非番よね?」
「昨日の襲撃があったから非常事態が起きない限りは非番だな。そういう智子だってそうだろう?」
「ええ、そうだけど。じゃあ当然、その、暇よね?」
「さっきも思わず寝そうになっていたところだ…。火事になりそうだったが…」
「寝煙草は気を付けなさいよね。ビューリングを火事なんて理由で失いたくないわ」
「ああ、気を付ける」
ビューリングはばつが悪そうに耳の裏辺りを掻いた。密かに、智子の失いたくないという言葉が嬉しかったことの照れ隠しだ。
そして智子は、本題を端的に切り出した。
「デート、しましょう」
「ぁ、…ああ」
面と向かって誘われるのはやはり慣れない。顔の温度が上がった。
しかし、決して嫌なわけではない。
「何処に行く? スラッセンか?」
「そうね。今すぐ行ける?」
ビューリングが頷くと、智子は先導して歩き始めた。
歩きがてら煙草でも吸うかとポケットから箱を取り出したが、やはりやめておいた。デート前に口臭を気にするのと同じだ。
しかし先程も吸っていたし、あまり意味のないことのように思えたが。

――

――

スラッセンは大部分の復興が完了し、今では市場も開かれるようになっていた。
立派なものはあまりないが、文句は決して生まれない。
ビューリングと智子は二人で市場を散策していた。
お互い、手ぐらい繋ぎたいと思ったが、あちこちから軍人さん、穴拭さん、ビューリングさん、などと声が掛かるために叶わなかった。
孤児院の子供達からは元気にお姉ちゃんたち来てくれた-! と声が掛かるので、下手なことをすればたちまち子供達にからかわれてしまうし。
先程購入した蒸し芋を齧りながら、二人は塀に凭れていた。
「少し小振りだが、いいジャガイモのようだ」
「…私の、塩が少ないわ」
味が全然しない、と智子は不満を漏らす。
「へえ、どんなものかな」
そう言ってビューリングは迷わず智子の手に握られていた紙袋の間のジャガイモを齧った。
「…ふむ、確かに塩はあまり効いていないみたいだな…きっとハズレだったんだ」
智子を見遣ると、素っ頓狂な顔と赤らめた頬をしていた。
ビューリングあなた何してるか分かってるの…?! そんな顔だった。
「私のを食べてみるか? 丁度良い塩加減で美味しいぞ?」
紙袋を智子の口元に持っていく。智子は未だ状況があまり飲み込めていない様子だったが、何も言わずに可愛い仕草ではむ、と頬張った。
数秒もぐもぐと口を動かしていた智子が呟いた。
「うん、美味しい…」
智子はビューリングとの今のやりとりを噛み締めていた。本当に恋人のようだと思ってしまった。
今の雰囲気はとてもいい。今の智子は、状況に流されやすい智子だった。
「交換しようか? 私は味が濃いめが好きだが、あまり塩ばかり摂っても仕方無いしな」
「……、うん」
信じられないといった表情を浮かべた智子だったが、差し出された紙袋を受け取った。
ビューリングは代わりに智子の紙袋を手にとった。

二人のデートはいつもこのような形だ。若干、ビューリングがリードするような形で。
だが二人はいざ"そういうとき"になると立場が逆転するから面白い。
もちろん智子が強引にビューリングを誘ったりすることもある。
二人の関係は、まだ始まったばかりだ――。

――

―おまけ―

ウルスラは灰皿に残された煙草を見つめていた。
これは先程ビューリングが捨てていった煙草だ。
彼女が火を消したつもりだったが、かろうじてまだ火がついていて、紫煙を噴き出していた。
ウルスラはそれを手に取り、ビューリングの見様見真似で口を付けて一息、吸い込んでみた。

……ウルスラの手から本が落ちた。



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