さかもと!乙女塾
「はっはっは! 私が乙女塾塾長・坂本美緒だ」
そう高らかに笑い声を響かせるのは、乙女塾塾長・坂本美緒だ。階級は少佐である。
「さて、これはなんだ?」
そう言うと坂本は手にした“それ”を掲げてみせる。
するとその相好は一変、鬼の形相になった。
その場に並んだ芳佳、リーネ、ペリーヌの三人は、
せめて目だけでもそれから逃れようと、視線を落としてうつむいてしまう。
「私はこれはなんだと訊いているッ!」
坂本は厳しい口調でもう一度問いただす。
が、その場の三人は已然として重く口を閉ざしたままだ。
「おい、宮藤」
「…………ラジャーです」
「聞こえん」
「……ブラジャーですっ!」
「そうだ! これは侮裸邪(ぶらじゃー)だッ!」
普段の豪放磊落ぶりからは考えられぬ怒髪天を衝かんばかりの面持ちで、坂本は三人を一喝した。
手にした竹刀を振りあげると――
「それがなぜこんなところにあるッ!」
それをおもいきり地面に打ちつけた。
バシイッ、という激しい音が響きわたる。
三人はそれを耳にすると、本当に自分が打たれでもしたように顔をゆがめた。
「……誰かが、落としたのではないでしょうか」
おずおずとようやく口を開いたのは、一号生筆頭のペリーヌだった。階級は中尉である。
「ほう。とするとこれは、誰かの持ち物であるということだな?」
その“誰か”とはいったい誰のことであるのか見極めようと、
坂本は畜生を蔑みでもするような冷たい視線を、ゆっくりと右から左に移していく。
芳佳、リーネ、ペリーヌ。
その眼光に一瞥されただけで三人は、蛇ににらまれたカエルのごとく、
ありとあらゆる自由を奪われてしまっていた。
自分のじゃありません、そう大きな声で叫びたい衝動さえも。
ようやく一瞥し終えると、ゴホンと一度大きく咳ばらいし、坂本は言った。
「乙女たるもの、胸はさらしを捲くもの。そうではないか!」
「そのとおりです!」と芳佳。
「ええ、坂本少佐のおっしゃるとおりですわ!」とペリーヌ。
「………………」とリーネ。
「それが侮裸邪(ぶらじゃー)だと!? こんなもの、鬼畜米英の装束ではないかッ!」
坂本は一気にがなりたてると、竹刀を振りあげ――
バシイッ!
再び地面に激しく打ちつけた。
いっそ清々しいばかりの音を立てて、ポッキリと竹刀は折れてしまった。
「「「ヒイッ!!!」」」
三人の悲鳴が協和する。
なおも腹の虫の収まらぬ坂本は、折れた竹刀を投げ捨て、怒号を発した。
「貴様らそれでも扶桑の撫子かッ!」
「いえ、坂本少佐。わたくしはガリア、リーネさんはブリタニアの出身で……」
「わけのわからぬことを言うなッ!」
パアァァン!
ペリーヌの頬を、坂本は平手で打った。
自分はなにもおかしなことは言っていないはず……
ペリーヌは真っ赤に腫れあがった自らの頬をさすった。
一向に釈然としないながらも、その表情がどこか嬉しそうなものであったりするのだが、
その理由がいかなるものであるかは定かではない。
「目を閉じろ」
坂本に命ぜられるまま、三人はぎゅっと目をつむった。
「この侮裸邪(ぶらじゃー)の持ち主は手を上げろ」
坂本の言葉に、これは自分から名乗り出ろってことなんだと三人は悟った。
でもどうして目をつぶらせたんだろう?
あとで二人にないしょでこっそり返してくれるかもしれない……
いや、あの坂本少佐のこと、そんなことがあるはずがない。
でもこういう状況ってことは、ここは素直に手を上げれば、
お仕置きだって少しは容赦してくれるかもしれない……
そんな淡い期待を芽生えるのには充分な、静かな時間が流れた。
――のだが。
「なぜ誰も手を上げない?」
やはり、誰として手を上げる人間はいなかった。
だって平手打ちなんてもんじゃ済まないことが、さっきまでの様子で容易に想像できたのだから。
「このままだんまりを決め込むつもりか」
三人はごくりと唾を呑みこんだ。持ち主以外の二人には無関係なことなのだが。
「困ったことになってしまったな」
坂本はつぶやくように静かに言った。
が、それは本当に困りはてたといったふうではない。
そうではなくて、その声にはわずかながら、嬉々としたものをにじませていた。
怒りは治まったのではなく、それを通りすぎてしまったのだ。
坂本の怒りの炎は赤から青へ、より温度を上昇させていた。
目を閉じていようと、三人にはわかった。坂本少佐は今、たしかに笑んでいる。
「このままでは、三人にきつい罰を与えねばなるまい」
坂本の嬉々とした一言に、今まで一切の微動だにをしなかったリーネの右手が動いた。
手を上げる――かと思いきや、そうではなく――
こっちです。
と、リーネは人差し指で向かって右をさした。
「ペリーヌ!!」
「はいッ!」
反射的に返事をするペリーヌ。そのうかつさに気づくにはもうしばらくの時間を要した。
「……わたくし…………ですか?」
ペリーヌはまぶたを開き、おずおずと坂本を確認した。
「ああ、そうだ」
そうして坂本は、チィ、と短く舌打ちをした。
坂本はこの憤慨を三人まとめてぶちまけるつもりだったのだ。
が、さすがに犯人が分かってしまっては、無関係の二人を巻きこむわけにもいかない。
青々と怒りの炎を燃やす坂本でも、まだそれくらいの良識は残っている。
(まあいい)
坂本は思いなおすことにした。
(ペリーヌ一人に三人分の仕置きをしてやればいいだけのこと――)
「なぜわたくしなのですか? わたくし、手はずっと太ももにひっつけておりました」
必死の弁明をペリーヌは試みるも、坂本には通じそうにない。
それでも、ペリーヌは口を動かさずにはいられない。
「だいいち、口にはしませんでしたが、サイズ的にそれはどう見てもリーネさんの……」
ペリーヌは坂本に向けられていた視線をリーネに移した。
なにを言っているんだろう?
とでも言いたげな、不思議そうな顔をリーネは見せる。
已然として事態を呑みこめぬペリーヌの前に、坂本はすっとにじり寄った。
「人のせいにするなッ!」
坂本は再び、ペリーヌの頬を平手で打った。
ペリーヌは釈然としないものを感じながらも、その表情はどこか嬉しそうだったりするのだが、
その理由がいかなるものであるかは以下略。
「と、とにかく、本当にわたくしのものでは――」
「まだ言うかッ!」
坂本はさらに、ペリーヌの頬を平手で打った。
ペリーヌは釈然としないものを感じながらも、その表情はどこか嬉しそうだったりするのだが、
その理由が以下略。
「恥を知れッ! ペリーヌッ!」
坂本の一喝にペリーヌはガタガタと小刻みに体を震わせる。
「女々しい……あまりに女々しすぎる。乙女の風上にもおけぬ奴だ」
坂本は嘆いた。
しかし、誤った道に踏みこんだ教え子を救ってやるのが塾長としての役目……。
「今からその腐った性根を叩き直してやる」
言うと坂本はしゃがみ込んだ。
そしてペリーヌのズボンに手をかけると、それを一気に足首までずり下ろした。
「な、な、な、な、な、なにをなさるおつもりですの?」
おろおろと狼狽するばかりのペリーヌは坂本に問いかけた。
「ただいまより乙女塾名物『逝け罵弄(いけばな)』を行う!」
『逝け罵弄(いけばな)』
平安時代後期、その栄華を極めた平家の遊びとして人気を誇ったのが「逝け罵弄」である。
下半身を晒した女性を逆さづりにした上で開脚させ、その陰部に季節の花や果実を刺してゆき、
そのたびにもだえてゆくさまを観劇して愉悦に浸ったとされる。
のちにそれはバナナの伝来と普及により「逝けバナナ」とその呼び名を変え、
現代の「生け花」はそれに語義を発する。
(民明書房刊『忘れられた扶桑の遊び』より)
「しかし、坂本少佐。たとえ果物の方とはいえど、バナナを用いるのは……」
すっかりズボンを剥かれ、開脚され逆さまに吊り上げられたペリーヌは言った。
「なに案ずるな。今回は別の物を使う」
ペリーヌのすぐ傍らに立つ坂本は答えた。
その“別の物”がなんであるのかペリーヌは確認しようとするが、
縄で拘束された不自由な身であるために、完全に視界の外であった。
そのかわり、驚愕の表情を浮かべる芳佳とリーネが、ペリーヌの目に映った。
さらに首を上に向けると、自分の真上になにやら大きな鍋があるのがわかった。
いったいこれはなにかしら?
ペリーヌは気になりながらも、あまり深くは考えないことにした。
そんなことより今は、自分の股になにを入れられるかなのだ。
やはり、どうしても確認はできない。目に入るのは坂本の顔だけだ。
ハアハア、とペリーヌの息が荒い。
こんなにも間近にいる坂本に興奮を覚えていた。
「もっとも――」
ニヤリ、と笑みを浮かべる坂本はつけ加えた。
「これはバナナのような生易しいものではないがな」
ブスッ!
坂本はペリーヌの股の間に、その“別の物”を一輪、逝けた。
その“別の物”はペリーヌの処女膜をやすやすと貫通する。
割れ目からはしたたる鮮血。まるで股の間が血涙を流しているよう。
目の前に惨劇に、芳佳とリーネは手のひらで目を覆っている。
口からはとても文字では再現できない、はりさけんばかりの阿鼻叫喚。
(なぜわたくしがこんな目に……)
ペリーヌは滂沱の涙を流した。
ぼたぼたとこぼした涙が地面を濡らす。
それはなにも、この激痛によるものだけではない。
下半身を衆目にさらすという羞恥、敬愛する坂本少佐からの罵詈雑言、
しかもその理由が自分には未だに理解できぬものであるということ……。
(お父様……お母様……)
ペリーヌの心でも泣いていた。
あふれんばかりの涙を流し、けれど、その涙は一向に枯れてはくれない。
いっそ悶絶してしまえば、この苦しみから逃れられる。
朦朧とするなか、ペリーヌはそう思った。そうなることを切に願った。
そうして、やがてペリーヌの意識は遠のいていった。
――が、そうはならなかった。
股の間から襲ってくるもののなかに、激痛とはまた別に、
なにか他のものが入り混じっていることにペリーヌは気づく。
(かっ、かっ、か……)
咄嗟にペリーヌはそれに向けて手を伸ばそうとする。
が、手足は縄で縛りあげられているため、それはかなわない。
次第にそれはより鮮明に、より強く、ペリーヌの体中を駆けめぐった。
(掻きむしりたいっ……!)
その正体は“かゆみ”であった。
朦朧としていた意識は一転、覚醒し、せきを切ったように押し寄せてくる痛痒の津波に、
もうこのままやすらかに、というペリーヌのささやかな願いは打ち砕かれた。
ペリーヌは少佐の言葉を思い出す。
『これはバナナのような生易しいものではないがな』
ペリーヌのなかに、消えかけていた疑問が再び湧き出てくる。
ではいったい、自分の股の間にはなにが刺さっているんだろう?
「しょ、しょしょしょうさ……こ、これはッ……!?」
嗚咽混じりの声をようやく絞り出し訊ねるペリーヌに、坂本は冷淡に答えた。
「山芋だ」
(やややややややや山芋っ……!?)
ペリーヌは驚嘆し、おののく。
一度自覚してしまえば、そのかゆみはより一層激しさを増した。
ただ一人、芋の子を洗うように身をよじらせるペリーヌ。
「どうしたペリーヌ? かゆいか? 掻きたいか? 掻きむしりたいか?」
坂本の問いかけに、ペリーヌはこくこくと何度でもうなずき返した。
掻きたいです。掻けぬというなら、誰かが代わりに……
ペリーヌは何度だってうなずく。うなずいて、懇願する。
もはや絞り出す声さえ出ない。だから、うなずくことでしかもう伝えようがない。
もう許してください、坂本少佐。わたくしが間違っていました。
わたくしがすべて悪かったのです。
ブラジャーを所有していたこと……
それを素直に認めずに、手をあげなかったこと……
すべてこれはわたくしの過ちだったのです。
きっとそのときわたくしは頭のなかが混乱して、
よく事情が呑みこめていなかったのです(今でも心のどこかではそうですけれど)。
でも、本当です。今ではすっかり悔い改めました。本当です。
自分の犯した罪をすっかり認めますから。
だからお願いします、坂本少佐っ……!
「しかし、私はそうしてやることができない」
が、待っていたのは素気ない坂本の言葉だけであった。
ペリーヌの頭が真っ白になった。
もはやうなずくこともできない。そんな力は残されていない。
だらん、と首を力なく地面に垂らす。
「ただし――」
しばらくの間をおいてから、坂本はつけ加えた。
「そんなにかゆいのならば、お前自身が掻くことを許そう」
その言葉はペリーヌにとって暁光だった。
ペリーヌは思った。地獄に仏とはまさにこのことだと。
ペリーヌの目には坂本がまるで聖母のように映った。
坂本はペリーヌの手を縛りあげていた縄をほどいてやる。
拘束をとかれるとすぐさま、ペリーヌの手は伸びた。
――が、しかし、その手が股の間へと届くことはなかった。
坂本がペリーヌの手首を握り、抑えたのだ。
「しょ、しょうさ……?」
消え入りそうな力ない声のペリーヌ。
果てのない暗闇に差しこんだ一筋の光明であっただけに、ペリーヌは坂本にすがったのだ。
坂本は掻いていいと言った。縄もほどいてくれた。
けれど、それと今の言動はあきらかに矛盾している。
坂本はぎゅっと、ペリーヌの手首を掴む手に力をこめた。
ペリーヌは坂本が何を考えているのかわからない。
さきほどまで聖母のように映った坂本が、別のなにかに変わって見えた。
「まあ、焦るな」
そう言うと坂本は制服のポケットに手をつっこんだ。
そうして取り出してきたのは、さきほどのブラジャーである。
ペリーヌの目が点になった。
坂本はブラジャーをペリーヌの手にくくりつけると、それを伸ばし、
もう一方をペリーヌの頭上――ではなく、股上(またじょう)にあった鍋にくくりつけた。
そういえばたしか、そんなものがあったことをペリーヌは思い出す。
その手は再び拘束されてしまった。
ペリーヌは絶望した。その落胆たるや、尋常ではなかった。
(なんでこんなことにっ……)
苦しまぎれにペリーヌは手を動かしてみる。
すると、かなりの重量があるものの、手が動かせないわけではない。
(こ、これは……!)
これは少佐のおやさしさに違いない、とペリーヌは思った。
ペリーヌはほんの少しでも坂本を疑った自分を恥じた。
さらにペリーヌは手に力を込める。
ぐぐぐ、と己の股に向けて、手を伸ばす。
すると――
ボトリ。
と、なにかが鍋からこぼれてきて、ペリーヌのすぐ近くの地面に落ちた。
それは黒い液体だった。
「肝油だ」
坂本はペリーヌに告げた。
(かんゆ……?)
その言葉の意味が、ペリーヌはとっさには呑みこめなかった。
「ヤツメウナギの肝油を鍋いっぱいに満たしている」
さらに坂本は言葉をついだ。
ペリーヌはようやくすべてを理解した。
つまり、こういうことだ。
ペリーヌが股を掻こうとすれば、より手を動かさねばならない。
しかしその度に鍋は傾き、肝油を容赦なく降らせてくる。
鍋いっぱいの肝油。それはもはや毒薬と言って過言ではない。
もはやさきほどまでとは事情が違う。
さきほどは掻こうと思っても掻くことができなかった。だから耐えるしかできなかった。
しかし、今は違うのだ。
掻こうと思えば掻くことはできる。股上の大鍋にたっぷりの肝油を浴びるのなら。
掻くも地獄、掻かぬも地獄。なんというジレンマか。
ペリーヌは気づいた。いや、元来ならとっくに知っていたことではあるのだが。
この方は聖母などではない。
そうではなく、この方は鬼畜なのだ、と。
ペリーヌはこの時はじめて知った。
鬼はやさしい。悪魔はやさしいのだ、と。
「それではこれより試練を課す」
坂本は言ったが、それがペリーヌの耳に入ったかどうかは定かではない。
「私がお前の股の山芋をすっかりとろろにしてしまうまで耐えられれば、今日のところは許してやる」
坂本は言い終わると、おろし金を手に取る。
まるまる一本の山芋を、とろろにしてしまうのにいったいどれくらい時間を要するだろうか?
5分? 10分? 20分? それとももっと?
ペリーヌはその間、ただじっと耐え続けるしかない。
坂本はペリーヌに寄り、おろし金で山芋を擦っていった。
けして焦らず、ゆっくり、ゆっくりと。
まるで亀の歩みのように。
ぴくり、またぴくりと、ペリーヌの手が股へと向けて動く。
その度に自制し、またその手を引っ込める。
じらすように、坂本は山芋を擦りおろしていく。その時間が少しでも長く続くように。
ペリーヌにはその時間が永劫に続くとさえ思えた。
もはやペリーヌには、まぶたを持ち上げるだけの力も残されていない。
感覚のすべては麻痺していた。
意識は朦朧とし、もう頭は働かなかった。
「…………れ」
そんなペリーヌの耳に、なにかが入ってくる。
幻聴? それとも天使のお迎えだろうか?
「……ばれ」
また聞こえた。さっきよりはっきりと聞こえてくる。
そして、さらにもう一度。
「がんばれ!」
(この声は、宮藤さんとリーネさん……?)
消えかけだったペリーヌの意識が、再びはっきりとしてくる。
(まったく。わたくしがあんな子たちに励まされるなんて……)
普段の彼女であれば、それを侮辱と受け取ったかもしれない。
しかし、なんだろう。今は決して嫌じゃない。
彼女たちが自分の窮地を救ってくれるわけではない。
それでも――
なんだか胸に熱いものがこみ上げてくるのをペリーヌは感じた。
「…………んなもの……」
ペリーヌは声を振り絞り、精一杯の強がりを言ってみせた。
「……こんなもの、痛くもかゆくもありませんわ……」
「そうか」
その言葉に応じたのは、ずっと押し黙ったままだった坂本であった。
坂本の額にだらり、汗がつたう。
まさかペリーヌがここまで奮闘しようとは、坂本自身も驚きであった。
(しかしなぜこれほどの乙女が侮裸邪(ぶらじゃー)など……?)
坂本は首をかしげた。
(――まあいい)
すぅ、と息を吸い込む坂本。
「なんだこのメガネはッ!」
そして、一喝。
「この視力弱者がッ!」
さらに、もう一喝。
そして罵詈讒謗を際限なく坂本は浴びせかける。
やれ不人気だ、やれ口調が書きにくいだ、エトセトラエトセトラ。
思わず耳を覆いたくなるような、誹謗中傷の数々。
それが事実であるかどうかなどは、もはや関係ない。
己のわだかまりをぶつけでもするように、坂本は口汚くペリーヌを罵り続けた。
――が、そんなもの、ペリーヌには無意味だった。
坂本はここで大きな失策を犯してしまった。
つまり、ペリーヌの性癖である。
ペリーヌの口元は今、微笑みを浮かべていた。
この状況を彼女は今たしかに、喜んでいたのだ。
坂本は罵倒という雨を降らせた。
しかしそれは、乾いた砂漠にであったのだ。
ペリーヌの心は今、うるおいに満ちあふれていた。
彼女は苦痛を快楽へ、虐待をそういうプレイへと昇華されてしまったのだ。
ただ静かに、ペリーヌは耐え忍んだ。坂本の叱咤を激励に変えて。
「む……」
と、坂本はいぶかしげな声をあげた。
それまで純白であったとろろに、赤々としたものが混じったのだ。
それは血であった。
ペリーヌの肌をおろし金で引っ掻いてしまったらしい。
つまり、股の間の山芋はもはやすっかりとろろに代わってしまったのだ。
「まさか最後まで耐えてみせるとは……」
と、感心する坂本はぼそりつぶやく。
乙女に二言はない。今は素直に彼女を認めよう。
逆さづりにされたペリーヌの顔を見下ろし、坂本は言った。
「試練は終わりだ! よくやった、ペリーヌ」
「ペリーヌさん!」
拘束をとかれ、地面に横たえられたペリーヌの元へと、芳佳たちが駆け寄ってくる。
「私が今すぐ治癒魔法で治してあげるから」
「処女膜はちゃんと治るのかしら」
「わかりません」
涙とよだれと鼻水で顔をぐっしょり濡らしたペリーヌ。
しかしその表情はどこか晴れやかなものであった。
「私のために……本当にありがとう」
と、ぺこりと頭をさげてリーネは言った。
なにを言っているのかしらという表情をペリーヌは見せる。
「……別に、あなたのためなんかじゃなくってよ」
ツンとした声で、ペリーヌはそう答える。
そうしてこと切れる前の最期となる言葉を、ペリーヌはリーネに言った。
「ただ、自分でもなにがなにやらわからぬうちに……」
(乙女を上げたな、ペリーヌ)
教え子の雄姿を遠目に、坂本は満足そうにうなずいた。
ペリーヌを讃えでもするように、高らかな笑い声とともに坂本は言った。
「はっはっは! 私が乙女塾塾長・坂本美緒だ」