beat black


リーネと芳佳は、昼食の後片付けをしていた。
先程トゥルーデの為に作ったシチューとふかしイモを少し取り置きし、脇に簡単なメモを置いた。
「これでよし、と。バルクホルンさん、いつでも大丈夫だね」
頷く芳佳。
「バルクホルンさん、元気になると良いね」
リーネが頷く。
「そうだね。あの人やっぱり凄いよ。バルクホルンさん一人抜けただけで、ネウロイとの戦いが急に辛く感じるよ」
「本当だね」
くすっと笑い、少し寂しい顔をするリーネ。
「リーネちゃん、バルクホルンさんの事、心配?」
「ううん。それもあるんだけど……私、皆の役に立ててるのかなって」
「リーネちゃん、今まで凄い撃墜スコア伸ばして来たじゃない。大丈夫だよ」
「うん。でもね……」
「私が保証するよ。リーネちゃんは大丈夫」
「ありがとう、芳佳ちゃん」
微笑むリーネ。ふと、芳佳の顔をじーっと見る。
「? どうかした、リーネちゃん?」
「何か顔が赤いよ? 熱無い?」
「え? そうかな?」
額に手をやる。芳佳は気付かなかったが、かなりの高熱だ。
「芳佳ちゃん大変! 熱有るよ!」
「え? 私、全然そんな感じしないよ。むしろ暑いくらい」
「それ、熱がある証拠だってば!」
「でも全然平気。ほら、よろけたり……あれ?」
「もう、芳佳ちゃんたら! しっかりして!」
リーネは急速に症状が悪化しつつある芳佳を背負うと、医務室目掛けて走った。

診察の結果「風邪」と診断された芳佳は、医務室から自室に移され、投薬と休養の処置を取る事が決まった。
医務室の担当医から報告を受けた後、執務室でミーナと美緒が腕組みして考え込んだ。
「バルクホルンに続いて宮藤もか。また隊に風邪が蔓延するのか?」
「そうでなければ良いのだけど。ともかく、ネウロイとの戦闘や哨戒シフトを変更する必要があるわね」
「ああ、緊急時だからな。仕方ない……しかし宮藤、たるんどるな」
「たるんでるって?」
「気合が足りないから、風邪などひくんだ」
「あら、美緒らしくもないわね」
「何?」
「私達だって、前に酷い風邪ひいたじゃない。あれも、私達たるんでた証拠?」
「いや、それは……」
答えに困る美緒を見てくすっと小さく笑うと、ミーナは即席でシフト変更の予定表を作り上げた。
「これを、夕食後のミーティングで皆に伝えないとね。そうそう、美緒」
「どうした、ミーナ?」
「貴方も風邪、ひいちゃだめよ?」
人差し指で、美緒の唇を軽く触れるミーナ。美緒の直前にはミーナ自身の唇の上をなぞっていた人差し指。
何故だか、どきっとしてしまう美緒だった。

解熱剤が効いてきたのか、芳佳はベッドの上で朦朧としながら天井を見つめていた。
「うう……急に身体がだるくなってきたよぉ」
「頑張って、芳佳ちゃん」
夕食とミーティングを終えたリーネが横について、手を握っている。
「ありがと、リーネちゃん。でも、あんまり私に近付いちゃ、ダメ」
「どうして?」
「もしうつったりしたら……」
「芳佳ちゃん、前に話してくれたよね? 扶桑の言い伝えで『風邪をうつすとうつした人は早く治る』って」
「確かに言ったけど……リーネちゃんには、うつしたくないよ」
「でも、私は芳佳ちゃんに早く治って欲しいの」
芳佳の手をひくと、自分の胸に当てるリーネ。
あたたかく、やわらかい。そしておっきい。
ほわわ、と言い知れぬ幸福感……単に熱で頭がぼおっとしているだけかも知れなかったが……に酔いしれる芳佳。
そんな芳佳を見てるうちに、リーネは、無意識のうちに芳佳のベッドに潜り込んでいた。
芳佳を抱きしめる。
いつもよりも温かい。熱のせい。
芳佳はリーネが横に来た事に一瞬気付いて、名を呼んだ。
「大丈夫、私はここにいるよ」
リーネの言葉に、芳佳が顔を向けた。反射的に、リーネは唇を重ねていた。いつもの癖だ。
ぼおっとした芳佳も、反射的にリーネの胸を触り、弾力を確かめる。いつもより力無いが、反復的に、……藁にでもすがるかの様に、
ひたすらにリーネを求めてきた。
リーネは耐えきれず、遂に、ふらつく芳佳を襲った。

翌朝。
ひとり台所で食事の準備をするリーネ。芳佳が来る前は一人でやる事が多かったので、慣れている。
でも今は、芳佳がいないと寂しい。けれど彼女は今ベッドの上で風邪と激しい戦いの最中。
リーネは今私に出来る事……食事当番……を頑張る、と心に決めた。
突然背後から手が伸び、胸をぐにゅりと揉まれる。ひゃっと悲鳴を上げるリーネ。
「ウニャー リーネ、胸おっきくなった?」
思わぬ反応。“人間バスト測定器”ともいうべきルッキーニの言葉だ。
「え……そんな事は」
「ウジャー 言わなくても分かるよ。芳佳にもまれてるんだ」
「えっ!?」
顔を真っ赤にするリーネを見てにやけるルッキーニ。
「リーネ正直~」
「わ、私、そんなに大きくありません!」
「ホホウ? ドレドレ」
「きゃあっ!」
今度はエイラの襲来だ。嫌がるリーネを背後からふにふにと揉んだあと、エイラは自分の両手を見て愕然とした。
「ど、どうか、しましたか?」
逆に不安になってエイラに聞いてしまうリーネ。
「確かに、前よりも確実に大きくなってルゾ。私には分かル」
「えええ」
「リーネ、何食べたらそんなに大きくなるんダ?」
「食事はみんなと一緒じゃないですか!」
「そういやそうダナ……そうか、ルッキーニの言う通りって訳カ」
ニヤニヤ顔のエイラ。
「エイラもやっぱりそう思う?」
エイラと視線を合わせて口の端を歪めるルッキーニ。
「他に理由ないダロ」
「せ、成長期ですっ!」
「まあ、いいけどサ。宮藤の顔が思い浮かぶヨ」
「芳佳ちゃんは関係……」
「あれぇ? 芳佳がやっぱり?」
「まあ、宮藤はなあ……仕方ないと言えば仕方ないサ」
揃って溜め息をつくエイラとルッキーニに、リーネは苛立った。
「芳佳ちゃんの変な想像しないで!」

朝食後。
すぐに芳佳の部屋に飛んで行き、かいがいしく世話を焼くリーネの様子を見て、シャーリーが声を掛けた。
「なあ、リーネ」
「はい? どうかしました?」
「いや。最近、宮藤の事甘やかし過ぎてないかと思ってさ」
「そうですか? 今は芳佳ちゃん風邪だし、私はただ……」
少し困惑の表情を浮かべたリーネを見て、ペリーヌが乱入してきた。いつものきつい口調でリーネをなじる。
「リーネさん? 自覚が無いのが一番困ります。新人同士傷を舐め合うのは結構ですけど、余りに……その……、
べたべたされると、周りに居る人の身にもなって下さいまし」
「友人として、仲間として、支えてあげるのもダメと言う事ですか」
強い調子でリーネに反論され、カっとなるペリーヌをシャーリーが抑えた。
「まあまあ。ともかく、あんまり宮藤にかまい過ぎるのも控えろよ。あんまり過保護にすると、
宮藤一人で何も出来なくなっちゃうぞ」
リーネはそれを聞くと、うつむき、ふっと息を付いた。
床に視線を落とし、小さく呟いた。
「何も出来なくなったら……私が面倒を見てあげます。全部」
「え」
「ですから! それでは独り立ち出来なくなると……」
「出来なければ、私と一緒に居れば良いんです。私と一緒に居るしかなくなるでしょ? そう、ずっと一緒に」
そう言い切ると、ペリーヌとシャーリーを見た。
リーネの瞳はまっすぐだったが、奥には言い様の無い闇にも似た深淵が広がり……ペリーヌとシャーリーは思わず息を呑んだ。
「そう、ずっと一緒に。私達、仲間で、友達、ですから。いつまでも一緒」
リーネは嬉しそうに言うと、ふふっと笑い、その場を後にした。
「シャーリー大尉……」
絶句しかけたペリーヌがシャーリーに問いかける。
「ま、まあ……ありゃ冗談だよ、な。ほら、ブリタニアのジョークってやつだろ。多分。多分な」
あははと誤魔化し笑いするシャーリーの頬を一筋、汗が伝った。

ベッドで横になる芳佳の頬をそっと撫でるリーネ。
「私だけの、芳佳ちゃん」
芳佳はぐったりとベッドに沈んでいた。風邪のせいではなく、単純にリーネから執拗な“アタック”を繰り返し受けて
力尽きただけなのだが。
そんな、気を失ったに等しい芳佳の顔も、愛しい。
完全に力の抜けている芳佳の手を取ると、リーネは自分の胸に重ねた。
「芳佳ちゃん、聞こえる? 私の胸の鼓動。……感じる? 私の気持ち」
芳佳は、ううん、と唸った。意識が混濁している様だ。少し手に神経が通ったのか、ぴくり、と動く。
「もう、芳佳ちゃんたら」
リーネは今日何度目になるか忘れた接吻を、芳佳にした。
芳佳も無意識のうちに、リーネを求め、身体が動いた。リーネはそれを見逃さず、ふうと深く息をつくと、芳佳に覆いかぶさった。

end



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