reasonless


芳佳が高熱を発してから二日が過ぎた。
幸いにも芳佳の容体は安定し、解熱剤の効果も有り症状は改善されつつあった。
だが不思議な事に……芳佳の体力が戻る気配は感じられない。
きちんと普通に寝ている筈なのに、妙に消耗している。芳佳を診察した女医はミーナと美緒に報告した。
「もしかして、謎の病気とかか?」
「大丈夫かしら。皆にうつらなければいいんだけど」
美緒とミーナはそれぞれ心配を口にする。
「いえ、新種の病気や伝染など、そう言う問題ではありません。その点はご心配なく」
女医はかぶりを振り、溜め息混じりに言葉を続けた。
「くれぐれも、安静に。それだけを心掛ける様、宜しくお願いします」
「はあ」
「分かりました」
半分諦めの態度の女医を見て、美緒とミーナはどうすべきか困り果てた。

「はい、あーんして、芳佳ちゃん」
「あーん……」
芳佳は身体を半分起こし、リーネ特製「オートミールとリーキのミルクスープ」を食べていた。
食べていると言うより、リーネに食べさせて貰っていると言う表現が正しい。
「どう? 美味しい?」
「うん。美味しい。なんか、ちょっと濃くて、でも懐かしい、みたいな」
「ホント? 良かった。もっと食べて。元気になってね」
濃いめに仕上がったスープはミルクの芳醇な風味にオートミールの食感、柔らかに煮込まれたリーキの風味が合わさり、
芳佳にとっては刻んだ長ネギ入りのミルク粥を食べている感覚だ。もぐもぐと口を動かし飲み込むと、芳佳は笑った。
「ありがとう、リーネちゃん。私頑張って、もっと元気になるよ」
「うん。頑張って。……あ、でも、芳佳ちゃん風邪ひいてるんだから、あんまり頑張らなくてもいいんだよ?」
「え、そうかな? でもみんなに迷惑掛けてるから、私、頑張る!」
「芳佳ちゃん凄いね。もう風邪治ったみたいだよ? はい、あーん」
「あーん……そんな事無いよ。正直、まだ何か力が出ない気がして」
「気のせいじゃない?」
「そっか。そうかもね。『病は気から』って言うもんね」
「?」
「あ、今の、扶桑の言い伝え。気持ちとか気分が良くないと、病気とか風邪ひいたりする、みたいな」
「そうなんだ。ブリタニアでは、くしゃみした人には悪いものが入らない様に『神のご加護を』って言うんだよ」
「へえ。色々面白いね」
ふふっと笑い合う二人。リーネは残りのスープを芳佳に食べさせた。何の躊躇いもなく受け入れる芳佳。
「ふう、もうお腹一杯。ありがとう、リーネちゃん。なんか元気出て来た……気がする」
「本当? 良かった。まだ有るから、食べたい時はいつでも言ってね」
「ありがとう」
「ちょっと、片付けてくるね。あと、これ薬。飲んでね」
「うん」
芳佳は渡された粉薬を口に含み……少しむせかけて……傍らのコップに手を伸ばし、水で流し込む。
それを見届けたリーネは、空になったスープ皿とスプーン、コップを持って、部屋から出ていった。
しんと静まりかえった、芳佳の自室。
ふと窓の外を見ると、……訓練だろうか、ペリーヌとルッキーニがストライカーを履いて空を舞っている。
でもその様子はまるで鬼ごっこをしている様で、いつも基地に居るときと変わらないなあと考えを巡らせ、ふっと笑ってしまう。
「芳佳ちゃん、どうかした?」
いつの間に戻って来たのか、リーネが部屋の扉を閉めて芳佳に問い掛ける。
「見て、リーネちゃん。あれ」
「? あ、ペリーヌさんとルッキーニちゃんだね」
「うん。あの二人、訓練かな。なんか二人の機動、面白いよね」
「本当。基地で追いかけっこしてるみたい」
「リーネちゃんもそう思った? 私もだよ」
「本当? 同じ事考えたんだね」
リーネは笑顔を作ると、芳佳の横に座った。

「芳佳ちゃん、ところで具合はどう?」
「うん、良くなったよ。お腹も一杯になったし、少し、眠くなってきた……」
「ゆっくりしてね」
ベッドに横たわる芳佳を、そっと寝かしつけるリーネ。毛布をそっと掛けてあげる。
「ありがとう。なんかリーネちゃんに迷惑かけてばっかりだね。ゴメンね」
「謝る必要なんてないよ。私、芳佳ちゃんの為なら」
「ありがとう」
芳佳は目をつぶり、息を整えた。ふと、手を握られた事に気付く。リーネが毛布の中に手を入れてきたのだ。
「リーネちゃん、優しいね」
「芳佳ちゃん」
うっすらと眠気が頭を過ぎる。リーネの手の温かさが心地良い。元気を分けてくれる気もする。
規則正しい呼吸に導かれる様に、芳佳は微睡んだ。
だが突然、呼吸は乱される。リーネに唇を塞がれた。思わず目を開く。
目を閉じ芳佳を抱きしめ、唇を重ねるリーネの姿を認める。
そっと唇が離れる。芳佳は思わず名を呼ぶ。
「リーネちゃん」
リーネは芳佳の名を呼び、するりとベッドに潜り込んだ。芳佳の身体に優しく腕を回し、耳元で囁く。
「温めてあげる」
「ありがとう」
「私の芳佳ちゃん」
ぎゅっと抱きしめる。そのまま、ぼんやりとする芳佳の唇を再び奪う。
「んんっ……」
期せずして“おやすみ”から“おはよう”のキスへ。どんどん深く濃くなり、吐息が漏れる。
規則正しかった呼吸もいつしか乱れ、芳佳は朦朧としながら、リーネを求めた。胸に手が行き、温もりを感じる。
リーネは芳佳の首筋から耳に掛けて舌をつーっと這わせ、頬をなぞり、唇へと回帰する。
彼女の艶めかしさに、芳佳は身体が疼き、リーネとの口吻を繰り返す。身体も密着し、お互いじんわりと染み出た汗が
二人の肌を湿らせる。
温まり過ぎた二人は、のぼせるのも厭わず、いつもと変わらぬ様に……お互いを求めた。
「リーネちゃん、はああっ、……好き。愛してる。リーネちゃん……」
「芳佳ちゃん、私も。愛してる。だから。もっと、もっと……」
もぞもぞと寝間着、服、ズボンがベッドから落ちる。毛布の中で二人がどんな状態であるかは既に明白。
リーネは芳佳に覆い被さると、素肌を合わせ、本格的に、芳佳を愛し始めた。
全身全霊、全力でリーネに応える芳佳。
風邪の事も忘れ、時間も忘れ、二人だけのときを身体とこころに刻みつける。
繰り返される接吻。じっくり、ねっとりと味わい尽くす。吐息は既に灼け付き、時折漏れては頬と顎を撫でる。
キスの合間、芳佳はリーネのおさげを解いた。緩やかなウェーブの髪が芳佳の頬にはらはらと降りてくる。
「リーネちゃんの髪、綺麗……」
「ありがとう、芳佳ちゃん。芳佳ちゃんだけのものだよ」
「ホント?」
「私以外で髪解くの、芳佳ちゃんだけだもの」
「リーネちゃん……」
髪をさわさわと触って感触を確かめ、匂いを嗅ぐ。いつもと変わらない、柔らかな感触。
そんな芳佳を見て、リーネは芳佳の頬をなぞり、もう一度キスをする。
「この髪も、この瞳も、この胸も……みんな、芳佳ちゃんのもの。そして、芳佳ちゃんは私だけのもの」
芳佳の乱れる息は、やがて、失速……疲労時のものに変わりつつあった。でもそんな事お構いなし。
リーネは芳佳を更に求め……芳佳も拒めず……二人の甘い声が部屋に響いた。

夕暮れ時。
リーネは失神しぐったりと頭を垂れる芳佳を優しく抱きしめ、唇を重ねた。
「私だけの、芳佳ちゃん」
微笑み、芳佳の髪をそっと撫でる。
こんな毎日では芳佳の体力が戻る筈も無いのだが……気付いているのか気付いてないのか、
二人は幸せなときを、共に過ごし、果てる。
「リーネちゃん……」
芳佳がふと目を開ける。リーネの身体の温もりを求め、身体を寄せる。
「芳佳ちゃん」
リーネは優しく抱き寄せ、唇を合わせる。
甘えているのはどちらか分からない。
でも、この気持ち、抑えられる筈もない。
何故なら、そこに愛しの人が居るから。

end



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